第86話 精霊へのご褒美

 

 ヨウコの部屋を出る。



「──えっ」


 部屋の外に、マイとメイが居た。

 ふたりとも、顔を赤くしている。


 も、もしかして廊下でヨウコの尻尾をモフりまくってたのを、見られてた?


「「あの、ハルト様……」」


「なんでしょう?」


「「私達も、今日がんばりました!」」

((だから、撫でてください!))


 良かった。


 ヨウコを立てなくなるまで虐めてたのは、見られてなかったようだ。


 多分、ヨウコをベッドに寝かせて、頭を撫でてやってたのを見られたんだろう。


 きっとそうだ。そうに違いない。


 頭を撫でてやるくらい、なんてことない。


「マイお嬢様、メイお嬢様、今日は良く頑張りましたね」


 そう言って右手でマイを、左手でメイを優しく撫でてやった。


「「ふゅぅ」」


 ふたりが気持ち良さそうに目を閉じる。


 精霊であるマイとメイは、俺の魔力でこちらの世界に顕現している。


 顕現用の魔力は召喚魔法陣を通して、既に渡してある。


 しかし、精霊という種族はこちらの世界に滞在し続ける限り、顕現用の魔力とは別に、召喚主の魔力を少しずつ吸収するのだ。


 この余分に吸収した──いわゆる、ボーナス的な魔力で精霊は成長する。


 つまり、長期間顕現し続けた精霊はどんどん強くなる。


 また、精霊と身体を接触させると、通常より多めに魔力を抜かれる。


 魔力が固定されてる俺には、あまり関係ないことだけど。


 こうして撫でてあげてる時も、魔力が吸われている感じがする。


 頑張ったご褒美だからな。

 ちょっとサービスしよう。


 ふたりは俺の属性魔法に惚れたと言っていた。


 マイは火属性。

 メイは水属性だ。


 そして、なるべく純度の高い魔力を好むらしい。


 俺は右手の魔力を火の性質に変化させる。

 その際に、完全燃焼した炎をイメージする。


 左手の魔力は水の属性に。

 なるべく不純物の少ない純水をイメージ。


 このイメージによって、魔力の質が良いものへと変わるらしい。


 俺は元の世界でガスバーナーの炎や、科学的に作られた純度の高い水なんかを見たことがある。


 純水の方はテレビで作る工程を見ただけだけど。


 それでも、イメージできるということは大事らしく、現に精霊たちは俺の魔力を質の高いものとして喜んでくれる。


 そんなわけで、俺は魔力の質を変化させながら、マイとメイに魔力を送り込んだ。


「──んんっ!?」

「ハ、ハルト様!!」


 ふたりの頬が紅潮する。


 気持ち良さそうなので、俺は構わずマイとメイに魔力を送り続けた。


 サービスサービスぅ!


「だ、ダメです──」

(か、身体があつい。ハルト様のが、いっぱい、入ってきてる)


「やっ、も、もう、やめ──」

(だめっ、だめだめだめぇぇ! そ、それ以上はもう、入らないってばぁ!!)


 マイとメイが俺に向かって倒れてきた。

 一旦、頭から手を離し、ふたりを受け止める。


 そしてふたりを抱きしめるような形で、そのまま魔力の譲渡を継続してみた。


 接触する面積が増えたのでその分、送れる魔力も増える。


 俺はここぞとばかりに、魔伝路拡張訓練の成果を発揮した。


 魔力、いっきまーす!!


 魔伝路に一時保存した魔力10の無数の塊を、一気にふたりへと送り付ける。



「「んぁぁぁぁああああ!」」


 ──パリンッ


 何かが砕ける音がした。


 マイとメイは糸の切れた人形のように力なく、俺の腕の中でぐたっとしている。


 大丈夫、息はしている。

 ただ、気になることが──


 何となく、ふたりの存在の格が上がっている気がした。


 今のマイとメイが纏うオーラは、イフリートやウンディーネなど精霊王と同格か、それ以上。


 え、もしかして


 この世界の精霊は召喚主などから回収した魔力を一定以上溜めると、その格が上がる。


 ふたりは俺と契約したことで、高位精霊級になっていた。


 それを、更に成長させてしまったようだ。


 本来であれば、高位精霊が精霊王になるには、人間が三次職になる時と同じように、神の試練をクリアする必要がある。


 しかし四人の精霊王が健在の時、精霊たちは神の試練を受けることができないらしい。


 ただ例外として、何らかの方法でその存在のを打ち破れば、神の試練をクリアせずとも精霊王級へと成り上がれる。


 その例外が、今の星霊王だ。


 そもそもこの話は、星霊王オッサンから聞いた。


 自ら殻を破り精霊王となり、更に星の魔力を取り込み続けて、今の星霊王になったという。


 ──で、俺はマイとメイの殻を、無理やり外から魔力を送り続けることで破ってしまったようだ。


「…………」


 んー、まぁ、強くなって悪いことなんて、ないよね?


 元々、ふたりへのご褒美だったわけだし。


「お嬢様、精霊王級への昇格、おめでとうございます」


 もちろん、マイとメイからの返事はない。


 俺はマイとメイを脇に抱えて、ふたりの私室へと向かった。


 ふたりとも、すごく軽い。

 精霊だから人化してもこんなもんなのか?



 ふたりの部屋につき、それぞれベッドに優しく寝かせた。


 様態は安定している。


 多分、強大な力を得て、身体が徐々に作り変わっている最中なのだろう。


 残念だけど、ふたりも俺のチャーハンはお預け。


 ゆっくり身体を休めて、いずれ新たな精霊王として俺を支えていってほしい。




 さて、ラストひとりか。


 俺はメルディの部屋へと移動を始めた。

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