第85話 ご褒美(?)
ヨウコの部屋へと向かう。
部屋の扉が見えたところで──
「主様が我の部屋に向かっている気がするのじゃ!」
着物姿のヨウコが部屋から飛び出してきた。
ちょっとビックリした。
主従契約を結んでるからか?
よく俺が近づいてきたのが分かったな。
「あ、主様、そのお姿は──」
ヨウコが俺の執事姿を見て固まった。
少し予定と違うけど、執事モードに入る。
「お嬢様、夕飯の準備ができました」
「お、お嬢!? 主様、いったいどうしたのじゃ?」
「今日のブレスレットの件のお詫びと、慣れないメイド服で接客を頑張っていたお嬢様へのご褒美です」
ヨウコは普段、この屋敷では着物で家事などをしていた。
メイド喫茶ということで、初めてメイド服を着させたのだが、スカートがスースーすると言って嫌がっていた。
しかし、開店してからはメイドとしてちゃんと接客をこなしてくれた。
「ご褒美じゃと!? と、ということは──」
(主様の子種を頂けるチャンスじゃ!)
やめろぉ!!
今のヨウコが言うと冗談に思えない。
ちょっと前に、ヨウコはシロの魔力を吸って成長し、以前に増して艶っぽくなっていた。
「性的なこと以外でしたら、なんなりと。可能な限りお嬢様の願いを叶えます」
とりあえず、夜の営みはダメってことにしとこう。
「む、むぅ……」
(頼む前に拒否されてしまったのじゃ。んー、それ以外の望みか。そうじゃのう……あっ!)
何かヨウコが思いついたようだ。
「主様とキスしたい──というのは大丈夫なのかの?」
「唇に?」
「そうじゃ」
そういえば、俺からヨウコにキスしたことはまだ無かった。
主従契約の際に、ヨウコから手の甲にキスされただけだ。
キスは性的なことに当たると思うのだが──
「……まぁ、そのくらいなら」
「よよ、よいのか!? な、ならばそれでお願いするのじゃ!」
(我は成長し、完全体となった。その我が全力で魅惑魔法を行使し、更に口を通して超強力な催淫効果のある我が体液を飲ませれば、主様はきっと我を襲うはずじゃ! 我は契約で主様を襲えんが、主様が襲ってくるなら何も問題は無いのじゃ!!)
いや、問題しかねーよ?
「それでは頼むのじゃ!」
(我の色仕掛けを、喰らうがいい!)
そう言ってヨウコは目を閉じて、俺に唇を突き出す。
ヨウコの身体からピンクのオーラが溢れ出てくるのを魔視で確認した。
多分、これが魅惑魔法なのだろう。
ピンクのオーラが俺の身体に触れると、ちょっとだけヨウコが可愛くなった気がした。
ステータスボードに表示されない程度の効果であれば、俺は影響を受けるらしい。
ヨウコの魅惑魔法で俺は、ちょっとヨウコが可愛く見えるようになった。
でも、それだけ。
ムラムラしたり、襲いたくなったりはしない。
なら、キスをして催淫効果のあるというヨウコの体液を多少取り込むことになっても、大丈夫なんじゃないかな?
そう思い、俺は──
ヨウコとキスした。
──!!?
キスした瞬間、ヨウコの舌が口の中に入ってきた。
「お、おい!」
慌ててヨウコから離れる。
ヨウコと初めてのキスなのでさすがに緊張し、キスする瞬間、無意識に読心術をオフにしてしまっていた。
「ふふふ、すまぬのじゃ。我もでぃーぷなキスは初めてで……どうじゃったかのぅ?」
(我もドキドキしたのじゃ。しかし、これで確実に主様は我の体液を取り込んだ! 今頃、主様は我を襲いたくてうずうずしておるに違いないのじゃ!!)
残念ながら、なってないんだなー。
しかし、俺を嵌めようとするとは許せんな。
「ヨウコ」
「は、はい」
(き、きたぁぁ! ついに主様が我に手を──)
「尻尾を出せ」
「えっ? し、尻尾?」
(くっ、いかん! これは『命令』じゃ。逆らえん!!)
ヨウコが九本の尻尾を具現化する。
俺はその内の二本の尻尾を──
全力でモフった。
「──んんんっ!?」
敏感な尻尾を全力で触られ、立っていられなくなったヨウコが俺の方に倒れ込んできた。
その身体を支えながら、尻尾をモフり続ける。
「な、なぜじゃ!? んんっ! なぜ──」
(なんで襲わないのじゃ!? これでは我が一方的に気持ちよくさせられているだけなのじゃ!)
「ご褒美だから。気持ちいいだろ?」
「なっ!?」
(主様の意思がハッキリしておる……えっ、ということは我の体液を取り込んでおらんと──んんっ!? そ、そこはダメなのじゃぁぁあ!)
ほぅ、
「んぁぁぁぁあぁあ!!!」
その後、俺は数分間ヨウコが
その結果、ヨウコは今、廊下に伏してピクピクしている。
多分、しばらく起きあがれないだろう。
残念だが、晩ご飯はお預けだな。
とりあえずベッドに運んでやった。
「お嬢様、起きられたらお食事を召し上がりに来てくださいね」
そう言いながらヨウコの頭を撫でる。
ご褒美として頭を撫でてほしいと言っていたからだ。一応、願いは叶えてやったのだから問題ないだろう。
さ、あと三人だ。
俺はマイとメイの部屋に向かった。
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