第84話 チャーハンとお詫び

 

 持って帰ってきていた執事服に着替えて、髪をセットし、キッチンへと向かう。


 皆には準備ができるまで自室で待っていてほしいと伝えていた。



「さ、やりますか」


 サーシャが来るかもしれないので、皆へのお詫びは早急に済ませなくてはいけない。



 元の世界にいた時からチャーハンはよく作っていた。


 妹が俺のチャーハンを好きだと言ってくれて以来、調子に乗って作りまくった。


 こっちの世界では、魔法学園に入学してから何回かティナたちに作ってあげた。


 結構、好評だった。


 実家にいた時は、ティナを含むメイドたちが俺をキッチンに入れてくれなかったから、料理は全くできなかった。


 いつかひとり暮らしする時のために練習したいと言ったら『ハルト様には私がついてますからそんな必要ありません』とティナに言われてしまった。


 また、こっちの世界ではあまりチャーハンが、メジャーではないらしい。


 転移勇者によって伝えられたレシピがあり、それを基にチャーハンを売るレストランはあるが、なんかベチャッとしていて人気がないらしい。


 俺も興味本位で食べたが、不味かった。



 魔法学園に入学して、しばらくした頃、俺は唐突に元の世界のチャーハンが食べたくなった。


 食べたい、という意志はもの凄い原動力となる。


 まず、俺はチャーハンに合う米を探した。

 授業がない日、ティナに飛行魔法で色んな国に連れていってもらった。


 そして、極東の島国でついに日本の米に近いものを見つけた。


 ここはヨウコの故郷らしい。


 なんとなく日本っぽい文化が広まっていて、ちょっと懐かしくなったが、目的はチャーハン作りなので、米だけ買って帰った。


 転移のマーキングはしたので、いつでも来ることができる。


 俺は定期的に転移魔法でその島国に行って米を買い、ティナにその米を渡してご飯を作ってもらっている。


 最初、真っ白なお米を不思議がっていたティナたちも、今ではすっかり島国のお米が主食になった。


 やっぱりお米、最高!!


 ちなみにチャーハンを作る際の材料だが、お米以外は魔法学園の市場に元の世界のものと近い食材がある。



 ティナが屋敷にいない時、俺はキッチンでチャーハンを作った。


 帰ってきたティナは、俺が料理していたことに驚き、そして俺のチャーハンを食べて二度驚いた。


 それ以来、たまにティナがチャーハンを作ってほしいと言ってくるので作ってあげていた。


 ヨウコやマイ、メイ、リファたちがうちに来てからもたまに作っていた。


 一番喜んでくれるのはメルディかな。



 ささっと、チャーハンを作った。


 さて、ここからがメインだ。



 ──***──


「ティナ、居る?」


 ティナの私室に来て、扉をノックする。

 まだ執事モードにはならない。


 扉が開く。


「ハルト様、どうかなさい──」


 俺の姿を確認したティナが固まる。


 完璧な執事となるべく、読心術を展開する。

 執事モードをオンにする。


「お嬢様、お待たせいたしました。お食事がご用意できましたので、お呼びにまいりました」


「ハ、ハルト様、そのお姿は──」

(か、かっこよすぎます!!)


 んー、やっぱり照れるな。


 でも俺は今、ティナの執事なのだから平常心を保たなくちゃ。


「ブレスレットの件のお詫びと、今日お店の運営を裏から支えてくださったお嬢様へのご褒美です。何か私に、望むことはございますか?」


「キスしてください!」

(そんな! ハルト様におねだりなんてできません)


「え?」

「え? ──あっ、いや、そうじゃなくって」


 びっくりした、まさかそう来るか。

 普通にキスを強請ねだられた。


 でも、お願いされたら仕方ないよね。


「お嬢様、失礼します」


 頬を染めて下を向くティナの顎を指でクイッと上げ、俺の方を向かせる。



 ティナとキスした。


「…………」

(…………)


 ティナが固まった。

 思考も停止している。


 ふっ、とティナの身体から力が抜ける。


 倒れ込みそうになるその身体を慌てて支えた。


「ティナ、大丈夫?」


「す、すみません」

(幸せ過ぎて力抜けちゃいました。ハルト様、ズルいです)


「立てる?」


「は、はい。なんとか」

(できればこのままお姫様抱っこしてベッドまで……なんて、無理ですよね?)


 おっけー、任せろ!


「えっ、ハ、ハルト様!?」


 ティナを抱き上げ、ベッドまで運ぶ。

 ちゃんと鍛えてるのでティナくらいなら余裕だ。


 優しくティナをベッドに降ろした。


 そして、もう一度キスした。


「お嬢様、今日はここまでです。お食事を食べに来ていただけますか?」


「は、はい」


 これ以上、思考を読むとキリがなさそうなので読心術をオフにする。



「では、私は他の方をお呼びしてきます。食堂でお待ちください」


 そう言ってティナの部屋を出た。



 あと五人。

 執事って大変だと思う。


 次はリファの私室に向かう。




「リファ、入っていい?」


「はい、今開けます」


 扉が開いて、リファが出てくる。

 そして、ティナのように固まった。


 さ、執事モードだ。

 もちろん読心術をオンにする。


「お食事のご用意ができました。食堂までお越しいただけますか?」


「えっ!? あっ、はい」

(な、なんでハルトさんが執事服を!?)


「ちなみに、この格好はブレスレットの件の謝罪と今日お店で接客を頑張っていたお嬢様へのご褒美のつもりなのですが、いかがでしょうか?」


「素敵です! かっこいいです!」

(そ、そんな謝罪だなんて──)


「えっ……あ、ありがとうございます」


 なんだろう、俺の妻はテンパると、思ってることと口から出る言葉が逆転するんだろうか?


 可愛い妻から、真っ直ぐ褒められるとさすがにちょっと照れる。


 よし、切り替えよう!


「何か私にしてほしいことはございますか?」


「えっと……」

(キスしてほしいんですけど。できればちょっと強引な感じで──ってそんなこと言えるわけないじゃないですか!)


「畏まりました」

「えっ」


 リファの肩を掴み、近くの壁に軽く押し付ける。


「あ、あの、ハルト、さん?」


 リファは驚いているが、抵抗しようとはしなかった。


 壁に手をついて、リファの逃げ道を無くす。


 所謂、壁ドン。

 まさか、俺がこれをやる日が来るとは。


 そのまま、少し強引にリファとキスをした。



「すみません。お嬢様が可愛らしくて、つい」


 そういう設定にしておこう。


「……どうして、キスしてほしいって分かったんですか?」


「私はお嬢様の執事ですから」


「ハルトさん……」

(そんなの、ズル過ぎますよぉ)


 その後、リファが望むように少しだけイチャイチャして、リファの部屋から出た。



 あと、四人……。


 チャーハン、冷めちゃぅんじゃないかな?


 そんなことを思いながら、俺はヨウコの私室へと足をはこんだ。

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