第83話 主従逆転

 

 学園祭初日が無事に終わった。


 俺たちの店は大盛況だった。

 喫茶店を貸し切りにした料金、そして二日分の食材費などを全て合計した金額以上の利益が出たのだ。


 思った以上の集客があり、利益率の高いクッキーなどのお土産が結構売れたのが大きい。


 そして、利益度外視で出していた、シルバレイ伯爵家御用達の高級茶──これが不評で、全然売れなかった。


 凄くいい匂いするのに……。


 俺は昔から飲んでいて結構好きなのだが、一般の人たちには合わなかったらしい。


 利益を度外視しているとはいえ、ちょっと高めの料金設定にしたのも良くなかったのかもしれない。


 そんなわけで、利益率が高いものが売れ、売れば売るほど赤字になるモノが売れなかったため、結果として黒字になった。


 不評だった紅茶は、俺が持って帰ることになった。明日は出さない。


 ちなみに、メイド&執事喫茶は明日で終わりだ。


 学園祭最終日である三日目は、クラスのみんなと学園祭を回ることにしている。


 経費に人件費を含んでいないので、現状はタダ働きだ。


 今日と明日の利益をみんなで分配して、三日目の学園祭で遊ぶ資金にすることにしていた。


 今日、一番頑張っていたのは指名人気No.1のルークだ。彼には少し多めに分配できるようにしようと思う。


 後片付けを終え、喫茶店のオーナーと従業員に挨拶して、各自解散した。


 解散と言っても、クラスの過半数が俺の屋敷に帰るのだが……。



 ──***──


「今日この後、来客あるから」


 屋敷について、俺は皆にサーシャが来ることを告げた。


「ハルト様が何か耳打ちしてらっしゃった方ですか?」


 ティナは俺がサーシャと会話していたのを見ていたようだ。


「そう」


「お知り合いだったのですか? 二回もハルトさんを指名しようとしていましたよね」


 リファにも見られていた。


「「その方、ハルト様をずっと見てましたよ」」

「そうじゃ、主様を見て頬を赤くしておったぞ」


 マイ、メイ、ヨウコからも声が上がる。


 なんか皆、俺のことチェックし過ぎじゃない?


「あの人、この国の王様の妹君なんだ」


「えっ、サーシャ様だったのですか!?」


 ティナはサーシャの名前だけは知っていたようだ。


「うん。病気で公の場には出れなかったけど、アルヘイムから貰った世界樹の葉で回復できたんだって。で、それのお礼を言いに来るらしい」


「サーシャ様が来るのは良いのですが、ハルト様がブレスレット渡したのは何故ですか?」


「えっ」


 何だかティナが不機嫌だ。


「あれは私たちエルノール家だけのものかと思ってました」


「主様が我らを守るために作ってくださった特別な品じゃ。貰った時、凄く嬉しかったのじゃ。それを──」


 リファとヨウコの口調がいつもより厳しい。


「「私たちも、ちょっと嫌でした」」


 マイとメイも不機嫌そうだった。


 このふたりのこんな様子は初めてなので、ちょっと戸惑ってしまう。


「皆、ハルトからブレスレット貰った時、大喜びしてたにゃ。ウチも貰えて嬉しかったにゃ。それを簡単に、赤の他人に渡すのは良くないにゃ」


 メルディに叱られてしまった。


 そうか、そういえば全員同じものを身につけるのはあれが初めてだったな。


「みんな、ごめん」


 何とかして機嫌を直してもらわなきゃ。


 ちょっとズルいけど、何したら許してもらえるか読心術で聞くか。


「俺が軽率だった。みんながあれブレスレットをそんなに大事に思ってくれてたなんて知らなかった。だから、お詫びに俺ができること、ひとりひとつずつ願いを叶えるよ」


「わ、私はハルト様に贖罪していただこうなんておもってません!」

(あぁもう、私のバカ! せっかくだから、執事姿でご奉仕してください! って言えばいいのに……)


 なるほど、ティナの願いは執事姿での奉仕ね。


「ハルトさんは反省してるみたいなので、私はもう許します」

(でも、できれば執事姿のハルトさんにお嬢様って呼んでもらいたいな……なんてね)


 リファの願いも執事姿での奉仕か。



「「ハルト様に何かしていただこうなんて、畏れ多くて思えません!」」

((執事のお姿、カッコよかったです! あれでちょっとだけでも、お相手してほしいです))


 マイとメイもか……。



「我は、そうじゃの。ほっぺにチュ──」「「「ヨウコさん!」」」


「──いや、なんでもないのじゃ」

(むぅ、そうじゃった。結婚しておるティナとリファ以外は主様にキスをせがんではいかんのだったな。主様がしてきてくれれば良いのだが……せめて、頭を撫でるくらいはしてほしいのじゃ)


 なんか、知らないうちに家族ルールができてたらしい。


 俺が誰かにキスするのは自由だけど、俺にキスを強請ねだれるのは、妻であるティナとリファだけだという。


 ──まぁ、ヨウコの願いは頭を撫でることだな。



「ハルトのチャーハン食べたいにゃ!」

(チャーハンチャーハンチャーハン)


 うん、こいつメルディはチャーハン作ってやればいいな。


「おっけー! じゃ、今日の夕飯はお詫びを兼ねて俺が作るよ。チャーハンでいいよね?」


「やったにゃ!!」


 メルディは喜んでいるが、他のみんなは微妙な表情だった。


(ハルト様のチャーハンは美味しいので好きなのですが……勿体ない。ちゃんとお願い、すれば良かった)


(せっかくハルトさんにお嬢様って呼んでもらえるチャンスでしたのに……)


((できれば、執事のお姿で!って、無理ですよねー))


(あ、頭ナデナデが、チャーハンになってしまったのじゃ……)


(チャーハン! チャーハン! はっるとっのチャーハン!!)


 俺は皆の思考を読み取りながら夕飯の準備に取り掛かった。

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