第82話 執事ですから
メイド&執事喫茶は順調だった。
皆、安定して接客できている。
俺のメイド組は慣れてるから当然として、リュカとルナが化けた。
恥ずかしがっていたリュカも、ちゃんと接客できるか不安がっていたルナも、いざ客が付くと完璧なメイドを演じてみせた。
そして、やはりルークが大人気だった。
ルーク指名の女性客だけ、別の列で待機してもらわないといけないほどだった。
リューシンと俺にも、たまに指名が入る。
俺に指名が入った時は、読心術の練習を兼ねて
「ご注文は何になさいますか?」
「んー、そうねぇ」
(このシフォンケーキが食べてみたいんだけど、ちょっと大きいのよね)
もう、安定して対象者が何を考えているか、聞こえるようになった。
「こちらのシフォンケーキはいかがでしょうか? 少し大きめですが凄くふわふわで、お嬢様でも食べ切れてしまうと思います」
「うん。じゃ、それにします!」
「畏まりました。少々、お待ちください」
読心術のおかげで接客が凄く上手くいく。
ただ、プライバシーを侵害しまくっているので、使うタイミングは選ぶようにしようと思う。
この世界にはプライバシー保護法なんてものは無いので、気にする必要はないのかもしれない。
俺は昔から、姉のシャルルに読心術を使われていたらしいしな。
でも、姉とはいえ全て考えを読まれるのは、あまり気持ちの良いものではない。
なので俺は必要な時だけ使うことにしよう。
とはいえ、相手が何を考えているか分かるというのは、相手がどんな攻撃をしてくるのか分かるということだ。
戦闘において、この読心術という能力は非常に有益なのだ。
なので、全力で楽しませる代わりに、お嬢様方には読心術の練習台になってもらおう。
「あの、また貴方を指名してもいいですか?」
一番初めに俺を指名してくれた女子生徒が、もう一度来てくれた。
「今回は私が接客する順でしたので、指名なさらなくても大丈夫ですよ」
「そうなんですね、ありがとうございます」
(お小遣いギリギリだったから、良かったぁ)
非日常空間を楽しんでもらう──という付加価値があるので、普通の喫茶店の二倍くらいの料金設定になっている。
特に指名料が高い。
新しく入ってきた客には空いてるメンバーが順に接客に入る。
その際のメンバーで良ければ指名料は要らない。
もちろん、指名料を貰ったら普通の接客より色々サービスをする。
来店のお礼の手紙を書いて渡したり。
食事をあーんして、食べさせたり。
一緒に写真を撮ったりする。
ルークは接客相手が全員、ルークを指名してきている客なので、それらのサービスをするのが大変そうだった。
まぁ、モテるやつは多少苦労しとけって話だ。
嫉妬じゃないぞ。
俺にはティナたちが居るんだから。
嫉妬じゃない。大事だから二回言った。
さ、俺も仕事しよっと。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「た、だだいま、です」
メイド&執事喫茶は結構な人気で、店の外の列もかなり長くなっている。
そんな列に並び、また来てくれたのだ。
指名されてなくても、少しサービスしてあげようと思う。
この子は何がお望みなのかな?
「ご注文はお決まりですか?」
「あっ、はい、えっと──」
(貴方とお話しがしたいです! なんて、ダメだよね……お仕事中だし)
そうか、俺と話したいのか。
俺はそんなに指名されないし、お店も順調に回ってる。
多少は良いだろう。
「二度来ていただいた初めてのお嬢様ですので、宜しければ少しお話ししませんか?」
「いいんですか!?」
「はい。
「わ、私はサーシャ=グレ──じゃなくて!サーシャです!」
(あ、危ない……グレンデールって言ったら王族だってバレちゃうじゃん! 秘密にしなきゃいけないのに)
──おっと、とんでもないことを知ってしまった。
俺の目の前にいるサーシャは、この国の王族らしい。
確か、国王陛下には妹が居たはずだ。
サーシャくらいの年齢の王族と言うと、その妹君くらいしか思い当たらない。
でも妹君は病弱で、国民の前に姿を現すことはこれまで一度もなかった。
どういうことだ?
「サーシャ様ですね。二度もご来店いただき、誠にありがとうございます。つかぬことをお伺いいたしますが、何故私をご指名くださったのでしょうか?」
「えっと、それは……」
(私は世界樹の葉のおかげで回復できたのです! その世界樹の葉をお兄様が手に入れるきっかけを作ったのがハルトさんだから、お礼が言いたかったんです──って、これ、言っちゃダメなんだよね)
サーシャが下を向いてしまう。
そういうことか。
病弱だったサーシャは、
それは良かった。
で、サーシャの願いは俺へのお礼か。
主人の願いを聞き届けるのが執事の仕事だ。
俺はサーシャにしか聞こえないよう、その耳元で話しかける。
「私の兄は陛下の親衛隊長です。陛下とも懇意にしていただいておりますので、多少の事情は把握しております。無事、回復なされたようで何よりでございます、サーシャ様」
「えっ」
サーシャのことを知っていたことにしてしまった。
まぁ、もし兄に確認されたとしても、超直感を持つカインなら何とかしてくれるだろう。
「……」
(私が王女って知ってるの? ──ってことはお礼言っても大丈夫ってことだよね)
サーシャが真っ直ぐ俺を見てきた。
グレンデール王と同じ瞳をしていた。
「貴方のおかげでこうして外に出られるようになりました。本当に、ありがとうございます」
「恐れ多いお言葉です。殿下」
「……あの、もし良ければもう少しお話ししたいので、学園祭の後で訪ねてもいいですか?」
「もちろん大丈夫です。ですが、病み上がりでしょう。私がお伺いしましょうか?」
「平気です。完全に元気になりましたし、こうして出歩くのが楽しいのです」
(実は護衛を振り切ってハルトさんに会いに来ちゃったとか、言えないよね)
おいおいおい、何やってんだこの人?
王族の護衛なら王国騎士がつくはずだ。
それを振り切るとは……。
「もし、おひとりで来られるようでしたら、こちらをお持ちください」
俺はそう言って、ポケットからブレスレットの形をした魔具を取り出す。
「あの、これは?」
「危険が迫った時に、護身魔法が発動する魔具でございます」
ティナが持っていた勇者の魔法を閉じ込めた魔具と、俺が世界樹のダンジョンで見つけた魔具を解析して、同じように魔法を保存できる魔具を作っていた。
もちろんオリジナルのように、どんな魔法でも保存できるほどの性能はない。
炎の騎士を数体、中に入れるのが限界だった。
しかしこれがあれば、強敵が襲って来たとしても時間稼ぎはしてくれるはずだ。
俺はこの魔具を家族全員に渡していた。
俺も一応、身に付けている。
予備もあるので、俺のをサーシャにあげたのだ。
「ありがとうございます……でも、どうしてここまでしてくれるのですか?」
どうして?
そんなの決まってる。
「私は、お嬢様の執事ですから」
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