第80話 期末試験と学園祭
イフルス魔法学園では十月の進級試験の後に、学園祭が行われる。
ちなみに、学園への入学は一月だ。
グレンデールには四季がない。
たまにブリザードドラゴンの飛来などで、雪が降ったりすることはあるが、基本的に一年を通して温暖な気候なのだ。
だから区切りの良い一月に入学式が行われ、在学生は学年が変わる。
進級試験だが、俺たちのクラスは全員が難なく突破した。
進級試験は魔法に関する学科テストと、試験官役の教師と一対一で戦って一年間の成長を見せる実技試験のふたつなのだが……。
実技試験の方は俺たちと戦えるレベルの教師がティナしか居なかったため、免除となった。
不正防止で、自クラスの教師は試験官になれないからだ。
また、筆記試験は全学年共通の問題で、非常に問題数が多い。
低学年では習わないような事柄も出題されるが、授業で習い、できる所で点を取れば合格できる──そういう試験だ。
ティナの教えを受ける俺たちのクラスには再試験になる点数を取る者など、ひとりもいなかった。
そして、ルナが筆記試験で満点を取り最優秀生徒として表彰された。
一年生が満点を取ったことなど未だかつて無く、この学園始まって以来の快挙だそうだ。
ルナ、すげぇ。
ちなみに俺は一問ミスった。
同じく一問ミスで、生徒会長が俺と同点だった。
俺、賢き者と書いて賢者なんだけど……。
職業補正の記憶力だけではダメだと痛感した。
ま、試験は無事終わったってことで。
今日から三日間、学園祭だ!
普段は学生以外が入れないイフルス魔法学園も、この時期だけは国内外から多くの人が押しかける。
世界屈指の魔法学園、そこの学生たちが何をするのか、皆楽しみにしているのだ。
学生たちは各クラスごとに演劇をしたり、屋台を出したりするのだが──
やはり魔法学園なので、レベルが違う。
俺は元の世界の学園祭で、クラスの出し物としてドラゴンを勇者が倒すという演劇をしたことがある。
もちろん、ドラゴンはダンボールなどで作り、ドラゴンの攻撃もビニールテープなどで火をイメージした演出だった。
しかし、この世界の演劇は
レッサードラゴンという魔物を捕まえてきて、実際に観客の目の前で討伐するのだ。
最早、演劇なんかではない。
リアルに命のやり取りが目の前で繰り広げられる。
この学園の五年生くらいの生徒であれば、多くの者がレッサードラゴンを単独で倒せる。
ちなみにドラゴンと名がついている上に、見た目は完全にドラゴンなのだが、レッサードラゴンは竜族ではない。
ドラゴンもどきと呼ばれるトカゲ系の魔物だ。
翼もあるが、それは見掛け倒しで空を飛ぶことはできない。
しかし、世間一般ではレッサードラゴンはC~Bランクの魔物であり、恐怖の対象。
そんな魔物を、圧倒的火力の魔法で撃破する。
学園外から来た観客たちがそんな演劇を見て、沸かないはずがないのだ。
演劇だけではない。
屋台もレベルが高い。
魔法を駆使して、滅多に育たない貴重な植物を栽培し、それを販売していたり。
一般には流通しない高純度の回復薬などが売りに出されたりする。
ちなみに回復薬などは学生が授業中に練習で作ったもので、この学園で生徒が怪我をした時に使用される回復薬はもっと純度が高い。
しかし、学園祭に来た冒険者たちは、学生が作った回復薬ですら喜んで購入していくのだ。
さて、俺たちのクラスだが──
『メイド&執事喫茶』をすることにした。
俺の思いつきの発言から、こうなった。
元の世界の学園祭では割と定番だと思う。
だが、この世界では珍しいらしい。
特技:メイド(極)を持つティナが指導してくれたので、短期間でクラスの全員がかなりの技量を身につけた。
いよいよ本場だ。
リファ、ヨウコ、マイ、メイ、メルディがメイド服を着ている。
ヨウコ以外は皆、俺の屋敷で毎日メイド服を着ているので慣れた様子だ。
ヨウコもメイドとしての仕事はしているので、立ち居振る舞いは心得ている。
──で、ここからが目新しい。
リュカとルナが、恥ずかしそうにメイド姿になっている。
うん、ふたりともよく似合ってる。
「ハルト、女子だけでもよかったんじゃないか? 俺、裏方に回るよ」
そう言ってきたのはルークだ。
執事服を身に纏い、髪をオールバックにかきあげている。
「鏡見たか? お前目当てで来る女子も居るんだから、ダメに決まってんだろ」
ルークは誰がどう見てもイケメンだった。
学園祭が始まってすぐ、クラス全員でメイド&執事喫茶をすると宣伝しながら学内の大通りを歩いた。
メイドと執事の姿で。
その効果があり今、開店前だというのにうちのクラスの前には多くの客が並んで待っている。
なぜか女性の割合が多い気がする。
ちなみにこの場所だが、イフルス魔法学園の中央街にある本物の喫茶店を貸し切って準備している。
この喫茶店、学園祭の期間中も例年は普通に営業していて、普段より多い売上をたたき出すのだとか。
その売上金額を聞き、それの倍額払うと言って貸切にしたのだ。
俺のお小遣いだけで余裕で支払えた。
ちなみに俺たちの仕事は給仕だけで、調理や会計はお店のスタッフがやってくれる。
学園祭だが、生徒だけで全てをやらなくても良いのだ。
「皆、準備はいいか?」
「大丈夫です」
「おっけーじゃ」
「「いけます!」」
「いいにゃ」
俺のメイド組は問題無さそうだ。
「恥ずかしいけど……やるしかないですね」
「が、頑張ります」
リュカとルナも頑張ってくれ。
「指名入んなかったら、どうしよ?」
「ルークは大丈夫だろ。むしろ俺は呼ばれたくない。緊張で飲み物を零さない自信が無い……」
ルークがさっき少し外に出たら、列を作っている女性たちから歓声が上がっていた。
ルークには指名が殺到するだろう。
リューシンは失敗を恐れているが、昨日までのティナの指導でほぼ完璧に執事になりきれるようになった。
問題無いはずだ。
ティナは何かあった時のために、裏方待機だ。
さぁ、開店の時間だ。
学園祭を楽しもう!
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