第79話 シロの一日(4/4)
「ふぁぁ」
夕日が眩しくて目が覚めた。
……おぉ、寝すぎてしまった。
ん?
自分の身体が何かの間にすっぽり挟まっていることに気づく。
そういえば、我はヨウコの足の上で寝ておったな。
こんな時間まで、悪いことをした。
そう思い、ヨウコを見上げる。
「──だ、だれだ?」
我は確か、胡座をかいて座っていたヨウコの足の間で寝ていたはずだ。
しかし、ヨウコであったはずのその者は、我が見たことない、女性に変わっていた。
「んっ……シロ、ようやく起きたか」
我の声で女性が目を覚まし、話しかけてきた。声はヨウコだった。
そういえば、どこかヨウコの面影がある。
「ま、まさかヨウコか?」
「そうじゃ、おかしな奴じゃの。誰の足の上で寝ておると思っておったのじゃ?」
本当にヨウコだという。
ど、どういうことだ?
──あっ!
我の魔力がだだ漏れだった。
どうやらヨウコは我の魔力を吸収し、成長してしまったようだ。
なんてことだ……少し我の魔力の発散に付き合ってもらうはずが、数時間ずっとヨウコに魔力を与え続けてしまっていた。
「ヨ、ヨウコ。魔力の溜まり具合はどんなもんだ?」
我もその気になれば、どの程度魔力が溜まっているか分かる。しかし、怖くて自分で見たくなかった。
「尻尾に溜めてる魔力のことかの? おかげさまで満タンじゃ!」
「──っ!?」
ニコニコとヨウコが答えてくれた。
魔力が満タン──つまり、ヨウコは完全体の九尾狐になってしまったという。
我は酷く後悔した。
世界を守るはずの我が、世界を破壊する魔族を完成させてしまったのだから。
さっと、ヨウコから距離を取る。
我がどいたことで、ヨウコは動けるようになり、その身体を伸ばす。
我はヨウコの一挙一動に注意を払う。
今すぐ暴れだしても不思議ではないのだ。
「んんっ、ちょっと寝すぎてしまったしまったのじゃ。さて、今日の夕飯は何かの?」
そう言いながらヨウコが立ち上がった。
着ていた着物は、成長したヨウコの身体をカバーしきれず、艶やかな躰が露になる。
「おぉ、身体もだいぶ成長したの。これなら主様を喜ばせられるじゃろう」
ヨウコが自らの身体をチェックする。
凄く嬉しそうにはしゃいでいる。
「…………」
おかしい。
ヨウコが暴走する気配がない。
我が知っておる九尾狐は、魔力が溜まり、成長しきると自我が無くなり、魔力が尽きるまで破壊を繰り返す。
そういう魔族なのだ。
だが、ヨウコは既に完全体になっているにもかかわらず、暴走しない。
ど、どうなっているのだ?
「……ヨウコ、暴走しないのか?」
普通に聞いてしまった。
「うむ、主様とそなたのおかげだと思う。悪意のない魔力で満たされたせいか、暴れようなどと一切思わん」
「そ、そうか」
そんなことがあるのか?
いや、そういえば九尾狐が発生するのは戦争などで荒れ果てた国が多い。
もしかしたらそういう国で、怒り、悲しみ、憎しみなどと言った負のオーラいっぱいの魔力を吸収することで九尾狐は凶暴になるのではないだろうか?
改めてヨウコの尻尾を確認する。ハルトの魔力が二本、我の魔力が六本で、残り一本には色んな魔力が混じっていた。
邪悪なオーラは──少ない気がする。
なんということだ。
止められない天災だと思われていた九尾狐は、悪意のない場所で育てれば暴走しないのだ。
神獣である我も知らない、新たな発見であった。
ヨウコを暴走させないことが、ハルトを悲しませないことに繋がる。
そうであれば、我が取る行動も決まる。
「ヨウコ、もし尻尾の魔力を使ったなら、我かハルトの魔力を吸え。さすればお前はもう暴走することは無いだろう」
「わかったのじゃ。我もそれを頼もうと思っておった。暴走して主様に迷惑かけたくないからの」
ヨウコも理解しているようだ。
良かった。
これで世界から1つ脅威が取り除かれた。
──***──
「ヨウコさん、シロ様、夕飯の用意ができましたよ」
ヨウコと中庭で遊んでおったら、ティナが呼びに来てくれた。
「ご要望が多かったので、今日もカレーです。いっぱいありますからね」
「おお!」
なんと、今日は我の大好きなティナのカレーだと言うではないか!
ティナのカレーなら一週間、毎食でも良い。
それくらい我はティナのカレーが好きだ。
尻尾が揺れるのを止められん。
ヨウコを見ると九本全ての尻尾が激しく振れていた。
「あら? ヨウコさん、なんだか成長されました? その、お着物が……」
ティナがヨウコの異変に気づいた。
今のヨウコは、ヒトの男であれば誰もが欲情してしまうような妖艶なナリをしていた。
「うむ、シロのおかげでな」
「そうなんですね、お着物直さなきゃいけませんね」
「頼めるかの?」
「はい、お任せください」
ヨウコはティナに連れられ、屋敷の方へ向かった。
我はヨウコたちと別れ、夕飯を食べに行くことにした。
──***──
ティナのカレーは今日も美味かった。
めっちゃ食べた。
毎回すぐなくなってしまうので、今日はティナが大量のカレーを作っていたようだ。
明日以降も食べられるようにと、多めに作ったらしい。
だが、それが全て無くなった。
みながとんでもない量を食べていた。
我も、もうお腹いっぱいだ。
あぁ……幸せ。
今日一日で、何度ハルトの所に来てよかったと思ったことか。
ここを、エルノール家を守らねばならぬ。
この幸せ空間を害するものがあるとすれば、我が神獣の名において罰を与えよう。
ここを害する者は、世界に仇なす者に違いない。
であれば我が真の力を用いて、その者を排除しても何も問題ないのだ。
「何者にも、ここは奪わせん」
そう呟いて、我はふかふかのソファーで横になり、眠りについた。
今日も良い、一日であった。
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