第77話 シロの一日(2/4)
お腹いっぱいになるまで、ティナの作ってくれた朝食を食べた。
幸せだ。
神の呼びかけでもないのに起きてしまって、当初は不安だった。
でも、こうしてティナの手料理を食べられるので、ハルトに起こされて良かったと思う。ティナに感謝を伝え、ハルトの屋敷を出た。
──***──
食後の運動としてイフルス魔法学園の近くにある、鋼の森まで散歩に来た。
これは我の日課だ。
ハルトたちは心配してくれたが、神獣である我を傷つけられる魔物などそうそういるはずがないので、我は普段から一匹で散歩しにきていた。
この森にいる魔物は、割とレベルが高く、知能も高い。
そのため我の力を察知しているようで、我に襲いかかってくる奴はいなかった。
我が森に入ると、多くの魔物は我の通り道から逃げていく。
だから、我は悠々と森の中を歩く。
ちなみに小さい姿のままだ。
本来はもっとかっこいい姿なのだが、ハルトの屋敷でずっとこの姿で居るせいか、こっちの方が慣れてしまった。
こっちの姿の方が、ティナやリファに甘やかしてもらえるからな。
鋼の森の中央までやってきた。
薄暗い森の中で一部だけ陽の光が当たる場所がある。その陽の光の中に、大きな石が台座のように横たわっている。
我はその台座の上に寝転がった。
ハルトの屋敷にあるふかふかソファーとは比べるまでもないが、ここはここでなかなか居心地が良い。
陽の光が柔らかく、我をほんのり温めてくれる。
もともとここは、この森の主であるキングベアという巨大な熊型の魔獣の縄張りだった。
──***──
3日ほど前、散歩している時に偶然この場所を見つけた。
「おぉ、こんな場所があったのか」
「…………」
石の台座上に寝そべるキングベアは当初、我を見て、なんだコイツは? と言うような表情をした。
我はちょっとだけオーラを解放した。
そしたら何故か、キングベアが場所を譲ってくれたのだ。
決して、脅してこの場所を奪ったわけではない。
キングベアが我の尊さに気づき、自らこの場を差し出してくれたのだ。
その後、毎日ここまで来て、昼まで寝るというのが我の散歩の流れになっている。
いつからかキングベアをはじめ、様々な魔物が我のところに、この森で採れる果物や木の実を持ってきてくれるようになった。
いつもはそれを食べるのだが、今日はティナの料理をいっぱい食べたので、既におなかいっぱいだ。
「今日は
キングベアたちは、我が供え物を気に入らなかったのかと思ったらしく焦りだした。
「あ、いや、今日は既にお腹いっぱいなのだ。別に供物が気に入らなかったのではないから安心せよ」
そう言ってみたが、キングベアや周りの魔獣たちは不安そうだ。
キングベアが我に語りかけてきた。
「……なに? お前たちを食べないのか、だと? ふふ、ふははは。お前たちは運が良い。我はお前たち魔獣より美味いものを知ってしまったのだ。今更お前たちなど、とって食わん」
その言葉で、魔獣たちは安心したようだ。
魔獣たちは自分たちで集めてきた果実などを持って森の奥へと姿を消した。
我はしばし眠ることにした。
──***──
「──はっ! し、しまった、寝過ごした!!」
起きたら昼を過ぎてしまっていた。今日は昼もティナの料理を食べられたはずだ。
なんということだ……。
──ん?
我が寝ている石の台座の上に、木でできたカゴが置いてあった。
「こ、これは!!」
カゴにはおにぎり三つと、こんがり焼けたウインナー数本が入っていた。
すごくいい匂いがする。
「シロ、おきたか?」
カゴを漁っていると後ろからハルトの声がした。
森の奥の方からハルトがこっちにやってくる。
「これ、ハルトが?」
「あぁ、ティナが作ってくれたご飯だ。シロが戻ってこないから、持ってきてやったぞ。まだ温かいと思う」
ほう、やはりこれはティナの料理か!
有難く食べさせてもらおう。
ティナが作ってくれたご飯は美味かった。
もう少し量があっても良かったが……。
そういえばハルトは森の奥からやってきたが、何か用があったのだろうか?
「ハルト、森の奥で何をしていたのだ?」
「あぁ、ちょっと前に俺の魔法がこの森の一部を燃やしちゃってさ。そこが回復してきたか見てきたんだ」
魔獣たちの会話を聞き、数ヶ月前に森の一部が燃えたというのは知っておった。
あれはハルトの仕業だったか。
ついでに、多くの魔物が狩られ、森の奥に住む高位の魔獣も何体かやられたと言っていた。
ま、別に我は魔獣の味方ではないし、幾ら倒されようと知ったことではないが。
しかし、自然を壊すのは頂けない。
我は神獣。この世界を作りし創造神様、その創造物を守る役割もあるからだ。
自然も当然、その守護対象だ。
「森は回復してたか? 一応、我も木々の成長を早める力はあるから、見に行こうか?」
「大丈夫、こいつが手伝ってくれた」
ハルトが身体をずらすと、そこに白い髭を生やした小さな爺さんがいた。
「お主……ノームか?」
「左様。そちらは神獣フェンリルと見受けられるが。なんとまぁ、可愛らしい姿になったの」
ハルトが連れてきたのは土の精霊王ノームだった。
ノームとはかなり昔に会ったことがある。
どうやらハルトと召喚契約を済ませたらしい。
そして、ノームが本気を出せば木々を一瞬で成長させ森を復活させることなど容易いだろう。
ハルトめ、ついに精霊王をコンプリートしやがった。
ちなみに我ら神獣と、精霊王たちはこの世界においてほぼ同格だ。
少し危機感を募らせる。
「……我の方が先輩だ」
「ん?」
「我の方がハルトの配下になるのは早かったから、我の方が先輩だ。食事なども、先輩である我が優遇されるべきだ。あと、ハルトはもっと我を構うべきだ!」
「な、何を言ってるんだ?」
ハルトがぽかんとしている。
しかし、我にとっては死活問題なのだ。
ハルトはこれまでに三人の精霊王と契約している。
対して、神獣は我一匹なので、勢力的に分が悪い。
今、先に契約した精霊王たちは各地に点在しており、呼びかけがあった時だけ、ハルトのもとにやってくる。
しかし、ウンディーネやシルフなどはハルトの側にずっと居たいと言い張っておった。
もし、
それは困る。
ハルトは精霊王であろうが、神獣であろうが、ただの友のように接してくれる。
だから、ハルトの側は居心地が良い。
このポジションを狙うライバルを増やしたくないので、我はノームを牽制するのだ。
「ほっほっほっ。フェンリルよ、安心せい。確かにハルトの魔力は心地よいが、儂にも仕事があるでな。常にハルトの側にはおれんよ」
ノームは我の心中を察したようだ。
なかなか良い奴ではないか。
「そうか、なれば我が常にハルトの側で、ハルトを守るとしよう」
「そうしていただけますかな、
「うむ、任せよ」
その後、少しハルトと話して、ノームは森の奥へと去っていった。
──────お知らせ─────
本作『レベル1の最強賢者』の書籍発売日が決定致しました!
2019年8月28日(水)です!
なお、本日からAmazonで購入予約が開始されています!
書き下ろしいっぱいしましたし、校正も入って読みやすくなっていると思います。
何より表紙と挿絵が素晴らしいです!
発売されましたら、ぜひ一度、手に取って頂ければと思います。
よろしくお願いします( *・ω・)ノ
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