第69話 国王と兄

 

 今月の対戦も無事に勝利し、教室をキープできた。


 いつもの様に中央街で祝勝会をしたり、別日にリューシンとメルディを連れて高級レストランで飯を奢ったりして日々が過ぎていった。



 俺とティナ、リファの結婚披露宴がいよいよ明後日にせまっていた。


 今日はまだ学園にいるが、披露宴はシルバレイ伯爵領で行うので、明日には実家に帰らなくてはならない。


 クラスの皆も披露宴に参加してくれることになっている。


 明日、実家に帰る用意をしていると、来客があった。


 たまたま玄関近くにいた俺が出る。



「おぉ、ハルト久しぶりだ。大きくなったな」


「へ、陛下!」


 扉を開けるとそこに、この国の王が居た。


 慌てて膝をつく。


 グレンデール王とは、王がまだ王子であった頃から面識があった。


 伯爵である父に連れられて、王城に行った時、何度かお会いしたことがあるのだ。


「ハルト、そんなに畏まるな。ほら、立て。今日はお前の兄に連れてきてもらったのだ」


「久しぶりだなハルト、元気にしてたか?」


 一番上の兄カインが、王の後ろから出てきた。


「カイン兄さん、久しぶり。俺はこの通り元気だよ」


 カインはこの国の騎士団に所属していて、最近は色々と忙しいらしく、なかなか会う機会がなかった。


「ところで陛下、本日は何故こちらへ? 御用でしたら、私がお伺いしましたのに」


「我が親衛隊隊長の弟が結婚したと聞いてな。祝いの言葉をかけに来たのだ。呼びつけて祝うのも変であろう?」


「あ、ありがとうございます」


 ん? 親衛隊長の弟?


 えっ、もしかして──


「あの……兄さんって、陛下の親衛隊隊長なの?」


「うん、出世した」


「歳が近くて話しやすかったので、我が取立てた。実力も申し分ないしな」


 知らないうちに兄が大出世していた。


 一介の騎士団員であったはずの兄が、この国の王様の親衛隊に入り、更に隊長にまでなっていたのだから。


 そもそも、この国の騎士団に入るのにも、かなりの地位と実力が必要なのだ。


 まぁ、兄は剣を持たせるとかなり強かったし、人望もあり、いつかは騎士団の小隊隊長クラスにはなると思っていた。


 しかし、親衛隊隊長になってたのは、さすがに驚いた。


「兄さん、昇進おめでとう。知らせてくれれば良かったのに」


「ありがと。すまんな、忙しかったんだ」


「我からも謝ろう。カインは我の護衛に尽力してくれていたのだ。真面目な奴だからな。弟が結婚したというのに、その祝宴にすら行かないつもりであったのだ」


「えっ、では……」


「あぁ、今日我がここに来たのは、護衛と称して無理やりカインを連れてくるためだ」


 おぉ、なんてことを。


 ちょっと、いや、かなり申し訳ない感じになる。


「もちろん明後日の披露宴にも行くぞ」


「えっ」


「聞けばハルトの結婚相手はあの英雄ティナと、アルヘイムの王女だというではないか。この世界を守った者、また他国の姫と我が国の貴族が結婚したのだ。この国の王たる我にはそれを祝う義務がある」


「そ、そうなのですね」


「ちなみに、シルバレイ伯爵にはもう我が行くことは伝えてある」


 なんてことだ。


 既にグレンデール王が披露宴に来ることは確定のようだ。


 俺たちの披露宴は何だか、大事になりそうだ。



「ハルト様、どうされました? あっ、陛下」


 ティナが様子を見に来た。


 ティナもグレンデール王とは面識がある。


「おぉ、ティナ。相変わらず美しいな。此度はハルトとの結婚、おめでとう。そなたのような英雄が我が国の者と結ばれてくれたこと、心より嬉しく思う」


「ありがとうございます」


 ティナが深々とお辞儀する。



 ティナが来てから少しして、リファも様子を見にやってきた。


「ハルトさん、この方たちは?」


「この方は、この国グレンデールの王様だよ。で、奥にいるのが俺の兄」


「まぁ! アルヘイム王国元第2王女のリファと申します」


 リファがお辞儀する。


 さすが、元王族だ。

 凄く様になっている。


「グレンデールの王である。アルヘイムは先日、アプリストスに攻められたそうだが、大事にならなくて良かった」


「お心遣い、ありがとうございます。ここにいるハルトさん、ティナ様や、イフルス魔法学園の皆さんが助けてくださいました」


「そのようだな。アルヘイム王からは感謝と友好の印として、世界樹の葉を頂いてしまった。これからもアルヘイムとは友好国として、良くやっていきたいと思う」


「勿体ないお言葉」


「ハルトも良くやった。アルヘイムとの友好を築いたのだ。今後もその関係を続けられるよう、ちゃんとリファ殿を幸せにするのだぞ」


「はい、必ず」



 言いたいことを全て言い終わったらしく、王は親衛隊を引き連れ、城に帰っていった。


 カインはもう少し俺たちと話してから戻ることになった。


 カインは王の護衛だ。


 王と一緒に城へ戻るつもりだったようだが、王が俺たちと少し話してから戻ってこいといい、親衛隊の人たちもそれを勧めてくれたので、カインは残ったのだ。


 応接室にカインを案内する。



「ん、これは?」


 応接室のソファでシロが寝ていた。


 朝からいないと思ったら、こんな所にいたのか。


「うちのペットのシロだよ」


「何か、ただの犬ではない気がするのだが……ま、まさかとは思うが神獣、か?」


 えっ、分かるの?


 そういえば姉のシャルルが読心術とかいうチートスキルを持っていたのだから、そのシャルルより色んな才能があると持て囃されていたカインも、何かしら能力を持っていてもおかしくはなかった。


「兄さん、オーラとか見える人?」


「いや、どちらかと言うと直感だ」


「……もしかして、そういうスキル?」


「おぉ! よく分かったなハルト。超直感ってスキルだ」


 ほんとに持ってたよチートスキル。

 どうなってるんだシルバレイ家は?


 こうなると2番目の兄も、何かしら能力を持っていそうだ。



「主殿、明日着る服じゃが──っと、来客中であったか」


 俺を探していたヨウコが、応接室に来てしまった。


「きゅ、九尾狐!? 魔族が何故、ここに!」


 うわぁ、さすが、超直感。

 ヨウコの正体を一瞬で見抜きやがった。


「兄さん、俺の使い魔だから大丈夫だよ」


「な、何を言ってるんだ! 九尾狐だぞ!?」


 やはり信じてもらえないか……。


「「ハルト様、明日のことで──あっ、失礼しました」」


 タイミング悪く、マイとメイも応接室に来てしまった。


「今度は上位精霊が二体だと!? ど、どうなってるんだここは!」


 俺はその後、カインにここまで家族が増えてきた経緯を話した。


 もちろん、超直感を持つ兄に隠しことができるわけもなく、俺が転生者であることなども話すことになってしまった。


 実は、俺が転生者であることなど、カインは超直感で昔から気付いていたらしい。

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