第65話 神獣と獣人族
転移魔法で学園まで帰ってきた。
俺たちの教室に魔法陣のマーキングがしてあったので、そこに転移したのだ。
ちなみに、何かあった時のために、学園の色んなところに転移のマーキングがしてある。
でも、転移が使えるってバレると色々大変なことになりそうなので、誰かに見られないように気を使っている。
教室であれば、俺の仲間以外は入ってこられないので、人目を気にしなくても大丈夫。
「ハルトお前、転移ができるのか……勇者だったのか?」
神獣であるシロからしても、転移が使えるというのは珍しいらしい。
「んー、まぁそんなとこ」
そろそろ授業時間が終わりそうだったので、シロへの回答も適当にしながら、急いで訓練所に向かう。
シロには時間がある時、俺の事情を教えてあげようと思う。
──***──
「ただいま──って、うわ!? 皆、大丈夫?」
訓練所に入るとクラスの仲間達が全員、屍のように横たわっていた。
リューシンとルークに至っては、白目を剥いて気絶している。
「ハルト様、おかえりなさい」
「帰ったのか。今ちょうど、みなの回復待ちの時間だ」
ティナと、こんな状況なのにすごく落ち着いた様子の賢者ルアーノが、出迎えてくれた。
「あの……学園長先生、みんなに魔力回復薬とかあげなくていいんですか?」
俺のクラスメイトは、魔力炉を拡張する訓練をしていた。
その訓練方法とは、気絶するまで魔力を使い続けるというもの。
「自分で魔力を回復せんことには魔力炉は拡張されんからの。こればかりは儂は手を出せん。できることと言えば体力を限界まで削っているみなの身体に、これ以上ダメージが入らないように守ることくらいだ」
現在、俺の仲間の体力は一割を切っている。
そんな仲間たちに、石とかが飛んできてダメージを負うと、本当に死んでしまう可能性があるのだ。
「ハルト様、その肩に乗っている獣は?」
「な、なにやら神性を感じるのだが……」
ティナと賢者ルアーノがシロの存在に気付いたようだ。
「我はシロ。ハルトの使い魔だ」
シロが俺の肩に乗ったまま、自己紹介をする。
「喋れるのですか!?」
「本当にハルトの使い魔か?」
ティナたちに驚かれた。
話せる使い魔は珍しいという。
ちなみに魔法使いや賢者が使役できる使い魔としては魔獣、魔物、妖精、精霊などが居る。
一応、ヨウコも俺の使い魔ってことになるので、俺には三人と一匹の使い魔がいる。
魔族であるヨウコ、炎系精霊のマイ、水系精霊のメイ、そして神獣フェンリルであるシロだ。
こうして改めて考えると、俺の使い魔には話せる奴しかいない。
「まぁ、色々ありまして」
神獣だと説明すべきだろうか?
そんなことを思っているとシロが俺の肩から降りて、倒れている俺の仲間の所へ歩み寄った。
「なぁ、こいつら気を失ってるみたいだけど、助けなくていいのか?」
「魔力の回復速度を上げるための訓練中だから、回復薬とか使っちゃダメらしい。噛んだりするなよ。死んじゃうから」
「ふーん、おっ! こいつ起きそう」
シロがテクテク走っていって、尻尾でメルディの顔を撫でた。
「んっ、んん。あ、あれ、私……」
シロの尻尾を払い除けながら、メルディが目を覚ました。
「お前、獣人族だな」
「…………えっ、フェンリル様?」
メルディがシロを見るなり、フェンリルだと気付いた。
伝承などでは、獣人族は神獣の眷属だとされている。
だからだろうか。
今のシロの姿は、本来の姿とかけ離れているにもかかわらず、メルディは神獣フェンリルと見抜いたようだ。
「なっ、フェンリルだと!? 神獣ではないか!」
「ハルト様、いったい何処で見つけてきたのですか?」
「あー。なんか実家近くの山で寝てたみたいなんですよね。で、俺が訓練してたら起こしちゃって……。寝れないって言うから、連れてきちゃいました」
「「「…………」」」
ティナ、学園長、メルディが唖然としている。
当のシロはと言うと、俺の身体をスルスルと登り、肩の上へと戻ってきた。
何だかんだで、ここが気に入ったようだ。
「メルディ、身体は大丈夫なのか?」
「えっ、あぁ、うん。魔力も回復し始めてるし、大丈夫みたいや」
うん、メルディの魔力回復速度は上がってる感じがする。
魔力炉拡張訓練が成功したのだろう。
「あ、あのフェンリル様」
「今はシロと呼ばれてる。そう呼んでくれ」
メルディの呼びかけにシロが応える。
さっきは文句言ってたが、名前も気に入ってるじゃないか。
名付け親(?)としては、ちょっと嬉しい。
「はい、シロ様。あの……シロ様はなんの御用でお目覚めになられたのでしょうかにゃ? 我ら獣人族に、何かお求めになることはありますかにゃ?」
慣れない敬語を使ってるせいか、メルディの語尾が、『にゃ』になっていた。
やっぱり猫系獣っ娘と言えば、語尾は『にゃ』ですよね。
俺はちょっとほっこりしていた。
「んー、ハルトに起こされただけで、特に用があるわけではない。だからお前らに求めることもない。当面の住処もハルトにお世話してもらうつもりだしな」
「えっ、そうなの?」
「えっ」
シロと目が合う。
「いいよな?」
「うーん、ティナ、大丈夫?」
「私は構いませんが……お食事は、何を召し上がられるのでしょうか?」
「カレーとか好きらしい。今日、カレーにしてもらっていい?」
「承知致しました」
「えっ、今日、カレー!? ひゃっほーい」
シロが俺の肩の上で、全力で尻尾を振り始めた。
おい、ちょっとキャラ壊れてるぞ?
もう少し威厳出しとけよ。
「フェンリル、いや、シロ様はカレーがお好きなのかにゃ……」
ほら、お前の眷属も唖然としてるし。
「かっれぇー、かっれぇー!」
まぁ、そんなに嬉しいのなら止めはしないけど。
そうこうしているうちに、ルナやリファ、マイとメイも目を覚ました。
皆、ある程度回復してシロに気付くと、撫でたり、突っついたりしてシロを愛で始めた。
神獣だと知っているメルディは、その様子をハラハラしながら見ていた。
ただ、シロは悪い気はしていないようでリファに身を預け、ルナやマイたちにされるがままにしていた。
神獣だって教えるのはもう少し後にしとくか。
俺はそう思いながらまだ目を覚まさないルークとリューシンについていてやることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます