第66話 家族が増えたよ

 

「うまぁーい!」


 叫びながら、シロがカレーを食べている。


 既に三皿目だ。


「おい、口に入れた状態で叫ぶんじゃない」


「ごめんごめん、だってこれ、うめーもん」


 そう言ってシロは口の周りにカレーをべっとり付けながら、皿に顔を埋めてカレーを食べ続ける。


 ティナの作ったカレーは、シロ以外にも大好評だった。


「これ、激ウマにゃ!」


 今日はメルディもうちに来ている。


 シロと同様、ティナのカレーに舌鼓したつづみをうっていた。


 テンションが上がった時にも語尾が変わるようだ。



 メルディは獣人族だ。


 この世界の獣人族には、神獣が目覚めた時、その世話をしたり、手足となって働く役割があるのだとか。


 それでシロの世話をすると言い張り、俺の屋敷までついてきたのだ。


 世話をしに来たはずなのだが、ティナの世話になっている。


 メルディも既にカレー三皿目だ。


「結構な量を作ったつもりだったんですけど、なくなっちゃいそうです」


 おっと、それはまずい。


「ティナ、俺もおかわり」

「我も欲しいのじゃ!」

「「私たちも、お願いします」」


「あらら、完売です」


 危なかった。


 俺たち四人のおかわりでちょうどカレーが無くなったようだ。


「えっ!? も、もうないのか?」


 三皿目を完食したシロが絶望した顔をする。


 いや、そんだけ食ったんだから満足しろよ。


 シロがまだ食べているメルディを見つめる。


 メルディは獣人族。

 神獣の世話係だ。


 お世話すべき神獣が、メルディのカレーを欲しそうに見ている。


 メルディはその視線に気付いた。


 そして、カレーとシロを交互に見て──


「い、いりますかにゃ?」


「いいのか!?」


 シロはそう言うと遠慮せず、メルディから差し出されたカレーをバクバク食べ始めた。


 メルディがすごく複雑そうな顔をしている。


 ちょっと可哀想だ。


「メルディ、俺の分、食べるか?」


 ティナに入れてもらったカレーをメルディの方に差し出す。


「いいのかにゃ!?」


「まぁ、俺はいつでも食べられるからな」


「えぇ、また作りますよ」


 俺とティナの言葉を聞いて、メルディも最後のカレーを堪能した。


「うまかったぁ」

「美味しかったにゃあ」


 シロとメルディはティナの料理を気に入ったようだ。


 リファやヨウコ、マイ、メイもティナの料理が大好きだ。


 メイド(極)の技能を持ったティナの料理はどれも超一流。



「ハルト、我は決めたぞ。ずっとここに住む!」


「……は?」


 えっ、眠りにつくまでとかじゃないの?


 てか神獣って、いつ眠くなるんだ?


「シロ様がここにいらっしゃるなら、うちも住ませてほしいにゃ!」


 メルディは帰るべき寮があるだろ……。


 ん、でも、待てよ。


 俺はある条件を思いついた。


「メルディ、うちにいる時は語尾は『にゃ』だ。それから、リファやヨウコたちと一緒にティナのお手伝いもすること。それが大丈夫なら住んでいいぞ」


 元の世界に居た時、猫耳メイドというのに憧れていた時期があった。


 エルフメイドであるティナが側に居て、割と満たされてしまっていたので、わざわざ雇ったりしようとはしなかったが、こうしてチャンスがあるのなら、俺はそれに手を伸ばす。


「わかったにゃ! よろしくお願いしますにゃ!」


 簡単にオッケーがでた。


 しゃあ! 猫耳メイドゲットだぜ!


 俺はなんとかして、メルディにもメイド服を着させる算段を考え始めた。



 なんか視線を感じる。


 リファがじーっと俺を見ていた。


 どうしたんだろう?


 リファが近づいてきて俺に小声て話しかけた。


「あの、メルディさんとは寝ませんよね? その、私のローテーションこれ以上長くなるのは、ちょっと……」


 リファの耳が真っ赤だ。


 寝る時、ティナが常に俺の左側で、右側はリファ、ヨウコ、マイ、メイでローテーションしていた。


 そこにメルディが加わって、順番が延びるのを嫌がっているようだ。


 可愛いじゃないか。


 まぁ、メルディは俺に好意があるわけじゃなくて、ティナの料理に釣られただけなので俺と寝たいということはないだろう。


 それに、リファは正式に俺の妻になったのだから、もっと我儘を言ってくれていいと思う。


 ヨウコたちには悪いけど、リファの日を増やしてもらおう。


「大丈夫、俺はリファが好きだから。リファと寝る日は減らさないよ」


 そう言ってリファの頭を撫でた。


 それでリファは満足してくれたみたいだ。



 その頃、シロはソファの上に移動し、丸くなって寝始めていた。


 自由な奴だ。


 ただ、仔犬みたいな小さな狼がスヤスヤと寝ているのを見ると、心がほっこりする。


 神獣が神の用事を済ませて眠る時は姿を消すはずなので、こうして丸まった姿で寝ているのは多分、ただ寝ているだけだ。


 なんだかんだで、シロは俺の家族として既に馴染んでしまったので、急に居なくなったら寂しくなると思う。


 居なくならないでほしい。


 またひとつ、護るべきものが増えた。


 そもそも神獣を護らなきゃいけないのかは不明だが、少なくとも俺の手の届く範囲のものは護っていきたいと思う。



 ティナの手伝いをしながら、食器類を片付けていくリファやメルディたちを見て、元の世界の家族を思い出す。


 俺の妹も、ああして母の手伝いをしていた。


 優しい母。

 厳しいけど、俺を真っ直ぐ育ててくれた父。

 そして、俺にベッタリだった妹。


 皆、元気にしているだろうか?

 妹は俺が死んで、泣いてくれたんじゃないかな。


 割と仲は良かった方、だと思う。



 俺はシロを優しく撫でながら、ティナたちを見た。


 これが、今の俺の家族だ。


 結構な勢いで人やペットが増えてきたが、賑やかなのは嫌いじゃない。


 転生した時はどうなるかと思ったが、今はなかなか幸せだった。


 これからもこの幸せを護りたい。

 そのためには強くならなきゃいけない。


 明日からも賢者ルアーノの講義を受けられる。


 護るべきものを、何者にも奪われない──そんな力を得よう。


 そうした想いを胸に秘め、俺は翌日の講義に臨むことにした。

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