第37話 武闘大会
三日が過ぎた。
武闘大会当日。結局、エルフ族以外で大会に出るのは俺だけだった。
エルフ族からは有力貴族や大臣の子息、国軍の大将など、十五人が集められた。俺を含め、計十六人でのトーナメント戦だ。
ティナの帰還を国民に知らせると騒ぎが大きくなると予想されたので、会場には貴族や王族しか来ていない。それでも百人ほどの観客が居る。
大会優勝者、つまりティナの婚約者が決まったら国民にティナの生還と合わせて発表するとのこと。
エルフ王が闘技台の上に立った。
「皆、知っての通り、我らが英雄ティナ=ハリベルが先日帰還した。まことにめでたいことだ。そして今日、ティナと結ばれる強者を決める大会をここに開催する!」
会場全体から歓声が起きる。
エルフ王のもとに一枚の葉が届けられた。
世界樹の葉だという。アルヘイムには毎年、一枚だけ世界樹の葉が落ちてくる。世界樹の葉は超貴重な魔法アイテムだ。
死人を生き返らせるエリクサーや、高威力の杖を造る材料になる。
「我らを護りし、風の精霊王シルフに宣言する。今日、ここに英雄ティナ=ハリベルと契りを交わす者を決する大会を執り行う」
エルフ王が世界樹の葉を空に掲げた。
「この世界樹の葉を代償とし、ティナと大会の勝者に御加護を! そして、世界の平和を願う」
会場全体に優しい風が吹く。気づくとエルフ王の手から世界樹の葉が消えていた。
「風の精霊王シルフがこの大会をご覧である。皆、全力で戦え!」
こうして大会が始まった。
──***──
エルフ王の手から消えた世界樹の葉だが。
今、俺の手にある。
シルフが持ってきてくれたのだ。
俺はシルフの契約者だ。
昨日、契約した。
ウンディーネとイフリートに紹介してもらったら簡単に契約してくれた──というか、シルフは既に俺のことをマイとメイの父親から聞いていたらしく、元々契約してくれるつもりだったとか。
アルヘイムが一望できる丘で聞いた声はシルフのものだったらしい。
「毎年僕があげてる葉っぱを僕に返されてもねぇ。ハルト要る?」
俺にしか聞こえない声でシルフが話しかけてきた。姿も俺にしか見えないようにしている。
シルフは風を纏う少女の姿をした精霊だ。
「要る、めっちゃ要る!」
「あ、そーなの? なら、いっぱいとってこようか?」
「いや、それはちょっとどうかと……とりあえず、必要な時に言うよ」
「おっけー、わかった」
素直でいい子だ。
「ところでさ、ハルトはティナと結婚したいんでしょ?」
「うん」
正直、結婚はまだ早い気がするが、少なくともティナを他の男に取られるのだけは絶対に嫌だ。
「僕が、ティナと結婚するのはハルト! とかって言えばエルフのみんな言うこと聞いてくれないかな?」
「うーん、そんなに簡単じゃないと思う。それよりシルフにはやってもらいたいことがあるんだ」
俺はシルフにある作戦を伝えた。
「何それ!? 面白そう! やるやる!!」
「ありがとう。じゃ、合図したら頼むな」
「おっけー! 任せて」
そう言ってシルフは姿を消した。
──***──
一回戦が始まった。
俺の相手はこの国で最強と言われる国軍の総大将。何だか組み合わせを操作されてる気がする。だが、やることは変わらない。
俺はただ、優勝するだけ。
「人族がこの大会に出るなどあきれるわ。ティナ様はエルフ族と結ばれるべきなのだ。ということで、さっさと勝たせてもらおう」
大将が身体に風を纏い、高速で殴りかかってきた。俺は身体に魔力を張り巡らせ、身体能力を上げて何とか避ける。
攻撃を避けることはできる。
──が、俺の攻撃も相手に当たらない。
エルフの中で最強というのも分かる。
とんでもなく動きが速いのだ。
リファの放つ高速の矢が人型になって、色んな方向から襲いかかってくる、と言えばイメージしやすいだろうか?
避けるのに精一杯でなかなか攻勢に出られない。このままでは勝てないので、魔法を使うことにした。
「ファイアランス!」
十体の炎の騎士を創り出した。
「なっ、なんだその魔法は!?」
「貴方が速すぎるので、複数で攻めさせていただきますね」
炎の騎士が大将に突撃する。
大将が応戦しようとするが──
「あ、そいつに風魔法で攻撃すると爆発するので気をつけて──」
ドゴォォオオオン
遅かったか。
大将は風を纏った拳で殴りかかったようだ。風魔法と反応し、炎の騎士は激しく燃えて大爆発を起こした。
炎の騎士が複数いても倒せないほどの上位の敵と戦う時、最後の手段として自爆できるように、炎の騎士には爆裂魔法が組み込んである。
風魔法で炎の騎士を攻撃するということは、その自爆スイッチを押すようなものなのだ。
至近距離で爆発に巻き込まれた大将は黒焦げになりながら吹っ飛んでいった。
死んだんじゃないかな?
まぁ、
大将はなんとか生きていた。
そして、俺は一回戦を勝ち上がったのだ。
──***──
二回戦、三回戦も同じ方法で勝った。
大将がこの国最強と言われていたので、それを倒した俺が苦戦するはずもなかった。
「……エルフって風魔法以外使わないのか?」
「そんなことは無いんですが、一番使い慣れてて、咄嗟に出ちゃうんですよね」
リファが答えてくれる。
自分で攻撃して、爆発に巻き込まれる。
傍から見るとアホとしか言いようがない。
鋼の森で同じようなことをやらかしたのを思い出したようで、リファが顔を赤くして俯く。
とにかく、決勝まで来た。
次、勝てばティナがこの国のエルフと結婚するのを防ぐことができる。
俺は闘技台へと向かった。
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