第36話 英雄の帰還

 

 リファにつれられ、王城にやってきた。

 全てが白い、白亜の城。


「綺麗じゃの」

「そ、そうですね。圧巻です」


 ヨウコとルナが城を見上げて話していた。

 城の外壁にある門へと向かう。


「リファ様、お帰りなさいませ。ご学友の皆様と……教師の方、ですね? ようこそおいでくださいました」


 執事服を身にまとったイケメンエルフが出迎えてくれた。


 この人、強そうだ。


 それから、フードを被ったままのティナを見て、少し驚いたような表情をしていた。


「ただいま。お父様はいらっしゃる?」


「ええ、王座の間で皆様をお待ちです」


 俺達はエルフの執事に着いて王城内を移動した。城内に飾られている全ての調度品が、なんとなく輝いている気がする。


「これらはエルフ特有の技術で作られた魔具でございます。周囲の空間から少しずつ魔力を集めて貯めておけるのです」


 飾られていた壺を見ていたら執事さんが説明してくれた。


「へぇ、魔力が勝手に貯まるのか」


 何だか便利そうな気がする。

 しばらく歩いて、重厚な扉の前に着いた。


「お父様!ただいまぁー!!」


 盛大に扉を開け放ち、リファが部屋の中に入っていった。俺達もその後についていく。


 一番奥の玉座にエルフ王がいた。


 この人も強そうだ。

 そして何より威厳が凄い。


 見た目は若いのに、纏う雰囲気が王たるものだった。リファを除く俺達はみんな自然と膝をついていた。


「遠路はるばるよく来てくれた。歓迎しよう」


 エルフ王が立ち上がり、俺たちの前までやってきた。


「グレンデール王国よりまいりました。シルバレイ伯爵が三男、ハルト=ヴィ=シルバレイです。およそ一ヶ月、この国に滞在させていただきます」


「おぉ、伯爵の息子殿か、よろしくな。しかし、そんなに畏まらなくていいぞ? リファの学友だろう。もっと気楽に接してくれないか?」


 いや、貴方の威厳がそうさせてくれないんですけど……


「あっ、すまん。スキルを切るのを忘れておった」


 ふっと、エルフ王からの威圧感がなくなった。


「王の威厳というスキルだ」


「お父様、何してるんですか!?」


「いや、お前の父が凄い王なんだぞってことを皆さんに知っといてもらおうかと……」


 結構、ヤンチャな王様のようだ。

 その後、皆が順に自己紹介をした。


 最後はティナだ。

 ティナがフードをとった。


「ティナ=ハリベルです。王様、お久しぶりです」


「ティ、ティナだと? お主、今まで何処にいた!?」


 エルフ王が驚いている。


「傷心旅行に、ちょっと」


「傷心? ……いや、いい。無事に戻ってきて何よりだ。よくぞ魔王を倒してくれた。心から感謝する」


 エルフ王は少し疑問を持ったみたいだが、ティナの帰郷を喜んだ。ティナの手を取り感謝の言葉を何度も口にする。



 ──***──


 その晩、城で盛大に祝いのうたげが催された。


 ティナの要望で国全体に知らせることはしなかったが、国の重役達が一堂に会してティナの帰郷を祝った。


 その宴で問題が起こった。


「ティナ様、嫁ぎ先はもうお決まりかな? まだであるなら我が息子はどうだ? 中々の美丈夫だが」


 ひとりの貴族がそんなことを言い出したのだ。それに釣られるように次々、ティナへの婚姻の誘いが殺到する。


「皆の者、静まれ。誰を好きになり、誰と結ばれるかは本人が決めること」


 エルフ王が騒ぎを収めようとしてくれたのだが──


「ですが、ティナ様はです。ティナ様には我が国の優秀な男と結ばれて、次なる勇者を産んでいただく必要があるのです!」


「その通りです!」


 大臣達はティナに勇者を産ませたいらしい。


 そこにティナの意思は関係ないとでも言わんばかりだ。


 ちょっとイライラしてきた。

 ティナも不安そうにこちらを見てくる。


 そんな時、ひとりの大臣がとんでもないことを言い出した。


「ティナ様の伴侶になるのであれば、相応の力が必要です。武闘大会を開き、優勝者をティナ様の伴侶とするというのはどうでしょうか?」


「おぉ、それはいい」


「名案ですな。早速、用意しましょう」


 ティナの意見など全く聞かず、勝手に話が進んでいく。


 グレンデール王国に居る時とは違い、こちらの国ではさすがのティナも国の重役達に対して強い態度を取れないようだ。


 ティナがこの国のエルフと結婚する?

 そんなの、許せる訳が無い。


「その武闘大会って俺も出られますか?」


 俺は大臣達の会話に割って入った。


「人族の子供が何を言っている? これはエルフ族の問題だ」


「王の客人とはいえ、国の問題に口を出すとは、あまりに無礼ではないか?」


 俺の意見は真っ向から跳ね返された。


 こいつら全員気絶させて、グレンデールに帰ろうか?


 ──そんなことを思い始めていた。



「エルフ族に限らなくても良いではないか」


 それまで沈黙していたエルフ王が言葉を発した。


「勇者の血を引くティナが優秀な者と結ばれる。そしてそのふたりの子は、この世界に次の魔王が現れた時の切り札になるのは間違いない」


 エルフ王の言葉に大臣達が頷く。


「その優秀な者がエルフでなくても構わないと私は思っている。例えば、人族などだ」


 エルフ王が俺を見た。


 その目は、ティナが欲しいなら勝ち取れ──そう言っているように思えた。


「では、他種族の参加も認めましょう。大会は、そうですな。三日後でどうでしょうか?」


 大臣のひとりが進言する。他種族も認めるといいながら、猶予が三日しかない。例えティナと結婚したい者がいても三日以内にこの国に来なければ武闘大会に出られない。


 まぁ、俺は問題ないけど。


 こうして、俺はティナとの結婚をかけた戦いに臨むことになった。


 あれ? なんか最近、同じような理由で戦った気がする。



 ──***──


「なぁ、ティナ先生をこの国のエルフなんかに取られたくないから俺も大会出ようか? その方が勝率、上がるんじゃないか?」


「それなら俺も出るよ。ティナ先生が居なくなったら困るし」


 リューシンとルークが大会に出ることを提案してくれた。


「ありがとう。でも、ふたりはやめといた方が良いと思う」


「なんで?」


「ティナとの結婚がかかってるんだ。全力でやる。ふたりと当たっても手加減できないよ?」


「よ、よし、出るの止めるわ!」

「お、俺も! 頑張れよ、ハルト!!」


 ふたりは俺を応援してくれるという。


 何故かふたりとも冷や汗をかいていたので、風邪を引かないように早くお風呂に入ることを勧めておく。

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