第三章 エルフの王国

第35話 エルフの王女

 

 生徒会長との戦いから四ヶ月後。


 俺達は今からティナとリファの故郷、アルヘイムへ向かう。


 イフルス魔法学園では毎年一回は学園から外に出て、一ヶ月間過ごさなければならない。


 これは生徒が学園から全く出ないことで変な固定観念が出来上がったりするのを防ぐのが目的であり、広く世界を知るべきだという学長が決めた方針なんだとか。


 何処に行くかはクラス毎で決めて良いことになっている。


 メルディの故郷、獣人の国。


 ヨウコの故郷、極東の島国。


 リューシンとリュカの故郷、竜人の里。


 ──など候補は色々あったが、くじ引きをしてエルフの国アルヘイムに行き先が決まった。


 ちなみに、アルヘイムはここグレンデール王国からかなり遠くにあり、魔導高速船で移動しても十日かかる。


 もちろん帰りも十日。そうすると十日ほどしかアルヘイムに滞在できないことになる。せっかくティナとリファの帰郷なのでのんびりしてほしい。


 ということで俺は、クラスの全員を連れて転移魔法で移動することにした。俺の転移魔法は転移先に魔法陣をセットしておく必要がある。


 なので遠征前日にティナの飛行魔法で一度アルヘイムを訪れた。ティナの飛行魔法は凄かった。


 超高速で飛んでいるのに、風が俺たちを避けていく。そして、ティナに抱きかかえられて移動ているわけだけど、俺がティナの胸を堪能していたらいつの間にかアルヘイムへと到着していた。


 魔法陣をセットし、学園への帰りは俺の転移魔法で帰った。


 せっかく来たのだから、ゆっくりしたらどう?とティナに聞いたが、リファに悪いし、明日から一ヶ月も居られるので問題ないとのこと。



 ──***──


 そして、遠征初日の今日。


 俺が転移魔法陣を生成するとクラスの仲間たちは全員固まった。


「うち、船に乗ると思ってたから、わざわざ酔い止め魔法覚えたのに……」


 メルディに悪いことをしてしまった。

 多分、そのうち役に立つだろう。


「まぁ、ハルトだからな」


「そうですね。勇者様でもごく稀にしか使える方が現れない超レアスキルの転移と言っても、ハルトさんなら使えて不思議はないですね」


「さすが、主様なのじゃ」


「「凄いです!」」


 みんなが称賛してくれた。

 転移魔法、覚えて良かった。



 その後、全員で魔法陣をくぐってアルヘイムが一望できる丘の上へと転移した。


「おぉ、でっかい木だな」


 リューシンがアルヘイムの中央にそびえ立つ巨木を見て声をあげた。


「あれが、この国が古くから守ってきた世界樹です」


 リファが誇らしそうに説明してくれた。



⦅よく来たね、歓迎するよ⦆


「ん? 誰だ?」

「ハルト様、どうかなさいましたか?」


 世界樹を見ていたら誰かに声をかけられた気がするが、ティナや皆には聞こえなかったらしい。


 ……まぁ、いいか。


 俺達はアルヘイムへと向かった。道中、何故かティナが着ているローブに付いているフードを被った。どうやらこの国のエルフに顔を見られるのがまずいらしい。


 もちろん、ティナが悪いことをして指名手配になっているとかではない。むしろ逆だ。ティナはエルフ族にとって伝説の英雄であり、そのティナが凱旋したと知ると国を上げての大騒ぎになる可能性があるらしいのだ。


 そうなったら、のんびりできなくなってしまう。フードを被って顔を隠すのはリファの提案だった。でも、アルヘイムに入るには検問で身分を明かし、通過しなくてはいけない。


 顔を隠して通過できるのだろうか?


「大丈夫です。私がなんとかします」


 リファは自信があるようだった。



 ──***──


 王国に入るための検問所が見えてきた。検問所で人族の商人が持ち物検査などを受けている。


 この世界のエルフ族は、他種族との交流も普通に行っている。そして俺達の番になった。


「ここで止まれ、この玉に触れて名前と、どこから来たか。また、この国に入る目的を──っ!? も、もしや貴女は!?」


 まことの宝玉という、触れている者が話していることが真実かどうかを見抜く魔具を持った衛兵が話しかけてきたのだが、リファを見て動きが止まった。


「リファ=アルヘイム。グレンデール王国より、帰郷しました」


 魔具に触れながらリファが答える。

 魔具は青く光り輝いた。


 リファ=アルヘイム?

 それってもしかして──


「リファ殿下のお帰りだ! 至急、王宮に連絡を!!」


 検問所が慌ただしくなった。


「もしかして、リファってこの国の王女だったりする?」


「ええ、第二王女です。言ってませんでした?」


 ふふふ、と悪戯っぽく笑うリファ。


「それで、こちらの方々は私の学友と先生なんですけど、皆さん入国していいですよね?」


「は、はい! リファ殿下が身元保証人であるなら問題ありません。皆様、ご入国ください」


「ありがとう。皆さんの案内は私がしますから、付き添いは不要です」


「畏まりました」


 俺達が門をくぐろうとすると、周囲にいた衛兵達が集まってきた。


「リファ殿下のお帰りである! 総員、敬礼!!」


 検問所から街へと続く道の両脇にエルフの衛兵が並び、腰に下げていた剣を抜いて空に掲げた。その間をリファを先頭に歩いて抜けた。


 なかなか壮観だった。



「皆さん、ようこそ。ここがエルフの王国アルヘイムです!」


 街に入ったところでリファがこちらを振り返り、この国の紹介をする。国の中心には巨大な世界樹があり、そのすぐ横に白亜の城がそびえていた。


 あれがこの国の王城だという。

 街は白を基調とした建物で成り立っていた。


「あっ、リファ様! お帰りになられたのですね」

「ええ、ただいま!」


「リファ様、お帰りなさーい!」

「みんな、ただいまー」


 街を歩くと多くのエルフ達がリファに声を掛けてきた。リファも気さくに返事をする。この国でリファが人気者だというのがわかる。


「あの、皆さん、よろしければ王城についてきていただけませんか? お父様に、皆さんを紹介したいんです」


 王女であるリファの父親というと、この国の王様ってことになる。他国とはいえ俺は伯爵子息で、しばらくこの国に滞在することになるので挨拶には向かうべきだろう。


「俺はいいよ」


「主様が行くなら我もいくのじゃ」


「「私達も大丈夫です」」


「エルフの王様か俺も会ってみたいな」

「リューシン、失礼のないようにしてね」


「俺もいいよ」

「私も」

「ウチもー!」


 全員問題無いようだ。


「ありがとうございます。ティナ先生はどうですか?」


「大丈夫ですよ。魔王倒した後に報告にも来てなかったので、今更ですが王様に魔王討伐のご報告をしなくては」


「そ、そうですね。それもお願いします」


 何やら大事になりそうな気がする。

 俺達はリファにつれられて王城へと向かった。

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