第38話 風の精霊王
闘技台に登る。
決勝の相手がやってきた。俺達を城に迎え入れてくれた執事だった。
俺はこの国で一番強いのがエルフ王で、次いでこの執事が強いと考えていた。魔力量が多く、かなりの時間をかけて訓練してきたかのような魔力の流れをしていたからだ。
大将と戦った時より苦戦しそうだ。
「実は私、ティナ様が幼少の頃、お世話をしていたのです」
対面した執事が語りだした。
「正直に申しまして、私は優勝してもティナ様と結婚する気はありません」
「えっ? じゃ、なんでこの大会出たの?」
「ティナ様がまだ、結婚を考えておられないと思ったからです。少なくとも、帰還されて三日で契りを交わす相手など見つけられる訳ありません。ましてや貴族の道楽息子たちにティナ様が惹かれることなど有り得ません」
……おや?
このエルフ、もしかしたらすっごい良い奴なんじゃない?
ただ、俺も貴族の息子なんだよね。
一緒にしないでほしいけど。
「初めは、私が優勝して、結婚の件は保留にし、ティナ様が結ばれたい相手を見つけられた時、その方に権利を譲ろうかと考えていました」
「
「先程までの対戦で、ティナ様が貴方を心から応援しているように見えました。優勝者が自分の結婚相手となるこの大会で、
「……うん」
「そう、ですか。ティナ様も貴方と結ばれるのを望んでいるご様子」
「もしかして棄権してくれる?」
「ふふふ、まさか。私の役目はティナ様に幸せになっていただけるよう動くこと。貴方がこれからティナ様をお守りできる存在か、確かめさせていただきます」
この国の国軍大将倒してるんだけど、それくらいじゃダメなのかな?
「あ、貴方が初めに倒した大将ぐらいでは強いと認められませんよ?あれくらいならティナ様が瞬殺できます」
おいおい、自分の国の大将をなんて言い方するんだ。言ってることは間違いないと思うけど。
「私が貴方に求めるのは、ティナ様をお守りできる、ティナ様以上の力です。私を倒したところでそんな証明はできませんが、少なくとも私は安心してティナ様を任せられます」
「つまり、あなたを倒せば認めてくれるんですね?」
「
「分かった、話してくれてありがとう」
「人族でありながらここまで勝ち上がってきた貴方に興味が湧いて、話してみたくなったのですよ」
審判役のエルフが闘技台に登ってきた。
試合が始まる。
「手加減はしませんよ?」
「あぁ、こっちもな」
魔力を練る。
「ファイアランス!」
炎の騎士を創り、攻撃させる。
──が、炎の騎士は走り出す前に爆発した。
「同じ手を3度も使って、対策されないわけがないでしょう」
執事が風魔法の矢を撃ち込み、炎の騎士を起爆させたのだ。
「ですよねー」
執事が魔弓を構え──
超高速で矢が飛んできた。
軌道上に魔法障壁を生成して矢の速度を落とし、なんとか避ける。リファが放つ矢より格段に速かった。
「よく避けましたね。まぁ、これくらいで終わってほしくはないですが」
「おかえしだ、ファイアランス!」
千発分のファイアランスを撃ち込む。
「──っ!?」
執事は身を
魔法障壁を粉々に破壊した。
会場に居た貴族達から悲鳴や驚きの声が聞こえる。
「な、なんなのですか今の魔力は!?」
「避けて正解だよ。千発分のファイアランスだからね」
「せ、千!?」
「でも、避けられたら意味無いよな。……これならどう? ファイアランス!」
空中に千本の炎の槍を創り出す。
「──はぁ!?」
空を埋め尽くさんばかりの炎の槍に、執事が驚愕する。炎の槍の穂先は全て執事に向いていた。
「これだけあれば避けれないと思うよ。あ、ちなみに一本一本が
「な、なんなんですか貴方は!?」
「ティナの婚約者候補のひとりだよ。で、どうする? 降参しないなら
「あ、あははは、こんなの勝てるわけないじゃないですか。審判! 私は降参します」
「ありがとう。じゃ、これはもう要らないね──」
炎の槍の穂先を空に向け、そのまま高速で打ち出した。
「しょ、勝者、人族の少年ハルト=ヴィ=シルバレイ!!」
審判が勝利の宣告をしてくれた。
宣告とほぼ同時に、打ち上げたファイアランスを全て起爆させる。
上空で炎の槍が色とりどりの火を撒き散らしながら拡散していく。
執事ならこの魔法を見せれば降参してくれると考えていたので、予め槍には爆発すると色が着くような魔法を組み込んでいた。
俺の勝利を祝う花火だ。
「ティナ、おいで!」
「は、はい!」
ててて、とティナが闘技台に駆け上がってくる。
「俺が優勝した!これでアルヘイムは国として、俺とティナの結婚を認めてくれるんだな?」
ティナの肩を抱きながら、観客席に座る貴族や王族達に向かって問いかけた。
「み、認められるわけないだろう!」
「そうだ、人族がティナ様と結ばれるなど許されない!」
貴族や大臣達から反発の声が上がる。
「皆、よく聞け。私は風の精霊王シルフに、この大会の勝者をティナの伴侶として認め、ふたりに加護を与えてほしいと頼んだのだ。シルフもそれを受け入れた。皆はそれを反故にするというのか?」
エルフ王は俺を擁護してくれるようだ。
「そ、その人間は卑怯な手を使ったに違いない!」
「仲間に補助魔法をかけさせていたのではないか!? そうでなければあんな魔法を人族が使えるわけがない!」
「確かに! 不正だ! こんな試合、無効にしろ!!」
俺が不正したことにされ、試合自体が無効になりそうだ。
予想通りだった。
俺は合図を出す。
⦅その人は不正なんかしてないよ⦆
会場中に声が響いた。
「こ、この声は!?」
「なんだ? 頭に声が入ってくる」
エルフ達も皆、声が聞こえているようだ。
闘技台の中央に風が渦巻く。
その風の中心からシルフが姿を現した。
⦅やぁ、この国で姿を見せるのは何百年振りかな?初めての人もいるよね。僕は風の精霊王シルフ⦆
「シルフ様!」
いつの間にか闘技台まで来ていたエルフ王がシルフの前に跪く。
⦅君には会ったことあるね。今は王様なんだ。久しぶり⦆
「お久しぶりです。まさか顕現していただけるとは」
⦅だって、優勝者に加護をあげるって約束で世界樹の葉を貰ったじゃん。もう、そこのふたりに加護付けちゃったよ。それを取り消せって……もしかして、僕のこと舐めてる?⦆
「!!?」
会場を流れる風が冷たくなった。
精霊王の冷たい殺気が、貴族や大臣達を震え上がらせる。
「め、滅相もごさいません! アルヘイム王家はティナ=ハリベル、ハルト=ヴィ=シルバレイの婚姻を祝福します!!」
⦅分かった、ありがと。会場に居る皆は? さっき不正だ! とかって言ってた君とか⦆
シルフが観客席に飛んでいき、先程まで騒いでいた貴族に詰寄る。その貴族はただただ震え、首を横に振るしかできなかった。
⦅精霊王の名において証言するよ。ハルトは不正なんかしてない。正真正銘の勝者だ⦆
シルフの宣言に誰一人反論するものはいなかった。
⦅文句ある人は居ないみたいだね。じゃ、ふたりは結婚するってことで。おめでとう!!⦆
俺とティナをシルフの風が温かく包み込んだ。
その風の中心で俺とティナは口付けを交わした。
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