第31話 増える同居人

 

「ハルト様、これはどういうことでしょうか?」


 ティナが怒っている。

 表情には出ていないが、溢れんばかりの魔力が彼女の怒りを体現していた。


「ち、違うんだ! こ、が勝手に!」


 学園長との面談後、屋敷に帰ってきて風呂に入った。もちろんひとりで。


 午前中は鋼の森での実戦だったので、大して動いてはいないが汚れが気になり、早めに身体を洗いたかった。


 身体を洗い、湯船に浸かってのんびりしていたら、ヨウコが入ってきた。


 お風呂なので当然、全裸だ。


 驚いていると、マイとメイが勝手に召喚魔法陣を展開させて現れた。なんでも俺の身に危機が迫っていると感じとったらしい。


 現れた場所が風呂場で、俺が湯船に浸かっているとはいえ全裸だったので、ふたりは赤面した。


 ──が、突然ふたりとも服を脱ぎ始めた。


 何をしているのかと聞くと、せっかくなので一緒にお風呂に入ると言い張る。


 なにが、せっかくなのだろう?


 いや、俺としては美少女三人とお風呂に入れて嬉しいのだが──



 最悪の事態に陥った。ガラっと浴室の扉が開き、ティナが顔を出したのだ。


 俺がひとりで風呂に入っているはずの浴室が騒がしかったので、何かあったのではと心配して見にきてくれたらしい。


 ティナが目にしたのはヨウコ、マイ、メイに囲まれて風呂に入る俺の姿。ティナが怒るのも無理はない。


「違うんだ!」


 そう、これは浮気とかではない。


「何が違うのでしょうか? ヨウコさんだけでなく、いつの間にかマイさんとメイさんまで連れ込むなんて」


 ティナが笑顔で聞いてくる。

 その笑顔が怖い。


 ヨウコとマイ、メイはティナから溢れ出る魔力と雰囲気に気圧されている。そして、俺を盾にするように寄ってくる。


 おぉ、これは……いい!


 三人のすべすべの肌と柔らかいものが俺の身体に触れる。


 つい、頬が緩んだ。


 対応するようにティナの魔力がいっそう険しくなった。


 これは……真剣に、ヤバい。


 ティナの魔力で浴室にある椅子や桶が震えている。早急に打開策を考える必要があった。



「ティナも一緒に入るか?」


 ティナを誘ってみた。


「ぇ」


 小さく声を上げてティナが固まる。そして、ショートヘアから覗く耳がすごい速さで赤くなっていった。


「わ、私はけっこうです! どうぞ皆さんでごゆっくり!!」


 大きな音を立てて扉を閉め、ティナは出ていってしまった。


 添い寝はいいけど、一緒にお風呂はまだ無理だったか。


 先日、ヨウコと寝ていた時にティナを呼んだら勢いよくベッドに入ってきた時のことを思い出していた。



「主様はチャラ男なのじゃ」


 ヨウコに冷たい目で見られた。


「なんでだよ?」


「我は九尾狐としてはまだ幼体じゃが、それでも男を虜にする身体だと自負しておる。マイとメイもかなりの上玉じゃ。その三人に囲まれても平然とし、更にティナ殿を誘うとは……チャラ男と言わずなんという?」


 いや、もちろんヤバいよ?

 三人ともめっちゃ可愛いもん。


 そんな美少女達とお風呂に入ったら当然、反応しちゃうよ?


 だが、俺は魔力で自分の肉体を完璧にコントロールできる術を身に付けていた。それにより、生理現象もある程度制御できる。


 全裸のヨウコが入ってきた時から、俺のハルトは魔力によってフルコントロールされている。


「チャラくない。紳士なんだよ、俺は。ティナを誘ったのだって皆で仲良くお風呂に入りたかっただけだ」


 ──嘘だ。


 ティナの雰囲気が怖くて、咄嗟に誘う言葉が出ただけだった。


「俺はもう出るよ。三人はのんびりしてていーよ」


 俺はさっと風呂から出た。


「我でもまだ魅力が足りんのかのぅ」

「やはりハルト様はティナ先生くらい胸がある方がお好きなのでしょうか」

「ちょっとメイ、悲しくなるから止めてくれない?」


 背後からヨウコ達の話し声が聞こえた。


 大丈夫、みんなヤバいくらい魅力的だから。



 ──***──


 さっきのことを謝ろうとティナを探す。


 ティナはキッチンに居た。一心不乱にジャガイモの皮を剥いている。その背後には剥き終わった大量のジャガイモが積み上がっていた。


「私という者がいながら、ヨウコさんやクラスの女の子とお風呂に入るなんて!……それはぁ、私は年増ですし、彼女らは若くて肌も綺麗ですけど」


 俺が来たことに気づいていない様子。

 なんかティナが拗ねている。


「私だってエルフとしてはまだ若い方ですし、胸だって彼女達には負けません!」


 そう言ってティナが自分の胸を押さえる。

 その姿はちょっとエロい。


「なのに、ハルト様は私とはお風呂に入ってくださらない! ……いえ、さっきは誘ってくださりましたね。素直に入れば良かったのに。私って、意地っ張りだったんですね」


 ティナが手を止めて俯いた。


「じゃあ、今度ふたりで温泉でも行かないか?」


「ハルト様!?」


 声をかけたらティナが凄く驚いていた。


「い、いつからこちらに?」


「ちょっと前かな。俺はティナを年増だなんて思わない。凄く魅力的な女性だと思ってる」


「ぜ、全部聞いてたんじゃないですか!!」


「あはは、ゴメンな。ところで温泉の話どうかな? ふたりでちょっと遠い所にある温泉に行かない?」


「ふたりで、ですか?」


「うん、ふたりっきりで」


 少しの間、ティナは考え込んでいた。


「行きたい、です」


 消えるような声で、だが、確かにティナは行きたいと言った。


「よし、じゃ、今度の授業がお休みの時に行こう! 久しぶりの旅行だね」


「はい、よろしくお願いします」


 旅行という言葉でティナが笑顔になる。

 そこからティナは平常運転に戻った。

 


、どうしましょう……」


 ティナが剥いていた大量のジャガイモが残されていた。


「当面はジャガイモ生活だな」


 貴族とは言え、俺は食べ物を粗末にしたくなかった。


「五人で食べればすぐ無くなるよ」

「五人? ま、まさかハルト様」


 俺はマイ、メイと契約を結んだこと。

 そして、ふたりをこの屋敷の余っている部屋に住まわせることをティナに話した。


 案の定、ティナが再び拗ねた。


 その後、温泉旅行は絶対にふたりだけで行くと約束することで、なんとかティナの機嫌を直すことができた。

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