第30話 学園長と対談

 

 マイ、メイと契約してふたりを再召喚した。


 召喚する時に魔法陣を通して長期顕現用の魔力を渡しておいたので、しばらく問題は無いはずだ。


 大量の魔力を一度に渡したせいか、ふたりとも精霊体が少し成長したけど、ふたりは嬉しそうにしていたので、良しとしよう。


 授業に向かうため、マイとメイには人化してもらったのだが、こっちの姿もちょっと成長していた。主にメイの胸の大きさが──


 マイは身長が少し伸びたが、胸は成長しなかったようだ。マイがメイの胸を恨めしげに見ていたのが少し気になった。


 でもこれで、人化している時はそっくりだったふたりを見分けることができるようになった。毎回、彼女たちの胸をチラ見しなくてはいけないという、欠点はあるけど。


 その後、教室に向かった。



 教室まできたのだけど、午後からの授業は無くなった。


 ティナが森での異変を学園に報告したところ、教師たちの緊急会議が開かれることになったらしい。


 そして、俺は学園長に呼び出された。



 ──***──


「君がハルトか、孫から話は聞いているよ。ルークと仲良くしてくれてありがとう」


 ティナに連れられて学園長室に入ると白髪、白髭の優しそうなお爺さんが握手を求めてきた。


 この人がルークの祖父で、この魔法学園の長、賢者ルアーノ=ヴェル=イフルス。


「いえ、俺の方こそ良くしてもらってます」


 ルアーノ学園長と握手する。


「ふむ、内包する魔力はそんなに多くない──と言うより、レベル1くらいか?」


 どうやら俺の魔力量に気付かれてしまったようだ。無理もない。相手は正真正銘の賢者だ。


「失敬、君がマホノームの群れや魔人を倒したと聞いたもので、ちょっと気になってな」


「いくら学園長でも、勝手にハルト様を詮索するなど許せませんよ?」


 ティナが怒ってくれた。


「ティナ先生、大丈夫です。多分、いつかはバレますし」


 そろそろ、ティナにも呪いのことも打ち明けよう。俺と同じく賢者であり、この学園の長であるルアーノ学園長になら、俺が賢者であることや、呪いのことを話して良いと思っていた。


「俺の素性を話そうと思います。できればここで聞いた話は他言無用でお願いしたいのですが……」


「ふむ、聞いた話は誰にも漏らさないと約束しよう。だが、そもそもここは多様性を認めるイフルス魔法学園だ。もし話したくないのであれば、話さなくても良いんだぞ?」


 学園長は素性を隠したままでも良いと言ってくれた。この学園では獣人族やドラゴノイド、精霊族まで生徒になっている。


 そうした中には当然、素性を隠して入学してきた者もいる。例えば魔族であるヨウコだ。


 でも、学園長はそうした者も受け入れるという。


 魔法を学びたいという意志を持つものには、誰であっても学ぶ機会を──それが学園長の信念らしい。


 そして、この学園の生徒が道を外れそうになった時、それに対処できるだけの力を賢者ルアーノは持っている。


 握手した時、俺の魔力を探られたが、実は俺も学園長の魔力を感じ取っていた。


 俺がこれまで感じた中で最も魔力が多く、そして洗練されていた。多分、ヨウコがこの学園を乗っ取ろうとしても失敗していたんじゃないだろうか。


 ルークは学園長よりティナの方が強いと言ったが、魔法だけで戦うのであれば学園長が勝つだろう。それくらい学園長の魔力は力強かった。


 そんな学園長だからこそ、俺は呪いのことを話す気になった。



「ステータスオープン」


 俺はステータスボードを開いて、ティナとルアーノ学園長に見せた。



 ステータス

 名前:ハルト=ヴィ=シルバレイ

 種族:人間

 加護:なし〘固定〙

 職業:賢者(レベル1)〘固定〙


 体力:30/30〘固定〙

 魔力:10/10〘固定〙

 物理攻撃力:10〘固定〙

 魔法攻撃力:10〘固定〙

 防御力:10〘固定〙

 素早さ:10〘固定〙

 器用さ:10〘固定〙


 技能:なし〘固定〙

 状態:呪い(ステータス固定)〘固定〙



「レベル1!? ど、どういうことですか!?」


「ステータス固定の呪い……。こんな呪いは、儂も初めて見る」


 ふたりが俺のステータスボードを凝視している。


「俺は、異世界からの転生者です」


「ほう……。転生者であるから、職業は賢者なのだな」


 学園長は異世界から来た勇者たちの職業が三次職で固定になることを知っていた。


「はい。そしてレベル1なのは、邪神のせいです。俺は転生の際、邪神に呪いをかけられてこうなりました」


「邪神──魔王を生み出し世界に恐怖と絶望を広める元凶……。本当に存在したんですね」


「ティナ。俺の話を信じてくれるの?」


「私はハルト様のことを信じますよ。それにこうして、ステータスを見ているんですから」


 ティナが信じてくれて嬉しかった。ステータスボードには邪神と言う文字はどこにもないので、呪いを邪神にかけられたということに関しては俺の言葉を信じてもらうしかない。


「しかし、邪神は何故ステータス固定の呪いを君に?」


「訳は詳しく聞けませんでした。ただ、こちらの世界で俺に活躍してほしくはないそうで……」


「マホノームの群れや魔人をたったひとりで倒してしまうのは、かなり活躍していると思うがな」


「私もそう思います」


「俺は、邪神のミスだったんじゃないかと考えています」


「邪神のミス?」

「どういうことでしょうか?」


「まず、これを見てください。ファイアランス!」


 俺はステータスボードをふたりに見せたまま、炎の槍を手元に出現させた。


「こ、これは──」

「魔力が、全く減っていないのか?」


「その通りです。俺はいくら魔法を使おうと、魔力が減ることはありません」


「これが、呪いステータス固定の効果ということか?」


「えぇ。俺も最初は、ステータスの最大値が固定されてしまうと考えてました。ですがこの呪いは、ステータスそのものを固定するようです。俺は邪神が、ステータス最大値固定の呪いと間違えたのではないかと思っています」


「な、なるほど……。だがちょっと待ってくれ。君の魔力が無限だというのはわかったが、マホノームを倒せるほどの魔法攻撃力はどうなってるんだ? 君の魔法攻撃力は10で固定だろう」


「魔力10以下の魔法を大量に撃っているんです。後は魔法の組み合わせで、威力を上げたりしています」


「そ、そんなことが可能なのか」


「それで、威力ですか……」


 ティナが言いたいのは訓練所の壁を破壊した時のことだろう。


「訓練所を壊しちゃった時は十万個のファイアランスを纏めた魔法を撃ちました」


「じゅ、十万!?」


「よ、良くぞそんな魔法を逸らしてくれた。ティナ先生、改めて感謝する」


「……いえ。また同じことをやれって言われても、絶対に無理です」


 ティナが俺の魔法を防げたのは、勇者が彼女に渡していた魔具があったからだ。


「とにかく、ハルトが普通でないことはよくわかった。まぁ、転生者だと言うならは不思議は無いが。頼むから暴走せんでくれよ」


「はい。気をつけます」


 その後、学園長は俺が学園で過ごすにあたって、可能な限りサポートをすると約束してくれた。


 俺のためと言うより、俺に変に動かれて学園を危険に晒すのを防ぐためだという。

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