第26話 鋼の森の異変収束

 

 なんだか森の奥のほうが騒がしいと思ったらマイとメイ、それからリファを抱えたメルディが走ってきた。彼女たちは迫りくる炎から逃げていた。


 俺とヨウコのいる所までやって来て、息を整えているメルディにリファの容態を尋ねた。炎から逃げようとしなかったのでメルディが殴って気絶させたらしい。


 気絶しているだけなのなら後で回復させてやることができる。まずは迫ってくる炎を止めよう。


 魔力を放出して召喚魔法陣を形成した。


 俺は邪神の呪いのせいで魔力を十以上消費する魔法が使えない。召喚魔法は通常、最低ランクの精霊を呼ぶときでも三十くらいの魔力消費が必要だ。


 つまり俺は普通のやり方では召喚魔法が使えない。そこで俺は放出した魔力の一つ一つの形状を文字や記号に変化させ、それらを魔法陣の形状になるよう並べることで精霊召喚ができる方法を編み出した。


 一つ一つの文字に十くらいの消費魔力があり、俺の使う召喚魔法陣は千文字くらいで形成されているので、一度の召喚でかなりの魔力を消費してしまう。もっとも俺は邪神の呪いの効果で魔力は全く減らない。



 魔法陣が完成した。

 火を消すならを呼ぼうかな。


「ウォーターランス!」


 水属性の槍を持った女性の姿を思い浮かべながら魔法を発動させた。


「ん? ハルトか。久しいの」

「あぁ、久しぶり。元気にしてたか?」


 彼女、水の精霊ウンディーネを召喚するのは三年ぶりくらいだ。


「まぁまぁだな。最近は呼んでくれなくて寂しかったぞ」

「ごめんごめん」


 三年という月日は、悠久の時を生きるウンディーネにとって長くはないのだが、以前は毎日のように召喚して色々魔法の訓練につきあってもらっていたので、彼女が拗ねるのも何となくわかる。


 その後ウンディーネがマイとメイと会話を始めたので、俺はリファとメルディの回復をしてやることにした。ちなみにウンディーネは俺と会話している間に片手間で水を操作して森の炎を消してくれていた。


 相変わらず仕事ができる精霊だ。



「うっ……。こ、ここは?」

「起きたか、あまり無理はするなよ。どこか痛いところは無いか?」


 リファに回復魔法をかけてやり、少ししたら彼女が意識を取り戻した。


 俺は最下級の回復魔法ヒールしか使えないので、百回くらい重ね掛けすることで回復力を向上させている。


「ハルトさん、ありがとうございます。私はもう大丈夫です」


「そう、良かった。メルディも大丈夫?」


 先ほど俺たちと合流たメルディは炎から逃げるため、その身体を無理やり動かしてここまで来たようだ。ウンディーネの魔法で安全が確保されたと気づくと、すぐに地面に崩れ落ちた。


 疲労で立っていられなくなったようだったのでメルディにも回復魔法と、俺の魔力を少し分け与えてあげる。


「おおきに、魔力も満タンや」


 良かった。

 ちゃんと回復させられたようだ。


「リファ、さっきはごめんやで」


「いいえ、私も冷静じゃなかったんです。私をここまで運んでくれて、ありがとうございました」


「ふたりとも無事で良かった。ところでふたりが遭遇して、森が燃える原因になった魔物ってどんな奴だったの?」


 ずっと気になっていたことを聞いてみた。これだけの火事を引き起こすほどの魔物の気配など、この森になかった気がするのだ。


「恐らく、こいつじゃないか?」


 ウンディーネが水牢に閉じ込めた炎の塊をどこからか運んできた。


「あぁ! それ! そいつです!!」


 リファが指さした炎の塊は、俺の魔法だった。


「こ、こいつがリファを襲ったの!?」


「襲われたと言うより私の方に勢いよく向かってこられて、驚いて私が攻撃してしまったのです」


「でも実はそいつ、リファの後ろの茂みに隠れてたゴブリンアーチャーを倒そうとしてくれてたみたいなんや」


 リファを狙っていたゴブリンアーチャーに炎の騎士が気づき、倒そうと移動したところ、リファを驚かせてしまい攻撃を受けたようだ。


 リファの風魔法は炎の騎士と相性が良すぎた。高密度に収縮された風が炎の騎士に取り込まれたことによって、騎士が纏う炎が爆発的に大きくなり、森林火災の原因になってしまったようだ。


 ──つまり、これは事故だ。


 俺の魔法が暴走して、リファを襲ったのではないと判り一安心する。

 でもみんなを危険に晒したのだから謝らなくてはいけないと思う。


「じつはコイツ、俺の魔法なんだよね」

「「「「えっ!?」」」」


「俺の魔法がみんなを危ない目に遭わせたみたいで、申し訳ない」


 四人に頭を下げる。


「この炎の騎士がハルト様の魔法だという証拠はありますか?」


 マイが尋ねてきた。何故、マイが俺のことを様を付けて呼ぶのか分からないが、とりあえず証拠を見せよう。


「ウンディーネ、そいつ出してやってくれ」


「分かった。しかし我の水牢でも消えぬ炎とは、どんな仕組みなのだ?」


 ウンディーネは疑問を口にしながらも、炎の騎士を出してくれた。水牢から出された炎の騎士は大人しかった。俺の魔法なので当然。


「それは今度教えるよ」


 そう答えながら炎の騎士に近づく。

 騎士は膝をおり、俺に忠誠を誓うポーズをとってくれた。


「どうかな、これでいい? なんだったらここでもう一体、作ってみせようか?」

「い、いえ、結構です! ありがとうございます」


 マイとメイとはあんまり喋ったことが無かった。マイは俺の魔法に興味を持ってくれたみたいなので、今後は話す機会が増えるといいなと思う。


「皆さん! ご無事ですか!?」


 ティナが走ってやってきた。その後ろにルークとルナ、リューシン、リュカがついてきている。


 ルークたち四人が俺の前に跪く炎の騎士を見て何故か驚いていた。


「ティナ先生。私たちはハルトさんのおかけで、何とか全員無事です」


 リファがティナに状況を説明する。俺のおかげで助かったと言われると少し照れ臭い。


「リファさん、笛を鳴らしましたよね。直ぐに駆けつけられなくてごめんなさい」

「何かあったの?」


 ティナがリファたちをすぐに助けに行けなかったのには何か理由があるのだろう。


「はい。まずこの森に何故かマホノームが大量発生しました。そしてその群れにルークさんとルナさんが襲われました」


「えっ」


「ですが私が駆けつけた時には、マホノームの群れは倒されてました」


「ルークが倒したってこと?」


 付術士のルナじゃ無理だと思った。だったら賢者見習いであるルークがやったんだろうと思った。


「いや、違う。とりあえず先生の話の続きを聞いてくれ」


「ルークさんたちのところに着いた時、今度はリューシンさんたちの居る付近に、かなり強い魔人が現れた気配がありました」


「魔人!?」


「ですがこれも、私が駆けつけた時には倒されてました」


「ま、魔人を倒したんですか?」


「俺じゃない」


 リファがリューシンに尋ねるが、倒したのはリューシンではないらしい。Bランクの魔物であるマホノームの群れと、魔人を倒した奴がどこかにいるという。


 この森、思ったより危険だ。

 そんなことを思っていた。


「私がルークさんたち四人に話を聞いたところ、マホノームの群れも魔人も、倒したのは炎を纏った騎士であったと分かりました」


「「「「えっ?」」」」

「…………」


 マイ、メイ、リファ、メルディから驚きの声が上がる。


「ハルト様、何か心当たりは有りませんか?」


 ティナの視線は俺の前にいる炎の騎士に固定されている。


 あぁ、これはあれだ。

 ティナは分かって言っている。


「……うん。この炎の騎士は俺の魔法」

「「やっぱりハルトか!」」


 ルークとリューシンが叫んだ。


 いやぁ、Cランクの魔物なら問題なく倒せるかな──と思っていたけど。コイツ炎の騎士らって、そこまで強かったのか。

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