第25話 水の精霊王と炎の騎士

 

 サイド:メルディ


「メルディさん、大丈夫!?」

「はぁ、はぁ、も、もう限界にゃぁ!」


 ウチらは今、迫り来る炎から必死に逃げてる。猫系獣人族のうちはスタミナがあまり高くないんや。


 普段は猫っぽいって言われるのが、なんとなく嫌で、語尾に「にゃ」とか絶対付けないようにしてるけど、緊急時は昔の癖で出ちゃうんや。


「私が炎を食い止めるので、メルディさんは逃げてください!」


 突然、リファが立ち止まって炎に対面した。


「リファ、無理にゃ! 逃げるにゃ!」


 リファの腕を引っ張って連れていこうとするけど、全然動こうとしない。リファが魔力を溜め始めた。


「ウィンドウォール!」


 風の防御壁を作り出し、ウチらに迫る炎を食い止めた。炎は近づいてこなくなったけど、風に煽られたことで、炎は明らかにその勢いを増してる。


「あぁぁぁ! 何やってるにゃ! リファの魔法じゃ、火は消えないにゃ!!」


「わ、わかってます! 今のうちにメルディさんは逃げてください」


「リファはどうするにゃ!?」


「私はここで炎を食い止めます。ティナ先生には笛で知らせたので、直ぐに来てくれるでしょう」


「これだけ勢いの強い炎をずっと止めておけるわけないにゃ!」


「私のせいでこうなってしまいました。私は何としてもメルディさんを守らなきゃいけないんです!」


「だったら一緒に逃げるにゃ!」


「メルディさん、もう走れないでしょ? だから早く行ってください!」


 こ、こいつ、絶対折れる気ないにゃ。


「あぁー! もぅ、ごめんにゃ!」


「うっ!? な、なにを──」


 リファの首の後に手刀を落として気絶させた。地面に倒れ込むリファを脇に抱え、全速力で走り出す。


「ぜったい、後で、ケーキ食べ放題に連れてってもらうにゃぁぁぁぁあ!!」


 既に肉体の限界は超えている。

 魔法で無理やり自分の身体を動かす。


 これをやると二、三日動けなくなるので使いたくなかったけど、今は四の五の言ってられないんや!


 ウチはリファの魔法のせいで勢いを増した炎から全力で逃げ続けた。



 ──***──


 しばらく走った所で前方に誰かいるのが見えた。


「「えっ、メルディさん?」」


 マイとメイだった。


「ふたりとも! 逃げるにゃ! 炎が来るにゃ!!」


「えっ……も、森が燃えてる」


「マイ、あの炎、操作出来ない!?」


「無理! 多分あれ、さっきの炎の騎士のだよ。あの炎、全然私の命令を聞いてくれないの! メイこそ水魔法で何とかならない!?」


「無理だよ! 森が燃えてるんだよ? あんな炎、リヴァイアサン級を連れてこなきゃ消せないよ!」


「じゃあ」

「うん」


「「逃げよう!!」」


「「「うわぁぁぁぁぁぁあ」」」


 マイとメイが先行して、ウチが追いかける形で逃走を続ける。



 その後、数分間走り続けた。

 もう、本当に限界だ。


 魔力も尽きかけている。

 ここまでか。



 ──そう思った時。


「メルディとマイとメイ。それにリファ……どうしたんだ? リファは大丈夫なのか?」


 ヨウコを従えたハルトがそこにいた。


「はぁ、はぁ、ま、魔物に襲われて、リファが魔法で応戦したら、その魔物が爆発して森が燃え始めたにゃ!」


「魔物にやられてリファは気絶してるのか?」


「あ、いや……リファが逃げないって言うから、ウチが殴って気絶させたにゃ」


「そうなんだ。てか、メルディ、語尾が猫っぽいな」


 そう言ってハルトがふふふと笑う。


「あぁ! もう、そんなことよりさっさと逃げるにゃ!!」


「「そうです、逃げましょう!」」


 炎がそこまで迫っていた。


「でも、みんなここまで走ってきて疲れただろ? 俺が炎を消すから、みんなは休んでて」


 ──は?


 な、何を言ってるんや?

 森が燃えてるんやで?


 ひとりの魔法で消せるわけないやないか。


 ハルトは前方に手を突き出し、魔力の放出を始めた。その魔力が魔法陣を形作っていく。


「高位魔法、かにゃ?」


 水属性の高位魔法で炎を消そうというのだろうか?


アクアランス初級水魔法!」


 ウチの予測とは裏腹に、ハルトは初級の水魔法の詠唱を行った。


「初級魔法で火事の炎が消えるわけないにゃ!!」


 ──と、突っ込んでみたが、何やら様子がおかしい。そもそも初級魔法に魔法陣は必要ない。その魔法陣も形状がおかしかった。


 まるで召喚魔法の際に使うもののような──


 突然、ハルトの魔法陣から大量の水が溢れ出す。その水の中から、三叉の槍を手にした美女が現れた。


「ハルトか。久しいの」

「あぁ、久しぶり。元気にしてたか?」


「まぁまぁだな。最近は呼んでくれなくて寂しかったぞ」

「ごめんごめん」


 ハルトと美女が談笑している。


 そうこうしている間に、ウチらは炎に囲まれていたのだけど、魔法陣から出た水がウチらの周りにドームを形成して、炎を防いでいた。


「あ、あの、もしや精霊王ウンディーネ様ですか?」


 メイが美女に話しかけた。


「おぉ、マイ様とメイ様ではないか。元気か? どうだ、人間界は。契約者候補は見つかったか?」


 マイ、メイとハルトが召喚した美女は知り合いだったようだ。


「いえ、それはまだですが。あの、もしやハルトさんと契約を結ばれているのですか?」


「その通りだ。そうだ! 契約者がまだ決まっておらぬなら、ハルトはどうだ?」


「「えっ?」」


「こやつは強いぞ。何せ海神といい勝負をしたのだからな」


「「ポセイドン様と!?」」


「あぁ、あまりの強さに惚れ込んで、我から契約を申し込んでしまった」

「「えっ」」


「まだ契約者が決まっておらぬならハルトにするが良い。我のオススメじゃ。きっとお主らの父も満足するだろう」


「「ま、前向きに検討させていただきます」」


 なんか、よく分からないけど、ハルトが凄いってことは分かった。


 そうこうしているうちに、魔法陣から溢れ出した水がドームから勝手に森中へと広がっていき、木々の炎を消していた。


 ウチの疲労も、ウチが気絶させたリファも、先程ハルトが回復させてくれた。


「リファ、さっきはごめんやで」

「いいえ、私も冷静じゃなかったんです。私をここまで運んでくれて、ありがとうございました」


「二人とも無事で良かった。ところで、2人が遭遇して、森が燃える原因になった魔物ってどんな奴だったんだ?」


 私たちが落ち着いたところで、ハルトが尋ねてきた。


「恐らく、じゃないか?」


 ウンディーネ様が水牢に閉じ込めた炎の塊を運んできた。


「あぁ! それ! そいつです!!」


 リファが指さす炎の塊は、騎士の形をしていた。

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