第21話 炎の騎士

 

「せっかくだからチーム組んで勝負しようぜ」


 リューシンが魔物の討伐数を勝負しようと言い出した。鋼の森で魔物を狩る授業だったのだが、クラスの仲間たちは皆、ある程度魔物との戦闘経験があった。


 それもそうだ。そうでなければ皆が高レベルであることの説明がつかない。そして、この森に生息しているのはCランク以下の魔物。


 全員で戦わなくても余裕で勝てる。


「面白そうですね。やりましょう」

「負けへんよー!」


 リファとメルディがその提案に参戦した。


「チームはどうします?」


 ルナが少し心配そうだ。適正レベルを超えてるとはいえ、付術師のルナがひとりで戦うには、この鋼の森は厳しい。


「ルナちゃんは俺と組もう」

「はい、よろしくお願いします!」


 ルークがルナと組むそうだ。


「俺はリュカと組むよ」


「なら、メルディさんは私と組みますか?」

「うん、よろしゅー!」


「「私たちはふたりで行きますね」」


 だいたい二人一組ができた。


 ルークとルナ


 リューシンとリュカ


 リファとメルディ


 マイとメイ


 そうなると余りは──


「我はもちろん主様と組むぞ」

「あぁ、よろしくな」


 俺とヨウコになった。


「皆さんなら問題ないとは思いますが、怪我などには十分、気をつけてくださいね」


 勝手に勝負することを決めてしまったが、ティナは止めようとはしなかった。


「いざと言う時はこの笛を吹いてください」


 そう言ってティナが全員に笛と腕輪を渡した。笛の方は恐らく、吹かれたことと吹いた場所がティナに伝わる魔具なのだろう。


「この腕輪はなに?」

「皆さんが倒した魔物の数とランクを記録する魔具です」


 この森の魔物を倒したところで誰かのレベルが上がるわけではない。だったら皆を競わせて、効率よく魔物を倒す方法を実践させた方が良いと考えたんだろう。


 魔具を準備していたことから、リューシンが提案しなくてもティナは俺たちを競わせようと考えてたのだと思う。


「制限時間はお昼までとします。それでは、スタートしてください!」


 ティナの合図で五組がバラバラの方向へと走り出した。



 ──***──


「さて、主様、どうやって効率よく魔物を倒そうかの? すまぬが、ある程度の知識を持った魔物が居らんと我の洗脳魔法は使えぬのじゃが」


 スタート位置からだいぶ離れ、ティナの姿が見えなくなったところでヨウコが話しかけてきた。


「んー、知能の高い魔物探してヨウコに使役してもらっても良いんだけど、効率悪そうだしな」


「では、どうするのじゃ?」


「今回は俺がやるよ」


 俺は右手を掲げ、魔力の塊を複数放出した。

 そして、その魔力の塊に炎の属性を与える。


 約二十個の火の玉が宙に浮いている。


 続いて、火の玉を核として、それぞれに外装を施していく。


 徐々に人馬一体の、炎の騎士が姿を現し始めた。


 最後に攻撃力、貫通力を高めるために雷魔法と風魔法でコーティングした槍を持たせた。


 俺特製、魔力消費量が10以下の塊を寄せ集めて作った炎の騎士、二十体の完成だ。


「ファイアランス!!」


 魔法の発動と同時に、炎の騎士達はそれぞれ森の中へと駆け出していった。


「あ、主様、今のは?」

「ん? ファイアランスだけど?」


「いや、違う! 断じて違う! あれが我の知る魔法であるなら、あれはフレイムナイトという高位魔法じゃ! そ、それを二十数体も……」


「火の槍持ってるんだからファイアランスでいいだろ」


「えぇ……いや、そんなことより魔力は大丈夫なのかの? あんな高位魔法をいくつも使ってしまったら不味いのではないか? わ、我の魔力を少し、吸うか?」


 ヨウコは俺の魔力が尽きないのか心配してくれているようだ。しかし、俺は邪神の呪いでステータスが変化しない。


 当然ながらファイアランス、ヨウコの言うフレイムナイトを二十体ほど作ったところで、俺の魔力は変わらず10のままだ。


「心配しなくても大丈夫だよ。俺は平気だから」

「むぅ、主様がそう言うなら良いのじゃが」


「ところでヨウコはその尻尾、具現化できるのか?」


 俺にはやりたいことがあった。


「具現化か? できるにはできるが……ここでかの?」


「あぁ、できるならやってくれ」

「わかったのじゃ」


 ヨウコの背後に九本の尻尾が現れた。

 大きく、ふさふさで柔らかそうだ。


 一本の尻尾を手に取り、撫でてみる。


「ひゃう!」


 ヨウコが声を上げた。


 どうやら尻尾は敏感なようだ。


「あ、主様! 触るなら言ってほしいのじゃ! 驚くではないか」

「ごめんね、じゃ、言えば触っていいのか?」


「……主様がどうしてもと言うのなら」


「どうしてもだ、お願い。あの魔法、発動は簡単だけど遠隔操作するからちょっと精神的に疲れるんだよね。だからヨウコの尻尾をモフって落ち着きたいんだ」


「そ、そういうことなら仕方ないの」


 ヨウコはそう言って近くにあった大木の側に行き、幹に背を預けて座った。


「さぁ、来るが良い。我の尻尾の極上の柔らかさを堪能させてやろうぞ。気持ちが和らぐこと間違いなしじゃ」


 ヨウコの隣で、その尻尾がまるで座椅子のような形を作っている。


 あそこに座っていいのだろうか?

 俺はドキドキしながらヨウコのもとへと近づいた。


「座る時はゆっくり頼むのじゃ」

「わかった」


 俺はゆっくりヨウコの尻尾に体を預けた。


 や、柔らかい。


「ん、くぅ」


 ヨウコから嬌声が漏れる。


「大丈夫か? 重かった?」


「だ、大丈夫じゃ。じゃが、主様の、その、指が」


 座る時、尻尾に埋まった指が無意識に動いていた。


「ごめん、ふかふかで気持ちよくって、つい」


「よい、良いのじゃ。主様が魔法を発動させて頑張ってくれている以上、我も耐えるのじゃ。さぁ、心置き無く我の尻尾を堪能せよ」


 ヨウコの尻尾が俺を包み込む。


 き、気持ちいい……


 実を言うと、炎の騎士はフルオートで魔物を探し、殲滅していく。


 さらに、一体で勝てなければ仲間の炎の騎士を呼び、数体で連携して敵を倒すのだ。俺が遠隔で操作する必要などない。


 ヨウコには悪いが、俺はヨウコの尻尾を堪能することに全神経を集中することにした。


「ふにゃぁぁあ」


 ヨウコが奇声を上げてもお構い無しに、俺は全力でヨウコの尻尾をモフり続けた。

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