第22話 魔物と炎の騎士
サイド:ルーク
「……ちょっとこれはヤバいかな」
俺とルナちゃんは今、マホノームという魔物の群れに囲まれている。マホノームは四足歩行で頭に角のある、サイのような魔物だ。
その他の特徴として、魔法が効きにくい。上級魔法でないとダメージを与えられないほど魔法耐性が高く、普通はあれば剣士や騎士が相手する魔物。
Bランクの魔物で、本来この鋼の森にはほとんど生息していないはずだった。そんな奴らが、何故か群れで移動しているところに出くわしてしまい、気づいた時には囲まれてしまっていた。
ちなみに、マホノームは剣士職であれば討伐がそこまで困難ということは無いので、Bランクなのだが、魔法使いしか居ない状態で遭遇した場合、その危険度はAランクまで跳ね上がる。
──とは言っても、賢者の孫である俺にかかれば敵ではない。
一対一であれば……。
目の前には十頭のマホノームがいる。
ちょっとピンチだ。
かと言って、一頭ずつ倒すために範囲を絞った高位魔法を連発できるほど俺は器用じゃないし、なにより魔力が足りない。
ルナちゃんに補助魔法をかけてもらって、中級魔法で倒せないかな?
そんなことを考えていた。
「る、ルーク君、戦いますか? それとも、逃げますか?」
ルナちゃんに心配させてしまったようだ。
「大丈夫、多分勝てるよ。それから、賢者の孫の名にかけて、ルナちゃんは絶対に護る。でも、念のために先生から貰った笛を用意しておいて」
「は、はい、わかりました!」
ルナちゃんにかっこいいとこ見せなきゃ。
そんなことを考えていた時──
「──っ!?」
鳥肌が立つほどの、巨大な魔力が近づいてくるのを感じ取った。
「な、何か来ます!」
「うん……。かなり、まずいかも」
ティナ先生以上の魔力を持つ何かが、この場所に向かってきている。魔力の波動がティナ先生のものではないので、先生が助けに来てくれたわけではなさそうだ。
もし、その何かが敵だった場合、俺が全力で戦っても勝てる保証がない。マホノームの群れの一角を何とか倒して脱出しようとも考えたが、それ以上にその何かがここにたどり着くのが早かった。
それは突然現れた。
全身が炎で形成されている騎士。
炎の騎士は俺とルナちゃん、そして俺たちを囲むマホノームの群れを少し見渡すと、その手に持つ槍を構え──
「──!!」
俺たちの横を、高温の何かが超高速で通り過ぎていった。
振り返ると俺たちを囲っていたマホノームの一体が、轟々と燃えていた。炎の槍が、魔法耐性が非常に高いはずのその表皮を、いとも容易く貫いたんだ。
まずい、こいつは強すぎる!
隙を見つけて逃げなくちゃいけない。
だが、炎の騎士にまったく隙が無かった。
槍が通り過ぎるのを目で追うことすらできなかった。あの攻撃がもし、俺たちを狙ったらと思うと、背筋が寒くなった。
──いや、あの槍を投擲してしまった今がチャンスなんじゃないか?
そんなことを考えていたら、仲間が倒されたことに怒ったマホノームたちが、俺たちを無視して、一斉に炎の騎士へと襲い掛かった。
炎の騎士の手には新たな槍が握られていた。
炎の騎士に角を突き刺そうとしたマホノームが、新たな槍によって貫かれ、燃え上がる。
別のマホノームが後ろ足で立ち上がり、前足で押しつぶそうとするが、炎の騎士はそれを片手で受け止めた。
炎の騎士が受け止めた場所からマホノームの体が燃え始める。そのマホノームを、炎の騎士は他のマホノームへと投げつけた。
重さ数トンはあるマホノームが、燃えながら高速で仲間のもとへと飛んでいく。
投げつけられたマホノームが仲間にぶつかり、爆散した。
ぶつかったマホノーム数体が即死し、即死しなかったものも爆散したマホノームの燃えている体の一部が当たり、そこから炎が体に燃え広がっていった。
炎に包まれたマホノームたちが地面を転がるが、炎は消える気配がない。
そして、そのマホノームたちもすぐに動かなくなった。
生きているマホノームは後一体になった。
炎の騎士に勝てないと悟ったやつは、炎の騎士に背を向けて逃げ出した──俺たちの方へ。
「ヤバい!」
向かってくるマホノームを倒せるほどの魔法を詠唱する時間がない。とっさにルナちゃんを抱えて、防御魔法を自分たちの前方に張った。
だが、急ぎで張った魔法防壁は、一瞬でマホノームの角に突き破られてしまった。
慌てて身体強化魔法で防御力を限界まで高め、ダメージに備える。
耐えられるか!?
いつまで待っても、衝撃は来なかった。
代わりに鈍い音がして、何かが地面に倒れた。
恐る恐る振り向くと、俺たちに向かってきたマホノームが、炎の騎士に側面から貫かれ、息絶えていた。
そのマホノームを倒したのは、さっきまで戦っていたやつとは別の炎の騎士。
今、俺とルナちゃんの前に、二体の炎の騎士がいる。
終わった……。
勝てるわけがない。
「ルナちゃん、なんとか時間稼ぐから、逃げてくんない?」
勝てはしなくても、なんとかクラスメイトだけは逃がしてみせる。
「で、でも」
ルナがティナ先生から渡された笛を使おうとしている。
無駄だろう。
この炎の騎士一体で、ティナ先生を上回る魔力を持ってるんだから。
──それが二体。
もはやこのグレンデール王国に、対抗できる戦力はない。可能性があるとして、ハルトぐらいか?
あいつの潜在能力は全く底が見えないからな。
──ん?
そういえば、この炎の騎士、なんだかハルトの魔力の波動に似ているような……
「え?」
炎の騎士が、俺とルナちゃんに背を向け、森の中へと走り去っていった。
「た、助かったんですか?」
「そう、みたい」
「よかったですぅ」
ルナちゃんがぺたんと座り込んでしまった。俺がついていながら、怖い思いをさせてしまったことを申し訳なく思う。
それにしても、あの炎の騎士の魔力はハルトの──
「まさかな」
災害級とも思える魔物の魔力が、友人のそれに思えて仕方ないのだ。
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