第14話 この世界での目標
「勇者様たちは魔王を倒したら、直ぐに元の世界に戻ってしまわれます。ですから、こちらの世界の我々にはなんの興味も持っていただけないかと思っていましたが、彼は私の想いに応えてくださりました」
昔を思い出し、ティナの顔が綻ぶ。
「その勇者と恋人になったってこと?」
「はい、色んな手を使って何とか彼と恋仲になりました。それからの彼との冒険の日々は今でも私の中で最高の思い出です。ですが、その楽しかった時間も、彼の仲間の勇者様が魔王を倒したことで終わりを迎えました」
ティナの声が暗くなる。
「……転移勇者って、この世界に残るっていう選択はできないの?」
「彼も色々手を尽くしてくれましたが、どうしようもなかったようです」
転移勇者は魔王を倒した瞬間、元の世界に強制的に送り返されるようだ。
ティナが首からペンダントを外し、テーブルの上に置いた。
「これは、私を護れるようにと、彼が特別な魔法を込めて作ってくださったものです。魔王が倒された時、こちらの世界から消えゆく彼が最後に残してくれたたったひとつの宝物です」
一度きりではあるが、持ち主にどんなことがあっても必ず護るという絶対防御の魔法が込められたペンダント。
そんな貴重で、ティナの思い入れのある魔具を使わせてしまったことに非常に罪悪感を覚える。
「さて、ここからが私がハルト様をお慕いする理由です。私はハルト様をその勇者様の生まれ変わりだと信じていました」
「えっ!?」
──それはない。
ハルトは西条遥人の生まれ変わりであり、遥人に勇者としてこの世界に来た経験はないからだ。
「十年前のある日、私はあの御方と同じ魔力を持つ子供がこの世界に生まれたのを感じ取りました」
「それが、俺ってこと?」
「ええ、これでも私は魔力検知能力が優れている方ですし、彼の魔力を間違えるはずがありません。ですから私はその赤子を探し出し、その親であった伯爵様と交渉して、ハルト様の従者となったのです」
ティナに俺が別人であると打ち明けるべきか悩む。でも、今言わなければならない気がする。
「ティナ、申し訳ないけど俺は──」
「あの勇者様ではない。そうですよね?」
「……分かってたのか」
「えぇ、五年前、ハルト様の肉体に別の誰かが転生したのは何となくですが気づきました。私はそれが、あの御方であってほしいと願いました……でも、貴方は別の
「あぁ、俺は確かに転生者だ。でも、俺にはこっちの世界に来たことも、ティナと冒険した記憶もない」
「そうですか、そう、ですよね。もし彼なら転生した時に何かしら言ってくれるでしょうから」
「ごめん」
「ハルト様が謝罪なさる必要はありません。実を言うと私も初めは落胆しました。なんで彼じゃなかったのかと思った時もありました。でも、ハルト様が毎日魔法の訓練を懸命にこなす姿を見て、何事にも全力で取り組んでいた彼の面影を重ねるようになってしまいました」
ティナに抱きしめられた。
すごくいい匂いに包まれる。
「ずっとハルト様を見てました。以前は、彼の転生であったらいいな、と。でも今はハルト様を見ています」
「……俺でいいの?」
「ハルト様がいいんです」
このティナの言葉で決心が着いた。
「ティナ、俺、強くなるよ。その真の勇者以上に。それでティナもこの世界も護る。絶対防御のペンダントは壊れたけど、俺は壊れない絶対防御の盾になってティナを、この世界を護るよ」
「ハルト様……」
「だから、これからも俺と一緒にいてくれないか?」
「はい!ずっと一緒にいます」
俺のこの世界での目標が決まった。
強くなろう。
チート能力を持つ転移勇者よりも強く。
ティナが愛した勇者みたいに、ティナや世界を護れるくらい強く。
呪いのせいでレベルは上げられないけど、できることはいっぱいある。
力を身に付け、賢者として世界に認められるんだ。
レベル1の最強賢者を目指そう。
そしてティナの勇者になるんだ。
──***──
翌朝、目覚めたらティナがいなかった。
「おはようございます。ハルト様」
──と、思ったら扉を開けてティナが寝室に入ってきた。
「朝食の準備ができています」
「うん、今いく」
「ハルト様、よろしいですか?」
「ん?」
ティナが顔を近づけてきた。
俺の唇に何か凄く柔らかいものが当たった。
「えっ」
ティナを見ると頬が紅潮している。
「不束者ですが、これからよろしくお願いしますね。私の勇者様」
そう言い残してティナが部屋を出ていった。
キスしてしまった。
ティナと。
彼女の唇は凄く柔らかかった。
近くで見たティナの顔は凄く綺麗だった。
少し照れてる様子のティナも可愛かった。
俺は改めて、ティナを護れる勇者になろうと心に決めた。
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