第13話 ティナの想い人

 

 転生した次の日から、俺はティナと一緒に寝なくなった。


 五歳児なら添い寝してもらっても問題ないが、俺が転生後は中身が十七歳の男子なので、色々問題がありそうだったからだ。


 まぁ、肉体が五歳なので何もできるわけないのだが。


 そんなわけで、転生したその日の夜に今日からは一人で寝る、とティナに告げるとティナが凄く悲しそうな顔をしたのを覚えている。


「なんでもって、言いましたよね」


「う、うん、でも、そんなことでいいの?」


「はい!できれば、ハルト様に抱きつく権利も頂けると」


「……別にいいけど」


「ありがとうございます!」


 ティナがいきなり抱きついてきた。


 今かよ!?と突っ込もうとしたが、ティナが震えているのに気づいてやめた。


「こ、怖かったですぅ」


「ごめん、ほんとにごめん」


 ティナが落ち着いてくれるかなと、頭を撫でようとしたが、抱きつかれた状態でティナの頭まで手が届かなかった。


 なので背中を摩っておく。



 しばらくしてティナが俺から離れていった。


「ふぅ、ハルト様成分の補充完了です」


「そう、それは良かった」


「今晩も、もちろんやりますからね?」


「そうなの?」


「そうです!今晩だけじゃなくて、これからずっとですからね!」


「えっ」


「……私、ハルト様の魔法で死にそうになったんですけど。それにたった一つの宝物も壊されちゃったんですけど」


「わ、わかった!寝る!一緒に寝るし、抱きついてもいいよ」


「ありがとうございます。ふふふ」


 ここまで嬉しそうにするティナを初めて見たかもしれない。


 俺と一緒に寝て、何が嬉しいんだろうか。

 抱き枕的な感じで寝心地いいのかな?


 まぁ、ティナが元気を出してくれるならそれでいいか。



「ティナ、この壁とかのことだけど、俺が父上に直接謝るよ」


「そうですね。申し訳ないですが、そうしていただけると助かります。もちろん私もご一緒に伯爵様のもとへ伺います」


「うん、お願い」



 ──***──


 その後、学園への報告を済ませた後、一旦学園を出て父上のいる伯爵邸へと帰った。


 人的被害が出なかったことと、俺が伯爵家子息ということもあり、学園側からは注意などを受けることもなかった。


 ただし、今後の対策と、壊した訓練所の修理を要請されたので、父上に報告して謝らなければならない。


 まさか入学2日目にして、家に帰ることになるとは思わなかった。



 父上に会って、事の顛末を話して頭を下げた。父上は直ぐに赦してくれた。


 それどころか、俺の成長を褒めてくれた。

 ただ、今後は力の使い方に気をつけ、仲間や周りに被害を出さないようにしろと注意された。


 そして父上がティナに頭を下げた。


 息子である俺が、ティナを危険に晒したことを謝罪し、更に俺の魔法から中央街を救ったことに対して報酬を出したいといった。


 ティナはその話を断った。報酬は既に貰っている。そう言いながら俺の方をチラッと見てきた。


 分かってる。そう言うように頷くとティナは満足気に微笑んだ。



 ──***──


 俺とティナはイフルス魔法学園にある俺の屋敷へと戻ってきた。


 通常、伯爵邸と魔法学園は馬車で片道3時間くらいの距離があるのだが、ティナの飛行魔法で飛んで移動したので、父上との面会の時間も合わせても往復で二時間かかっていない。


 壊してしまった訓練所は、父上が何とかすると言ってくれた。


 今日は泊まっていけとも言われたが、ティナが学園でやることがあると言うので、こうして戻ってきたわけだ。



「やることってなんだったんだ?」


「もちろん、ハルト様と一緒に寝ることですよ。伯爵様のお屋敷では他のメイドも居ますし、ハルト様とふたりっきりでのんびりできませんからね」


 風呂に入って寝る準備をし、今はベッドでティナと一緒に横になっている。


「ティナはなんで、俺なんかを好いてくれるんだ?」


 ずっと気になっていたことを聞いてみた。ティナの実力からすると、本当なら王国に仕えていてもおかしくない。


 父上もそれなりの財や権力を持っているが、ティナを雇えるほどではないのだ。むしろ国からティナを国に奉公させるようにと圧力をかけられているらしいが、ティナがそれを断っている。


 異世界から転移してきた勇者が居ないこの時代、勇者相当の力を持っているティナを国家ですら自由にできないのだ。


 そんなティナが俺に尽くしてくれる。

 少なからず、俺に好意を抱いてくれているのだと思っていた。


「私がハルト様を大好きな理由ですか?それを話そうとするとちょっと寝るのが遅くなりますけど、大丈夫ですか?」


「だ、大好きなんだ、ありがとう。俺もティナのこと好きだよ」


 思わぬティナの言葉で顔が熱くなる。


「ふふふ、ありがとうございます」


「それで、寝るの遅くなってもいいから聞きたいな、ティナの話」


「分かりました。私が昔、異世界から転移してこられた勇者様たちと一緒に魔王を倒したお話はもう、ご存知ですよね」


「うん、リファからちょっと聞いた」


「リファさん、私の魔物討伐記録を盛ってハルト様に話していたので少し恥ずかしかったですが、大体彼女の話していた通りです」


「そうなんだ」


 そうだよね。


 武器がなかったからってフレイムドラゴンを身体強化魔法だけで倒したなんてさすがに無いよね?


「あ、ちなみにリファさんが話してた内容でちゃんと正しいのってフレイムドラゴン討伐の話くらいですからね」


「そ、そうなんだ」


 それはほんとなのかよ!?


「さすがに私でもゴーストキングを拳圧だけで吹き飛ばしたりはできませんよ」


 それができたらもう完全にバケモノですよ。


「さて、話は戻りますが実は私、勇者様達の中にひとり、お慕いしていた方がいらっしゃいました」


 前回の勇者召喚では五人の異世界人がこちらの世界を救う勇者としてやってきた。


 その中のひとりを、ティナが好きになったらしい。


「その方は勇者様たちの中心的な人物ではありませんでしたが、魔族や魔物によって街や村が襲撃を受けているという話を聞くと、真っ先に駆けつけてくださったのは、いつもその御方でした」


 転移勇者は魔王を倒せば元の世界に戻れる。

 この世界ではそういった契約で、創造神が勇者を召喚することが多いらしい。


 勇者とはいえ、国や街を救う必要は無い。

 彼らからすれば異世界人がどれだけの被害を受けていようが無視して、魔王さえ倒せば元の世界に帰れるのだから。


「たったひとりで魔物の大群に立ち向かう彼に、私たちは勇気を頂きました。彼が魔王を倒したわけではありませんが、私は彼こそ真の勇者様だと思っています」


 昔読んだ絵本には、魔王を倒した勇者は確かに強そうに描かれていた。


 だが、その勇者は敵が本当に強く、仲間の勇者がピンチにならないとほとんど話に登場してこなかった。


 街や村を救って、人々から感謝されている勇者は別の人物が描かれていた。


 恐らく、そっちがティナの言う真の勇者なのだ。


「その真の勇者様と私は一緒に過ごす機会が多く、いつからか彼をお慕いするようになっていました」

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