第11話 仲間の実力(2/2)

 

 リューシンは右腕の服の袖を捲りながら的の正面に移動した。


「竜化!」


 リューシンの叫びとともに、右手の黒い竜の鱗が彼の腕を覆っていく。


 数秒で完全な竜の腕となった。

 彼はその場で腕を振り上げ──


「ドラゴンクロウ!」


 斜めに振り下ろした彼の爪から斬撃が飛んだ。


 それはいとも容易く的を切り裂くと、さらに的の後ろの壁に大きく傷を付けた。


「的を切り裂くだけでなく、的の十倍の強度があるこの訓練所の壁にも傷をつけるとは。さすが戦闘タイプのドラゴノイドと言ったところでしょうか」


「こんなもんです」


 竜化を解いたリューシンはちょっと満足げだった。対してリファは、自分が貫通させられなかった的を容易く切り裂かれたことを悔しそうにしていた。


「先生、あの的って──」


「はい、リュカさんの想像通りの素材を使用していますよ」


「では、次は私が行きたいです」


「はい、お願いします」


 リュカが的の側まで歩み寄る。

 近接攻撃魔法を使うんだろうか?


 そんなことを思っていたらリュカの身体が光り始めた。


「竜化!」


 リューシンの時とは違いリュカの全身の鱗が少しずつ大きくなった。


 それと同時に、リュカが纏う魔力の総量が爆発的に増加した。


「リザレクション!」


 ──えっ!?


 リファに矢を差し込まれ、マイとメイにボロボロにされ、トドメと言わんばかりにリューシンに切り裂かれた的が、ムクムクと泡立つように元の形状へと戻っていった。


 三十秒ほどで的は、リファが攻撃する前の状態になっていた。


「これが竜の巫女の回復魔法ですか」


「……先生、やはり知ってたんですね」


「あの!ティナ先生、なんで的が元に戻ったんですか?リザレクションは死者蘇生の魔法では?」


 リファがティナに質問する。


「確かに、リザレクションは死亡してすぐの人の命を繋ぎ止める魔法です。この魔法自体も使用できる人は少ないのですが、リュカさんは更に特別で、魔力が通っている物であれば、それが壊れる前の状態に戻すことができます」


 普通、リザレクションが効果を発揮するのは復活させる人が死亡して一時間以内。


 だが、この世界では人でも魔物でも死体に一日程度、生前の魔力が残るので、通常は一時間以内に蘇生しなければ間に合わない死人も、死亡して一日以内にリュカのもとに運ばれれば復活できる可能性があるのだ。


「的にはマホノームという魔法耐性が非常に高い魔物の皮を使用しています。この皮を加工して、一定の魔力を流し続けることでマホノーム並の魔法耐性を的に付与することが可能です」


 つまり、的は生きてはいないが、魔力が通っている物体であったため、元の状態に戻すことができたということのようだ。


 魔力が宿っていさえすれば、壊れた魔道具なども治癒できるらしい。


 もはやチート級の能力ではないだろうか?


「的も治ったので、次いきましょーか」


「次はウチがやる!」


 獣人族のメルディが手を挙げていた。


「私もサポートとして、メルディさんと一緒にやってもいいでしょうか?」


 ルナも手を挙げた。


 ルナは味方のステータスを向上させる魔法が使えると、昨日の食事の時に教えてくれた。


「そうですね。残りの皆さんの中ではおふたりの組み合わせが最適でしょう。メルディさんも良いですね?」


「ウチはええよ、よろしくねルナちゃん」


「はい、全力でサポートします!」


 ルナとメルディが元の姿に戻った的の前に立つ。


「でわ、行きますね」


 ルナが魔力を練りながら息を吸う。

 そして──


「マジックアップ!オーバーマジック!マクスマジック!フィジカルアップ!パワーアップ!スピードアップ!コンセントレイアップ!」


「えっ?えっ!?──っおお!」


 様々な色のオーラがメルディの身体を覆った。


 メルディは始め戸惑ったか、自身のステータスが強化されていることに気づいたようだ。


「これはアツいでぇ!」


 メルディが的に対して半身になり、身体の正面で拳を構えて集中力を高めていく。



「飛空拳!!」


 メルディが叫んだとほぼ同時に的が消えた。


 的はしっかりと固定されていたはずの台座から吹き飛ばされ、後ろの壁に叩きつけられ、粉々になっていた。


 メルディは拳を突き出したポーズで固まっていた。


「お、おぉう、やりすぎてもぅた」

「す、凄いですね」


 拳に魔力をのせて撃ったメルディも、メルディのステータス強化したルナもここまでの威力になるとは思っておらず驚いている。


「まじか、負けた……」


 的を真っ二つに切断するに留まったリューシンが粉々になった的を見て悔しそうにしている。


「うん、やはりおふたりの相性はバッチリのようですね!お疲れ様でした」


 ティナは満足そうだ。


 そして、ティナが手に持っている杖で床を叩くと、粉々になった的が消え、新たな的がまた床の下から現れた。


「後おふたりですね。どちらがいきます?」


 有無を言わせず次へと進めていく。ティナの言葉に何か違和感を覚えたが、恐らく気のせいだろう。


 残りは俺とルーク。

 トリは嫌だなーと思っていると──


「俺がいきます!」


 ルークに先を越された。


「ハルトはティナさんに魔法教わってたんだろ?絶対強いじゃん。トリは勘弁!だから俺、先やらせてもらうからな」


「えっ、いや、俺は──」


 俺はレベル1なんだけど、と言いたかったが、そんなこと絶対信じてもらえないし、ティナのようにステータスボードを見せて納得してもらうことも呪いのせいでできない。


「では、次はルークくんですね。お願いします」


「はい!」


 ティナに促され、ルークが新たに用意された的の前に立つ。


「じゃ、いきますねー」


 ルークの周りに魔力が集まっていく。


「望むは破壊、種は雷、贄とすべきは我が力、与えられし彼の盟約によりて、我の下僕となり得た者よ、其の力、今解き放たん」


 や、やばい!この魔法は!


 ティナの方を見ると彼女も気づいていたらしく、杖を掲げ、俺達の周囲に張られた防御魔法の強化をしていた。


「アルティマサンダー!!」


 ピカッ


 ズドォォォォオオオオン!


 空から幅が数メートルもある雷の柱が的に降り注ぎ、的を破壊した。


 余波で訓練所内に暴風が吹き荒れる。ティナが防御魔法を強化してくれていたお陰で、俺たちへの被害はなかった。


 舞い上がった粉塵が晴れ、的のあった場所を見ることができた。


 的はもちろん、それを固定するための台座と床の一部まで消し飛んでいた。


「ティナ先生、ルークの今の魔法って究極魔法ですよね?」


「そうです。彼の名前はルーク=ヴェル=イフルス。このイフルス魔法学園の長である賢者、ルアーノ=ヴェル=イフルスのお孫さんで、ルアーノ学長と同じく、究極魔法を使いこなせる数少ない魔法使いです」


 なんと俺が親友認定した男は究極魔法が使え、更にこの魔法学園の長の孫という、とんでもない魔法使いだったらしい。


 えぇー、俺この後に魔法つかうの?


 物凄く気が重かった。

 何せ、俺は最下級魔法しか使えない。


 単発ではリファのような貫通力も、リューシンや、ルークのような破壊力も派手さもない。


 補助魔法も一応つかえるが、ルナのようにマクスマジック《魔力最大強化》など高位補助魔法は使用できない。


 何とか誤魔化せないか必死に考えていた、その時。


「最後はハルトくんですね。あの、ハルトくんは全力出さないでください。三割くらいの力でいいです」


「えっ?」


 ティナがよく分からないことを言い出した。

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