第10話 仲間の実力(1/2)
俺の専属童顔メイドが、なんと百年前に魔王を倒した英雄のうちのひとりだった。
「ティナっていくつなんだよ……」
「ティナ先生、です。それからハルトくん、女性の歳を聞いちゃダメですよ」
「うっ。ご、ごめんなさい」
「先生、質問があります!」
リファが勢いよく手を挙げた。
「リファさんですね、なんでしょうか?」
「ティナ=ハリベル様と言えば私たちエルフ族の間でも伝説の英雄ですが、異界から来た勇者様たちと魔王を倒した後、行方不明になっていたはずです。先生がほんとにティナ=ハリベル様だと証明できますか?」
「ステータスボードを見てもらうのが早いですね」
そう言ってティナが俺たちに見えるようステータスボードを表示させた。
「ほ、本物……」
「レベル250!?」
「えっ、ティナさんって、こんなに強かったの?」
皆驚いている。ルークとルナも、昨日美味しい夕飯を作ってくれた童顔メイドが、こんな化け物じみたステータスの持ち主とは思いもよらなかったことだろう。
「我も聞きたいことがあるのじゃが、良いかの?」
「はい、ヨウコさんどうぞ」
「そなたのような高レベルの者が何故、我等のような若輩者の教師になろうなどと思ったのかの? そなたにメリットなどないじゃろう」
「んー、大した理由はないですが、強いて言うならお留守番が暇そうだったから、ですかね」
「留守番?」
ヨウコは理解できなかったらしい。
恐らく、俺が授業を受けている時間、ティナが屋敷にひとりでいるのが退屈そうだったから教師になることを決めたのだろう。
しかし、そんなに簡単にこの魔法学園の教師になれるものだろうか?そんなことを考えているうちにティナへの質問タイムが終わった。
「さて、私が教師としては力不足でないことはステータスボードを見て、分かってもらえたと思います。早速ですが訓練所へ移動して授業を始めますよ」
──***──
ティナに連れられ、俺たち十人は教室に併設された野外訓練所にやってきた。さすがに学園の中央に近いこともあり、施設の質がいい。
また、厳重な防御魔法が訓練所自体にかけられており、高威力の魔法を使用しても外に影響が出ないようになっているようだ。
「皆さんはこれから同学年や上級生のクラスと競い合っていくことになります。このクラスの教室は中央街に近いので、多くのクラスから対戦を申し込まれることでしょう」
イフルス魔法学園にはクラス間対戦システムというものがある。事前にルールや、勝敗によってお互いが勝利した際に得られるものを決めて、魔法による戦闘や競走などを行う。
対戦の勝敗により教室の入れ替えも起こり得るのだ。そして中央街に近い教室に居る上位クラスは、一定期間のうちに必ずどこかのクラスと対戦をしなければならない。
これは上位クラスが中央街付近まで教室を近付けたあと、その教室をキープするために対戦に参加しなくなることを防ぐための決まりであった。
「この教室の対戦ノルマは月一回です。この付近は美味しいケーキ屋さんや、パン屋さんなどがありますし、学園最大の図書館の利用も認められます。なので、ぜひとも対戦で勝ってこの教室をキープしてくださいね」
ティナがそう軽く言うが、月一回の対戦ノルマがキツそうだ。ルークがあることに気付き口を開く。
「いくつかのクラスが同じクラスに対戦を申し込んだ場合って、確か上位のクラスが優先されるんですよね?」
「ルークくん、その通りです」
「うちのクラスは上級生からも狙われそうだから、毎月上級生たちと戦うことになるかもしれないってことですよね」
「まぁ、そうなるでしょうね」
「……この教室キープするの、新入生の俺らでは厳しくないですか?」
「負けても死ぬことはまず無いので、そこまで気を張らなくていいですよ。それに私が指導するのですから、皆さんはそうそう負けないでしょう」
ティナのその自信はいったいどこから出てくるのだろうか。
「ところで皆さんは私が来る前にお互い自己紹介しましたか?」
「しました。先生」
リファが代表で答えてくれた。クラス委員を決めるとしたら、リファがなるだろう。率先してクラスのまとめ役になってくれそうだ。
「そうですか。では、次はお互いの魔法を紹介しあっていただきたいと思います」
ティナがそう言いながら手に持っていた杖で床を軽く叩くと、訓練所の奥に俺が見慣れた魔法訓練用の的が現れた。
「今からあの的に向かって全力で魔法攻撃をしてもらいます」
「全力でいいのか?」
リューシンが尋ねる。
「えぇ、全力でお願いします。これから皆さんはクラス一丸となって対戦に挑んでいくわけですが、互いに協力し、長所を活かしつつ短所を補わなければ上級生には勝てません。互いの全力を知ることは仲間を深く理解する第一歩です」
「分かりました。先ずは私から行っていいでしょうか?」
リファが手を挙げていた。
「ありがとうございます。ではリファさん、こちらに立って下さい。その他の皆さんは私の後ろへ」
指示された通りティナの後ろに立つと、透明の魔力の膜が俺たちを囲んだ。ティナの防御魔法だ。
「リファさん、準備ができたらいつでもどうぞ」
「はい!」
リファが半身になり、左手を前に突き出すとそこに翠色の弓が現れた。その弦を引くと周囲の空間から魔力が集まり始め、魔力が矢を形成していく。
既に矢は形になったが、リファはまだ撃とうとしない。空間から集まる魔力はどんどん矢に溜まっていく。
膨大な魔力が箇所に集中した事で周囲の空間に揺らぎが生じ始めていた。
「ウインドアロウ!」
リファが矢を放った。
風を纏った矢が超高速で的に向かって飛んでいく。
ズドンッ
矢が的に当たった音とは思えない衝撃音が響いた。
貫通こそしなかったが、中級魔法ではビクともしないはずの的に、リファの矢は半分ほど突き刺さっていた。
「一点に集中させているとは言え、あの的の中ほどまで矢を刺し込むとは、素晴らしい貫通力です!お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
空間に漂う魔力を集めることができるのが、エルフ族の特徴だ。その中でもリファはより多くの魔力を集めることができるようだ。
「次は誰がいきますか?」
「「私たちがやります」」
マイとメイが揃って手を挙げていた。
「マイさんと、メイさんですね。それではどうぞ」
マイとメイはふたり揃って先程までリファがいた場所に立った。
「あのふたりは一緒に魔法を使うのかの?」
「えぇ、彼女たちは少し特殊ですので、ふたり同時にやってもらいます」
ヨウコの質問にティナが答えた。
ティナは生徒全員の事情を把握しているようだ。
マイとメイを見ると、ふたりは手を繋ぎ、繋いでいない方の手を的に向かって突き出した。
マイの周囲から熱気が、メイの周囲からは冷気が溢れ出す。
「「ユニゾンレイ!」」
炎を帯びた氷の塊が的に向かって彼女たちの手から飛び出した。
ドゴォォォオン
それが的に当たった瞬間、大爆発を起こし白煙が立ち込めた。氷が一瞬で温められたことにより、水蒸気爆発が起きていた。
「正反対の属性魔法をここまで融合させられるとは。さすがとしか言えませんね」
リファの時と同じようにティナが魔法を褒める。確かに凄い威力だった。的は何とか原型を留めているが、表面はボロボロだった。
「さて、次は」
「俺がやる」
リューシンが前に進み出た。
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