第9話 担任は元伝説

 

 掲示板に書いてあった教室へと移動している。イフルス魔法学園では同学年であっても、クラス同士が近くの教室になることはない。


 教師一名と学生十名がクラスというひとつの組織になる。


 授業で高威力の魔法を使うこともあるので、暴発などの対策のため、各クラスの主な拠点となる教室は学園の敷地内に散らばっていた。


 この学園は中央に行くほど重要な施設が多くなる。中央に近づくほど、生活は便利になるし、学生が使える図書館や訓練施設などの質も上がるのだ。


 そして、テストや実技で優秀な成績を残したクラスは教室が学園の中央に近い教室へ移動となる。もちろん、その逆も有り得る。


 また卒業後、就職活動をする時は在学中にどこまでクラスを中央まで近付けられたかがステータスにもなる。


 学生達は皆、卒業するまでに教室を中央に近付けるため、クラスの仲間と協力しながら他クラスと競い合うのだ。


 そういった訳で通常、なんの実績もない新入生の教室は学園の中心から最も遠い場所にある。だが、掲示板に書かれてていた俺達の教室の場所は学園の中央街のすぐ側だった。


「なぁ、ほんとに伯爵家の力使ってないのか?ここ、ほぼ中央街だぞ」


「周りにいる方々、皆さん上級生か研究員の人みたいなんですけど」


 ルークとルナはこの場所であっているのか不安になっているようだ。それもそうだ、ルナの言うように周りを歩いているのは上級生や、貫禄のある魔法使いたち。


 新入生だと分かるローブを着ている俺たちは完全に浮いた存在だった。でも、ここに来る途中見つけた案内板によると、俺たちの目の前の最近できたばかりだと思われる綺麗な建物が俺たちの教室だとなっていた。


「だから、俺はなんもしてないって。もしかしたら俺らの担任の先生が物凄い魔法使いとかだったりするんじゃないか?」


 生徒の成績でクラスの教室は移動になるが、担任の先生が何らかの成果を上げても教室が移動になる。


 つまり、著名な魔法使いが担任になれば、それだけで学園の中央に近付くこともできるのだ。しかし、実際そんな著名な魔法使いが新入生の担任になることなどほとんどないらしいが。


「とりあえず中に入ろう」


「そうだな」


「で、ですね」


 俺を先頭に建物に向かっていく。建物の正面入口の左右には騎士の石像が立っていた。


「まて、この施設には資格のある者しか入ることはできん」


「「「えっ!?」」」


 俺が扉に触れようとすると、二体の石像が急に動き出し、俺の動きを止めた。この石像は恐らく、魔法使いの屋敷の警護で利用されるガーゴイルに似たものだろう。


 しかし、この石像はあまりに滑らかに動き、流暢に話し掛けてきたので驚いた。ルークとルナも驚いている。


「資格ってなんだ? 俺たちのクラスの教室はここだって書いてあったんだけど」


「そうか、では名を明かせ」


「名前?ハルトだけど」


「ふむ、後ろの二人は?」


「ルークだ」

「ル、ルナです」


「全員の声紋を確認した。皆、ここに入る資格を有する。さぁ通るがいい」


 石像が道を開けると自動で扉が開いた。そして石像は動かなくなった。


「入っていいんだよな。なんなんだこいつは」


 ルークが石像を指で突っついている。


「変に触って怒らせるなよ。この石像、戦ったらかなり強いぞ」


「ですね、魔法使いでは高レベルの人じゃないと勝てないと思います」


「ハルトもルナも、なんでそんなこと分かるんだ?」


「まず石像なのに動きが非常に滑らかだった。多分、関節部分に土魔法と水魔法の錬成魔法陣が使われてる。ガーゴイルとか石像タイプの人造魔物の弱点って小回りが利かない所だけど、こいつはその錬成魔法陣のおかげで隙がない」


「ハルトさんの言う通り、高度な魔法陣がいくつも使われてると思います。ですが、その魔法陣の魔力をほとんど感じられません。つまりマジックキャンセラーという鉱石が体表に使われている可能性がありますね」


「そうだな。マジックキャンセラーは質にもよるけど、中級魔法ぐらいだったら無効化できる」


「こいつ、すごくない?」


「あぁ、だからルークが突っついて怒らせちゃう前に早く通ろう」

「そうですね」


「あ、ちょっとまってくれ!」


 俺とルナはさっさと建物の中に入った。ルークも慌ててついてくる。高度な人造魔物が警護するこの建物で、どんな授業が行われるのか少し楽しみになった。


 正直、俺の専属メイドであるティナが優秀すぎて、世界有数の魔法学園と言っても大して学ぶことはないだろうと思っていた。魔法学園に来るより、ティナの教えを受けていた方が絶対強くなれる。


 だが将来、安定した職に着くにも、ギルドに入ってパーティを組んで冒険するにしろ、イフルス魔法学園を卒業したというステータスは非常に有益なものとなる。


 だから授業が退屈だとしても魔法学園に来たのだ。しかし、その授業も楽しめそうだ。



 ──***──


 教室に着いた。


 中には七人の生徒が各々の席に着いていた。


「貴方たちで最後ですね。私はリファ、よろしくお願いします」


 エルフ族だと見受けられる金髪蒼眼の美少女が席を立ち、俺たちを教室の中へと招いてくれた。


「ハルトだ。よろしく」

「ルナです。よろしくお願いします」

「俺はルークね、よろしくー」


「ウチはメルディ、仲良くしてなぁ」


 オレンジ色の髪の毛から、獣耳がひょこっと見える少女が窓際の席から手を振っていた。


 彼女は獣人族だろう。獣人族は身体能力が高く、多くは戦士系の職に適性が出る。獣人族なのに魔法学園にいるメルディは珍しい存在だった。



「俺はリューシン、んでこっちはリュカね」


 獣人族よりレアな存在がいた。リューシンとリュカの腕や額には竜の鱗があった。彼らは竜人族、別名ドラゴノイドという種族だ。


 ドラゴノイドは竜神の血を引く種族だと言われている。リュカは恥ずかしがり屋なのか、リューシンの後ろに隠れている。



「我はヨウコじゃ、よろしく頼む」


 ヨウコと名乗った少女はこの学園の制服ではなく着物を着ていた。そして俺の目には他人の魔力もぼんやりと見えるのだが、ヨウコの後ろには九本の魔力の塊が見えた。


 ルークたちがヨウコを見ても服装以外に触れないので、尻尾は俺以外見えていないのかもしれない。つまりヨウコは尻尾を隠してるつもりのようなので、俺はそれを見なかったことにした。



「「マイとメイです。よろしくお願いします」」


 完全にシンクロしながら自己紹介してきたふたりの少女。どっちがマイでどっちがメイかまるで分からない。


 とにかく、彼女らが俺たちのクラスメイトとなるわけだ。


「あの、ハルト様? 伯爵家ご子息であると見受けられるのですが……」


 教室に俺たちを招き入れた時のフランクな態度からうって変わり、リファが畏まった様子で話しかけてきた。俺のローブの伯爵家子息を表す印に気づいたようだ。


「うん、シルバレイ伯爵家の三男、ハルト=ヴィ=シルバレイだ。でも、このクラスではただのハルトとして過ごすから特に気にしなくていいよ。これから、よろしくね」


「それは助かります。改めて、よろしくお願いします」


 全員の自己紹介が済んだので、俺とルークそしてルナは空いている一番前の列の席に着いた。


「お主がこのクラスにおるから、我らも優遇されてこのような教室に来れたのかの?」


 前から二列目、俺の後ろの席に座っているヨウコが話しかけてきた。


「んー、俺としては何もしてないんだよな。でも父上が何かしら働きかけた可能性はある」


 さすがにそう思い始めた。そうでもなければいきなり新入生がこんな学園の中央付近の教室に来れることなどないからだ。


 とすると、担任の先生も著名な魔法使いを手配してくれたはずだ。さて、誰が来るだろうか。そんなことを考えていると教室の扉が開いた。



「……ティナ?」


 扉を開けて入ってきたのは俺の専属メイド。いつものメイド服と違い、まるで学園の教師のような格好をしている。


と呼んでください、ハルトくん」


「えっ!?」


「皆さん、初めまして。ティナ=ハリベルです。今日から皆さんの授業を担当致します。よろしくお願いしますね」


「ティナ=ハリベルじゃと? 百年前に勇者達を導き、魔王を倒した英雄と同じ名前じゃの」


「あ、それ私です」


 ──えっ!?

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