第8話 ルークとルナ
「と、友達!?」
「そう、友達。俺はハルト、シルバレイ伯爵家の三男だ。俺と友達になってくれないか?」
「いや、あの、貴族の方と友達になると言っても……」
「じゃあ、さっきの『馬鹿』って呼ばれた件、父上に報告しようかな」
「それはやめてください! ってか、友達になろうってやつを脅迫すんな──って、す、すみませんん!」
「おっ、じゃあ友達になるってことでいいよね。そっちが素の喋り方だろ? そのままでいいよ。友達だしな」
「あぁ、もう……分かったよ。俺はルーク、よろしくな」
「うん、よろしく」
俺が手を出すとルークは自分のローブでさっと手を拭いてから、俺の手を握った。
なんだかなー、細かいとこで気を使える、ほんとに良い奴だ。
「あ、あの……私もおふたりと仲良くしたいです」
すごく遠慮がちに、先程助けた女子生徒が話しかけてきた。
もちろん断るはずがない。
「君も俺らと友達になってくれるんだね。俺はハルト、こっちは親友のルークね」
「お前が紹介するのか!? ──って、親友て」
ルークの名前もさっき知ったばかりなのに、何故か親友と呼んでしまった。ルークとのやり取りが面白くて、つい。
呼ばれたルークは少し照れてる様子だが、悪い気はしていないようなので問題はないだろう。
「私はルナと言います。よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
「よろしくね」
こうして俺に、ふたりの友人ができた。きっとティナに報告したら、すごく喜んでくれるだろう。ティナは俺に学園で友達ができるか不安がっていたからな。
そんなことを考えながら、俺はルークとルナと共に入学式の会場へと足を運んだ。
──***──
入学式は割と早く終わった。
今はルークとルナを引き連れて、学園の敷地内に作られたという俺の家に向かっている。早くティナに二人を紹介したくて、俺は若干早歩きになっていた。
「しかし、伯爵家ってのはすげーんだな、まさか学園内に家を建てるなんて」
「しかもメイドさんも居るんですよね。確かこの学園って学生以外は普段、親族でも入れなかったはずでは……」
「へへ、すごいでしょ」
ちょっと自慢げに語ってみたが、内心俺は焦っていた。俺の家が見つからないのだ。ティナから渡されていた地図ではこの辺のはずだが……
「なぁハルト、もしかしてだけど、お前の家って、アレか?」
「えっ?」
ルークが指さす先には学生が数十人暮らせるような大きさの屋敷があった。俺が住んでいたシルバレイ伯爵邸の五分の一程度のサイズだが、学園の敷地内にあるものとしては極めて異質な、庭付きの豪邸がそこに建っていた。
正門には『シルバレイ』と文字が彫ってある。
……マジか。
てっきり元いた世界の小さめの一軒家、部屋数が多くても2LDKくらいの家が与えられたものと思っていた。
「伯爵様ってすごいんですね」
ルナが唖然としている。
俺だってビックリしている。
外にいても仕方ないので、ルークとルナを連れて屋敷に向かった。屋敷の扉に付いている呼び鈴を鳴らすと、少ししてティナが中から現れた。
「ハルト様、おかえりなさい」
「ただいま、ティナ」
「ハルト様、この方々は?」
「紹介するよ、今日出来た俺の友達。こっちがルークで、彼女はルナ」
「ルークです。よろしくお願いします」
「はじめまして。ルナと言います」
「まぁ!ハルト様、もうお友達を作られたのですね、おめでとうございます」
「うん、ありがと。それでさ、せっかくだからルーク達と一緒にご飯食べたいんだけど、いいかな?」
「もちろんです。直ぐに準備しますね。皆様はリビングでゆっくりなさっていてください」
「はーい」
ティナがキッチンへと向かっていった後で、リビングの場所が分からない事に気付き、ルーク達と一緒に屋敷の中を歩き回り、扉を開けまくった。ようやく見つかったリビングらしき部屋で椅子に座ると直ぐにティナが呼びに来た。
屋敷が広すぎる。
絶対、俺とティナだけでは使わない部屋も出てくるので、ルークやルナ達もここに住んだらどうかと提案してみようと考えていた。
ティナの作る夕飯は相変わらず美味かった。
ルークとルナも満足してくれたようだ。
食後、ルーク達は自分の寮に帰ると言い、俺は明日、一緒に教室まで行こうと約束した。色々あったが、充実した魔法学園初日となった。明日から魔法の授業が始まる。
楽しみだ。
だが、その前のイベントとしてクラス発表がある。できればルークやルナと一緒のクラスになりたいな。そんなことをティナに話したら、ティナがどこかに出かけていった。
一時間ほどで帰ってきたが、ニコニコするティナにどこに行っていたのか聞いても答えてくれなかった。
──***──
翌朝、ルークとルナと待ち合わせをした場所に向かうと、既にふたりが待っていた。
「ごめん、遅くなった」
「いや、時間通り」
「ですね、私も今来たところです」
「なら良かった。クラス、一緒になれるといいね」
「三人一緒は厳しいかもしれませんね。三十クラスもありますから」
今年入学する学生は三百人。そして一クラス十人なので、クラスの数は三十にもなるのだ。三人が一緒のクラスになれるのは確率的に言って、絶望的だった。
「ハルトなら伯爵家の力で何とかなんないの?」
「いや、さすがに無理だよ。大体、ルーク達と友達になったの昨日だからね。根回しの時間が足りない」
「それもそっか」
「そうですよね……」
俺に非常に甘く、学園に豪邸を建ててしまう父上であれば、俺がお願いしたらクラス編成を弄らせたりすることはできるかもしれない。
でも、さすがに昨日の今日では何もできやしないだろう。そう思いながら俺たちはクラス分けが貼られる掲示板に向かった。
──***──
結論から言おう。
俺たちは三人とも同じクラスになった。
誰かの名前が描かれていた所を消して、俺たち三人の名前を書いたようだ。うっすらと先に書かれていた名前が読み取れた。
消されていた名前の1人は昨日、ルナに絡んでいたゾルディ男爵家の子息であるナードに見えるが……
まぁ、細かいことはいい。
今はルークやルナと同じクラスになれたことを喜ぶべきだ。
「まさか三人同じクラスになれるとは……やっぱり、伯爵家の力でなんかやったんだろ?」
「俺は何もしてないって。それより、俺らのクラスだけなんで担任の名前が無いんだ?」
「ほんとですね、他のクラスにはそれぞれ先生の名前が書いてあるのに」
俺達のクラスの担任の名前も、元は書いてあったようだが消されていた。
何かがあるような気がする。
でも、今は考えても仕方ない。
授業が始まれば、少なくとも担任が誰かは分かるはずだ。俺はルークとルナと共に、教室へ向かった。
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