第二章 魔法学園
第7話 入学
俺が転生してから五年の月日が過ぎた。今年俺は十歳になるのだが、体格的には元の世界の十五~十六歳くらいになっていた。
身長も結構伸びて、今ではティナを少し見下ろせるほどだ。どうやらこの世界の人族は、身体の成長が早いらしい。
一方で肉体が衰え始めるのは遅い。つまり青年期が長いのだ。若く、強い期間が長いというのは素晴らしいと思う。
まぁ、千年以上生きるエルフやそもそも寿命がない種族もいるので、ちょっと青年期が長いくらいは誤差の範囲かもしれない。
話は戻って今年十歳になる俺は今日、イフルス魔法学園に入学する。イフルス魔法学園はグレンデール王国にある学園だが、規模が大きすぎてそれ自体がひとの街のようになっている。
国内だけでなく、周辺諸国から魔法を学びに来る学生や、魔法の研究のためにやってくる魔法使いたちも多い。今年入学する学生だけで三百人も居るらしい。
「ちょっと緊張しますね」
「入学するのはティナじゃないだろ」
俺はティナと共にイフルス魔法学園の正門をくぐろうとしていた。基本的には魔法学園に入学する生徒は全員、学生寮に入りひとり暮らしをすることになる。
俺としては寮でのひとり暮らしを頑張るつもりだった。元の世界では両親がいない時、料理や洗濯などは自分でやっていたので問題ないと思っていた。
入学二日前、父親に呼び出され何かの鍵を渡された。イフルス魔法学園に作ったという俺用の屋敷の鍵らしい。更に俺の世話と屋敷の管理のためにティナも付いてくるとのこと。
一般の学生には学園の土地の一部を買って家を建てることなど絶対にできない。もちろん、入学する学生以外が学園に付いてくることなどでき来ない。俺は伯爵家の力を少し舐めてた。
まさか、ここまでやるとは……。
また、今着ているローブとマントは近くを歩いている一般の学生たちとは少し異なっている。貴族であることと、爵位が分かるようになっているのだ。
俺のローブには襟の部分に三本線が入っている。これが伯爵子息を表す。一般の学生が貴族へ無礼を働かないようにするためのものだという。
「ハルト様は緊張なさらないのですか?」
「いっぱい勉強してきたし、何より先生が優秀だったからな」
「ふふふ、生徒さんもすごく優秀でしたよ」
五年間、ティナから魔法に関する知識と実技を教え込まれた。ティナに見つからないよう、コソコソ魔法の自主練習も行ってきた。
自主練の過程で分かったことがある。
俺はステータス固定の呪いのせいで魔力は減らないが、魔力を一度に十以上消費する魔法はどう足掻いても使えなかった。
だから俺は最下級魔法を極めることにした。ティナに魔法の高速発動のコツを聞いたり、魔法の組み合わせについて相談したり。
一人でひたすら魔法を組み合わせていて、魔法が暴発し、ティナに怒られたこともあった。
色々あったが五年もの間、真剣に魔法の訓練をしてきたおかげで、俺はこの世界に存在する全ての属性魔法を使いこなせるようになった。
ただし、各属性の最下級魔法だけ。
それでもティナから教えられた知識、全属性の魔法が使えること、更に伯爵家の影響力があれば、俺は学園で落ちこぼれたり、いじめられたりすることはないんじゃないかと考えている。
親の威光を盾に権力を振りかざす気は無いが、俺が快適に学園生活を送るうえで必要ならば、使えるものはなんでも使わせてもらう。
さぁ、楽しい異世界学園ライフの始まりだ。
──***──
「それでは、私は屋敷へ先に向かっています」
「うん、分かった」
学園の敷地内に入る手続きを済ませると、俺は入学式の会場へ、ティナは屋敷へと向かった。ずっとティナが付いてくるわけではない。
俺が授業を受けている間、ティナは基本的に屋敷で待機となる。自宅の外でひとりになるのは久しぶりで、ちょっとわくわくする。
軽い足取りで入学式が行われるという建物へ向かっていると、ひとりの女子生徒が三人の男子生徒に囲まれ、罵声を浴びせられていた。
その様子を周りで見ている生徒も結構いる。
「どこ見て歩いてんだ。痛ぇじゃねーか」
「ご、ごめんなさい」
一番偉そうにしている男子生徒が女子生徒に詰め寄る。女子生徒は今にも泣きそうだ。
「貴方、この方がゾルディ男爵家のご子息だと分かっているのですか?」
「ただ謝って許されると思ってるんじゃねぇだろうな」
男爵家の息子だという男子生徒の両脇にいるメガネをかけた細長い男子生徒と、小太りで背の低い男子生徒が、男爵家子息と一緒になって女子生徒を責め立てている。
「あの子が奴らにぶつかったの?」
俺は周りで見ていた男子生徒に声をかけた。
「いや、あの真ん中の男が女の子に当たりにいってた」
彼は男爵家子息が女子生徒にわざと当たりに行くのを見ていたと言う。責められている生徒は小柄で、肩まで伸びた綺麗なスカイブルーの髪を、ポニーテールにしている可愛い女の子だった。
多分、女子生徒に因縁を付けて、自分のグループに無理やり入れようとしているのではないだろうか。女子生徒が悪くないうえに、可愛い。
これは、助けない訳にはいかないな。
俺は女子生徒に向かって歩き出した。
「あっ、馬鹿、やめとけって!」
さっき俺に女子生徒は悪くないと教えてくれた男子生徒が俺を止めようとする。多分、こいつは良い奴なんだろう。
俺はローブの襟の三本線を手で摘んで男子生徒に見せる。彼は三本線の意味を理解したらしく、顔がさっと青くなった。
そんな彼のことはさておき、俺は今にも泣きそうな女子生徒のもとへ歩み寄る。
「俺の連れに何か用かな?」
「あぁ? なんだお前」
「いや、お前がなんなんだよ。その子は俺の連れだ」
「えっ?」
女子生徒がぽかんとした表情でこちらを見ている。当然だ、俺も彼女のことは何も知らない。でもそんなこと、今はどうでもいい。
「お前、俺が誰だと──」
「ナードさん、この方は伯爵家ご子息であると思われます。ここは下がりましょう」
メガネが俺のローブの襟の三本線に気づいたようだ。
「あぁ、下がってくれるなら問題ない。こちらとしては事を荒立てることはしたくないからな」
「ちっ、お前ら、いくぞ」
メガネと小太りの生徒を引連れ、メガネにナードと呼ばれていた男子学生はその場を去っていった。
「大丈夫? 災難だったね。貴族はあんな奴らばっかじゃないから気を悪くしないでね」
「あ、あの……。助けてくださったんですか?」
「うん。余計なお世話だった?」
「い、いえ。ありがとうございます。いきなり囲まれて、怒鳴られて怖かったです」
俺は女子生徒を助けられてほっとしていた。そこへ、このやり取りを見ていた男子生徒が近くに寄ってきた。先程、俺が襟の三本線を見せた男子生徒だ。
「あの、先程は伯爵様のご子息とは知らず無礼な物言い、大変失礼しました!」
ビシッと身体を折り曲げて謝罪してきた。当然、俺のことを気にかけて止めようとしてくれていたので、彼をどうこうするつもりはない。それより、俺は彼と仲良くなりたかった。
いつでも走り出せるような体勢だった彼を見て、俺は彼が絶対良い奴だと確信していた。
「俺ってさ、伯爵の息子なんだよね。その俺に向かって『馬鹿』は酷くない?」
「は、はい!申しわけございませんでしたぁ!」
「いや、謝罪は要らないよ。行動で示してほしいわけですよ。行動で」
「行動、ですか?」
「うん、俺と友達になってよ」
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