第6話 邪神の呪い

「ファイアランス!」


 ステータスボードを見ながら魔法を使う。


 魔力:10/10〘固定〙


 やはり、思った通りだ!

 魔力が減っていない。


「ファイアランス! ファイアランス! ファイアランス!」


 魔力:10/10〘固定〙


 連発してみたが、やはり魔力が全く減らない。


 ──仮説が正しかった。


 邪神にかけられた呪いは、ステータスの最大値を固定するものではなく、を固定する呪いなのだ。つまり、いくら魔法を使おうと俺の魔力は尽きることが無い。


「……これって、使いようによっては強くなれるんじゃないか?」


 ティナが昨日破壊した魔法練習用の的と、俺が先程と黒焦げにした的を見比べる。的を破壊するまでは至らなかったが、ティナと同じ魔法を使用して、的にかなりのダメージを与えることができていた。


 レベル1の俺とレベル250のティナの魔法攻撃力には圧倒的な差があるはずだ。しかし、魔法を連発することで、高い魔法攻撃力を持った者にも引けを取らない攻撃力を持てる可能性が出てきた。


 レベル1でステータスが〘固定〙でも、強くなる方法はありそうだ。俺がこの異世界ライフを満喫するために必要なことが見えてきた。


 ①魔法を高速で、かつ連続で撃てるようにすること


 ②魔法単発の威力を上げること


 ①は現時点でもスムーズに魔法を連発できるようになっているが、もっと魔力操作を練習すれば魔法を撃つ速度はまだまだ上がる気がしていた。


 ②についてはまだ確証はないが、いくつかの性質の魔法を組み合わせることで魔法単発の威力を上げることが出来ないかと考えている。


 例えばファイアランスであれば、風の魔法で補助してやることで威力や速度を向上させることができるのではないだろうか。


 俺が元いた世界には火の忍術を風の忍術で強化させたりする忍者漫画があった。その漫画で見た修業方法なども参考に、色々実験をしてみようと思う。


 まずは魔法の高速発動の訓練をしよう。



 ──***──


 気付いたら昼になっていた。二時間くらい、ずっと的に向かってファイアランスを撃ち続けた。もちろん魔力は減ってはいないし、体調にも問題は無い。


 邪神は俺がこちらの世界で活躍できないようにすると言っていたが実は良い奴で、俺にチートスキルの代わりとして、呪いをくれたのではないだろうか。


 ──そう考え始めていた。



「お腹すいたな」


 昼になったが、まだティナは帰ってこない。


「これ、鳴らしたら帰ってくるかな」


 俺の視線の先にはティナが置いていったベルがある。俺は何となく、そのベルを鳴らしてみた。



 ──っ!?


 ベルを鳴らしておよそ十秒後。


 ティナがとんでもない速度で飛んできた。


「ハルト様! ご無事ですか!?」

「いや、無事だけど……」


 唖然とする俺の側にふわりと着地するとティナが詰め寄ってきた。ベルを渡された時、鳴らしたらティナは飛んでくると言っていた。


 俺はもちろん、急いで戻ってくるという意味だと思っていたが、ティナは文字通り飛んできた。


 そういえば、昔ティナに飛行魔法が使えると聞いた記憶があった。消費魔力が多すぎるので滅多な事では使わないとも。


 恐らく、それで飛んでここまで帰ってきたのだろう。


「体調はよろしいのですか? 無理していませんか? 何故、ベルを鳴らされたのですか?」


「お、お腹すいたなーって」


「あぁ、もう昼ですか!すみません、遅くなってしまって。直ぐに用意致します」


 ご飯の用意をしてほしい程度の用事でベルを使ったにもかかわらず、そのことには一切文句も言わないで、ティナは急ぎ足で屋敷に戻っていった。



 ──***──


「消費魔力多いから飛行魔法は使わないんじゃなかったっけ?」


 ティナが用意してくれた昼飯を食べながら、ティナに聞いてみる。


 父や母は日中は外出していることが多く、兄達も仕事や学校で家に居ないため、俺はいつもティナと一緒にご飯を食べていた。


「緊急事態であれば使います。ハルト様の身に何かあったかもしれないというのは、私の中では最大級の緊急事態に当たりますから」


「あー、ご飯の用意程度の用事でベル鳴らしてごめんね」


「その点はお気にならさず。今後もベルをお渡ししておきますので、何かあった際は遠慮なくお使いください」


 ティナはそう言ってくれたが、今後は本当の緊急時のみ使わせてもらうことにしよう。


「そういえばハルト様、もう中級魔法をお使いになられたのですか?」


「ん、なんで?」


「先程、訓練所で魔法攻撃用の的を見ましたがかなりの威力ある魔法で攻撃したような跡がありました」


 ティナに訓練で使っていた的を見られたようだ。あんなに早くティナが戻ってくると思っていなかったので的を片付ける時間がなかった。


「いや、昨日と同じファイアランスだけだよ。昨日よりは威力上がった気がするけど」


「そうですか。あの、本当にお身体は問題ありませんか?」


「うん、大丈夫だから。心配しないで」


 ティナはあまり深く詮索してこなかった。今後は訓練方法にも気を使おう。ティナならば呪いの話をしても、きっと俺の味方であり続けてくれるだろう。でも、全てを打ち明けるにはまだ早い気がする。


 俺自身、呪いに関して分かってないことが多い。もう少し、自分でいろいろ調べてみよう。俺はティナにバレず魔法の訓練をする方法を検討し始めた。

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