第3話 ステータス確認
気づくと横たわっていた。
何だか身体が重い。
周りは暗く、何も見えない。
自分の身体の周りを、何か柔らかいものが包み込んでいるのが分かる。
手を動かしてみる。
──動いた。
でも何故か動かせる範囲が狭い。
その後も身体を動かそうとするが、思うように動かない。あまりに動けないので、頭を働かせることにした。
俺は
邪神のことも覚えている。結局、アイツが俺を転生させた理由すら聞き出せなかった。ほんとに転生してるんだろうか?
更に、呪いをかけられたらしいが……
確認する手段がない。
なんで俺に、呪いをかけたんだ?
意味があるのか?
ステータスが固定されていれば、レベル上げをしまくって無双とかはできない。レベル1のままでは、その辺の雑魚にも負けるかもしれない。
でも、俺には元の世界での知識があるから、いわゆる知識チートでこっちの世界でも何らかの方法で一般人よりは有利になるはず。
……なるよな?
ネット小説では、スキルが弱くても、知識チートでマヨネーズとか作って大金を稼ぎ、ハーレムを作り上げた主人公が居た。
きっと俺もそうなれるはず!
やはりまずは自分の状況を確認したい。動かしにくいが、身体は動くのだ。思いっきり手を前に伸ばしてみた。
「ぁん」
──!?
凄く柔らかいものが手に当たった。同時に色気のある女の声が頭の上の方から聞こえた。
えっ? な、なにこれ!?
俺を包み込んでいるものがモゾモゾ動いたかと思うと、急に周りが明るくなった。暗闇で目を開けていたせいか、眩しくて前が見えない。
上半身を押さえていたものがなくなったようなので、手を目の前の光にかざすとぼんやりと前に誰かが居るのが見えてきた。
「申し訳ありません、ハルト様。苦しかったですか?」
黒髪ショートヘアの美女が、俺の顔を心配そうに覗き込む。幼さの残るその顔とは不釣り合いなほど、たわわに実った胸を俺の前に突き出すような体勢が非常にエロい。
彼女はティナ。
俺の専属メイドだ。
ティナはハーフエルフという種族で、尖った耳がショートヘアから少し見えていた。
まるで何年も前から彼女を知っていたかのように彼女のことが分かる。
──いや、俺は彼女を知っている。
何せ俺がこの世界に生まれて五年、ずっと世話をしてくれているメイドなのだから。
記憶が戻ってきた。
戻ってきたと言うのもおかしいかもしれない。今の俺にはこの世界で生きてきた記憶がある。
恐らく俺はついさっき、このハルトという五歳児の肉体に転生したのだ。
俺が西条遥人として異世界で暮らしていたことも、神界での邪神との会話も、まるで夢であったかのように感じる。
夢のようであったが、元の世界の知識もしっかり覚えていた。
ハルト=ヴィ=シルバレイ
それが俺の今の名前だ。
シルバレイは俺が住む国『グレンデール王国』の伯爵家だ。俺はその伯爵家の三男になる。二日前に誕生日を迎え、五歳になっていた。
ティナは俺の世話係で、寂しがりな俺のために、毎日一緒に寝てくれていた。手を全力で伸ばしたせいで、ティナの胸を押して彼女を起こしてしまったようだ。
「……ごめん、少し嫌な夢を見てた気がする」
「そうですか……では、こうしたら落ち着きますかね?」
ティナに正面から抱きつかれた。
やさしい匂いに包まれる。
そして、柔らかいものが……
「私はいつもハルト様の側にいますからね」
「う、うん」
すごく落ち着く。
ティナにあやされて、五歳の肉体の俺は瞬く間に眠りについた。
──***──
翌朝、ティナに用意してもらった朝食を食べ終え、俺は屋敷の中庭に居た。ティナは朝食の片付けをしている。
俺はまず、邪神の言っていた呪いについて確認しようとしていた。
「ステータスオープン」
そう唱えて手を前に突き出すと、半透明のボードが浮かび上がった。この世界の人間は誰もがステータスボードで自分の状態を確認できる。
ティナに教えてもらった記憶があり、俺は自分のステータスボードの出し方を知っていた。まずはステータスボードの内容を見てみよう。
ステータス
名前:ハルト=ヴィ=シルバレイ
種族:人族
加護:なし〘固定〙
職業:賢者(レベル1)〘固定〙
体力:30/30〘固定〙
魔力:10/10〘固定〙
物理攻撃力:10〘固定〙
魔法攻撃力:10〘固定〙
防御力:10〘固定〙
素早さ:10〘固定〙
器用さ:10〘固定〙
状態:呪い(ステータス固定)〘固定〙
──こんな感じだった。
「……マジかよ」
確かに呪いがかかっていた。
『ステータス固定』という呪いだが、この呪い自体にも〘固定〙がかかっている。
種族は固定されてないので、人間以外になることはできるようだ。
いや、人間辞めて何になるってんだよ!?
そもそも種族って変えられるもんなのか?
加護も『なし』で固定されているため、邪神以外の神様から加護を貰うことも難しそうだ。
レベルだけではなく、体力も魔力も、攻撃力や防御力すらも固定されている。
この世界で強くなるのは絶望的だった。
転生させた理由すら説明せずに、しかもこんな呪いをかけた邪神に殺意が湧いてくる。
ついでに言うと、絶望すべきことがもうひとつ分かっていた。
この世界にはマヨネーズがあるらしい。
ティナが作ってくれた朝食のサラダにマヨネーズが使われていた。この世界には異世界──つまり俺が元いた世界からやってきた勇者たちが伝えたモノや知識が数多く存在するのだという。
俺が生まれる百年ほど前に、世界中を恐怖に陥れた魔王が居た。それを倒したのが異世界からきた五人の勇者たちだ。
彼らのひとりがマヨネーズをこの世界に伝えた。そして彼はマヨネーズ以外にも、彼が持つ不思議な能力でこちらの世界に無かった様々なものを次々と創り出し、この世界の生活を豊かにしてくれたのだ。
この事実を知った時、知識チートで財を成すという俺の計画が音を立てて崩れ去った。
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