第43話、いよいよもって一極集中な展開、はじまる



話したい事があったとはいえ、せっかくこうして登校前に顔を合わせたのだから、そのままの流れで学園へ向かおうか、なんて思い立ち行動に移した時。



「……っ、どうして? 委員長クラスの【生徒】が3人も?」


登校のために敷かれたインターロッキングの道を歩き出してすぐ。

由宇が突然口調を変え、【本校】へと続く通学路の通りを見やり、立ちつくしていた。


それにならい、僕もそっちに視線を向けると。

そこにはよく知った顔……潤ちゃんと、それから【本校】校舎で会った美音先輩と、塩生さんの姿が見えて。



「おー、逃げてく逃げてく。おもしろいように逃げてってるでありますよー」


さらに、二人でポケットはやっぱり窮屈だったのか、再び定位置に戻ったモトカが、そんなことを呟く。

背中越しだからはっきりとは言えないけれど。

それはきっと、増え始めた【付属】の、正確には男子生徒たちのことを言っているんだろう。


思い出すのは、【付属】の生徒にとって【本校】の生徒こそが危険だという由宇の言葉だった。



「世界を守るヒロインやのに、こんなうとまれとるなんて、皮肉なもんやね。潤ちゃんが家近いのに寮暮らしなんは、そのせいなのかもしらへんな」


ポケットの中で、じっと潤ちゃんを見つめたままのクリアのその言葉が、心に響いた。

誰が悪いわけじゃないんだろうけど、何だか無性に腹が立つ僕。


でもそのことで逆に、由宇が僕に対して言っていた、僕が特別だって言う意味がちょっと理解できた気がした。


もう慣れてしまっているのか、気にしないふりをしているだけなのか。

そんな周りの雰囲気なんかお構いましに、こちらへ歩いてくる彼女たち。

考えなくても、僕に何か用事があるんだって分かったから。


「おはよう、潤ちゃん。それと美音先輩と塩生さんも。みんなそろってどうかした? まさかこの僕に会いに来てくれた、とか?」


テンション上げて、笑顔で挨拶。



「え? 吟也、知り合い?」


由宇はそんな僕を見て目を丸くし、彼女たちを見て、バツの悪そうな顔をしつつそう呟いている。

その様子は、彼女たちを他の【付属】の生徒たちのように恐れていると言うのとは単純にちょっと違うみたいだった。


どちらかというと、面倒臭い奴らにあっち待ったぜって感じな、気の置けない様子だろうか。

もしかして、由宇は彼女たちと知り合いか、それ以上の間柄なのかもしれない。



「おはよう、吟也。そのまさかよ。ちょっといくつか聞きたいことがあったから」

「……おはよう」


なんて思ってると、僕の売り言葉をそのまま打ち返すがごとく、潤ちゃんが答え、

続いて塩生さんが口数少なくぺこりと頭を下げる。


「おはよ~にゃー。吟也くん。ををっ、そっちの人は吟也くんのコレかにゃ?」


そして美音先輩は、それこそ格好の獲物を見つけたかのような怪しい笑顔で、

何故かサムズアップ。



「な、な何言って! ……ど、どうも、クラスメートの若穂由宇ですっ」


思わず詰め寄って胸ぐらでも掴み上げそうなそんな勢いすらあったけど。

それも一瞬で、我に返ったかのように憮然とした言葉を紡ぐ由宇。


「三水潤よ。えーと、よろしく」

「どうも。塩生、です」

「あ……は、はいっ。よ、よろしくですっ」


かと思ったら、潤ちゃんや塩生さんの挨拶に対しては、再びかしこまってそう返す。

それはやっぱり、恐れているからなんかじゃなく。

尊んでいるからこそのものに見えなくもなかった。


美音先輩に至っては、親しさすら覚える由宇の態度に、不思議と安心している僕がいた。

それまであったはずのわけの分からないイライラも、自然となくなっていて。



「それで、何か僕の用事があるんでしょ? っていうか、三人知り合いだったんだね」

「ええ、ちょっと縁があって。仲良くさせてもらってるわ。で、その事も含めて、なんだけど……吟也、【付属救援隊】に入ったんですって?」

「うん、美音先輩に歓迎会のこと教えてもらったからさ」


潤ちゃんの言葉を受けて、僕は美音先輩に視線を向けつつそう答える。

でも、さっきまで笑顔だった美音先輩は何だか不満そうな顔をしていた。



「せっかく教えたのににゃ~、せっかく出張中の副委員長の埋め合わせできると思ったのに、吟也くん生徒会室に来ないんだもの」


それは、思わず出た本音だったんだろう。

しかも、僕が生徒会室に辿り着くこと前提なのが、なんというか過大評価されてるなぁって思える。



「いや、それは。どっちにしろ無理だったんじゃないですかね。僕、【本校】のこととか【生徒】のこととか全然知らなかったし、運良く無事だったのも潤ちゃんのおかげだし」


ホントはモトカを助けに行ってたってことがあったけれど。

それを話したら立ち入り禁止の場所へ入ることを見逃してくれた塩生さんの悪い気がして、とりあえずそう誤魔化してみる。



「私のおかげ? それってどういうこと?」

「あ、うん。僕さ、【本校】に広がってる【異世】ってやつ? あんまり影響みたいなんだよね。それって、潤ちゃんが近くにいてくれたおかげだって聞いて……」

「誰にそれを?」

「ああ、この話は由宇から聞いたんだけど」

「え? あ、え? ……その、すいませんっ」


潤ちゃんに視線を向けられ、何故か謝ってる由宇。

まぁ、潤ちゃんってそうさせる雰囲気というか、眼力とかある気がするし、分からなくはないけれど。



「……そう。そうだったら私も嬉しいこと、だけど。やっぱり言うだけあって、吟也にはもともと才能あったんじゃないかしらね。じゃなきゃ、もっと世界に【生徒】が溢れていてもいいはずだもの」


その口調は穏やかで、ホントにちょっと嬉しそうに、潤ちゃんは答える。

昔は中身も、纏う空気のまんまって感じだったけど、しみじみ潤ちゃんっていい方に変わったんだなって思える。


そんな潤ちゃんに、由宇も気付いたらしい。

まだどこか引けてる部分はあったけれど、納得したように頷いている。



「はは、そうだったらいいけど」


たぶん、それは昔から欲しくて、でもずっと得られなかったもののひとつだから、嘘でもそう言われると照れてしまう僕である。



「紅恩寺は自分を知らなすぎ。……君なら、生徒会長にだってなれる、はず」


だけど、そこでそんな僕を諭すように言葉を発したのは、塩生さんだった。



「そう、それよ! 私が一番聞きたかったのは。吟也、あなた生徒会長になること約束したんですって? っていうかあなたたちいつの間に知り合ったのよ。私に一言あってもいいでしょう?」

「え? せ、生徒会長!?」


かと思えばかつての潤ちゃんらしい、そんなセリフ。

それを聞いた由宇はひどく驚いた様子で、僕を見てくる。



「ちょ、ちょっと待って! 何か話が大きくなってない? 確かにそんな約束はしたけれども」


まるで自分から立候補したみたいな言い方に僕自身も動揺を隠せない。

そもそも、なんで僕が推薦されたのかもわかんないのに。



「ひどいにゃあ~。あたしの約束は守ってくれきゃかったのに命ちゃんとだにゃんて~」


でもってそこにかぶせてくる、何だか誤解を招きそうな美音先輩のセリフ。



「ごしゅじん、もてもてやわぁ」

「さすがたいちょー、罪なお人、であります~」


それを、クリアとモトカが助長して。



「紅恩寺、しーっ。……二人だけの秘密」


止めを刺すかのような、塩生さんの言葉がつづく。

塩生さんとしては、鍵を貸したりなんかした件とかのことを言ってるんだろうけど。


「ぎ、吟也~っ! この私に隠し事なんかしていいと思ってるの!」

「わぁっ? 潤ちゃんが昔に戻ったーっ!」


いきなり理不尽な怒り方をする潤ちゃんに、思わずガキ大将だった頃の彼女の姿が重なる。



これは、折檻食らう前にとっとと逃げたほうがいいのだろうか、なんて思いつつも。

ふと頭に浮かんできたのは、潤ちゃんとのお別れのときの記憶で……。



             (第44話につづく)







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る