SS 罪の清算(ラクシャータ、セリア)
魔王討伐が終わっても、そこで何もかもが綺麗に終わるわけではなかった。
やる事は山のようにあり、次に控えている。
国に住む民への説明や受けた損害について考えなければならないし、討伐の間に滞っていた事や後回しにしていた事も進めていかねばならない。
そして、ラクシャータとセリアが臨むのはその中のごたごたの一つだった。
ハーツカルバートに立ち寄った件で明るみになった問題の解消。
彼女達はそれを何とかしなければならない。
一つの部屋の扉の前。
室内に入る前にセリアがラクシャータに確認を取る。
「本当に、良いの?」
「良いのよ。ありがとう。謝っただけで済むと思う程、簡単な事じゃないんだものぉ。仕方が無いわぁ」
周囲には数名の兵士。
その中で話題にしたのは、魔王城の中で明るみになったラクシャータの事実についてだ。
魔王側の手助けをするように行動していた彼女は、魔王の器となる人間を運んだり、魔王討伐時に王宮の兵士が勇者達の力とならないように細工していたのだ。
ラクシャータは謝罪したものの、彼女自身はそれだけでは納得できていなかった。
「本当ならこんな私が貴方達の横でこうして話をしてるのも、おかしな事なんだろうけれどぉ」
「ラクシャータは、仲間」
「そう言うから仕方ないわよねぇ。頼りにされるラクシャお姉さんって罪作りよねぇ、ほーんと。じゃあ、そろそろやりましょうか」
おどけた風に言うラクシャータは、扉の方を見つけて中へと踏み込む。
「……これは私の罪の清算の一つ」
覚悟を決めた表情で。
室内にいるのは、この王宮で働く兵士の長だった。
その兵士は実は、モンスターが襲いやすい町々や村々の情報を、魔王側へと漏らしていた人物だった。
それだけではなく彼はアルガとも通じており、ハーツカルバートの惨状についての情報も遮断していたのだった。見て見ぬ振りができる案件ではない。
「何の様だ、いきなり部屋に踏み込んできて」
部屋に踏み込んだラクシャータは、驚くその人物へ向かって言葉を放つ。
「育ての親だからって、子供の反抗期も予想できないようじゃあ、いつか寝首をかかれるかもしれなわよぉ。……って私、五年前にそう言ったわよねぇ、ボス」
「まさか、俺(おや)を売ったのか」
「自分の利益の為に育てた子供を利用するような奴、親なんて言わないわぁ」
兵士達に連行されていく物の姿を静かに見つめるラクシャータに、セリアがそっと声をかける。
「悪い事に加担していた事実は消えない。でも、同じような人が増えないようにする事は、きっとできる。ううん……」
表には見えない所で傷ついているであろう仲間を労わる様に、そして力強く励ます様に。
「むしろ、それは私達にしかできない事。私達の役目だと思う」
「そう。きっと、そうよね」
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