SS もしも貴方が生きていたら(ユリカ)



 魔王討伐後のごたごたを消化する日々の中、ユリカが疲れた体をしっかり癒す為に眠ろうとすると、部屋に妹のユーリィが訪ねて来た。


 妹は、姉を労わる様に言葉をかけ、気持ちが落ち着くと言うアロマをプレゼント。

 そして、何となく雑談が始まって恋の話となった。


「ユリカ姉様ったら、もうまたそんな事言って。だーめ。ちゃんと言葉は気持ちにしないと」

「ですけど、ユーリィ。私……なんて言えばいいのか。そもそもネルさんにそんな事言ったところで」


 王宮の一室。

 寝間着に着替えて夜通し語りあう事になった、恋の話の主要人物はネルについてだった。


 魔王討伐の功労者であり、色々と謎の多い人物。

 ユリカはそんな人物の事が気になって仕方が無かった。


 ユーリィは呆れた顔をする。


「ネージュお母様も恋愛はよく分からないって言ってたし、お母さんもそういうのには鈍い方だったから。ユリカ姉様もそうなのかな」

「ネージュさんはそうでしょうね。私達のお母様は……周囲の人に好かれていてもおまり気が付いていない人でしたからね……。でもだからといって私までそうとは言い切れないのでは?」

「ええ? ユリカ姉様は絶対そうよ。だって、魔王討伐が終わってからネルさんの事あからさまに意識してるのに、自覚してなさそうだし」

「そ、そんな事ありませんよ」

「ほら、それ」


 本格的に自分の気持ちが分からなくなりつつあるユリカに、それは恋だと言わんばかりの調子で話し続けるユーリィ。


 姉妹の関係は一目瞭然でそこにあるのは、しっかり者の妹にほんの少し抜けている姉がからかわれている、というそんな図だった。


「もう、そんなんじゃだめ。ちゃんとしっかりしなくちゃ。姉様は私の姉様なのに」

「あ、姉だからといって何でもしっかりしていられるというわけじゃないんですよ」

「もう、開き直っちゃって。でも、そういうちょっとムキになるところが姉様の可愛い所よね」

「ユーリィったら、私の事からかってますね」

「そんな事ないって」


 楽しげな様子で話し合う姉妹だが、そんな光景はどこにも存在しないはずのものだと……その夢を見ているユリカは薄々分かっていた。


 ユリカは今は眠っている最中。

 魔王討伐後のごたごたが発生している王宮内での一日を終えて、泥の様に眠っている最中なのだ。


 話している間にふと、目覚めの兆候を感じたユリカは妹に向かって訪ねる。


「私は貴方の体を犠牲にしてるのに、幸せになっていいんでしょうか」

「姉様? 何言ってるの?」


 小首を傾げたユーリィはその意味を分からないと言った様子。


「何でもありません」

「よく分からないけど。もしそうだとしたら、それは犠牲なんかじゃないよ。姉様は私の体を生かしてくれてるんだから。そう考えてて。だから、そんな風に思う必要なんてどこにもないの。だから、もしそうだとしたら、私の事は気にしないで幸せになってね」

「ユーリィ……」


 白くかすみ、消えていく世界の景色を見つめながらユリカは思う。

 現実には、絶対にありえない夢の世界の消失を、決して忘れまいと目に焼き付ける様に見つめ続けながら……。


 ――貴方のくれた命を絶対に無駄にはしないわ。約束します。

 ――ネルさんが破滅の運命を覆してくれたこの世界で、私は貴方の分まで、きっと幸せになってみせますから。


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