第29話 決戦の場所へ
突如俺の目の前に現れたリズは、未来からやって来た人間だった。
彼女は、俺達がこの先取った行動を話し、取るべき行動も詳細に教えてくれた。
そしてそれは……、
魔王サタンが動き出すまでのタイムリミットと、対魔王兵器の完成。
そのほかに、短期間で習得できそうな俺達の新しい技などなども、この時点ではどうやっても得られない貴重な情報についてなんかもだった……。
そんなこんなで、未来からやってきたリズから話を聞いて、行動を起こすなり新たな対策を立てるなりして一か月。
兵器の組み上げが終わり、作戦が決まった後に、俺達は再びダークアビス城に訪れていた。
城に着くまでにも道中であれこれあってモンスターに遭遇したり待ち伏せを受けたりしたが、それらの些事はアルガに協力してもらって戦闘を回避。今まで悪用しかされてこなかったモンスターを操る技術に助けられた。
目的地についてからも、極力戦力は温存してきた。
ラストダンジョンであるダークアビス城の中では、王宮の兵士にも協力してもらい、可能な限りの露払いをしてもらった(たまにユリカがトラップを踏み抜きそうになったが、監視する目が多かったおかげで被害もゼロだ)。
これで、最初の頃みたいにラスボスと会うまでに体力が消耗している……なんて事はなくなっただろう。
魔王サタンが決戦場から動かないのが幸いだろう。
とっくに寿命が尽きていてもおかしくない魔王は、最強の子孫を残すまで延命装置に繋がれているから動きたくとも動けない。よっぽどの事……たとえば天変地異で城がぺしゃんこになる程の事がないかぎり大丈夫なはず。
そんなわけです。以上、状況説明終わり。
現在の俺達は、ひいこら言って準備をこなした後に悪の根城に乗り込んでるっていうとこだ。
ダークアビス城 対の塔(赤)
うんうん。
精神的に余裕があるのとないのとじゃ大違いだよな。
最初の頃は寝さん大混乱だったから、細かい居場所なんて把握してなかったが……こうして改めて見て周ると広い広い。
魔王の居城。ダークアビス城の基本構造は、三本の塔が三角形を描く様に等間隔に並び、互いの塔がそれぞれの連絡通路で繋がっているような感じなのだが、そのうちの二つ……赤色と紫色の対の塔という二つが大変な曲者だった。重要な施設がない代わりに、モンスターが出るわ出るわだし、トラップがあるわあるわなので、実際にプレイした時はかなりやばかった。きっと最初に訪れた頃のユリカ達もヤバかったに違いない。
だが、そんなやばさマックスの二塔とは違って、大きめのサイズである残りの一塔。黒色の闇の塔は、そう言うのがほとんどなかった。
モンスターも見張りぐらいしかいないし、トラップも数えるほどか設置されてない。内部にあったのが重要施設ばかりで、後継者を作る培養層やら、魔王のいる闇の間やらがあるので、余分なものなんかを詰め込まなかったんだろう。
で、肝心の俺達の詳しい現在地がどこかというと、結構最終目的地に近いとこ……闇の塔だった。
アルガや兵士達のおかげで、小一時間かからずに到達できた。早いな。来ていた当人もびっくり仰天中ではあるんだけど、まあ練さんアイで見る限りまごう事なき真実なんだよなあ。
ついでに、ここにいる俺達以外の者達……兵士達やらは、他の塔で引き続き作業中だ。
退路の確保のために、モンスターを討伐したり、転送装置を調べているはず。
そういう事で、割と広く寂しい感じの城内を進んで行くんだが、気になる事があった。
俺達には、魔王討伐の前にこなさなければならない事が他にもある。
「培養層を調べろって言われたよな」
リズのその言葉。
一応未来の話を聞いていたので、推測できる事はあるのだが、どうしてその情報を得たのだとかは分からずじまいだ。
それは、ラクシャータから未来の俺へ、未来の俺が未来リズへ頼んだという、この世界の俺当ての伝言らしいのだが、そのさらに元が何なのかさっぱり分からなかった。どこからともなく未来のラクシャータが情報を手に入れられるわけがないし……。
元が無いと考えれた場合、ラクシャータが直接見たからという事になってしまうんだが……。
首をひねりつつも、目当ての場所へ足を進める。
部屋には迷わず辿り着けた。
ここは覚えている。
魔王城から逃走する時もここの前でちょっと会話みたいな事したし、モンスターが倒れていたのが印象に残っていたから。
見張りの姿はないので、室内には苦労なく侵入。
足を踏み入れる。
「あんまり面白くなさそうな所ねぇ」
「ここが。例の……長居したくはない」
部屋の中を眺めているラクシャータとセリアはそんな感想。彼女達には受け付けないセンスのようだ。
まあ、そんな事を思う俺も、この部屋は正直どうかなあと思うけど。
「趣味悪いな」
「そう、ですね」
ユリカも追随してきたので、ごく一般の限られた性癖の方々以外には受けが悪い部屋と見た。
赤々とした部屋の中にいくつものカプセルがあって、そこから伸びる管が部屋の床やら壁やらに繋がっている。
しかもこの部屋、なんと言うか普通じゃない。
床はなんかぶよぶよしてて柔らかいし、よーく見てみると管なんかは脈打っている様に見えるのだ。
生物の体内とか、腹の中が連想される光景だ。この部屋の設計者は、かなり独創的で個性的な芸術魂を持っているらしい。
ざっと見ただけでうわあ……となりそうな光景なんだが、それはまだまだ軽い方だった。
実はそれ以外にも、この部屋の印象を最悪にするものが他にある。
それは……。
「この人達は、人間だよな」
部屋にあるカプセルの中、なみなみと注がれている液体に浮いている人間達だった。
彼らは全員服もなく、生まれたままの姿で赤ちゃんの様に体を丸くして内部に浮かんでいるのだ。
表情はない。
皆、ただこんこんと眠っているような様子だ。
それもそのはずでこの部屋は、魔王の器として適正のある人間をかき集めて保存している部屋なのだから。
ふと、その中の一人に目が留まる。
部屋の奥。
他のどのカプセルよりも大きく頑丈そうなそれに、白い髪の女性が浮かんでいた。
その人の顔つきは、俺によく似てて、女の子だったらまさに将来こんな顔になるんだろうなーと思うような、そんな顔だった。
「始まりの魔女。この人が俺の産みの親ってわけか」
正確には、この世界の俺の体の……になるが。
リズから聞いていたが、こうして目にしてみるとやっぱり驚かざるをえない。
それと同時に不思議な気持ちになる。
嬉しいとか喜ばしいとかそう言う気持ちはさすがに湧いてこないのだが、懐かしさ……故郷を考える時に抱く様な、郷愁に近いものを感じているのだ。
「うーん。で、俺達はこの人を保護すれば良いんだよな? 起こさないように」
この人は、そんじょそこらの刺激では起きないらしいが、起こしてしまうと大変な事になってしまうと聞いていた。
こんな状況を見たら、これでも生きてるんだろうかと心配になるんだが、リズ曰く未来で生きているのなら、過去でも生きているので心配しなくても良い。……という事だ。本当か? 信じちゃうぞ。
他の水槽を見つめてみる。
目の前の人がそうなら、他の彼等も生きているんだろう。
気が付けてよかった。
「ふぅ、ここまで来たなら話さなくちゃいけないわよねぇ」
要救助者発見の知らせを、ソウルジェムで知らせようとするのだが、その前にラクシャータが言葉を発っして遮った。
「最初は私が言い出した事なんだもの。だから何かをするなら、まず私からって言うのが筋よねぇ。本当なら、ここに来る前に話しておくべきなんだけどぉ……」
彼女はいつも通りの様子で、いや……いつも通りの調子を装いながら言葉を続けていく。
ラクシャータの口から述べられていくそれらは、普通ならちょっと聞いただけでは信じられないような事ばかりだった。
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