第22話 アルガ・トレイサー



 どうにかして作業を終わらせた後は、ソウルジェムを取り出して、円盤ムーブ・ホルダーを操作。機能を使って通信だ。

 タワーの中を移動していって、無事にセリアやラクシャータ達と落ち合う。

 合流した後は、守りが固くなってきた上層を駆け抜けていった。


「どやっせい」


 そん中で、上の階に繋がる階段が一番の難所だ。

 移動中に普通に転がり落ちても怖いし、迫りくる敵と足場が悪い中で戦わなければならないのもやっかい。

 超どうにかして欲しいと思うが、足止めが大した力のない者達だった現状なだけマシなのだろう。我慢する。


「町の人達、ですよね」


 ユリカの沈んだ声。それは言わなくとも皆が分かっていた事だ。

 まあ、それもそのはずだよな。ハーツカルバートでちょっと見慣れたとはいえ、忌避感やら悲しみやらが完全になくなるわけじゃないんだから。


「許せない。こんな風に、たくさんの人を不幸にする事」


 いつもは平たんな声音で淡々と話しているセリアが、感情を抑えきれない様子で言葉を紡いでいる。


「私が好きだった機械は、人殺しの道具なんかじゃない。誰かを悲しませるものなんかじゃない」


 戦闘中に意識をそらすなんて事もないし、隙を見せるなんて事もないが、それでも我慢ならないと言った風に、セリアは声を荒げる。

 苦手遺跡を持っている今でもなお、機械にまつわる感情は特別なんだろう。


「こんな事、止めさせなくちゃいけない」

「そうよねぇ、早くとっちめて一発きついのお見舞いしてあげましょぉ」


 だよなあ。

 諫めるように話すラクシャータの言葉に練さんも同意だ。


 アルガの奴は一発殴ったらんといかんだろ。


 で、ちょっとした決意表明があった後もまだまだ道は続く。むしろ、そっからが大変だった。中層はまだ余裕があったが、上に行けば行くほどモンスターが大量出現の大フィーバーしてきて、高速道路利用の帰省者も真っ青な交通渋滞で大変大変。明日仕事なのにどうしてくれるんだ、って感じだ。


 閉じられていた隔壁を上げておいたは良いが、区画が繋がったおかげで奥からひっきりなしに敵が来るもんだから尚更だろう。


 用がある人は慌てず騒がず順番に並んでください、だな。マナーがなってないにも程がある。親の顔が見て見たいな。あ、アルガか。

 

 心の中で文句を大量生産しつつも、レベル200の能力でブイブイ言わせて、それら撃破。

 道来るモンスターを順番になぎ倒しながら、アルガがいるだろう最上階へと向かう。


 普通に向かえば数分の距離を半時ほどかけて消化。

 

 モンスター色の視界にいい加減食傷気味になってきた所で、目的地へご到達だ。


 ねじねじ円柱の建物のてっぺんがどうなっているかと思ったら、なんて事はない。

 意外と普通で天井部がパカっと開く仕様になってて、見た目だけは平和な空が望める何とも開放的な場所だった。


 その部屋の中央には、布に覆われたデカい塊一つ。

 そしてその横には、白衣を着た男性が一人。


 アルガだ。

 こちらの姿を確認した奴は、口を開いた。


「魔王サタンに敗れた勇者諸君、待っていたぞ」


 いきなりの嫌みですね。予想していた通り、嫌な性格の様で。


 やっぱ知ってるのか勇者パーティーの敗北を。

 イベントボスになるくらいだから情報収集は日々欠かさずにやってるんだろう。


 リズから聞いていた通り、とっつきにくそうで冗談とか通じなさそうだな。何とも付き合いずらそうな奴だ。


 アルガは己の傍らにある物体へ手を伸ばし、それを覆っていた布を外す。あったのは予想通りの、対魔王用に作られた兵器だ。


「……っ、そんな。なんて、ひどい」

「あらあらぁ、趣味が悪いわねぇ」

「……やっぱり、犠牲に」 


 ユリカ達はそれを見て絶句。

 肉肉しい見た目のイカしたボディのそいつは、世界を救う希望どころか、滅亡へ追いやる為の絶望にしか見えない。


 ネットで見たもんよりもでかくなっている。改良とかして、色々手を加えたんだろう。

 当然だ、中盤で片付けるはずだったイベントをここまで放置していたんだから。


「すげぇなおい、それ」


 アルガの傍にいるそれは、確かに兵器と言ってもいい様な物だ。ただし兵器は兵器でも生物兵器と言った類いだが。

 黒い触手を何本も生やし、鉄をもかみ砕きそうな牙が生えそろった口が、いくつもついてる。


 怪しげに蠢く全体のシルエットは球体。

 程よい弾力がありそうな表面はぶよぶよ膨れていた。


 夢に出てきそうな感じだよな。それもホラーっぽいやつで。


「最高だろう。この兵器は人々の怨念を取り込んで強くなるのだ。これがあれば魔王サタンも怖くはない」


 犠牲者の数だけ強くなるって事ですね。


 ユリカ達は別に誉めたわけじゃないだろうが、アルガにとってはそういう意味だったのだろう。

 気分良さげな感じで、上から目線。


 やっぱりだ。アルガは勇者パーティーのふがいなさに苛立って、独自に退魔王兵器を作り上げていたのだ。


 序盤で関わっていたとしても、こうなる事は運命だったのだが、こっちのルートでは魔王に叶わず敗走していたんで余計にだろう。ひどくこじらせちゃってる感じ。


「アルガ。お前は、ユリカ達が……勇者達が信じられないんだな」

「ああ、そうだ。ふがいない勇者共には頼ってられない」


 もう見てらんないぜ、練さんは。

 茨の道を進む孤高の一匹狼が恰好いいなんて中二病、良い年した大人が浸ってんじゃないよ。


 で、そこでようやくアルガは、この場にいる練の姿に意識を向けて首を傾げた。

 今、疑問に思ったみたいな様子で。おい、気づいとけ。


「子供、お前はだれだ」

「練さんだ、よろしく。友達が少なくてな。仲良くしてくれる気があるなら、さっさとお縄について欲しい」

「知らない人間だな。情報収集に穴があったか」


 最近生まれたばっかりですんで。

 でも、そうかそうか俺の事は撃退予定の戦力に入っていなかったか。そりゃ来た甲斐がある。


 考え込む素振りを見せつつも、止めるという選択肢のないアルガは、対魔王兵器へと視線を向けた。


「後もう少しで研究は完成する。お前たちに邪魔をしてもらうわけにはいかない」


 そんで、決意滲ませちゃってる声音で呟かれたりなんかしたらもう、戦闘回避は不可能っぽいな。


 イベントボス。

 魍魎機会ファントム。


 数日の時間が流れた事でちょいうろ覚えになりつつある知識を、俺は脳の奥から引っ張り出す。

 王宮に着いてから、メモは取ってるつもりだったんだが他にもやる事があったもんで。


 忘れたとこの解答欄は、鉛筆振って占いにでも任せとこう。


 さて、今回の敵はどんなだったかな。


 大まかな特徴は三つ。


 MPが多い。

 魔法攻撃強い。

 水に弱い……だったか。


 例によって例のごとく覚えてられたのはそれだけだ。

 素性を怪しまれるリスクを承知で、今回はユリカ達とも情報は共有しているが、果たしてその情報は生きるかどうか。


 何せこっちは本来のパーティーメンバーが二人欠けてて、阿吽の呼吸に至らない子供……レベルだけ立派な練さんが付属してるもんだし。


 すいませんねぇなんか。びっくり箱みたいな扱いづらい存在で。


「まあ、長話するのもあれだし。とっととやられろ、アルガ。後の予定がつっかえてる」

「勇者の後継者気取りか、良いだろう。もとより対話などとうに捨てた身。止めたければ力づくで向かってくるがいい」


 勇者の後継者違ぇよ、と思いながらも俺は黙って剣を振りあげる。

 剣技もへったくれもない修行しかやってないから、力押しでひたすらごり押しするしかないだろう。


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