第21話 機術都市ウェイクーン・タイムズ
機術都市ウェイクーン・タイムズ
目の前には人気のない都市。 近代化都市も真っ青のハイテク機械溢れる街並みがある。
俺、来た。
来てしまった。
勇者パーティーに交じって。
古代文明を発掘し、せっせと調べ、解読してこの都市を作っていったとゲームで語られて知ってはいたが、画面で見るのと実際に見るのとじゃ大分違った。
「すげー、やべー、すげー」
何というか、こうメカメカしくてテカテカしててピカピカしてて素晴らしい。
人がいないので、灯りは付いていならしいが、そんなの気になんない。
「ネル君、男の子ねぇ」
「私にはよく分かりません」
「私は、少し分かる」
だが、俺と違って他の者達にはいまいち感動がわかないようだ。
傍らに立つ三人娘はつれない反応。
訪れた事があるから、反応が薄いと言う事もあるのだろうが、それでも女性である彼女達には目の前の光景の素晴らしさが理解できないようだ。セリアに少し同意してもらえたのが救いか。
でも、これが分かんないとか損だよなー。
あっちの建物は、普通の建物にはあり得ないデザインしてるし、何か建物全体が滑らかだし。
こっちにある浮いた物体はまさかゴミ箱?
そこらへんで突っ立ってる円筒形の機会は掃除ロボか?
バケツっぽい見た目の小さなそれは、設計者の遊び心なのか、それとも他に機能があるのか溝が彫られていて、太陽光発電でもしてるのかうっすらと光を放っている。
機械が光る。良いじゃん。
「光るのはいいと思う」
「だよな!」
ユリカやラクシャータが同意してくれないので、セリアと感動を分かちあう事にした。
過去の事があって、機械関係の事は好かなくなってしまった彼女だが、個人が抱く美的なポイントまでは変わっていなかったらしい。
都市に入るなり、あっちこっちの光景を話の種にしながらセリアと会話していく。
だが、いくら興奮しようとも現実がちょい厳しめなのは変わらない。
歩くだけで、いかに自分達がハードな道を通っているのかびしびし語りかけられているみたいだった。
ごちゃごちゃと建築物が詰まった街並みの中。
しかしそこにはまったく、人がいない。
人がいないので音はなく、ふとした瞬間に会話が途切れたりすると途端に周囲の静かさが気になって、寂寥感が増し増しになってしまう。
「やっぱり、誰もいないですね」
「そうねぇ。時々鳥なんかは飛んでるの見るけどぉ。犬や猫なんかもいなくなっちゃってるみたいね」
「分かる、気がする。不気味だから」
動物なんかも事情は分からずとも本能で、ここが安全ではないのだと分かるのだろう。
小動物の類いはこれっぽっちも見かけなかった。
ラクシャータが述べたように、上を向いてればたまに鳥なんかの姿は見かけるんだが、そいつらでさえ下に降りてこようとしない。
つまり、ここめっちゃヤバいって事ですね。分かります。
あらためて今回挑む事の難易度の高さを思い知らされた。
「見えてきた」
考え事をしていれば、セリアがどこか遠くを指さす仕草をする。
彼女の細い指の先……遠くにはでっかい円形の建物が見えた。あれが今回の目的地。アルガが根城にしているスパイラルタワーだ。ゲームでも見た。かっこいい。覚えてる。
どうやって建築したのか分からんが、それは流線形にねじれた外壁をしていて、円柱の粘土を地面に置いてそのままひねったような形をしている。この、お洒落さんめ。
窓ガラスなんかも何枚もはまっていて内部が見える様になっているが、内部を窺いたくとも遠いのでまだよく分からない。
「はー、すげーよな」
異世界感が抜けきれない光景ではあるが、目の前の景色は練さんのいた世界と似た雰囲気だ。
建物が結構高いとことか、やっぱ技術だよなぁ。壁面がつるつるしてるとことかコンクリート、鉄か?
「初めて来た方は、そんな反応ですよね。私達もさすがにあの建物を見た時は驚きましたから」
「よねぇ。さすがのラクシャさんもびっくりしちゃったものぉ」
「当然、最先端の町だから」
ユリカとラクシャータに同意され、故郷であるセリアは外見からは分かりづらいが声音が若干誇らしげだ。
だが、だからこそ人の気配がないのがより強調されるわけで。
そのアンバランスさが超不気味。
感傷的な貴方に、おすすめなスポットです。……という感じだった。
遠くにある、それを細目になって見つめているとセリアが隣にやって来た。
いつもより若干真剣……風に見える無表情だ。
「教えてもらった事、役に立ちそう?」
「あー、たぶん」
セリアに言われて、ここに来る前にリズ先生にてみっちり教えてもらった知識を思い出す。
専門的な事ばっかりで途中で匙を遥か彼方に投げたくなったが、リズがスパイラルタワーに行った事があったおかげで、そうそう無茶な勉強量にならずに済んでいた。
これをしたい時はこのボタン、このスイッチ、というのを最低限叩き込んできたので、後はこれを忘れないように保存し続けるだけだ。
この知識が今回の騒動解決には、かなり重要になって来る。
いわば作戦の肝なのだから、確認したくなって当然だろう。
脳みそすっからかんになってないよ? 練さん、大丈夫だよ?
「リズさんに来てもらえれば、それが一番良かったんでしょうけど……」
「ハーツカルバートとは違うものぉ、護衛しながら進むのはきっと無理よぉ」
リズのレベルが低いからしょうがないのだ。
適任を連れてこれない以上、俺がその穴を埋めなきゃならないんだよなあ。
アッシュが生き残ってくれていたら、もっといろいろ考えられたんだろうが……。
死んじまうまで、半信半疑だったからな……。
「大丈夫、安心して。きっとできる」
「お、おお? ひょっとして励ましてくれてる?」
「ん……」
セリアが小さく首肯。
確認しにきたのではなく激励しに来たんだったか。
「大丈夫大丈夫、ありがとな」
「なら、いい」
断言してやれば、彼女はまた元の位置へと戻っていく。
ちょっと罪悪感だ。
テスト勉強で毎回必死になってる練さんが、そんな風に信頼されるのは思ってもみなかった事だし、魔王城で出会った関係で、探られて素性を怪しまれていると思ってたからなあ。
まあ、それとこれとは別って事なのかもな。
ラクシャータはともかくユリカやセリアは性格からして、そうそう腹黒い事はできなさそうだし。
そんな感じで時々会話を挟みながらも、物思いに沈んだり、周囲を見渡したりしながら、数十分後に目的地に到着。
スパイラル・タワーに辿り着いた。
「いるいる、いるなあ……」
で、さっそく、血の気の荒い連中が歓迎してくれたわけですね。
知ってたよー。絶対こうなるだろうなって思ってたもん。あーあー……。
入り口から、アルガの手に掛かっただろうアンデッド達がもう次から次へと溢れ出てて、ひっきりなしに襲い掛かって来る。
「分かってましたけど、本当に都市の人達を……」
「使える物は何でも使うって主義なのかしらねぇ」
「冷たいのかも」
複雑な心境でアンデッド達を見つめているユリカ達だが、ぼうっとしているわけにはいかない。
「どういうつもりなのかは、相手に直接聞いてみるしかないだろうな」
剣を担ぎ上げて、向かい来る元住人の慣れの果てを見つめる。
「じゃあ、事前の打ち合わせどおりに」
おぼつかない手つきで、剣を振るってアンデッドモンスター達を倒す。
あー。だめだこれ。なれねー。
ジャイアント・シザーは良かった。モンスターだし、岩だったから生物っぽくなかったもん、でもこれ、人間だし。
顔をしかめつつも、動揺は内心だけに留めて、精一杯我慢。
俺達は戦闘をこなしながら先へ進む。
ラクシャータとセリアとは別行動。こっちは俺とユリカ。
ここ、スパイラルタワーでは攻略の為にパーティーを二つに割る必要があったのだ。
切り込みながらも、頭の中は悲鳴再生継続中。
うわぁー、うわー。
色々考える事がありすぎるのだが、もう考えないでおこうと思った。
頭の中身を真っ白な状態にできるだけ保って、前を進む事だけに集中。
「ネルさん、大丈夫ですか」
「ぜんっぜん」
「そうですか……」
すまんです。気遣ってる余裕ない。
練さんちょっと、きつーい。
「らあっ!」
下手に自分で動こうとせず、感じるままに自由に体が動くままにさせる。
魔王後継者の能力は伊達じゃないらしく、俺の揺れるマイハートな心理的動揺もなんのその。戦闘では常に最適な行動をこなしていった。
剣で薙いで突いて切って払って……それらの動作をよどみなく繰り返す。が、敵は尽きない。前から後ろから右から左右から、時にはホラー風味に天井からとか、どんどん湧いてきてキリがなかった。
それに対して俺が思うのは……。
うん、あれだな。アルガ殺(や)りすぎ。
ホラーすぎて「切ってごめんなさい」よりも若干、行動が作業とかしてきてしまって面倒になりつつあるという、そんなどうしようもない気持ちについて。どうしよ。
あいつ絶対死んだら天国いけねーわ。地獄行きだわー。それにくらべて練さんマジ天使―。素敵ー、格好いいー、惚れちゃうー。
うん、そういう事、軽く考えるのぐらいは許してほしい。余裕ないんで。めんごめんご。
アンデッド達をなぎ倒しながら向かうのは、とある部屋。
ユリカと共に訪れたのは、ひっろいコントロールルーム。
ただの建物になんでそんなもんがあるんだって話しだけどな。
ユリカは扉を閉めてそこに陣取り、俺は奥にある操作台に近寄ていく。
非常用の予備電源を使う操作とやらをやって、操作台を動かす。
台の前には、大きなパネルがあって、俺が何の作業をしているかが映し出されるようになっていた。
そこに、このスパイラルタワーのマップを呼び起こす。
「広いなぁ」
確認してみると、リズが教えてくれたものや逃げて来た者達の情報に違いはないようだった。建物の構造自体に変化はなし。
しかし、無駄に機術都市の人間が頑張ってくれたもんだな。やっぱこの建物すごい最新の設備に仕上がってるじゃん。
消化設備、防火扉、動く歩道だの、開く天井だの、実に様々な仕掛けが存在なさってる。
「ええと、これそれどれあれ……ほんとどれだよっ!」
内部構造の確認をした後は、いよいよ本命の操作。
おそらく遮断さえているだろう区画の、扉やらを上げて解放していかなければならない。
迷ったら円盤の機能でリズ先生に通信、と思ったが。やはりという感じで、外部と連絡できないようにされていた。
若干手を止め迷いながらも、投げ出さずに踏ん張った。アルガがいるであろう最も可能性の高い場所、最上階に行く為に必要な操作をしていく。
ちなみにここの場にはいない方……セリア達の方は、ここほど大変ではない。
タワーで動き回っている警備ロボットの方の制御室に言って、動かすのではなく強制的に止める操作をするだけなのだから。
「嫌いにならずにもっと勉強していれば、ってセリアさん言ってましたね」
「あー、まあ仕方ないだろ」
リズの次にこう言う事に詳しいだろうセリアは、子供の頃の出来事のせいで機械に携わる事が嫌いになってしまっているのだから。最低限の事しか分からないし、よどみなく扱えるのは戦闘用のものばかり。
「でも、嫌いならなんでマキナは連れてるんだろうな」
「愛着があるみたいです。一番最初に作ったものだからと……」
なるほどな、何でも最初に作った物とかって特別だもんな。
全部が嫌いにならなかっただけマシだと思うのだが、セリア本人はそう思わないのだろう。
「そんな特別なマキナに、ユリカは手形つけたんだよな」
「もうっ、あれは事故だって言ってるじゃないですか」
まあ、事故なのは分かってたけど。掘り返すのが俺だし。
いや、だって普通中々あんな風にはなんないだろ。衝撃的な絵面だったよ?
ともあれ、気晴らしに会話をしてくれただろうユリカに感謝する。
ゾンビもあれだが、こういう細かい作業も結構なストレスなんで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます