第18話 こんな日も



 リリシャ達から教えられたラクシャータの誕生日が近い。

 俺はその日に送るプレゼントの事も並行して考えなければいけなくなったのだが、まったくさっぱり良い物が思いつかない。


 すいませんねぇ。男に生まれて、男として育ち、男として生きてきたもんで。女の欲しがる物なんて想像できませんのですわ。いや、マジに降参です。ごめんなさい。


 というわけで、仕方なくリリシャに助言を求め、王宮の近場に出かけて素材採集をする事になった。それがプレぜントの必須材料なんだとか。


 ちょっと半日潰してしまうが仕方ない。

 世界が滅ぶか否かという瀬戸際だが、こちらも重要なのだ。

 世界は助かったけど、練さんは仲間に疑われて死んでしまった! ……みたいな事にならない為に、こういう細かい事を疎かにはできないしな。

 

 まあ、そうでなくとも誕生日をスルーされるのは、どこの世界でも悲しいもんだろう。


「生まれて来てありがとう」があるのと無いのとじゃ大違いだ。

 

 俺? 俺は忘れられた事ないよ。

 一度家族全員大忙しで当人である俺すらもちょっぴり忘れそうになってた事もあるけどな、そういうのは周りの奴らの態度とかで分かったし。嘘が下手なんだよ、俺の周りの奴らは。


 でも、今ラクシャータの周囲は余裕のない奴ばっかりってわけで、話題に上がらないのだから忘れられてしまっているのだろう。


 ほらな、やっぱり外野の存在も少しは必要なんだよ。

 ……とかいう風にリズに言ったら「恩着せがましいわね」とか言われたが。




 果樹園

 というわけで、プレゼントの為にちょこっと移動。

 王宮を出て近場にある果樹園にお邪魔させてもらう。


 メンバーは俺、リリシャ、ララ、そしてセリアだ。


 プラスアルファ要員で加わる事になったセリアは、比較的他の者達よりは余裕があったらしい。いつも戦闘時には後方にいるし、危なくなってもマキナボールが護ってくれるんで、やる事がすくないんだろう。で、俺達のお守り役に抜擢されたというわけ。


 暇ならもう一人リズがいたが、あいつは王宮に張られた結界……狭間の補修を頼まれてしまったらしいのでパスだ。


「ここで、探すの?」

「らしいな」


 現地到着。

 疑問の言葉を漏らすセリアに俺は答える。


 本当の事を言えば彼女の方も、他と比較して作業量が少ないだけで、やらねばならない事はたくさんあるらしい。だが、そこは他でもないラクシャータの為と言い、スケジュールをちょちょっと調整して、快く今回の件を引き受けてくれたのだ。


 淡白な言葉と無表情な顔の裏に、少しだけやる気をみなぎらせているのが感じられる。


「ネル、気づいてくれてありがとう。ラクシャータの誕生日、忘れてた」


 やはりか。彼女達も、魔王の事について一生懸命になるあまりに忘却していたらしい。


 たとえ日が過ぎて祝うのが遅くしまったとしても、ラクシャータならそれほど怒らないような気もするが、ユリカ達の方が仲間の事を疎かにしてしまったという思いが残るだろう。


 出来る事なら、当日にちゃんと祝ってやりたいと思っているはず。


 そんなわけで、


「今日は、ユリカの分まで頑張る」


 やる気を燃やすセリアと共に、リリシャ案のプレゼントを作る為、採取地での作業にとりかかる。


 改めて見回す。そこには、のどかな光景があった。

 何千本とある木が植えられた場所。


 リリシャと懇意にしているらしい人間の、所有する土地……果樹園らしい。


 そこで、俺達はさっそく分かれて、目当てのものを探し始める。

 

 ちなみに、現地発表で明かされたプレゼントの全貌だが、作るのは花冠(はなかんむり)だった。

 賑やかしい雰囲気のラクシャータには似合わない気がするが、仲の良いリリシャが言うのだから、きっと欲しいものなのだろう。

 俺の感覚は、自分が一番信用できないので、任せるしかない。

 そういえば、ラクシャータの将来の夢も何か、そんな関係だった気がするな。


 そう言うわけで、材料集めの為立ち並ぶ木の間を、右往左往していく。


「ところが、これが広いのなんのって……」


 あっちへふらふら、こっちへふらふら。


 広大という感じはまさにこの時の為にあると言っても過言ではないだろう。

 子供の歩幅なのもあって、移動するだけで疲れし、そこらに生えてる物で視界が遮られて方向が掴みづらい。


 仕方ないよね? 慣れない土地だし、探し物をするにも勝手が分からない。


 それでも、隅まで歩くのに小一時間はかかるんじゃないかと思えるくらいの、それなりに広い果樹園だが、根気よく目当ての物がないか探し周る。


 だが元気担当、賑やかし担当の約一名がすごい煩い。


「どーう、お兄さんあったー?」

「ないな」

「ねー、あったー?」

「ないぞ」

「ねー」

「うっさいわ、三秒おきに話しかけてくんな!」


 これだよ。ほんと、察してくれと言いたい。


 何を気に入ったのかは知らないが、出会ってからやたらと俺に構ってくるのだから疲れる。


 繰り返しかけられる言葉に辟易していると、妹のララが喋りかけてきた。


「お姉ちゃん、いつも大人のひと相手にしてて疲れてるから……」


 つまり年が近いから、仕事人の顔を捨てて素のままで全力で接してくれちゃってると。

 見た目的な年齢が近い事は事実だから、下手に否定できないのが辛いな。


 喜べばいいのか、それともうっとおしがればいいのか。判断に困る事言ってくれるなよ……。


 まあ、リリシャは本当に商売をしている時は優秀なので、表からは察せられない苦労があるのだろう。

 そう思う、思い込む事にした。


 捜索時間のほとんどをリリシャの相手に費やしながらも、昼時には、材料の一部である花を発見。


 その後、ランチタイムに突入して、セリアの作った美味しい昼ご飯を食べに休憩。


「やっぱりセリアのご飯は美味しいよな」

「ねー、おいしーよね、おにーさん」

「うん、良いと思うよセリアお姉ちゃん」


 一口食べてからの感想。

 俺達三人に褒められたセリアはいつになく嬉しそうだ。

 子供好きなので尚更だろう。


「おかわりもある。張り切った」

「お、美味そうだな」

「やったー。それもくうー」

「お姉ちゃん、くうじゃなくて食べるっていったほうがいいよ」


 微笑ましそうに子供達(たぶん俺含む)を見つめるセリアは凄く幸せそうだった。


「このまま、ずっと。いっそ、お弁当箱にしまって、お持ち帰り……」


 ちょっと怖いセリフが聞こえたような気がしなくもないが、まあ空耳だろう。うん。


 で、腹ごしらえが終われば、再び捜索。

 花が見つかったので、後は実だけだ。


 そこらに生えている木から実っている実を一つ一つ確かめていく。

 果樹園にある、リースリースという名前の木を見る。


 特殊な方法で加工すれば、半永久的に枯れない不思議な花がなる木らしい。

 ドライフラワーなんかとは違って、専門的な加工は要らない。

 その代わり、適した材料を見つけるのが低確率で希少な感じだが、王都では今そんなのが流行っているらしい。


 この果樹園でも、時期が来れば花狩りの者達が大勢集まるとか。


 ちなみに今の時期は適した本来の時期より、少しだけ早い。

 なので、果樹園の木には蕾状態の花がほとんどで全然咲いてなかった。困る。


 そんな中午前中に花を見つけられたのは幸運だったろう。

 こんな所で運使ったら、後が怖い気もするが縁起が良いに違いないと強引に脳を納得させておいた。


 やるんじゃなかった、なんて言いたくないし、思いたくないしな。


 そして、残りの実なのだが、これもまた希少で一つの木にあまり実らない。なっていたとしても、形が歪んでいて見た目があまり女性向けのそれではなかった。


 詳しいらしいリリシャに、一つ一つ尋ねて確認していく。

 煩いが仕方ない。


「これはどうだ?」

「えー、なんかぐにゃぐにゃしててきもーい」

「これは」

「うーん、顔みたいでこわーい」

「じゃあ、これは」

「でぶい、ふとりそう。やだ」

「何でこれだけ真顔で辛辣なんだよ。全国のちょっと横幅のある人達に謝れ!」


 いや、それほんとひどいから。


 こいつたまに無邪気な顔でえぐい事言ってくるんだよな。

 妹のララはそんな事はないんだが。


「冗談だった。うん、ごめんなさい。そうゆうのはだめだね」

「真面目に謝るのかよ!」


 だが、そんなコント見たいなやり取りをしつつも、夕暮れ時くらいには何とか発見。


「おー、すごーい。おにーさんやりー、さっそく加工するぞー」


 誕生日までには良い物が仕上げられそうだった。


 世界の良く末を気にかけたり命の危険に脅かされりしない、友人の誕生日を気にするというただ穏やかな時間が続く。こんな日もたまにはいいだろう。


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