第16話 ちょっと本気だそうかな



 ???


 気が重い墓参りが終わった後も、やる事はたんまり控えてる。


 世界の情勢とかを尋ねたり、モンスターの動向や王国の戦力を調べたり、そして機術都市の惨状を調べたり……、または修行したり、とか。


 王宮の奥。

 一般の人間からは隠された狭間はざまと呼ばれる部屋がある。


 装飾品は全然なくて、内装はのっぺりしてる感じ。

 豪華さがないどころか、室内が室内として成立する最低限の装飾すら存在してない様。


 国の中枢とかいう大事な場所に、何でそんなびっくり部屋があるのかと普通の人は疑問になるだろう。


 じゃあ、ちょっとそんな悩める君達の為にヒントだ。


 はいひとぉーつ。

 この国の王女様は魔王討伐を目指すユリカ達を、そりゃもうできる限るを尽くして支援していた。寝食の世話をしたり、旅の道具をそろえたり、モンスター達の情報を教えたり。


 ああ、お分かりでない?


 じゃあふたぁーつ。

 危険なフィールドに出て実戦をこなさなくても、安全に修行を積んだり戦術を確認出来たとしたら、勇者達はとっても助かるだろう。


 で、最後にみぃーっつ。

 そこでは、機術都市の優秀な人間が作った結界装置が施されており、どんなに暴れてもその衝撃が部屋の外に漏れないようになっている。


 お分かりいただけただろうか。


 ……。


 うんうんそうそう、そゆこと。

 そんなわけで王宮の中には便利な修行場所が作られているというわけ。


 目前では、そんな便利な部屋を活用してやろうという彼女達の姿がある。

 三人とも目が超真剣だ。真面目も真面目、大真面目って感じで。あれ、俺なんかじゃ絶対真似できんだろうな。


「いっくわよぉ」


 ラクシャータが掛け声を上げて、攻撃魔法を発動。

 炎の塊が、対するユリカ達に襲い掛かった。


「っ!」

「……」


 後衛メンバーである彼女達ユリカとセリアの動きは、前衛のそれと比べれば劣るもののどうにか避けきっている。

 

「マキナ、行って」


 そうして回避行動をとった後は、セリアがマキナを操り攻撃するのだが……。


「遅い、遅いわぁ!」


 それらは難なくラクシャータに避けられてしまう。

 しかもそれだけではない。彼女は回避と並行して攻撃もこなし始める始末だ。器用なやっちゃな。


 一対二だというのに、状況はラクシャータに有利。瞬く間に、ユリカ・セリア組が不利になっていく。


「やっぱり、この組み合わせじゃあこれが限界よねぇ。前衛がもう一人いれば、訓練らしい事が出来るんだけどぉ」


 と、ちらりと見学者である俺に視線を向けるラクシャータ。

 部屋の隅っこに寄って出来る限り壁と一体化しようと努めていたんだが、存在に気づかれてたか。

 だが、あえて俺はそんな視線には気付かないフリ。ほら、今戦闘中だし。気を紛らわすような事したら危ないし。


「練習ぐらい相手になってやればいいじゃない」


 そんな壁化の練さんに話しかけてくるのは、いつの間にかやってきていたリズだった。

 この部屋は関係者以外立ち入り禁止のはずだが、どうやって入って来たんだろう。


 リズはこの世界では勇者パーティーの一員ではなく、今のところは単なるゲスト。

 ユリカ達に許可された場所に出いる出来る様な権利はなかったはずだが……(ちなみに俺の場合は見張りで立っている兵士に向けて、特殊スキル「ひたすら無害で無邪気な子供の笑顔」をぶつけて通してもらった)。


「変な空間のねじれがあったから、手持ちの道具で手を加えて忍び込ませてもらったわ。王宮の結界だからどんなものかと思ったけど、まだまだ改善の余地がありそうね」


 もしもし、リズさん。それ不法侵入ですよ。


 しかし、さすがはリズ・シャルロッテ。

 才能あふれる優秀な研究者さんはそんな事も分かるのか。


 使いどころが激しく限られそうな特殊技能のようだが、よく考えると空間のねじれとかいうよく分からんもんが分かるなんて、人の気配が掴める事よりも凄くない?


「で、何で練習相手にならないのよ」


 その話題、引っ張るなあ。

 横にやって来たリズは返答待ちのご様子。


「そんな事したら、なし崩し的に前線に引っ張り出されるかもしれないだろ」


 なので、仕方なしに俺が口を開けば、こちらを下に見る様な表情が返って来る。

 いやいや身長じゃなく、ね。


「何、怖いの? 男のくせに」

「ああ、怖いよ。悪かったな」

「開き直るの?」


 重ね重ね主張してますけどねぇ、生まれ落ちて十数年、争いと縁のない世界で育ってきたもんで。

 最初からモンスター溢れる世界で育ってきたリズ様達とは違うんだよ。


 いくらあのアッシュに頼まれたと言ったって、それとこれは別なんだ。


「あんたって、あんな力持ってるのに臆病なのね」

「体がでかくなりゃ、誰でもソッコー強気になれると思うなよ」


 俺の育った世界には、クマさんみたいに大柄な体格の人が実は可愛い趣味を持ってた! ……とか、そういうネタがごろごろあるよ? 皆違って皆いい。それでいいじゃない。いや、ほんとにな。


 ……はぁ。


 ああ、そうだよ。

 実際に戦うのは怖い。

 悩むのは当然でおかしい事ではないはずだ。


 だが、リズは不満そうだ。

 ひょっとして、お嬢ちゃんアレ? 力がない自分への無力感が、他人への攻激力に変わるパターン?


「だったらさあ、人殺しの才能があるなら、人殺さなきゃいけないのか?」

「違うでしょ」

「……?」


 少しだけ面白くなかったので、俺はそんな意地悪な言葉をかけたんだが、間髪入れずにリズは答えて、何故か顔を背けながら続けてくる。


「馬鹿ね、そもそも前提が違うわ。力はただの力。力があるなら使わなきゃいけないのか、が正しい質問よ」


 気にするとこ、そっちかよ。

 さすが研究者。細かい。


 まあ、ちょっとらしくもなく鬱屈してたから、そうやって冷や水ぶっかけられるのは助かるけどな。大変な状況真っただ中で、超当時者のユリカ達にぶつけるわけにもいかないし。


 リズは腰に手を当てて胸を張りながら、こちらを視線だけで見下ろすという凄く偉そうなポーズをとった。ひれ伏しなさい下僕共って感じ。おおー、様になるなあ。


「別に悪い意味で言ってるわけじゃないわよ。相手を殺す力だろうが、戦う力だろうが、誰かを守る力だろうが、皆所詮は一緒。重要なのはそれを使う人間と方法だと、私は思ってる」


 ツンデレっぽい性格の鞭降り女王様予備群のリズ・シャルロッテが、視線をそらしてそう喋った。

 俺にこんな話をする理由は何だろうか。


 ひょっとしてまさか、仲間の絆的なあれで内心に気づいてくれてたり?

 通じ合っちゃってたり?


 なんて、事考えてたら、リズ様はこちら様の頭を撫で……ではなく押さえつけて来た。

 あの、ちょ、いたぁーい。

 身長縮んじゃうって。


 で、そのドSプレイから身を屈めて、こちらの目を覗き込んできた。

 

 あ、これ知ってる。


 幼稚園の先生がするやつな。


「言い当ててあげましょうか、おチビちゃん。あんたは力を持ってるのに、持て余してる。違うかしら?」


 おお……。

 おっしゃる通りで。

 何せ俺、育った人生イコール一般人だし。


 棚からぼったんで貰ったお餅プレゼントが高価すぎてさ、困ってたんだよ。

 宛先が違う的な? ほら、届け先が釣り合ってないよ? みたいな……。

 そんなイカしたギフトもらえるような生き方してなかったもんで。


「周りが皆凄い奴だから困ってる。戸惑ってる。違う? そうでしょ? 分かるわよ。だってあたしも……。ってあたしの事なんてどうでもよくて」


 いや、それはお前が振ったんだろ。


「だから、頑張れる理由を探せばいいんじゃないって話。あんたは頑張りたいんでしょ?」


 でもリズは、話のまとめの最後にそんな有難いお言葉を、練さんに贈りつけてくれちゃったり。

 なんだ。

 最初ただ文句言いにきたのかと思ったのに。


 で、ここから決め台詞。


「あんたはあんたに足りないものを探して前に進みなさい」


 おお。

 か、かっけぇー!


 え、これほんとにあのリズと同一人物。

 今だけ世界がトゥルールートと入れ替わってない?


「お前、惚れられる理由分かるわー」

「んなっ!」


 口を開けたまま、顔を真っ赤にして硬直するリズを観察しがら、俺は納得。


 ネットでファンたちが盛り上がってるの見て、何でやねんとか思ってたけど。

 うん、上手くは言えないがリズの魅力とやらが分かった気がする。

 ツンデレは相変わらずめんどいけどな。


 嫌いじゃないぜ、こういうの。


「何だよお前、俺にお節介焼いてくれてんの? すっげぇ良い奴じゃねぇか……って、いってぇ!」

「はぁ、バッカじゃないの!?」


 ちょっと正直信じられない気持ちだったので、口に出したらどこからともなく鞭が飛んで来た。リズのだ。どこから出した。そしてどこへ消した。


「か、借りよ。助けてくれた借り。その借りを返しただけなんだから」


 肩を怒らせて否定するリズは、必至の形相でいらっしゃる。

 いや、それ、結局否定になってない。


「まあ、それなら礼は言って……、いってぇ、何でだよ」

「うっさいわね、違うっていってんでしょ。このガキンチョ!」


 二回目の鞭の攻撃を喰らって怒鳴れば、怒鳴り声の応酬になる。


「チビのくせに生意気なのよ。このおチビ!」

「おチビってなんだよ。子供っぽい悪口だな。子供に手が出るとか、お前血通ってんの!? お前が子供だろ!!」

「何ですってぇ」


 しばらく言い合いを続けるのだが、まあそんなふうにしてれば同じ空間にいるユリカ達が気にしないわけはなく、結局は邪魔になってしまったのだった。


 この世界の未来を担った彼女等の足を引っ張るわけにはいかず、頭を下げて速やかに撤退。

 バツが悪そうなリズと一緒にだ。


 ああ、そうだ。

 こっちはこっちでやる事あったんだ。

 ケンカしたばかりでアレだけどな。


 いや、俺は別にそれほど怒ってるわけではない。

 逆ギレされた事に反射的に怒ってしまっただけなのだから。ほんとほんと、ほんとだってば。後で、こいつのお菓子に香辛料いれとこ……。


「なあ、ちょっといいか?」

「何よ」


 次のフラグ回収に向けて、リズに教えてもらわなければいけない事があったんだよな。


「機術都市にある、スパイラルタワーの制御室の使い方教えてくれないか」

「はぁ?」


 中盤で起きる機術都市のイベントでは、ハーツカルバートからいなくなったアルガが関わって来る。


 そのアルガが研究の為に占領しているであろう所。機械技術の知恵が詰まった建物がスパイラルタワーという場所なのだが、そこを突破する為には機会に詳しい人間の案内が必要なのだ。


 詳しいと言えばセリアがいるが、戦力不足の現状を考えれば練が詳しくなっておく必要があった。


 本来のルートだったら、戦力もそのままで、しかもレベル上げして強くなったリズが同行して解決するのだが……このバッドルート世界では当てにできないし。


「一応あの都市の現状は私も聞いているけど、まさか何とかするつもりなの? できるわけないじゃない」


 できるかどうか、じゃなくてやるんだよ。

 まあ、俺ももうちょっと頑張ろうかな……みたいな風に思えてきたし。


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