第15話 墓参り



 村でのごたごたが終わった後。

 ハーツカルバートから移動して、ユリカ達は支援を受けている国の王宮へ帰る事になった(もちろん俺やリズもそこに同伴して。放っておかれても困る)。


 待っていたのは王宮の王女アーシェ・アルウェル・アルフザート。

 亡き勇者パーティーのリーダー……アッシュの説得に応じて、この世界の行く末を案じ魔王討伐を彼らに託すと言う英断をした女性だ。


 年来は俺達と近い。華奢な体格の、これ以上ないくらい深窓のお嬢様然とした金髪の少女は。

 メンバーの欠けた討伐メンバーを青い顔をしながらも、それでも身を労わって受け入れてくれた。


 その後は、俺も一応、一国の王女様アーシェに魔王討伐失敗という世界最大級の不幸なお知らせを話さねばならない場に同席する事になって、色々と堅苦しい思いをしたり、空気の重さに潰されかけたりした(物凄く居たたまれない心地になってシリアスの過剰摂取で死ぬかと思ったが、どうにか我慢して乗り越えた)。


 途中の寄り道の事や、ハーツカルバートの事情なんかも加えてざっと小一時間程。


 だが、魔王討伐という期待を裏切る形になったユリカ達を王女は責めなかった。

 それどころか、世界の危機をたった四人に頼らざるを得なかった事を気に病んでしまったようだ。


 俺のやったゲームでもこんなんだったのかな、と思うと猶更余分な罪悪感にさいなまれる。


 そんで、あれやこれやとこれからの事を色々話した後は、安心できる寝床を久しぶりに提供してもらったのでした。

 今後の事を決めるまではまずはしっかり休養を取って下さいって感じに。良い人だ。


 そういえば、王宮を歩いている時に、そこらにいる兵士達に驚かれた。

 何で子供がこんな所にいるんだ、みたいな感じに。


 癒しを求めていたらしい彼らに甘やかされ、遊ばれ、構われ、お菓子を寄越され、色々疲れたがまあ……悪い知らせを持ってきた引け目があったので寛容な態度で付き合う事にした。

 

 子供じゃねぇよとたまに言いたくなったが、超我慢した。女の子でもないよ? だから、ね? 可愛い贈り物とかは結構ですから。


 しばらくこの城を拠点にして色々と装備を整えたい所だが……さて、ここにどうやって居つこう。


 ちなみにリズの方は、一応はここでは客人扱いだ。もともとハーツカルバードでの惨状に反対していた事、牢屋に入れられていた事も考えて、アルガに加担していた可能性は低いと判断されたからだろう。


 で、問題の俺の方は、魔王城で保護した子供。で、現状では「モンスターがどこからか攫って来たらしい子供の内の一人」と認識されている。


 それで、然るべき施設に……とならなかったのは、ユリカ達に見せた戦闘能力のせいだろう。


 最終的には、出自が明らかになるか記憶を思い出すか、それまでは見知ったユリカ達と共に行動させるという話になった。


 疑われる原因となっただろう戦闘能力が、こんな形でユリカ達と縁を繋ぐ事になろうとは。


 それにしても、彼女達は俺が魔王の後継者かもしれない事を王女様に話したのだろうか。


 見張りの一人や二人は何となくついているような気配がするものの、敵意みたいなのは感じられなかった。たまに話しかけてくる兵士のおっさんは、子供を可愛がりに来ただけだしな。


 とにかく、疑わしき者は罰せよにならないのならそれに越した事はない。

 次にやる事は中盤で何とかするはずだった機術都市のイベントの事。どうにかユリカ達にやらせなければ。


 そういえば、アッシュという主力がいなくなったのだから、魔王討伐は難しくなったはずなのだが……彼女達はこれからどうするつもりなのだろうか。





 アルフザート国 中央都アルファ 霊園


 周囲に満ちた暗い雰囲気の中、小さく呟く。


「ああ、当然まずこうなるよな……」


 確かに、自然に考えればこうなるだろう。

 ゲームをやっていた時代の考えが抜けていなかったようだ。


 俺がいるのは王都の墓地の中だ。


 作られた小さな石墓の前で、中年女性と共にユリカ達三人は話をしている。


 くすんだ灰色の髪に、夕暮れ空のような赤い瞳をしたその女性は。アッシュの母親で、たった今愛する息子の最後を伝えられたばかりだった。


「ごめんなさい……私達にもっと力があれば、あんな事には」

「そんな事ないわ。自分を責めないで。きっとアッシュも貴方達を守れてよかったはずよ」


 アッシュの形見である装備品をセリアが手渡す。


 彼女は決してユリカ達を責めようとはしなかった。

 主人公の母親だけあって、できた人間のようだ。


 最初こそ、言葉に詰まって泣くばかりだったが、話の最後にはユリカたちを思いやってもいるのだから、さすがだ。


 この時ばかりは、やかましいラクシャータもしおらしくなって頭を下げている。


「ごめんなさい、アルカおばさん。私が魔王についてもっとよく調べようと提案し得いればよかったのぉ」

「違う。準備を怠った、私達の責任でもある」

「もう、そんな顔しないで。アッシュだって悲しむわ」


 セリアと一緒に沈んだ顔をしていれば、逆に笑いかけて励まそうとするのだから、本当に強い人だ。女ってこういう時は強いんだよな。それに比べて、練さんの情けなさと来たらははは……。笑えん。


「それで、この子は……?」


 その人の視線が、こちらを向く。


 唯一、このメンバーの中で関係のなさそうな子供の存在を不思議に思ってるのだろう。


「ネルだ。よろしくアルカおばさん。気が付いたら魔王城にいた。ユリカ達は闇の間に入った俺を助ける為に、アッシュを見捨てたんだ」

「……そう、なの」


 当然、縁もゆかりも全くない俺がこの場に来るのにはユリカたち全員に反対されたのだが、どうしても言っておきたい事があったので、無理に連れてきてもらった。


 俺の言葉を聞いたアルカおばさんは、表情を曇らせる。


「だから、責めるんだったらそいつらにするのは間違いだ」


 例の件で、怪しまれた分をカバーする為にはここで誠意を見せておかねばならないだろう。

 そう思った。それだけの事。


 進んで悪役になんてなりたくないしなぁ、誰だって。


「小さいのにしっかりしてるのね」


 大人ぶった言い方をしっかりしてると評したアルカおばさんは、表情を柔らかくする。


「でも、それは間違いよ。私は初めから誰かを責めたりしようだなんて思ってなかったんだから。むしろ貴方がアッシュの大事なお友達を助けてくれたんでしょう。感謝する事はあれど、責める事なんてこれっぽっちもありません」


 最後にデコピンをされた。

 軽かった。

 罰ではなく、頓珍漢な事を言った俺へのリアクションなんだろう。


「この母が凄すぎる」


 素直に思った事を言えば、ラクシャータがのって来た。


「そうよぉ。アルカおばさんはすごいのよ。ここら辺で頭が上がる人なんて全然いないものぉ」

「まさに、アッシュさんはアルカおばさんの息子さんですよね」

「血の繋がり、よく分かる」

「あはは、おだてても何も出ないよ」


 穏やかな談笑に包まれる墓の周囲わ、温かい空気に満ちていた。

 こんな時間を守れたのなら本望、とアッシュだったらそう言うだろうか。


 俺としては、文句を言いたいところだが。


 本望、じゃねぇよ。

 素性の怪しいぽっと出の新キャラに難しい事頼みやがって。


 だが、何はともあれ、今のところは彼女等が笑顔でいてくれていて良かった。


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