能因草子パーティメンバー、それぞれの休日①

 異世界生活百六十四日目 場所コンラッセン大平原、能因草子の隠れ家(旧古びた洋館)


 デクエゥシスと兵器開発に勤しんでいたらこんな時間になってしまった!? ということで、【虚空ト異界ヲ統ベル創造ト破壊之究極神】で調理場に転移し、速攻で料理を作って並べる。


 今回の夕餉の席にはインフィニット以外の超帝国組も参加していた……エドワードイケメン死すべし。

 もう既にエドワードイケメンの虜になっている面々もいるようで、志島達は目にハートを浮かべていた。


「ねえ、美系のエドワードさんとマッチョ系のケリーさんっていいカップリングになりそうよね」


「やっぱり志島さんも思った? 私もケリーさんが攻めでエドワードさんが受けのカップリングがいいと思ったわ」


「えっ……ここはエドワードさんが攻めでケリーさんが受けの逆パターンの方がギャップがあって良くないかしら?」


 ああ、なんだいつもの腐女子か。……エドワードイケメンよ、御愁傷様ザマァ

 ……いや、なんか巻き込まれ事故みたいになったケリーが可哀想過ぎるな。


「…………なんだか足元がスースーして違和感がある。それに、パンツが見えそう……」


 佐伯は慣れないスカートの感覚に違和感を抱いているらしい。仕切りに足を組み替えてスカートの中が見えない位置を探っているようだ。すまん、別に俺は見られても「良かったね、ラッキースケベだよ」ってしか思わないからよく分からない。……まあ、女体化したまま男に生まれたままの姿を見られても別になんとも思わないくらい破綻している自覚はあるからね……流石に風呂を満喫しているところで邪魔をされたり寝込みを襲われたりしたら反射的に凍らせたり即死させると思うけど……まあ、光源氏辺りは瞬殺だな。イケメン嫌いですから。


「本日は超帝国の皆様の歓迎ということでいつもより若干豪勢になっております。……って、欲しいなら毎回これくらいのレベルにしますけどね。……さて、これからの予定についてお伝えしたいと思います。なんでお前が仕切っているんだって感じですけど、パーティの真のリーダーは白崎さんでも、一応俺の方針で動いている形ですからご辛抱くだされ」


 何故かみんな首を横に振っているのだが……えっ、違うの?? どう考えてもリーダーは白崎だよね??


「まず、明日ですが連戦でお疲れだと思いますので一日休暇とさせて頂きたいと思います。鍛錬をするなり、買い物に出かけるなり、屋内で読書やゲームを楽しむなり、デートに出かけるなり好きにしてください。ただ、あくまで休暇ですからね。明後日以降の日程に支障がないようにお願い致します。……まあ、皆様にわざわざ言うようなことでもないと思いますが、若干羽目を外しそうな方々もいらっしゃいますからね。……大黒さん、お手数ですがインフィニットにこのことを明後日の目的地の情報と共に伝えてもらってもいいでしょうか?」


「はい、分かりました」


 本当は一度で済ませた方が労力が少ないんだけど、あいつと同じ食事を摂るとか絶対に気が休まらないからな……うん、正直不良達以上に関わりたくないタイプだよな。実力は高いんだけど……。


「続いて明後日の目的地ですが、アッドゥ遺跡です。クリュベの街から目と鼻の先のグレヴルフル荒野にあります」


「「――クリュベの街!?」」


 嗚呼、織姫と佳奈はそういう反応をするよな。

 かつてカーン=アークダインという代官が独裁政治を行っていた街だったが、佳奈に依頼された織姫とカーンを裏切ったヴィヴィアンヌによって悪事が暴かれ、全員が引っ捕らえられて市中引き回しの後にインフィニットによって両断された。


 織姫の記憶を覗いたけど本当に最悪だった。

 典型的な悪の所業……一度壊された心は二度と元には戻らない。

 特にノエラという少女はただ快楽を求めて生きることしかできない……そこまで壊れてしまった。


 まあ、シャリス辺りはそれでも仕方ないというだろうな。……彼女もまたノエラ達のような運命を辿るかもしれない立場にあった。奴隷として最低の生活を送っていた。

 アルフレートに助けられ、無秩序な悪に秩序を与える活動をしていたが、その行為は悪を消し去るということとはノットイコール……嫌なら強くなればいい、強くなって復讐すればいいと、シャリスならそう言うだろうし、それを否定するつもりはない。


 それでも……抗う力を得る時間もなく壊されてしまった……そんな人達をそのまま放置していいのかっても思うんだよね? だから、織姫の行いは例え局所的でも尊敬できるものだし、できるのならノエラ達を救いたい。彼女達のような存在を無くしたい。


 でも……俺の力は所詮モブキャラに相応しい中途半端なもの。それこそ魂を別の身体に移し替えて、記憶を編集する並みのことをしなければならない。……それでも根本的な治療と言えるのか? 心に負った傷は果たして消えるのか? ……絶対に消えないと思うな。

 例え、身体に焼きついた快楽への渇望や、記憶に刻まれたトラウマが消えても、魂に刻み付けられた傷は消えない。それだけのことをした連中が一撃で殺されるだけってのはね……インフィニットも連中の仕出かしたことがどれほどのものなのかを分からせれば良かったのにさ。


「ですが……確かにクリュベの街の付近にはマルドゥーク文明の遺跡はありますしたが、壊れた神殿跡のようなもので、大したものはありませんでしたよ?」


「ナンが示した情報は正確だ。あるって言うならある。……と、まあこんな感じです。前回は超越者デスペラードに至ったヨグ=ソートスとギルガメッシュのデータをぶち込んできたくらいなので、何をやらかすか本当に分かりません。心構えだけはしておいてください」


 なんか、エパドゥン遺跡攻略後に白崎勇者パーティに入った面々が絶句しているんだが……いや、マルドゥーク文明って本当に何をしでかすか分からない危険連中なんだよ? 神代魔法が存在した世界を亜空間ごと世界の修正力によって消し去るくらいだしさ……えっ、そっちじゃなくて? ……どっち?


「ということで、この話はおしまい。あっ、ロゼッタさん。自分だけ超越技がないな、と思っているところに朗報です」「……なんで草子君は私の悩みを理解した上で的確なアドバイスをできるのかな? やっぱり凄いなぁ、草子君は」


 いや、別に感情を読めるからね。割と凹んでいたことは知っているんだよ? いや、白崎達と比較しても仕方ないと思うけどさ……白崎やレーゲンはともかく聖とかリーファとかアイリスとかジューリアに負けたのは悔しかった?


「はい、これ『The LOVE and BATTLE STORY of Primula〜光の聖女と闇の王〜』のソフトと攻略本。【メニュー】を解析していた時に発見したデータで、『The LOVE STORY of Primula』の続編? 『The LOVE STORY of Primula』に第二部を加えたお得な感じのソフトなんだけど、きっと美華さんが超越技を得る魂の形を知るのに役立つと思う……攻略本もあるし、一日もあれば例のルートに入れるんじゃないかな?」


 不思議そうな表情を浮かべるロゼッタに『The LOVE and BATTLE STORY of Primula〜光の聖女と闇の王〜』のソフトを与える。

 心優しく、繊細で、誰かを傷つけるくらいなら自分が傷つくべきだ……と考えるくらい優しく、誰よりも悪役令嬢ロゼッタに怒りを覚え、そのロゼッタに転生した時は激しく絶望して、絶対に悪役令嬢ロゼッタのようにはならないと心に誓ったロゼッタにこれを渡すというのがどれほど残酷なことかは理解している。

 だが、ロゼッタはきっと一回り大きな存在へと成長してくれる筈だ。


 ……これまで、ロゼッタは悪役令嬢ロゼッタにはなるまいと、反面教師にして生きてきた。常にその反対を目指して生きて、乙女ゲームでは一部例外を覗いてあり得なかったジルフォンド達との良好な関係を築くに至った。

 でも、それではロゼッタが本当の意味で悪役令嬢ロゼッタに向き合った訳ではない。唯一攻略ができていない存在がいるとすれば、それは悪役令嬢ロゼッタ……もう一人のロゼッタだ。


 ロゼッタなら、悪役令嬢ロゼッタに向き合うことができると、俺は信じている……って、こんな俺に信じられても別に嬉しくはないか。



【ロゼッタ視点】


 異世界生活百六十五日目 場所コンラッセン大平原、能因草子の隠れ家(旧古びた洋館)


 超越者デスペラードの最大の利点は食事や睡眠時間を必要としないことにあるのかもしれないわね。

 普段は食事を摂っているけど、別に飲まず食わずでも死なないと思う……飢えもなければ、老化もない。


 でも、そういう状態になっても食事を摂ったり睡眠を取るのは本当の意味で人外になってしまわないため。

 やっぱり超越者デスペラードに至っても中身は人間でありたい……だから、私達は超越者デスペラードになる前と同じ生活を続けている。それに、草子君と一緒に地球に転生する予定だから、人間の感覚を失っていたら地球に行ってから絶対に苦労するからね。どんな知的生命体も不便から便利になるのは受け入れられないけど、便利から不便になるのはなかなか受け入れられないから。


『はい、これ『The LOVE and BATTLE STORY of Primula〜光の聖女と闇の王〜』のソフトと攻略本。【メニュー】を解析していた時に発見したデータで、『The LOVE STORY of Primula』の続編? 『The LOVE STORY of Primula』に第二部を加えたお得な感じのソフトなんだけど、きっと美華さんが超越技を得る魂の形を知るのに役立つと思う……攻略本もあるし、一日もあれば例のルートに入れるんじゃないかな?』


 草子君は私の悩みに気づいていたらしい……やっぱり敵わないな。

 一見すると傍若無人で貴族に対しても対等に接する礼節を欠いた男……でも、その根底には優しさがある。器用に見えて案外不器用なところもあるのか遠回しだけど、私達一人一人に気を掛けてくれるし、当然のように心配事を見抜いて必要な時に最も必要なアドバイスをしてくれる。


 そういう草子君だからこそ、私は一緒に居たいって、そう思えた。

 巡り会えた最高の友人達と離れ離れになるとしても、一緒に居たいってそう思えた。

 最初は恩を返したいという気持ちの方が強かったけど、今は草子君の隣に立つ女になりたいって気持ちの方が強い……まあ、未だに恩は返せていないし、最早返済できないんじゃないかってくらい沢山のモノをもらっちゃったけど。

 ライバルは多い。白崎さんもだけど、聖さんだってリーファさんだって白崎さんに匹敵するし、ジューリアさんも強敵だし、最近はアイリスさんも草子君に惚れちゃったみたいだし……北岡さんっていうダークホースもいるしね。


 そんな白崎さん達は全員が超越技の解放に成功した。

 白崎さん達は自分の魂の形を理解したのに、私はその形が未だに分からない……白崎さん達から一歩遅れた位置にいては白崎さん達のライバルを名乗れない。


 ――草子君には、そんな私の気持ちが、焦りがお見通しだった。


 草子君は確実に私達一人一人の気持ちに気づいている。

 本当は自分が規格外の存在であるということにも気づいているし、草子君が私達にどれほどの影響を与えたのかも、私達にとって草子君がどれほど大切な存在になっているかも確実に理解している。

 研ぎ澄まされた万物の本質を見通し最適解を導く草子君が私達の感情にだけは気づかないなんて御都合主義、絶対にあり得ないから。


 でも、空気を読んでもそれに従うか従わないかは別というように、草子君も私達の気持ちを理解していても百パーセントそれに答えてくれる訳じゃない。

 恋愛白痴の王なモブキャラを演じ、自分の力を過小評価する……その言動は本心であって本心でない。きっと心の中には自分がモブキャラだと信じたい草子君がいるのだろう。だから百歩譲ってバグったモブキャラ……例え主人公や裏ボスのような存在であると自覚していてもモブキャラと言い張る。

 まるで草子君が二人いるように……いえ、違うわね。


 ――私達のことを少なからず大切に想っていて、その気持ちを理解している草子君。


 ――モブキャラに過ぎない自分が白崎さん達にモテモテになる訳がないと思っている草子君。


 ――異世界カオスで出会った人達と一緒に居たいと思っている草子君。


 ――浅野教授やゼミ生達の元に帰りたいと思っている草子君。


 ――ぶっきらぼうだけど、優しさが垣間見える草子君。


 ――聖女カタリナとして慈悲深く接する草子君。


 その矛盾するようにすら思えるもの全てが草子君……矛盾するからこその混沌、すべてを内包しすべてを排斥する者……まるでナイアーラトテップみたいだけど、「外なる神々の総意にして使者、這い寄る混沌」程度、【叡智究める混沌】と呼ぶべき草子君に比較するまでもないわね。

 草子君そのものが……いえ、人間という生き物は矛盾を孕んでいる。でも、全てのものを選ぶことができないように、与えられた選択肢の中から自分が最良だと思うものを選択する。……その傾向が人格と呼ばれるのよね、多分。たから、同じ人でも矛盾しているように見えることもある……あくまで傾向だからね。



『なんで……なんで私は認めてもらえないのよ! なんで、なんで、なんで、なんで、なんで、後から来た貴女が、平民出で浅ましい学もないお前如きが認められるのに!! なんで、高貴な青い血を引く私がこんなに惨めな気持ちにならなければならないのよ!! 私は公爵令嬢よ、公爵令嬢なのよ! それなのに、私の婚約者をぬけぬけと誘惑して心を奪って、私のものを次々と奪って……お前さえ、お前さえいなければ私は幸せだったのに!! もう…………私から何も奪わないでよ』


 シャートが見つけたロゼッタルートに入ったことの証明となるのがロゼッタのこの台詞だ。

 プリムラはこの台詞で初めてロゼッタの気持ちを理解する。ここからロゼッタの攻略が可能になり、ロゼッタと積極的に関わっていくことで、プリムラがロゼッタとは別の令嬢にイジメられている時にロゼッタが現れ、プリムラを助けるという感動場面、そして百合展開へと発展していく。


 私はロゼッタに転生したけど、ロゼッタ=フューリタンという令嬢のことを理解していなかったのかもしれないわね。

 ロゼッタは最初から傲慢ではなかった。両親に蝶よ花よと育てられ、満ち足りた生活の中で自分が特別な存在であると誤認し、傲慢に振舞うことが当然だと感じるようになった。

 世界の中心は自分だと錯覚し、万象が自分の思うままだと勘違いし、傲慢に振る舞った結果、ジルフォンドはプリムラに惹かれ、ロゼッタは孤立していく。


 ロゼッタには、人生で一度も自分の思い通りにならなかったことは無かった。それが、ヒロインの登場で歯車が狂う。

 そう考えるとロゼッタはある意味で被害者だったのかもしれないわね……なるべくしてなった傲慢令嬢。確かにロゼッタが悪くないとはいけないけど、その環境を作った周囲の者達にも責任がある。


「……さてそろそろ始めないとね。ん? 攻略本に付箋が挟んであるわね」


 付箋のページは「アイテム増殖のコマンド」や「レベルMAXのコマンド」などの裏技が纏められたものだった……これって公式が発表していいのかしら? というか、草子君が作った攻略本だから非公式のもの……載っていてもおかしくないのか。


 同じページに挟んであった草子君の攻略メモを頼りに『The LOVE and BATTLE STORY of Primula〜光の聖女と闇の王〜』をプレイしていく。

 本当はこんな邪道な方法は取りたくなかったんだけど、あまり時間も残されていないからね。本編を楽しむのはまたの機会に……。


〜三時間後〜


 イベントもスキップし、楽しいところを全部飛ばしてしまった感はあるけど、ようやく目的の場所まで辿り着いた。

 『The LOVE and BATTLE STORY of Primula〜光の聖女と闇の王〜』で追加されたBATTLE PARTの最終章――つまり、魔王が住む居城。


 ――でも、今回の目的地は魔王城ではない。ラスボスの魔王は既に討伐した。


「えっと……確か漆黒の沼の祭壇……だったわよね。合ってたわ」


 メニューを開き、パーティメンバーとアイテムを確認する。


-----------------------------------------------

・プリムラ=イノセンス

性別:女

職業:聖女

魔力属性:光

レベル:99

体力:99999/99999

攻撃力:99999

防御力:99999

魔法攻撃力:99999

魔法防御力:99999

敏捷性:99999

知力:99999

精神力:99999

幸運:99999

魅力:99999

装備品

右手:煌翼の聖神杖アリ・ディ・ルーチェ

左手:-

頭:聖女のウィンプル

身体:聖女のワンピース

装飾品:光魔法強化の護符


・ジルフォンド=エリファス

性別:男

職業:第三王子

魔力属性:火、風

レベル:99

体力:99999/99999

攻撃力:99999

防御力:99999

魔法攻撃力:99999

魔法防御力:99999

敏捷性:99999

知力:99999

精神力:99999

幸運:99999

魅力:99999

装備品

右手:灼熱の精霊剣サラマンテイン

左手:颶風の精霊剣シルフィテイン

頭:真紅の兜

身体:真紅の鎧

装飾品:火魔法強化の護符


・フィード=フォートレス

性別:男

職業:伯爵家子息

魔力属性:水

レベル:99

体力:99999/99999

攻撃力:99999

防御力:99999

魔法攻撃力:99999

魔法防御力:99999

敏捷性:99999

知力:99999

精神力:99999

幸運:99999

魅力:99999

装備品

右手:水の精霊剣オンディーテイン

左手:水魔導神の魔導書

頭:水魔導神の三角帽子

身体:水魔導神のローブ

装飾品:水魔法強化の護符


・シャート=フューリタン

性別:男

職業:公爵家養子

魔力属性:土

レベル:99

体力:99999/99999

攻撃力:99999

防御力:99999

魔法攻撃力:99999

魔法防御力:99999

敏捷性:99999

知力:99999

精神力:99999

幸運:99999

魅力:99999

装備品

右手:大地の精霊剣ノーミーテイン

左手:大兎の騎士大盾

頭:-

身体:魔法学園の制服

装飾品:土魔法強化の護符

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 装備は最高ランクのものを揃え、レベルも最大まで上げた。

 推奨レベル70の魔王ラスボスにもこのレベル、この装備で挑んだからかなりオーバーキルな結果になったわ。


 でも、ここまで育て上げなければ裏ボス――闇の力を得たロゼッタは倒せない……もうそれ、悪役令嬢ではない別の何かだよね?

 裏ボス攻略という追加ページには「闇耐性の装備と光魔法で闇魔法を軽減するという、魔王に有効だった戦法を取っても物理で殴られ死ぬ。逆に物理攻撃の対策を厚くすれば高火力の闇魔法で死ぬ……ってか、これどう考えてもユミ●ラ・ドル●ネスだよね!?」って書いてあるけど……これって攻略本の体裁を取っているんだよね? なんで草子君のツッコミが書いてあるんだろう?


 とりあえず最初の挑戦は各属性を強化する装備を選んでみた。魔王も闇属性対策をするよりも高火力で攻めた方が良かったから……まあ、それが裏ボス令嬢ロゼッタに通用するとは思えないのだけど。

 漆黒の沼の祭壇という歩くだけでHPが減少する沼エリアを歩き、遂に祭壇に辿り着いた。


『――よく来たわね! 闇の力を得た私が貴女を倒してあげるわ!!』


 禍々しい闇を迸らせたロゼッタの台詞を合図に戦闘が始まる。

 しかし……草子君は『The LOVE STORY of Primula』は某乙女ゲーム転生系ライトノベルに出てくる『F●RTUNE・L●VER』と酷似していたと言っていたけど、その続編の『F●RTUNE・L●VER II 魔法省で●恋』のような魔法省への就職展開はないし、魔王の討伐の BATTLE PARTの方が追加されているから別の作品が〈引用〉されているんじゃないかって考察していたけど……確かにこの異世界カオスという世界自体草子君やレーゲン君が読んだことがある作品の内容とも重なるみたいだし、もしかしたら異世界カオスとは〈引用〉によって構成された近世文学風異世界……かのかもしれないわね。


【TURN 1】


【ロゼッタ の ブラックホール】


 開始早々放ってきたブラックホールで全員のHPが一桁まで減らされた……やっぱり強い。


【プリムラ の 聖なる祈り 特大】


 プリムラの光魔法でHPを全快させ、


【ジルフォンド の 魔法二刀流 炎と風の舞】


【フィード の サウザンドレイン】


【シャート の ミーティア】


 ジルフォンド、フィード、シャートの三人で高火力攻撃を放つ……ほとんど効いていないわね。


【TURN 2】


【ロゼッタ の ダークフレイム】


【シャート の アースバリア】


【ロゼッタ の ダークバインド】


【フィード の サウザンドレイン】


【ロゼッタ の 魔法剣 闇天開闢】


【ジルフォンド の 魔法二刀流 炎と風の舞】


【プリムラ の 聖なる祈り 特大】


 魔王が二回攻撃までしかできなかったのに対し、ロゼッタは三回攻撃ができる。厄介な【ブラックホール】を放ったターンには魔王戦と同じように別の攻撃を仕掛けてこないのは嬉しいことだけど、【ブラックホール】以外の攻撃も高火力なのよね。


【TURN 3】


【ロゼッタ の ダークバレット】


【プリムラ の セレスティアル・レイ】


【ロゼッタ の 魔法剣 闇天開闢】


【ロゼッタ の 魔法剣 闇天開闢】


【シャート は ユグドラシルの雫 を 使った】


【ジルフォンド の エクスプロージョン】


【フィード の 魔法剣 スプラッシュストリーム】


「強い……わね。……でも、悲しい。プリムラは仲間達と一緒に戦っているのに、ロゼッタには誰も仲間がいない。プリムラ達と互角に戦える力をロゼッタは得た。断罪されて、学園を追われ……プリムラへの憎悪を糧にたった一人で研鑽を続けた結果が裏ボス令嬢ロゼッタ……草子君はきっとこれを見せたかったのよね」


 確かに、ロゼッタは強い。聖女のパーティと互角に渡り合えるのだから、それが『The LOVE and BATTLE STORY of Primula〜光の聖女と闇の王〜』の世界の中でも上位のものなのは明らか。

 これが……プリムラさん、ジルフォンド様、ヴァングレイ様、シャート、フィード様、ノエリア様……私を認めてくれた大切な友人達と出会わなかったら、なっていたかもしれないもう一人の私。


 ただ自分のためだけに強大な力を振るうラスボス……そこに満足は、嬉しさはないと思う。

 例えプリムラ達を倒しても決して満たされないんじゃないかしら? ……そんな孤独な存在に私はなりたくないし、ロゼッタもなりたくなかった筈だ。



「ロゼッタさん!!」


「分かっていますわ! ダークバインド!! 今ですわよ!!」


「魔法剣 スプラッシュストリーム!」


「エクスプロージョン」


「ミーティア」


「魔法二刀流 炎と風の舞」


「今ですわ! プリムラさん!!」


「うん、セレスティアル・レイ!!」


 私は想像した。絶対にあり得ない仮想を――。

 プリムラとロゼッタが力を合わせ、攻略対象達と共に魔王を倒す。それは、今の私とプリムラさん達の関係とは少し形は違うけど、きっと素晴らしいものだと思う。


 胸を張って闇の力を振るう。邪悪な、恐れられる力ではない……大切な友人達と共に歩むための道具・・


「私は力が欲しいわ。誰かを傷つける力じゃない、大切な人達を守れる力を。そのために、力を貸してくれないかしら? ロゼッタ=フューリタンさん」


 攻略したつもりはない。プリムラさんが、ジルフォンド様が、ヴァングレイ様、シャート、フィード様、ノエリア様が、ラナメイド長が、お父様が、お母様が、リノが、モニカが、セリスティア学園長が……みんながいたから私は悪役にならずに済んだ。

 寧ろ、みんなに私は攻略された……そう思っている。


 でも、今度は一人で攻略しなければならない。ステータスにも表示されない、あの日、私が転生した時に異世界カオスから消滅したもう一人の私ロゼッタを。


「共に戦うのはプリムラさん達じゃない……同じくらい、いえ正直に言えばプリムラさん達よりも大切だと思う人とその仲間達。……ええ、裏ボス令嬢の力でも足りないかもしれないわ。でも、今よりも強くなれるのなら、私は裏ボス令嬢にでもなんでもなる……なってみせる! だから、私と共に戦って、ロゼッタ=フューリタンさん!!」


 ――私の中で何かが変わった気がした。魂の形が分かったような、歯車と歯車が噛み合ったような小気味良さを感じた。




『ありがとう、薗部美華さん。……私は貴女と共にあり続けるわ』




「……えっ……今のってロゼッタの声? そんな……まさか、ね」


 部屋を見回しても誰もいない……もしかして、空耳?

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