第四部第九章「軍社大戦編」

俺の所持金額は虹金貨一千万枚まで来たけどヴァパリア黎明結社七賢者の一人のアルフレートとかは虹金貨一京枚に到達していたから上には上がいるんだよ?

 異世界生活百六十四日目 場所クライヴァルト城


「では、草子殿。司会進行を頼む」


「……あの、セリスティア議長。議長なんですから俺じゃなくてご自分で司会進行をするべきだって何度言ったら……いえ、なんでもございません」


 会場全体の圧に押されてモブキャラは何も言えなくなった。……これが小市民なモブキャラの運命さだめか。

 いや、別に俺はいいんだよ? ただ、モブキャラが司会をしているような国家同盟に政治は任せておけない! って反対運動が起こらないかと心配しているだけで……。


「では、本日も議長に替わり僭越ながら相談役の俺が司会進行を務めさせて頂きたいと思います。まず、本日は新たに五名この会議に招かせて頂きました。まずは、超帝国マハーシュバラ前超皇帝のシヴァ=プリーモこと大黒壬様。前世は第三次世界大戦を経験したという地球で、世界を覆い尽くす悪意ヴァパリア黎明結社との戦いを続けてきたという凄いお方です。続いて、超帝国マハーシュバラの文官長を務めていらっしゃったガネーシャ=ルドラ様と超帝国マハーシュバラの国防空軍の元帥を務めていらっしゃったスカンダ=ルドラ様。お二方はシヴァ様の退位に伴い設立される帝国議会の二議会の議長に就任することになります。続いてヴァパリア黎明結社の七賢者アリスにツケを清算されて殺害された皇響夜に代わり冒険者ギルドの最高責任者に就任されたリティエス=エルドォリンデ様とフェティス=ノエードンェス様。お二方には今後の異世界ガイアの自由組合冒険者ギルドとの連携について決めたいというジョセフ=ドゥ様からのご依頼がありまして、お呼びいたしました」


 異世界カオスの冒険者ギルドと異世界ガイアの自由組合冒険者ギルドは前回の国家同盟の議会の後に行われた両者トップ一対一の遠距離会談で協力体制を取ることが決まった。

 その際は異世界ガイアの冒険者の受け入れとか魔族や魔人族に対する扱いとかを決めたり、魔王軍の役職者で賞金首扱いだった者達(ヘズティス達)に関して、通常の冒険者のスタート地点ではなく、そのレベルに応じたスタート地点に変更が可能になる特定優遇措置の施工などについて決定したようだ……あっ、勿論俺は部外者だから詳しくは知らないんだけどさ。


 それにより、魔族の中からも冒険者になる者が現れたし、裕翔や美春以外にも異世界ガイアから異世界カオスに拠点を移したり、逆に異世界ガイアを拠点に活動する冒険者が増えたりと相互的な人の移動がみられるようになった。

 その時点で互いの世界に良い影響を与え合うという当初の目的は達せられた。が、どういう訳かジョセフは現状に不満があったらしい。


「本日はこの場を借りて今後の冒険者ギルドの在り方について議論をさせて頂きたいと思います。国家同盟の皆様にはその証人となって頂ければと思います。何卒、よろしくお願い致します」


 予想通り、ジョセフが口火を切った。……早速本題に入るつもりだな。


「今回、私達ガイアの自由組合冒険者ギルドはカオスの冒険者ギルドとの統合についてご提案したくこの場に参りました。私達の構想では、ギルド組織の最終決定権を有するギルド上層部議会を頂点とする形に再構成する他、冒険者ランクの見直すと同時に冒険者カードの発行などで異世界カオスの冒険者ギルドが起こした大失敗のようなことを二度と起こさないようにするシステムの構築などを計画し、より良い冒険者ギルドと呼べるものを構築することを検討しています。これについて、異世界カオスの冒険者ギルド代表のお二方はどのようにお考えですか?」


「確かに、響夜様の死亡で冒険者ギルドの指揮は大きく低下する……ここは、異世界ガイアの自由組合冒険者ギルドと統合するというのもいいかもしれませんわね。フェティスさんはどう思いますか?」


「私もこれはいい話だと思います。今回の件で確実に冒険者ギルドの看板は大きく傷つきましたし、信用が落ち込むことは目に見えています。それに、かつてのシステムでは草子様を冒険者として認められず、結果として対立関係を生んでしまいましたし……ジョセフ様、そのシステムについて詳しくお聞かせしてくださりませんか?」


 …………おいおい、俺は関係ないだろう? ただのモブキャラ如きに忖度するなよ、冒険者ギルド。


「まず、既存のそれぞれの冒険者ギルドのランクですが……」


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・冒険者ギルド

藍→青→紫→緑→黄→橙→赤→銀→金→白金→黒→虹の順に上昇。


自由組合冒険者ギルド

青→赤→黄→紫→緑→白→黒→銀→金の順に上昇。

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「と、それぞれこのような形になっておりました。そして、こちらが新しい冒険者のランクになります」


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冒険者自由組合ギルド・オブ・アドベンチュラー(通称・冒険者ギルド)

UL.rank:能因草子クラスのチート級猛者用のランク。公式。最低条件は世界破壊。多次元破壊クラスの攻撃を持つ者もここに含まれる。

SSS+.rank:超越者デスペラードに至った人のみが与えられる非公式なランク。

SSS.rank:新設のランク。SS.rankよりも猛者と判定された者達に与えられるランク。現状では草子の弟子達でも上位の者達(つまりイオン、ライヤ、リーシャ、キール、シュオン、裕翔、美春)とウコンが認定される予定。

SS.rank:新設のランク。虹ランクや金ランクの枠にはめられない猛者が到達できるランク。


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S.rank:冒険者ギルドの黒と虹ランク、自由組合冒険者ギルドの金ランクに相当。

A.rank:冒険者ギルドの金と白金ランク、自由組合冒険者ギルドの黒、銀ランクに相当。

B.rank:冒険者ギルドの赤と銀ランク、自由組合冒険者ギルドの緑、白ランクに相当。

C.rank:冒険者ギルドの黄と橙ランク、自由組合冒険者ギルドの紫ランクに相当。

D.rank:冒険者ギルドの紫と緑ランク、自由組合冒険者ギルドの黄ランクに相当。

E.rank:冒険者ギルドの青ランク、自由組合冒険者ギルドの赤ランクに相当。

F.rank:冒険者ギルドの藍ランク、自由組合冒険者ギルドの青ランクに相当。

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「……いや、扱い変わっていないけど? なんで俺だけ特別扱い?」


「草子君……流石にいい加減自分がとんでもない存在だということを自覚してもらいたいな。君は滅ぶ筈だった異世界ガイアをフェアボーテネを超える強さを持つ神殺しから守り、世界を再構成した――それほどの猛者だ。これは忖度じゃない……それほどの猛者を普通の冒険者と対等に並べてしまったら普通の冒険者が可哀想だろ?」


 いや、だから俺はただのバグったモブだって……っておい、なんで全員で頷いているんだ?


「分かりました。では、UL.rankでいいですよ。…………まあ、冒険者として活動することはないと思いますが」


「草子君は相当な金持ちだと聞いたことがあるから、働かなくとも問題なく生活できるんだろう? 羨ましいが、それは全部一から作り出したもの……羨ましがっている時間があるならお前も頑張れと言われそうだ」


「俺なんてまだまだですよ。現在、所持金額は虹金貨一千万枚まで来ましたが、ヴァパリア黎明結社七賢者の一人のアルフレートさんとかは虹金貨一京枚に到達していましたし」


 実はこっそり記憶を覗いて所持金合計額だけ確認したんだよね。あれ見たときは俺もまだまだだって思い知らされたな……っておい、なんで全員で魂口から飛ばしているの? 特に貴族連中のダメージが酷いんだが……何があった?


 その後、超帝国マハーシュバラの国家同盟加入が正式に認められ、超帝国マハーシュバラの統治権の委譲も恙無く行われた。

 後はいつもの定例会だ。流石に前回の議会の頃からほとんど進展はない。セリスティア学園長に校舎を建てるために〝要塞創造-Fortification creation-〟が欲しいと言われたので、マスタートレントと呼ばれる魔獣の幹を使用して作った最高級紙と虹水晶龍の鱗を使用して作った最高級インクを使ってサラサラと呪文を書いてセリスティア学園長に渡した。

 「頼んだのは私だが……本当にそんな簡単にこれほどの魔法を渡しても良かったのか?」って聞かれたので「この魔法って複合なので使い手が相当限られてきますし、魔力もとんでもなく吸い取られるので使い勝手が悪い欠陥品ですよ」と伝えながら一緒に魔力を圧縮して作った大量の魔核をプレゼントしておいた。


 一つにつき〝要塞創造-Fortification creation-〟一発分の魔力が備わっている。まあ、【無限の魔力】に比べたら微々たるものだけど。

 その後、議題が無くなったところで議会を解散し、俺は〝移動門ゲート〟を開いてシヴァと共に超帝国マハーシュバラに向かった。



 異世界生活百六十四日目 場所コンラッセン大平原、能因草子の隠れ家(旧古びた洋館)


「ようこそ、我が屋敷へ。シヴァ様御一行& デクエゥシス様」


 同行が決定したシヴァ達と共に屋敷に戻った訳だが、昨日の宣言通りデクエゥシスまでついてくることになった。

 ……多分、さっきの『色々検証して気づいたのですが、かなりの確率で大黒さん達の前世の世界は俺の世界から枝分かれしたものです』っていう一言がいけなかったんだな。

 なんかそこから全員の雰囲気が変わって全員俺達の世界に転生する方向で調整を開始したみたいだし……。


 ってか、デクエゥシスって前世じゃ逢坂達の敵だったんだよね? まさか、転生したらM82銀河同盟とコンタクトを取ってM82銀河同盟側を勝利に導こうとするのかと思ったんだけど……。


「ああ、今更M82銀河同盟側につく気はないよ。私も最初は呉越同舟のつもりで逢坂詠達と組んでいたけど、今は本当の仲間のつもりだからね……まあ、インフィニットからはそう思われていないだろうけど」


 インフィニットの仲間として、今度はM82銀河同盟の敵に回るつもりらしい。そして、M82銀河同盟にいる自分と勝負するつもりでいるそうだ。

 過去の自分がどれくらいの強さなのか? 今の自分がどこまで強くなったのか? かつての自分と勝負できる絶好のチャンスを有効活用したいらしい……全く、技術者の考えはよく分からん。


 ちなみに、ホワイト・レイブン・インダストリアルの方は部下に任せてきたらしい。

 なんでも「経営者一人に頼りきりの会社では長続きしない」ということで、部下達だけでも会社が成立するようなシステムを構築していたようだ。本人は専ら技術者として腕を振るっていたらしい……ちなみに、この方針は以前ワンマンで社長をやっていて失敗したことがあるからだそうだ。……単に自分が好きなものを好きに作りたかっただけじゃないんだね。


「……貴様にお似合いの場所だな」


「ちょっと……逢坂隊長。俺達は無理を言って草子さんに同行させてもらう訳ですから。……草子さん、気分を害されたようでしたらお詫び致します」


「まあ、そんなことでキレるほど人間できていない訳では流石にないので」


 しかし、「貴様にお似合い」ね。やっぱり、荒屋だったのがいけなかったのか? それとも曰く付き物件なことを感じ取ったのか……まあ、どっちでもいいけど。


「とりあえず、受け入れに際してシヴァ様御一行用の屋敷を用意させてもらいました」


「ふん、それくらい当然のことだ」


「…………度々すみません。もう、逢坂隊長はこういう人だということで理解してご辛抱ください。……普段は傲慢の裏に優しさが垣間見えるのに、何故草子さんを前にするとこんなにも攻撃的になってしまうのか?」


 ホント、俺の一体どこに嫌悪感を覚えるのやら? まあ、俺も初対面の時に「ああ、コイツとは絶対に相容れないな」と感じたんだけど。


「とっとと案内してくれないか? 時は金なり……こんなところで無駄話をしていても何も得られないわ」


 えっと……誰だっけ? あっ、シュゼットだったか? インフィニット以外にも難儀な奴抱えているな。


「……心中お察しします。大黒さん」


「俺は楽しいけどな……慣れると日常になるし」


 あっ、感覚が麻痺っているのか。……個性強い奴が集まったパーティは大変だな。ってウチもか。ハイスペックでマジ・女神な白崎の力でなんとかパーティが維持されているけど、白崎の尽力がなければかなり早い段階でパーティが解散していただろうし。


「まあ、シュゼットほどでもないけどさ。俺も屋敷の中を見てきたい。先に行っても大丈夫か? 草子殿?」


「私も中を見てきていいでしょうか?」


 確か副隊長のケリーと、おっとり系お姉さんのリュドミラだったか? ……しかし、大丈夫か? リュドミラとシュゼットって相性最悪なんだろう?


「別に俺に断りを入れる必要はないと思うけど? なんなら屋敷の中に食堂も作ってあるし、一通り屋敷の中で生活できるようになっているからここにいる間は屋敷に引きこもっていても別にとやかく言うつもりはないし……ただ、あくまでこの屋敷を含めた一帯は俺の土地なんで。それだけは心得ておいてもらいたい」


「そりゃ当然だろ? 寧ろここまで至れり尽くせりしてもらっていいのかってレベルだぜ。それじゃあ、俺達は先に行っているからな」


 ……いや、急がなくてもすぐに俺達も屋敷に行くんだけど……まあ、いっか。


「ところで、貴方はいかなくて良かったんですか? イケメンさん」


「随分と棘のある言い方ですね。ヨミ隊長もですが、私ってそんなにイケメンですか?」


 なんだろう? この、妙にイラってくる感じは。確かに平々凡々な顔で三白眼でマイナスになっている俺とコイツを比べたら確実にコイツに軍配が上がるよな。

 というか、エドワードといいデクエゥシスといいなんでイケメンばかりなのか? ……「イケメン死すべし」と啖呵を切ればいい?


「あっ、大黒さんと佳奈さんには個室の他に二人部屋も用意しておきました。これまでできなかった分も含めて好きなだけイチャイチャしてくだされ。ここは外界から隔絶されているんでまず情報は漏れませんし」


「随分と準備がいいですね。勿論、そのつもりです」


「ちょっと佳奈さん……」


 記憶を覗いた感じだと意欲的な佳奈に対して、大黒の方が慎重過ぎて進展しないまま死んじゃったみたいだからな……この二人。大黒はヘタレ過ぎるんじゃないか? ……えっ、ブーメラン? いや、全くブーメランになっていないと思うけど。


「やはり、若いというのは素晴らしいことでございますね。前世は後一歩というところで中断し、今生でも身分の差が隔てていた二人の関係がようやく進展する……草子様、本当にありがとうございます。お二人に代わってお礼を言わせていただきます」


「ちょ……劉さん!!」


 拱手して微笑みを浮かべる劉。……いや、ちょっと余計なお世話な気がしないでもないけど、まあこれも優しさというものだろう。

 しかし、大黒よ……やはり初心なのか。


「それじゃあ屋敷に着きましたし、中に入りましょうか? 案内が終わったら装備とステータスを調整させて頂きますのでそのつもりで」

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