次回、能因死すで再来週から“天使様”の冒険が始まりそうだな。

 異世界生活百五十四日目 場所エリシェラ学園、魔法薬学棟


 コンラッセン大平原の屋敷では相変わらず強化特訓が続いている。

 超帝国マハーシュバラを拠点に活動する冒険者達がやってくるのを三日後に控え、戦闘訓練を早々に切り上げた俺はルルード、バルミサーナ、ミモザの魔法薬関連の女子三人組とエリシェラ学園学園長のセリスティア、更に国家同盟教育推進庁長官となったヴァルルスと魔界中央図書館の八手館長と共に新設された魔法薬学棟の研究室の一室に来ていた。


「こちらが、ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国で作られている魔法薬のサンプルと、そのレシピを纏めたものになります」


 まず提示したのがジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国で手に入れた薬草で作ったジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国で流通している魔法薬のサンプルだ。


-----------------------------------------------

治癒藥ルメディキャマン(後一ヶ月)

→HPを中くらい回復する魔法の薬だよ! HPが減ったら飲んでね!

★材料★

ジャガ=ソシュルツ草

フュルディ=ソル草

トルク=ノエデジュ草


魔力藥メディカマン(後一ヶ月)

→MPを中くらい回復する魔法の薬だよ! MPが減ったら飲んでね!

★材料★

シュル=ス=ノーム草

パドル=ゾルフォ草

ゲルディア=ノジュレ草


癒魔藥アルツナイ(後二ヶ月)

→HPとMPを中くらい回復する魔法の薬だよ! HPとMPが減ったら飲んでね!

★材料★

ジャガ=ソシュルツ草

フュルディ=ソル草

トルク=ノエデジュ草

シュル=ス=ノーム草

パドル=ゾルフォ草

ゲルディア=ノジュレ草

or

治癒藥ルメディキャマン+ 魔力藥メディカマン+ギサール草


上治癒藥オー・ルメディキャマン(後三ヶ月)

→HPを特大回復する魔法の薬だよ! HPが減ったら飲んでね!

★材料★

ジャガ=ソシュルツ草

フュルディ=ソル草

トルク=ノエデジュ草

ティモッシュ=ゾラク草

イモック=シラ草

or

治癒藥ルメディキャマン×3+ギサール草


上魔力藥オー・メディカマン(後三ヶ月)

→MPを特大回復する魔法の薬だよ! MPが減ったら飲んでね!

★材料★

シュル=ス=ノーム草

パドル=ゾルフォ草

ゲルディア=ノジュレ草

ティフォ=ポテロナーム草

デュェゴ=ソファス草

or

魔力藥メディカマン×3+ギサール草


上癒魔藥オー・アルツナイ(後四ヶ月)

→HPとMPを特大回復する魔法の薬だよ! HPとMPが減ったら飲んでね!

★材料★

ジャガ=ソシュルツ草

フュルディ=ソル草

トルク=ノエデジュ草

ティモッシュ=ゾラク草

イモック=シラ草

シュル=ス=ノーム草

パドル=ゾルフォ草

ゲルディア=ノジュレ草

ティフォ=ポテロナーム草

デュェゴ=ソファス草

ラピノーン=ディファ草

サキューレス=ジス草

or

上魔力藥オー・メディカマン×3+ 魔力藥メディカマン×3+マンドラドラ

-----------------------------------------------


「流石は草子殿。完璧に纏めてあるな」


「人間側のものと似通ってはいますが、素材が違うということで片方の材料が全滅しても魔法薬を製造することができますからね。……続いて復習を兼ねて既存の魔法薬作成方法について改めた纏めたものにここ最近の研究データを追加したものをご覧下さい」


-----------------------------------------------

水薬ポーション

★材料★

ジャンファラ草

ラウラ草

イージオ草


良水薬ハイ・ポーション

★材料★

ジャンファラ草

ラウラ草

イージオ草

ノードム草

ポートラ草

or

水薬ポーション×3+クダミ草


魔力薬エーテル

★材料★

カルテーナ草

マ・エルヴァ草

ノプート草


魔素薬ハイ・エーテル

★材料★

カルテーナ草

マ・エルヴァ草

ノプート草

ストリィラ草

ザトゥー草

or

魔力薬エーテル×3+クダミ草


秘薬アムリタ

★材料★

ジャンファラ草

ラウラ草

カルテーナ草

マ・エルヴァ草

クレイ=エス草

or

水薬ポーション+ 魔力薬エーテル+クダミ草


高水薬エクス・ポーション

★材料★

ジャンファラ草

ラウラ草

イージオ草

ノードム草

ポートラ草

デーノム草

ゴルティー草

or

良水薬ハイ・ポーション×3+ニガヨモギ草


魔極薬エクス・エーテル

★効果★

→MP大回復。

★材料★

カルテーナ草

マ・エルヴァ草

ノプート草

ストリィラ草

ザトゥー草

ヌルフェー草

ファジェ・レム草

or

魔素薬ハイ・エーテル ×3+ニガヨモギ草


良秘薬ハイ・アムリタ

★材料★

ノードム草

ポートラ草

ストリィラ草

ザトゥー草

クレイ=エス草

HP筍

MP筍

or

良水薬ハイ・ポーション×3+ 魔素薬ハイ・エーテル ×3+ニガヨモギ草


最高水薬ラスト・ポーション

★材料★

ジャンファラ草

ラウラ草

イージオ草

ノードム草

ポートラ草

デーノム草

ゴルティー草

HP筍

or

高水薬エクス・ポーション×3+パッションフラワー


魔恢極薬ラスト・エーテル

★効果★

→MP大回復。

★材料★

カルテーナ草

マ・エルヴァ草

ノプート草

ストリィラ草

ザトゥー草

ヌルフェー草

ファジェ・レム草

MP筍

or

魔極薬エクス・エーテル ×3+パッションフラワー


至高秘薬ラスト・アムリタ

★材料★

デーノム草

ゴルティー草

ヌルフェー草

ファジェ・レム草

クレイ=エス草

HP筍

MP筍

HP茸

MP茸

or

高水薬エクス・ポーション×3+魔極薬エクス・エーテル ×3+パッションフラワー


経験値凝縮薬EXPポーション

★材料★

紫キャベツ


経験値超凝縮薬EXPソーマ

★材料★

紫キャベツ

キョーリャイキャロート


力増強薬パワー・ドリンク

★材料★

力筍

力茸


力値超上昇薬パワー・エンハンサー

★材料★

力筍

力茸

力杉の子


敏捷増強薬スピード・ドリンク

★材料★

敏捷筍

敏捷茸


敏捷値超上昇薬スピード・エンハンサー

★材料★

敏捷筍

敏捷茸

敏捷杉の子


耐久増強薬ディフェンス・ドリンク

★材料★

守筍

守茸


耐久値超上昇薬スピード・エンハンサー

★材料★

守筍

守茸

守杉の子


精神増強薬マインド・ドリンク

★材料★

精神筍

精神茸


精神値超上昇薬マインド・エンハンサー

★材料★

精神筍

精神茸

精神杉の子


幸運増強薬ラック・ドリンク

★材料★

幸運筍

幸運茸


幸運値超上昇薬ラック・エンハンサー

★材料★

幸運筍

幸運茸

幸運杉の子


総合能力向上薬オールアップ・ドリンク

力増強薬パワー・ドリンク +敏捷増強薬スピード・ドリンク+ 耐久増強薬ディフェンス・ドリンク+ 幸運増強薬ラック・ドリンク


魅力上昇薬ビューティー・ベベリッジ

★材料★

シャドーマッシュルーム

ブルーローズ

ドゥフトボルケ

ホワイトリリー


知能上昇薬インテリジェンス・ベベリッジ

★材料★

スベリヒユ

スピニッジ


至上凝縮薬アルティメット・アップ

経験値超凝縮薬EXPソーマ+ 力値超上昇薬パワー・エンハンサー+ 敏捷値超上昇薬スピード・エンハンサー+ 精神値超上昇薬マインド・エンハンサー+ 幸運値超上昇薬ラック・エンハンサー+ 魅力上昇薬ビューティー・ベベリッジ+ 知能上昇薬インテリジェンス・ベベリッジ


聖薬ネクタール

★材料★

ヒポクテ草

マウラ草

エジリオ草

ヴェルディ草

-----------------------------------------------


「……ほんま……草子さんって情報を隠そうとせぇへんよな。これほどの情報なら高く売れるだろうに」


「では、ミモザさんとバルミサーナさんにはお買い上げ頂きましょうか? ミモザさんは銀貨三枚……バルミサーナさんはミモザ様の残りの代金を含めて虹金貨二枚くらいで手を打ちましょう」


「売るなら売るで洒落にならへん金額を押し付けてくるな……分かったわ、ほんでええで」


 売れてしまった……いや、冗談だったんだよ? 冗談で吹っかけたのに応じるとは……五大商会、マジ怖え!!


「それでしたら私も……」


「いや、ミモザさんはいいよ。困っている人のために格安で魔法薬を下ろしている商会と金儲けうはうはしている五大商会の一つの商会長様は違うだろう? ……まあ、素材も希少なものが多いし、聖薬ネクタールや能力や経験値上昇系の薬は売る相手を考えないと戦争になりそうだけど」


「確かに……簡単にレベルが上がってしまう薬や飲み続けるだけでステータスを最大まで上げることができる薬は確かに危険だな。この薬をセリスティア殿と我に託すのは、もし仮に必要になった時に人間、魔族双方が対等にその情報を使うためということだろう? また関係が悪化してしまった時に一方が情報を独占していたら不公平だからな」


「それに、皆様なら口が固そうですからね。まだ人間側と魔族側の薬草の調合は試していませんし、マルドゥーク関係の薬草も他の薬草との配合を試していません。その辺りは今後の課題ですが、俺個人としては至上凝縮薬アルティメット・アップ聖薬ネクタールと商人に横流しするようの質の劣る魔法薬だけで十分なので一旦ここで研究を打ち切ろうと思っています」


「お疲れ様でした。後の研究は私達にお任せください」


 頼もしいな、ルルード。ってか、俺よりも魔法薬研究者としては上位に位置する人だし、きっと途方も無い薬草の組み合わせを一つずつ丹念に調べ上げてくれるだろう。


「……それで、草子殿の目的はこれだけじゃないのだろう?」


「流石はセリスティア学園長。その通りです。本題はこちら――奴隷商人の一斉摘発に向けた支給品の至高秘薬ラスト・アムリタ最高水薬ラスト・ポーション魔恢極薬ラスト・エーテルになります」


「ありがとう……これだけあれば足りるだろう。いや、少々どころか相当多い気がするが」


「いや、念には念をですよ。かなり巨大な組織ですし、もしかしたらアイツらが関わっているかもしれませんからね」


「……アイツら、というとヴァパリア黎明結社か?」


 ヴァルルスの言葉に一同の視線が鋭くなる。……まあ、それだけ強大な組織だからね。


「まあ、今回は期待大な俺より強い超越者デスペラードの皆様もいますし、大丈夫でしょう?」


「いや、草子殿より強い超越者デスペラードはなかなかいないと思うぞ」


 いやいや、セリスティア学園長。イヴとかダニッシュとか紅葉とかブルーメモリアを知らないから言えることですよ。俺なんて超越者デスペラードの中では雑魚の雑魚、面汚しですから。



 異世界生活百五十八日目 場所昨日ミンティス教国、聖都、新神殿宮


 ミンティス教国の聖都に辿り着いた超帝国マハーシュバラを拠点としている冒険者達はミンティス教国の宿で一晩を過ごした。


 そして、今日。ミンティス教国の新神殿宮の中庭に奴隷商人の討伐に参加する者達が集結した。


 自由諸侯同盟ヴルヴォタットの貴族の私兵、フェニックス議国の軍隊、エルフの里の若者達、武装中立小国ドワゴフル帝国の騎士達、獣人小国ビーストの戦士に、海洋国家ポセイドンの兵士、ミンティス教国の騎士修道会、ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国の魔王軍、そして世界各国の冒険者。


 ざっと見ただけでかなりの戦力だし、中には日本人の名前――つまり転移者トラベラーの名前もある……ってか、どっかで見たことがある名前もちらほら? きっと気のせいか他人の空似だろう。


 そんな彼らの前を前に堂々と壇上に上がるのは国家同盟議長のセリスティア=アードレイク女大公グラン・ダッチェス。流石は貴族、堂々としているな。


「国家同盟議長をしているセリスティア=アードレイクだ。これだけの者達が集まったことには本当に驚いている。――今回の奴隷商人の一斉摘発は今後、人間、魔族、亜人種の三派だった者達が互いに手を携えて新たな時代を作っていくために必要不可欠な仕事だ。……正直、私もかつては人間と亜人種、魔族が手を携える未来を思い描く日が来るとは思わなかった。それができるようになったのは私の友人で国家同盟の設立の最大貢献者であるとある人物のおかげだ。彼には本当に感謝している。今日はそんな私の友人を改めて皆に紹介したい。――元国家同盟議長で現在は国家同盟の相談役として我々に助言を与えてくれている能因草子殿だ」


 あっ……あれー!? なんか、呼ばれたんですけど!! 壇上に召喚されたんですけど!! モブキャラにそんな大役は無理だって……まあ行くけどさ。貴族の重圧が恐ろしいです。


「あ、改めまして。それと、超帝国マハーシュバラを拠点に活動していらっしゃる冒険者の皆様は初めまして。他にも直接顔を合わせたことがない方々も本日はお越しくださりありがとうございます。まあ、俺もセリスティア学園長にほとんど強制的に連れて来られた訳ですが。過分なご紹介を賜りましたが、俺はただのモブキャラで大したことはできません。まあ、呼ばれたからにはできる限りの仕事をしようと思いますのでよろしくお願い致します」


「と仰っているが、今回の件は草子殿一人いれば片付くと思われる。草子殿は自分を過小評価し過ぎているので、あまり彼の自己評価を信用しないように」


 うわ、セリスティア学園長、酷過ぎない? 俺はただのモブキャラなのに、当然のことを言っているだけなのに、なんで俺が過小評価をしているって話になるの? しかも悪者扱いに限りなく近いし。


 と、まあそんな感じで場違いな俺の自己紹介は終了し、俺は雑踏の中安息の地に戻った訳だ。

 しかし、何人か俺に対して敵意を向けてきた奴がいたが、本当に大丈夫かね? ……奴隷商人と戦闘になる前に敵意向けて来る奴と小競り合いになりそうだが……ってか何気にまずい!? 次回、能因死すで再来週から“天使様”の冒険が始まりそうだな。



「草子君、白崎さんが呼んでいるよー。なんか重要な話があるから来て欲しいんだってー」


「嫌な予感しかしないから行きたくないって伝えておいてー」


「草子君のクラスメイトが居たんだってー。で、顔合わせをしたいんだってー」


「俺にクラスメイトはいない。浅野教授と浅野ゼミのゼミ生だけが俺の唯一無二の仲間だって伝えておいてー」


「草子君草子君、白崎さん達のことは知らないけど、少なくとも迷宮から一緒に旅をしているあたしは唯一無二の仲間に数えてもらってもいいと思うな」


「まあ……出会った時は本当に頭のおかしい子かと思ったけど、意外と常識あったし、まあ波長も合っている? ……合っているのか? まあ、唯一無二ではないかもしれないけど、数少ない友人の一人には数えられると思うよー」


「聖さん酷過ぎるよ! このタイミングで抜け駆けなんて!! クラスの話題を出したら確実に私が切り捨てられることになることは明らかじゃない!!」


 あっ、噂をすれば“熾天大天使地母神”がクラスメイト? 見たような顔だけど名前は知らないし忘れた連中をぞろぞろ連れてやってきた。


「聖さん、ファインプレーです! 白崎さんには高嶺の花という枷がありますからね。このタイミングで争奪レースから除外できるのは結構大きいです」


「そうね。このまま脱落させてしまいましょう。クラスの高嶺の花というのは結局誰とも結ばれずに喪女として終わるのがテンプレだわ。白崎さんには悪いけど、偶像アイドル偶像アイドルのままでいて頂きましょう」


「クリプ、クリプ。白崎さんが脱落したら争奪レースが一気に楽になるね♪」


『やれやれ……全員で攻略しないと誰も攻略できないって結論になったんじゃなかったリプか? そもそもあのヤルダバオートとかいう悪魔が言うように、本来なら攻略不能な草子のことなんて早々に諦めて新しい出会いを求めるのが吉リプよ……あれは正真正銘高嶺の花……というか、そもそも住む世界が違うリプからね。それでも頑張るっていうからアイリス達のことは応援していたリプけど。取らぬ狸の皮算用……まだ攻略すらできていないのに、もうケーキを切り分ける算段をしているなんて、随分傲慢になったリプね、小娘共』


「うふふ、仲間割れしているわね。今こそ、この北岡胡桃の出陣の時よぉ!!」


『……だから、北岡。何度も言っているけど、そもそもお前はアウトオブ眼中だリプ!!』


 おいおい、仲間割れは良くねえぞ。ってか、聖もリーファも白崎もロゼッタもアイリスも真っ黒な笑みを浮かべているし……怖っ!!

 ってか、コイツらなにが目的で争っているの……まさか、まさか未だに吊り橋効果を引き摺っているのか? もう拗らせ過ぎて一度お医者さんに相談したほうがいいレベルじゃない??


「能因草子。お前、白崎さんの好意を無にしたんだそうだな。お情けでパーティに入れてもらったのに、その好意を踏み躙ってパーティを離脱したとは……万死に値する!!」


「…………コイツ誰? ってか、コイツら誰? 少なくとも俺の脳内データベースの中にコイツらの名前と経歴のデータは一切ないんだが」


「能因草子、いくら貴方が無知だと言っても人気アイドルの夢咲莉乃さんのことを知らないとは言わないでしょう?」


「「そうだそうだ! 生まれ持った美貌と可愛さ、そして弛まぬ努力で人気アイドルに至った莉乃様のことは知っている筈だ!!」」


「……いや、知らねえ」


「嘘でしょ!! 雑誌に何度も特集されているし、コンサート以外にも対談に呼ばれたり、特番が組まれたり、とにかく大活躍しているのよ。貴方みたいな冴えないモブキャラとは違ってね」


「……新手の勧誘? いや、放送協会には通常の受信料の他にBSの方も支払っているし、奮発して4Kと8Kの放送も見られるようにしたよ? まあ、専ら文学関連と科学系の番組とアニメと……それくらいしか見ている暇がないけど。カルチュラルスタディーを研究の主題にするならアイドルとかも含めてどこで何が関わってくるか分からないから見ておいた方がいいんだろうけど。後、最近の若者向け雑誌とかも読まないしね。……いくつか読んでいるけど、よく読むのは『叢』とか『新潮』とか『白樺』とか『新思潮』とか『近代文学』とか『詩と詩論』とか『青空』とか? まあ、そういう系と……後は大学の紀要? いや、嬉しいんだけどちょっと場所取るのがネックだよね」


「……まさか、草子君の家に大学から紀要が届くの?」


「うん、ロゼッタさん。俺も最初はびっくりしたよ。オープンキャンパスで浅野教授と模擬授業で会ってから随分気に入られたのか大学中をほとんどマンツーマンで見て回ることになってね。気づいたら同学部の教授やら准教授やら、後他学部の方々もいたな……後非常勤も。訳も分からないまま自己紹介をしたりしながら巡って……で、一週間後。宅配便が来て何かなって開けたら段ボールが大学からうちに届いたって訳……そういえば、住所伝えた記憶ないんだけど。しかも次からは直接他大学から送られてくるようになって……本当に揃いも揃って俺をなんだと思っているのか? ただの本好きを拗らせた男子高校生なんだけどね」


「ただ単純に草子君の凄さを大学の方々が実感したからじゃないでしょうか? 全く、揃いも揃って目が節穴ですよね。まあ、やっている領域もレベルも全然違いますし、実感できなかったのだと思いますが……」


「ロゼッタさん、辛辣だね。いや、研究って言っても入学してないから趣味の領域だったしね。……まあ、近代を担当している棚橋戯作准教授は『他の教授や准教授の皆様は君を大層評価しているみたいだけど、僕はこの目で見ないと信じられないんだよね。ということで、夢野久作の『ドグラ・マグラ』に関する論文を一本書いてきて』って言われて一本仕上げたけど……ってか、後々気づいたけど、その時に木下女史が女子大の文学部を卒業した時の卒業論文をメタメタに批判しちゃったんだよね。いや、割と穴があったんでつい……そのことを話してからかな。あの人の目が変わったのは……全くこんなモブキャラを掴まえてライバルとかあり得ないだろう? もっと向上心を持つべきだって思わず言いたくなったよ」


「……つまり、草子君は卒業論文では有りがちの『俺の私の論を超えていけ!!』を大学に入学する前に成し遂げてしまったということですね?」


「ん? 見解の相違があるみたいだけど、木下女史は超えるべき壁じゃないよ? というか、大学ってのは目の前に立つ教授や准教授、講師……まあ、なんでもいいけど、先駆者の論をぶち壊して前に進むために入学するんだろう? それが、恩師に対する恩返しである訳だし」


 あれ? 違うの? 大学ってそういうところだと勝手に認識していたんだけど。


「とにかく、俺はお前らのことは知らないし、その件に関しては本当に無知だよ。だってどうでもいいし。そっちが俺を忌避していたように、居ないこととして扱っていたように、俺にとっての居場所はあのクラスではなく浅野ゼミだった。いや、だから敵意向けてきたら容赦なく殺すよ? 別に知り合いでもなんでもないんだから敵なら容赦しないし。それに、勘違いしているけど白崎さんと関わったのだって聖さんに助けろってせがまれたからであって、俺一人なら普通に無視して……うん、多分エリシェラ学園辺りまでは行っていたね。まあ、そこの白崎さんを神聖視している人が助ければ良かったんじゃないかな? ちなみに、聖さんと迷宮で出会わなければリーファさんはガン無視、岸田さんの件でぶっ潰した奴隷商人も無視……というか、ヘイト率堂々の三位の柴田さん達は虐殺全く無しだったね……ヒャッハー? 志島さん達と一ノ瀬達は一位だし確実に八つ裂きにしていただろうし……というか、今も一ノ瀬に関しては八つ裂きにしたいけど。脳筋共も白崎さん、朝倉さん、北岡さんの三人から一段階落ちるくらいの低ヘイトだから無視で終わっていたと思う。……あれ? よくよく考えるとこんなに大所帯になった元凶って聖さん!?」


「えっへん! もっと私を敬うのです!! あたしが居たからみんな救われたの!! そして、そのまま大人しく草子君から身を引くのです!!」


「……確かに聖さんが居たから私達は助かったかもしれないけど、それとこれとは話が別」


「されば、我以外全員が一度ミンティス教国に捨てられたり。故に恋人の資格なしと断ずることは可能。……されば、そこの偶像? 小娘にらうたさも麗しさも微塵もあらず。我が思ひき人にして憧れの人、カタリナ=ラファエルにあはさば、全ての女子は皆醜女なり」


 おいおい、ジューリア。なんで無表情で新しい火種を持ち込んでいるんだよ!!


「……醜女ですって!! 莉乃さんが!!」


「然り」


「まあ、確かにカタリナさんに勝つのは無理よ。外見で草子君を突破するのは無理だと理解しているわ。そもそも、草子君は本以外には靡かない上に草子君カタリナさんの美貌を手に入れてしまったんだからもう無理よ。それに、マイアーレさんとシャンテルさんも絶句する演技力と観察眼で誘惑をしようとしても見抜かれてしまうし、女の武器を使った攻撃は百パーセント通用しないと言っていい。……誰なのかしら? 私を高嶺の花なんて言い出したのは? 草子君に比べたら私なんて路傍の石よ。……それと、春彦君だっけ? ファンだかなんだか知らないけど、私の恋路を邪魔をするなら今ここで殺すよ? それに、もうクラスなんてどうでもいいと思っているしね。邪魔をされるくらいならみんないない方がマシだわ」


 なんか白崎が闇堕ちしている!? というか、他の女子達も黒いオーラを纏っているし……うん、正直怖い。


「白崎さん、正気に戻ってください!! きっとあいつに騙されているんだ!! あの能因草子さえ殺せば!!」


「……春彦、止めろ! いくらなんでもやり過ぎだ!! お前はお前の勝手な都合で俺達を皆殺しにするつもりなのか!! いいか、今の俺達では絶対に白崎さん達に敵わない。白崎さん達に敵わないってことは、【たった一人で殲滅大隊】には絶対に勝てないってことだ。アイツには絶対に喧嘩を売ってはいけない。それに、もし仮に勝てたとしても、今度は国家同盟が敵になる」


「…………はあ。私の元クラスメイト達は私達以上に莫迦だったようね。全く同郷の出身者として悲しいわ。……いい、お前達では草子君にダメージを与えることは不可能。文字通り、次元が違う。同じ次元に至った筈の私達だからこそ分かるわ。同じ次元に立った筈なのに、それでなお私達と草子君の実力には大きな溝がある。……随分傲慢ね、異世界に来て地球にはない最強の力を手に入れたからかしら? でも、この世界ではそれが普通だし、微温湯の世界を一歩外に出れば、そこには意味不明な実力者達が犇いている。異世界転移して、自分を選ばし者や英雄だと解釈しているのなら悪いことは言わないからやめなさい。この世界は必ず正義の味方が悪を倒す世界じゃない。正義や覚悟を持つ者同士がエゴをぶつけ合って、前に進む世界よ」


「いや、柴田さん。ちょっと棘があるんじゃないでしょうか? もっとオブラートに包んで。そもそも連中とエンカウントすること自体がおかしいから。……まあ、別にいいけど。で、結局どうするの? 一応全員分のステータスを確認するついでに【過去視】と読心スキルで全員の心は読ませてもらった。とりあえず、織田ヲタ達は皆殺しにするとして……相沢はなんかクラス支配を企んでいたみたいだけど、エリーゼさんがいる間は無害だから放置でいいだろう」


「「「「俺達殺されるの!?」」」」


「……やっぱり、相沢さんはクラスを」


「そ、そんなことない! そ、草子、何かの間違いなんじゃないか?」


「……まあ、そういうことにしておいてやるよ。どっかの数学的天才さんみたいに殺されなくて良かったね。……まあ、あの主人公と違って俺はまだ良識はあると思っているけど。しかし、苦労してきたね。かのナイアーラトテップに追われているとは。間違いなくその【這いよる混沌】が元凶だから、良かったら後で【才能ト譲渡之神】でステータス欄から削ってあげるよ」


「本当か? 本当にあの化け物に追われなくて済むのか?」


「ああ、理論上は。ちなみにスキルの方は消えないと思うよ。……しかし、無人島からよくここまで来たよね。高槻の迷宮でサイクロプス、ケルベロス、ヨルムンガンド、LEVEL:99999で基本ステータスは9999999、各種耐性フル装備で個体によって異なるけど物理、衝撃、魔法、状態異常、即死、因果に耐性か無効化を持っている連中に襲われた時はもう無理、絶対に転移した中で一番理不尽な目にあっているって思ったけど、なんだ、もっと上が居たんだ」


「いや、どう考えてもお前が一番だろう? 天才の僕も流石にその状況になったら詰む。計算した上で勝ち目がないと判断して早々に死を受け入れていただろう……というか、よくその状況で生き延びれたな」


「……またまたご謙遜を」


 うん、なんか後から白崎勇者パーティに加わったメンバーとクラスの残り連中+αが、衝撃のあまり? 固まっているんだが……変なこと言った?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る