能因草子の優雅?な日常②

 異世界生活百四十五日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領エーイーリー、魔界中央図書館


「ここが魔界中央図書館ですか!!」


 奇異な目を向けた……と思えば、「なんだお前の連れか」とでも言いたげに妙に納得して何もなかったように去っていく魔族達……本当になんなんだろうね。

 ちなみに、向かったのは俺が建てていない方の魔界中央図書館だ。一応、八手館長にイミリアーナの分の閲覧許可をもらわないといけないからね。


「イミリアーナさん、都会に来た田舎者みたいにキラキラ目を輝かせていないでいきますよ?」


「ま、待ってください。草子さん」


 図書館の扉を開き、そのままカウンターへ。


「こんにちは。能因草子ですが、八手館長はいらっしゃいますか?」


「八手館長ですか? 最近はほとんど新しい方の魔界中央図書館に入り浸っていますよ?」


 ……あれ? こっちにいるかと思ったら違ったか。


「おっ、草子殿ではないか……と、そちらのダークエルフの方は?」


「お久しぶりです、ヴァルルス様。イミリアーナ様、こちら魔王領エーイーリーを担当する魔王軍幹部のヴァルルス=ルナジェルマ様です。ヴァルルス様、こちらは文学者のイミリアーナ=ノー・マル・シア様です。本日はイミリアーナ様の魔界中央図書館の使用許可をいただきつつ、書籍の追加を致したく参りました」


「なるほど……イミリアーナ様は、物語をお探しにきたということか? 分かった。イミリアーナ様についてもこの図書館を使用許可を出そう」


「ありがとうございます」


 まあ、八手かヴァルルスかどっちかにゴーサインを出してもらえたら良かったから、結果オーライかな?


「ところで、随分と職員が忙しそうですね」


「ああ、草子殿に教えてもらった図書分類法があっただろう? あれが利用者に人気でな……こちらの本館? 本館なのか? 向こうの方が充実している気がするが……にも適応することになったそうで、ここ連日は入れ替え作業とシール貼りを行っているのだ」


「もしかして、Nippon Decimal Classificationという分類法ですか?」


 あれ? イミリアーナも知っていたんだ……。


「翔琉先生が購入した資料を分類別に分けているのを見て気になって聞いてみたことがありまして。その時の分類法と酷似していたので」


「いや、流石は有名漫画家さんともなると違うね。……って、普通はそんなことしないか。あの人マメだな」


「ん? その漫画というのはなんだ?」


 あっ、そういえばこの世界には存在しないんだっけ? エリシェラ学園の関係者では既に知らない人がいないというところまで来て、首都ファルオンドの貴族とサイフィドルの町の庶民を中心に少しずつ広がりを見せているけどな。


「漫画の定義は視覚情報を絵として提示する、絵は話の展開を動的に描写し、情報の本質部分を占める……って言っても伝わらないか。直接見せますんで、少々お待ちください」


 スマホアプリを立ち上げ、電子書籍のページを動かしていく。

 ……ってか、二人ともスマホの中を覗き込み過ぎ。それ、損害賠償が発生する犯罪だよ……って異世界じゃ通じないか。


「もしかして、これが草子さんの世界の小説ですか!!」


「まあ、他にも論文とか雑誌の写しとか近世読本とか色々入っていますが……おっ、漫画はこれが良さそうですね」


「ちょっと待て……一つ前のはなんだったのだ?」


「あっ……草双紙ですか? 読本と同じく俺達の世界の近世に流行ったもので、こちらは絵が主体の絵本みたいなものですね。まあ、文字が細かいので漫画の方がいいと思いますが……」


「いや、これもなかなかだな。……草子殿、その追加の本に草子殿の世界の本は入っていないのか?」


「……入っていませんが?」


「頼む、追加してくれ!!!!」


「お願いします!!!」


 いや、なんか地球人の大半が知らないところで文明の化学反応が引き起こされようとしているよ!! ……本当に大丈夫なのだろうか……まあいいよね。


「分かりました。この電子書籍の中にある全てのデータを書籍化することもお約束しましょう……はぁ。それと、既存の本も魔族以外も読めるように【言語理解】をプログラミングしておきましょうか?」


「かたじけない。〝読文リーディング〟の【無属性魔法】がなければさっきの草双紙も読めなかったからな」


 ってか、読んでたんだ……この人。


「では、もう一つの図書館に移動しましょうか?」



 イミリアーナの驚き二発目。しかも、こっちの方が更に驚いていた。……オレノセイジャ、ナイヨ? タダ、フツウニツクッタラキンダイテキナビルディングニナッタダケダヨ? ……ホントダヨ?


「お久しぶりです、草子様。……あの、そちらの方は」


「文学者のイミリアーナ=ノー・マル・シア様です。イミリアーナ様、こちら魔界中央図書館館長の風見八手様です」


「ほうほう……文学者ですか。でしたら、九番台ですね」


「はい、基本は九番台です」


 八手が「本当に通じちゃったよ」って思っているみたいだが、俺の知り合いだから通じちゃうという可能性は考慮しないのか? いや、俺とは違うソースで知ったみたいだけどさ。


「イミリアーナ様の利用許可がヴァルルス様からおりましたので、よろしくお願い致します。それと、イミリアーナ様は俺なんて目じゃない高貴な身分のお方なのでくれぐれも……」


「あの、私って貴族でもなんでもないですよ? それに、草子様以上の高貴な身分のお方はいないような……」


「これから新たな文学研究の歴史を作るイミリアーナ様に万が一のことがあれば大変ですからね。……魔族は亜人種を蔑視している節がありますので、万が一もあります。……おっ、すっかり忘れていました。こちら、多種類結界と反撃効果が付与された髪留めになります。イミリアーナ様の美しい黄金色の髪が映えると思いますしいかがですか?」


「あっ、ありがとうございます。一生の宝物にします!!」


 ……おいおい、そこのお二人さん。「うへぇ」って顔をしているが、どうした??


「草子殿……あれだけ女性に囲まれているのに、更に手を出すのか?」


「違いますよ? イミリアーナ様はただの同僚です。少なくとも俺の知る限り、この世界の文学研究者では一番フレッシュで、最も精力的に活動なされているので、友好関係を築いておきたいと思いますが」


「……あの、私よりも遥かに草子様の方がご活躍なされていますよ? 流石に他国にまでフィールドワークに出掛けることは致しませんから」


 ヴァルルスと八手も頷いている……いや、旅をするついでにフィールドワークをしているみたいだから大したことないよ?


「それでは、追加の本を創造しますね。……えっと、内容は電子書籍にあった近世読本、草双紙、漫画、書籍、小説、参考書、論文等々と、異世界ガイアで入手した書籍……この辺りはそれぞれ分かるように番号を変えておいてください」


 【主我主義的な創造主】を発動して超高速で本を積み上げていく。

 最初は職員を使って本を運び出そうとしていたみたいだが、途中で無理だと理解してやめたようだ。

 二時間弱で全ての本を複写し終え、ここにある全ての本に【言語理解】を付与して――。


「とりあえず、これで終わりですね。イミリアーナ様はこの後どうなさいますか?」


「私はしばらく読んでから帰りたいと思います」


「それではゲートミラーを渡しておきますので、好きなタイミングで戻ってください。それでは、俺は次の用事がありますので失礼します」


 ……ところで、俺のしたことってただでさえ忙しい図書館に更に仕事を持ち込んだようなことだけど、本当に大丈夫なのかな? いや、本人達がいいならそれでいいけど。

 というか、結局ヴァルルスと八手は働かないだろうし、またバイト君達が召喚されて仕事を押し付けされそうだ……お可哀想に。



 異世界生活百四十五日目 場所ミンティス教国 聖都 新神殿宮


「それでは、草子殿を国家同盟の相談役に任命することについては賛成の方は挙手してください」


 ……まさかの全員。というか、三時間でよく集まったな。

 会議はそれぞれ統治国ごとに代表者を選出し、それぞれの統治国のメンバーで議決したこと(なお、多数決や全会一致など議決方法は各国で異なる)を各国の代表者同士で更に議決し(こちらは多数決)、決定したことを国家同盟の総意とするようだが、今回は完全に全会一致……最初から総意は決まっていたんだね。


 ちなみに各国と代表者はこんな感じです。


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・自由諸侯同盟ヴルヴォタット

代表:ヴァイサル=エリファス大公


・フェニックス議国

代表:ヨハン=アクアレーティア初代議長


・エルフの里

代表:オーベロン=ティル・ナ・ノーグ族長


・武装中立小国ドワゴフル帝国

代表:ヴァエルドフ=ドヴェルグ=カイザー皇帝陛下


・獣人小国ビースト

代表:レオーネ=バステト女王陛下


・海洋国家ポセイドン

代表:ザヴァルナード=トリアイナ陛下


・ミント正教会

代表:メル=ジルフィーナ教皇、ハインリヒ=インスティトーリス摂政


・天上大聖女教

代表:ユーゼフ=クランマー筆頭総主教聖下

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 ……ん、見間違いじゃないよな? 俺の知らない間に変なのが議決権の一部を持っているんだが……。

 とりあえず、【色慾之神】に変身。あっ、【三貴紳の戦乙女ヴァルキューレ・オブ・ブレシング】カタリナ=ラファエルではなく【大聖女アーク・ピュセル】カタリナ=ラファエルの方だよ?


「あの……ユーゼフ君? 大聖女教カタリナファンクラブや天上大聖女教とは一体なんなのですか?」


 俺って天●紅蓮教的なものを作れとは一っ言も言っていないよな!!


「お久しぶりです、カタリナ様。カタリナ様を神聖視する方々がカタリナ様の登場以降続々と増え続け、そんな方々を纏める組織として最初は大聖女教カタリナファンクラブを作って細々とやっていましたが、更に人数が増えてきたので天上大聖女教に改名して規模を拡大致しました。今は僕、ユリシーナさん、ゼルガドさん、ペトロニーラさんが総主教となり、教会の運営をしています。教義はカタリナ様のように慈悲深く困っている人には手を差し伸べ、常に勉学に励み、本を読み、研究を重ね、自己の研鑽に励むというところです」


 ……うん、なんなんだろうね? 意外とまともだけど、後ろ二つ前と三つ前は組み合わせると文学研究ってことだよな!?


「……私は認めませんよ! 私の知らないところでカタリナを神聖化する宗教を作るなんて!!」


「これも僕を騙して振ったカタリナ様への復讐だと思ってください。これくらいの嫌がらせをしてもバチは当たりませんよ、きっと。……それに、僕はカタリナ様に頂いた多くのものを色々な方に広めていきたいのです。……例え、あれが演技だったとしても、その中に本物が混ざっていたと今の僕は信じています。闇堕ちした僕を目覚めさせてくれたのは事実ですから。……そして、それは草子様の優しさでもあると思っています」


「……仕方ありませんね。怪しげなカルト宗教でもないみたいですし、天上大聖女教とやらに関しては黙認することにします」


「ありがとうございます、カタリナ様」


 ……う〜ん。全部向こうのいいようにされている気がするんだが、やっぱりモブキャラに権力はないよな。


 カタリナへの変身を解く。ユーゼフを含めほぼ全員がガッカリしたが……なんだ? モブキャラで悪かったな、おい。


「では、俺から報告が。まず、魔族に関してですが、一応こちら側――人間や亜人種側との和解を目標に動いています」


 あれ? 誰も驚いていない? あの、「お前何当たり前なことを言っているんだ!」的な視線向けるのやめてくれませんか!!


「まあ、そうなるだろうとは思っていた。……それで和解はできそうなのか?」


「無理ですね」


「「「「「「「「「「無理なの!?」」」」」」」」」」


「いや、皆様の頑張り次第という感じです。とりあえず、俺の目的は魔王を倒すことではなく無害化……世界的に見て敵だと思われる立場ではなくすことなので、魔王を一国の王の立場にした上で、国家同盟の一員となって頂けないか打診はしてみるつもりです。まあ、ただネゴシエーターがこのモブキャラなので信用はできないかと」


「……我々相手に一人でネゴシエーションして国家同盟を築き上げた草子殿なら何一つ心配事はないな」


 うん、ヴァエルドフの信用が怖い。そして当たり前のように頷くな、お前ら。


「それと、魔族側の精霊の国――常闇の森テネブラエ・ネムスに異世界ガイアとの門を開きましたので、向こうから誰か来るかもしれません。あまり関係ないとは思いますが、一応頭の片隅に留めておいてください」


「……つまり、異世界人がこちらに来るということか」


「それを言うなら俺も異世界人ですけどね、ヴァイサル様。……とりあえず、俺からは以上です。相談役といっても全く役に立たないとは思いますが、何かありましたらエリシェラ学園の研究室まで連絡を入れてください。……また、魔王領の一件が解決次第、皆様のご意見を伺いに参りますので、よろしくお願い致します。それでは」



 異世界生活百四十五日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、常闇の森テネブラエ・ネムス


 〝移動門ゲート〟を開いて常闇の森テネブラエ・ネムスに移動する。

 異世界ガイアと異世界カオスを繋ぐ異世界間転移門トランスポートゲートが正常に起動しているかを念のため確認しにきたんだが……。


『久しぶりね』


「「お久しぶりです、草子さん」」


 ユエはともかく、なんで裕翔と美春がいるんだ?


「美春さんと話し合って、異世界カオスでも冒険者登録をしようということになりまして。それで、ユエ様と一緒にこちらに来たら草子さんが……本当にびっくりしましたよ」


 いや、こういう偶然もあるものだねぇ。


「とりあえず、二人にゲートミラーを渡しておくよ。異世界カオスで活動するなら、すぐに常闇の森テネブラエ・ネムスに戻って来られるシステムがあった方が便利だからね」


「「ありがとうございます」」


「いやいや、例には及ばないよ」


 うん、別に神代魔法を付与した訳でもないし、簡単に量産できるからステータスプレート並みの価値しかないと思っているんだよ。

 いや、一冒険者チームに一枚は必須くらいになるんじゃないかな?


「ところで、ユエ様。あっちの方は」


『流石に数日では何も変えられないわよ? 貴方じゃあるまいし……でも、確実に少しずつ変わっていっているわ。これもヱンジュ達が心の底から変えたいと思って頑張っているからね』


 ……「貴方じゃあるまいし」って何気にディスられた?


「それじゃあ、ヱンジュさん達にもよろしく伝えておいてくれ。またそっちにも遊びに行くかもしれないし。……それじゃあ、裕翔さんと美春さんは借りていくよ」


『……私と契約しなくて、本当にいいの?』


「いや、契約したら嫌でも他の“精霊王”達の顔を見ることになるぞ? それに、俺は精霊の力がなくても他の力でなんとかなるって……まあ、所詮はモブキャラだから絶対とは言えないけど」


『いえ、草子さんなら大丈夫よ。……また、いつか。一緒に旅をしましょう』


「……またいつかな」


 異世界カオスから地球に帰還する前にはもう一度くらいユエと一緒に旅をするとするか。



 異世界生活百四十五日目 場所水の街アクアレーティア 冒険者ギルド


「冒険者ギルドへようこそ…………貴方様は、【たった一人で殲滅大隊】様!?」


 ヤバイ、反射的に受付嬢に【貪食ト銷魂之神】を放ってしまった。いや、老害がつけた巫山戯た二つ名で呼ぶ方が悪いよね!!


「〝いと慈悲深き主よ! その慈悲でこの世の凡ゆる障害を消し去り給え〟――〝万聖之解除セイクリッド・イレース〟」


 〝聖祈之祝福セイクリッド・ブレイクスペル〟と同じ効果を持つ〝万聖之解除セイクリッド・イレース〟を掛け、受付嬢を癒す。


「冒険者登録希望者二名、お願いします」


「そちらの方々ですね。……あの、草子様? 草子様は冒険者には」


「にーとは冒険者になれないって言ったのはお前らだろう? 一度言ったことは撤回するなよ」


「――す、すみません!!」


 なんか俺が悪い奴みたいじゃないか。……全く、だからこの世界の冒険者ギルドは嫌いなんだよ。


「それと、指名依頼。チームトライアードなんだけど……」


「チームトライアードは現在依頼の最中でして、本日中には帰ってくると思いますが……」


 さっきから絶対失敗fumbleを出しまくっているドジッ娘? 受付嬢に変わり、まんまるの黒縁眼鏡に三つ編みの藤色の髪の受付嬢が対応してくれた。……どっかで見たことあるな、JOBも回復職と暗殺者アサシンだし。

 ちなみに、さっきのドジッ娘は裕翔と美春の担当になったようだ……頼むから二人には迷惑をかけるなよ。


「では、こちらに具体的な依頼内容をお書きください」


 ……向こうでは「なんですか、このステータス!! 絶対に駆け出し冒険者のステータスじゃないですよね!!」とか騒ぎになって結局ギルマスを召喚しているけど、こっちは書かないといけないからスルーで。


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依頼者:能因草子

依頼チーム:チームトライアード

依頼内容:人と会ってもらう。

場所:魔王領バチカル、ポテムの村。

備考:模擬戦の可能性あり(予想)。三食、寝床付き、武器強化あり。

依頼料:金剛金貨三枚

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「…………はっ?」


 書類を提出したら「お前何言ってんの」的な視線を向けられたんだが……いや、変なことを書いた?


「正真正銘の指名依頼。実は魔王領で戦い方を教えた弟子? まあ、そこまで大したことはしていないんだけど……。その彼が先輩弟子? いや、イオンさん達にも別段何かをしたって訳じゃないけど……。とにかくチームトライアードに会いたいそうでね。で、指名依頼をしに来たという感じです。同行者にはエリシェラ学園のセリスティアさんもいらっしゃいますし、大丈夫ですよ?」


「草子さんの依頼は全て承認しろと言われています……ちょっと額と内容に驚いただけなので気にしないでください」


 受付嬢さん、青褪めているんだが、大丈夫か?


「では、朝一番でギルドに来ますので、よろしくお願い致します」


「ありがとうございました」


 さて、一旦やることも終わったし。一度屋敷に帰って休むか。……と、その前に食事か。

 というか、休日ということで出かけて行った白崎達は戻ってきているのか?

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