幼女戦士アリサちゃんvsロリ九尾狐の鳰ちゃん

 異世界生活百四十四日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、魔王領カイツール


【三人称視点】


 魔王領カイツールのポータルにある広場――多くの魔族と聖達来客者が集まる中、二人の少女……否、幼女が正対していた。


「いざ、勝負っす!! アリサちゃん!!」


 鳰は魔王領エーイーリーでの戦闘の時以上の気迫でゴスロリの美幼女――アリサと対峙した。


「におおねえちゃん、まけないよ!!」


 対するアリサは天真爛漫な笑顔を浮かべ、アリサちゃん専用魔剣れーゔぁていんを構えた。


 鳰もアホの子ではない。草子の強さは嫌というほど理解していた鳰は、模擬戦の条件に草子のチート級スキルの封印とアリサ化を要求した。それに対し、草子は。


『いや、別に俺のスキルってチートでもなんでもないと思うんだが……いや、モブキャラがチートスキルを持っている訳ないよね!!』


 とお前何言っているんだ? 的な表情を浮かべたが、その場にいた草子の実力を知る者達に『どう考えてもチートキャラだよね!!』と異口同音で突っ込まれ、不承不承「アリサが使いそうなスキルのレベルに抑える」ということが決まったのである。


『頑張れー! アリサちゃん!!』


『負けるな!! アリサちゃん!!』


『そんな幼女狐に負けるな!! アリサちゃん!!』


『もふもふさせてー! アリサちゃん!!』


『ぼ、僕の専用美幼女メイドになってご奉仕してください!!』


「いや、絶対におかしいっすよね!! 誰も味方がいないっす!! というか、なんか危険な奴が何人か混じっていた気が……」


「ありがとう! ありさ、がんばるよー!! それと……『寄るな、変態』!!」


 アリサの可愛らしい……しかし、煮詰めに煮詰めた嫌悪感が篭った声音が合図となり、漆黒の飛行十字架クロス・ビットがはぁはぁ言っている魔族へと一直線に飛んでいき、込められた《爾、認識する事勿れテメエら二度と見んな》と〝ダイレクト・ペイン〟が同時に発動した。

 断末魔を立てて魔族の男が頽れる。


「さあ、しきりなおしてたたかうよ? におおねえちゃん!!」


『アリサちゃん……恐ろしい子!!』


 グレーラインの声援を送っていた鵠は氷柱女にも拘らず、青褪めた表情でガクガク震えていた。


「それじゃあ先制攻撃を仕掛けるっす! 例え相手が師匠と言っても所詮は幼女――スキルのほとんどが封じられた師匠なんて怖くもなんともないっす!! ――風魔手裏剣影分身!!」


「こてつぅ・かねさだぁ――こんかっせ・たぶる」


 アリサちゃん専用魔剣れーゔぁていんを宝物庫の指輪リング・オブ・チェストにしまい、アリサちゃん専用小太刀二刀流を召喚した。

 幼女のものとは思えない華麗な剣捌きが風魔手裏剣を見事に両断する。


「――そんなの反則っす!! 幼女にそんな剣捌きは無理っす!!」


『そんなことないと思うけどな……こんな私でも斬撃を見切れたし』


「白崎っちは一般人じゃないから参考にも何にもならないっす!!」


『ちょっと、というか相当酷いよね!!』


『華代、落ち着いて! 【究極挙動】を見切った華代は草子君をチート扱いできないほどチートよ!!』


『そうよぉ? 私にも未だに【究極挙動】は見切れないしぃ、やっぱり白崎さんは異常だわ』


 全く褒めていない、挙句化け物扱いをする副委員長二人に、委員長は激しく落ち込み、とてもゆっくり観戦する気持ちにはなれなかった。


「――みょるにぃるぅ」


 こてつぅ・かねさだぁの代わりに召喚された雷神トールの槌――ミョルニルの名を冠するハンマーが振るわれた。

 鳰は咄嗟に躱すが、地面に当たったハンマーは地鳴りのような激しい音を響かせた。


「……今までの武器もそうっすけど、絶対に子供のおもちゃじゃないっすよね! そのまま魔王を倒しに行くとか言い出しても別に違和感ないっすよ!!」


「におおねえちゃん。わたし、よわいからまおうさまのところにいったらかんたんにころされちゃうよ……」


「いや、絶対猫被っているっすよね!!」


『猫を被るも何も、草子様がアリサちゃんになっている時点で相当な手加減をしています。その状況で負けていて鳰は悔しくないのですか?』


「いや、雲雀っち……こっち来て戦えば分かるっすよ! あの天真爛漫な笑みの裏で次はどうやって痛めつけてやろうか、あの幼女って真っ黒なことを考えているっす! 絶対にそうっす」


「……ひ、ひどいよ……ぐすん」


『『『『『『アリサちゃんを虐めるなんて、絶対に許さねえー!!』』』』』』


「いや、絶対にこの状況おかしいっすよね!!」


 鳰が激しいツッコミを入れた瞬間、不可視の刃が頬を切り裂いた。

 白崎達――一部の者達だけが捉えることができた、その神速にすら至った一閃――初速、終速の概念のない。音すら存在しないほど削ぎ落とされた0から100への急激な緩急を旨とする《比翼》の剣ですら霞むほどの一太刀に、太刀筋を見切った者達は衝撃を受けた。


 何故なら、そのスキルは「アリサが使いそうなスキルのレベルに抑える」というルールで封印された筈だから。


「はぁはぁはぁ……」


 観客達は阿鼻叫喚の声を上げるのをなんとか気合いで押さえ込んだ。

 鵠は涙を拭い、アリサに視線を向ける。


「……やっぱり、ちょっとむりがあったね」


 アリサちゃん専用魔剣れーゔぁていんを掴んだぐちゃぐちゃになった右手だったものに視線を向け、苦痛に顔を歪め、痛みで涙を流しながら、しかし一方では冷静に状況を観察する草子らしい観測者の表情を浮かべる。


「あすぅくれぴおすぅ。〝ああ、むごきせんじょうよ! いくさにみをとうじ、せいめいをちらしたじゅんきょうしゃたちよ! せんかにやかれしょうどとかしただいちよ! せめて、せめてこのわたくしがいのりましょう! いつまでも、いつまでも、いのりつづけましょう〟――〝極光之治癒おーろら・ひーる〟」


 アリサちゃん専用小型聖杖あすぅくれぴおすぅを左手で構え、【神聖魔法】を発動し崩壊した右手を元に戻す。


『……あれが、スキルアシスト無しの【究極挙動】。完成していたんだ……』


 完璧な形で発動された体術版の【究極挙動】――しかし、幼いアリサの身体ではこれが限界だった。


「……そ、そんなのアリっすか!! スキル無しであんな体術を使うなんてそんなのあり得ないっす!!」


『『『いや、あり得るだろう? スキルなんて使わなくても戦えるしな』』』


『進藤さん達は相も変わらず脳筋ですね』


 レーゲンが、呆れた表情で進藤達を見つめる。


(……しかし、草子さん。無茶をするものだな)


 か弱い設定のアリサの姿で究極挙動を使えばどうなるかは火を見るより明らかだ。

 腕がぐちゃぐちゃになった瞬間――草子はきっと想像もできないほどの激しい痛みを感じた筈だ。


 その状況で涙を流す程度で押さえ込んでいるという時点で、人の限界を超えた精神力を持っているということになる。

 まあ、その程度の精神力が無ければ、異世界カオスを実質支配するヴァパリア黎明結社に喧嘩を売るような真似はしないだろうが。


「それじゃあ、しきりなおすよ。におおねえちゃん。――ぐんぐにぃーるぅ」


 アリサちゃん専用小型魔槍ぐんぐにぃーるぅを構えたアリサが、高速で鳰に迫る。

 といっても、その速度は草子に遠く及ばない。例え技術があったとしても、所詮は幼女のひ弱な身体だ。


 鳰は素早く【無音移動】と【隠形】と【神速縮地】と【躱避】を発動してそのまま回避。

 アリサちゃん専用小型魔槍ぐんぐにぃーるぅは虚しく空を切った。


「妖術影分身の術! さあ、どれが本物のウチか分かるっすか」


 ポン ポン ポンチーン


『……本物が誰か見分けろも何も、分身が全員ボインボインのナイスバディだと、一人だけぺったんな幼女が際立って見えるので意味がないと思います。最早狙ってくださいといっているようなものですね。雲雀ならそんなヘマはしません』


「あっ、やっちまったっす!! ついついいつもの姿を想像してやったけど、今は幼女だったっす!!!」


 「コイツ何言っているの」と言いたげな女性客。鼻血を垂らしながら魂を飛ばしている男性客と一部の女性客……鳰のお色気の術(期せずして)は予想外の被害を出した。


「では、改めて行くっす!! 【狐火】」


 鳰(幼女)と鳰(虚像)の尻尾に狐火が宿り、高速でアリサに向かって放たれる。


「〝たいきをしはいし、てんきをあやつれ〟――――〝天気支配こんとろーる・うぇざー〟」


 が、突如降り出した豪雨が狐火を消し去った。


『……【天候魔法】、〝天気支配コントロール・ウェザー〟ですか』


 稚拙な詠唱でスナック感覚に発動された【天体魔法】と並ぶ稀有魔法に、シルヴィーヌは驚きを隠せない。

 だが、鳰にとっては草子はびっくり箱ジャック・イン・ザ・ボックスのような存在――例えアリサの姿で【時空魔法】を唱えようと不思議には思わない。思わないが……。


「いや、どんだけ武器を用意したんすか!! 気合い入れすぎじゃないですか、師匠!!」


 アリサちゃん専用小型魔杖けーぅりゅけいおんを召喚したアリサに、鳰が遂に青筋を立てながらツッコミを入れた。


「…………もうねたがないし、あきたからおわらせるね。ばいばい、におおねえちゃん。〝灰燼おーばーきりんぐ・裂燚のゔぁ・ぷろーじょん〟」


 【爆裂魔法】を超える爆裂魔法――【爆滅魔法】と呼ぶべき固有魔法オリジンが鳰を消し飛ばした。



 異世界生活百四十四日目 場所海洋国家ポセイドン、孤児院


「はいはい、ソースせんべいに自家製の麦芽ともち米で作った水飴、ポン菓子米はぜ、まだまだ沢山用意してるで〜。籤の商品も豪華に取り揃えているで〜。おっと、ただ見は駄目や、お菓子か籤を買わんと」


「何やっているんですか? 草子さん」


 孤児院の子供達から小遣い稼ぎをしようとしたらレーゲンにキレ気味に質問された……いや、勿論お金を取るってのは冗談なんだけどな。


「ようやく草子さんがよく商人と熾烈な戦いを繰り広げている理由が分かりました。……なるほど、影郎さんリスペクトだから商人に愛着を持って愛の鞭を振るっているんですね」


「やっぱりレーゲン君には一目瞭然だよな」


 あの胡散臭さがたまんなくいいんだよね。……まあ、あれが好きだからこの世界の商人にはあんまり面白みを感じないんだけど。軽薄さが足りないんだよ、軽薄さが。


「ところで、その衣装はどうしたんですか?」


「あっ、これ? イメージチェンジだよ。……やっぱりモブキャラに衣装チェンジは必要無かったかな?」


 新たに中折れ帽を作り、魔導師のローブを改良してコートを作り、カッターシャツと黒ズボンを合わせ、腰に剣を差したのが新しいスタイルだ……うん、つくづくモブキャラには勿体無いと思うよ。


 俺達はポセイドン宮殿に向かった訳だが、そこで過去に救出した元奴隷達がいる孤児院に行かないかという話になり、この孤児院に赴くことになった。

 ちなみに、鵠については最初は魔族ということもあり危険視されていたが、鵠自身が妹に対して絶対の忠誠を尽くすこと。そして、ミュナが着せ替え人形を苦にしない性格だったということもあり、ごくごく一部の者を除き、暖かく侍女として迎えてくれたようだ。


「ミュナ様の近衛侍女は私だけだ! こんなどこぞの馬の骨に任せてはおけん!!」


「私は五箇伝所属、全ての妹の味方――水喰鵠です! マリーナ様、今までお疲れ様でした。後は私一人で大丈夫なので、楽しく暮らしてください」


「貴様ー!!」


「よきかなよきかな。仲良しで何よりですな〜」


「これを仲良しって言えるって、草子君って相当へそ曲がりよね」


 聖がジト目を向けてくる……いや、仲良しじゃん。喧嘩するほど仲がいいって言うだろ? 俺には喧嘩する友達すらいなかったんだよ。まあ、それはそれで良かったんだけどね。ぼっちさいこー!!


「ほんなら始めるで〜。演目はいつもと同じ『ガイア戦記』や」


「いつもって今回が初めてですけどね……」


 全く細かいことを気にするな。雰囲気に乗れよ、雰囲気に。

 紐を切ってカーテンを開けると、そこから絵が飛び出して、まるで本物のような黒髪の主人公とヒロインが動き始めた。


 ちなみに、これには【色彩聖女】と【音響聖女】を使っている。

 声音を使い分けて効果音やBGMも口頭で行うレトロな感じの方が本当は好きだけど使えるものは使った方がいいからね……貧乏性だよ?


 ちなみに、主人公は裕翔、ヒロインは美春、神様の元ネタはフェアボーテネになっている。

 といっても、完璧に模倣した訳ではない……癖が強いし、あんまり子供に見せられないところもあるからね。

 割と規制に規制を重ねて、子供でも大人でも楽しめる内容に仕上げたよ……ホントだよ。


「と、まあとりあえずはここまでということで。後ざっと百八十話分の魔法の紙芝居はそこに置いておいたので誰か読んであげてください」


 と、熱中していた孤児院の職員に丸投げしつつ、水飴を舐めているミュナと仕事を放り出して孤児院にやってきたザヴァルナードとセファエスの方に向かった。


「面白いお話でした。……ところで、この話は実話なのですか?」


「いや、流石に実話ではありませんよ。まあ、異世界ガイアは実在し、悪い神フェアボーテネは責任を持って倒してきましたけどね。……まあ、そんな訳で割とハードでめちゃくちゃな旅をしてきたので、ミュナ様にお話するのはちょっと厳しいかと思って。で、こんな辺りで勘弁してください」


「……草子お兄ちゃん。私のこと、ミュナって呼び捨てにして欲しいんだけどな」


「それは無理な相談でございます。一国のお姫様に、モブキャラの私が敬称もつけずに発言するような礼儀を欠いた行いをする訳には参りませんので」


「……それなら国家同盟議長兼大公の草子様には最大級の礼儀を尽くさなければなりませんね」


「はぁ……国家同盟の議長は降りたし、大公の爵位も要らないと再三言ったんだけどねぇ……ではタメ口にさせてもらうよ。礼儀がないモブキャラですまないねぇ」


 マリーナが一瞬敵意の篭った視線を向けてきたので、お返しに【貪食ト銷魂之神】をぶち込んでおいた。


「……ミュナ様にお兄ちゃんって呼ばれるなんて……草子様、羨ましすぎます」


 なんか鵠からは嫉妬と羨望の篭った視線を向けられているし……なんなんだろう、これ。


「草子さんはこの話を売りに出そうとは思わないのですか?」


「流石にモデルの方々に申し訳ありませんし、死体蹴りをしているみたいですからねぇ。まあ、エリシェラ学園の演劇部にでも投げようかとは思いますが……」


 エリシェラ学園の演劇部は国家同盟でも随一と言われている。

 まあ、演劇をやっているところ自体少ないんだけどね。


 その後、ミュナにプレゼントとして持ってきた護身用の武器(こてつぅ・かねさだぁ、れーゔぁていん、みょるにぃるぅ、ぐんぐにぃーるぅ、けーぅりゅけいおん、あすぅくれぴおすぅ)を渡し、鵠にゲートミラーを渡してから魔王領カイツールに戻り、その後シルヴィーヌ達にお礼を言って魔王領カイツールを出発した。


 鵠は五箇伝を続けながらミュナの侍女を務めるそうだ。魔王領エーイーリーと海洋国家ポセイドンを往復する日々が続くらしい……大変だろうけど、本人が選んだ道だから応援してやらないとな。まあ、応援する必要もなく頑張るだろうけどさ。


 ちなみに、雲雀の方は理想の姿で固定しておいた。鳰は負けたので相変わらず幼女のままだ……鳰がかつての姿に戻るのはいつの日になるのか……まあ、一生かかっても無理だろうな。

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