神代魔法が存在した世界の破滅原因は世界の理に干渉しすぎたからではなく通り掛かったマルドゥーク文明の亜空還噴進極大砲に異世界諸共存在しない亜空間に吹き飛ばされたからのようだ。

 異世界生活百二十九日目 場所コンラッセン大平原、能因草子の隠れ家(旧古びた洋館)


 とりあえず、それぞれの札を百枚になるまで書き上げた。

 夜も遅くなったので、ジューリアは部屋に戻って寝ている。


 さて、次の作業に取り掛かるとしよう。具体的にはキールが求めた力への答えと、《魂魄の大罪スピリット・シン》フレースヴェルグの対策だ。


 ……と、その前に。


 スマホを起動してエンリを呼び出す……全員ポンコツだけど、この中ではエンリが一番マシだからな。


【……こんばんわ。草子さん、何かありましたか?】


「いくつか聞きたいことがあってな。まず、お前らマルドゥーク文明が過去にぶっ壊したっていう異世界の神代魔法について一覧で出してもらいたい」


 カタリナの装備を作る際に【程式魔法】とともに《改変魔法》を、バトルフィールドの作成に《空間魔法》をそれぞれ使用したことがある。

 だが、それらは俺の求めるものに合致したものをエレシとナンが喧嘩しながら選んだものがたまたまこの二つであったというだけで、神代魔法そのものの検索はしたことが無かった。


 まあヴァパリア黎明結社と戦うなら手札が多いことに越したことがないし、この際神代魔法についても調べて、使えそうなものがあれば使おうかなという軽い気持ちで聞いてみたというところだ。……正直、全く期待はしていない。


【――畏まりました。神代魔法の情報を纏めますのでしばらくお待ちください】


 ……で、数分後。纏まった結果が。


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◆神代魔法

 異世界カオス到達前のマルドゥーク文明が立ち寄ったとある異世界に存在した魔法。

 世界の理にすら干渉する力を持つが、他世界の魔法よりも魔力を消費する。


・《惑星魔法》

 星のエネルギーに干渉する魔法系統。理論上は地脈、地熱、岩盤、マグマ、重力、大気、海など自然界の無生物に対して干渉することができる。が、当然それに見合うだけの魔力が必要であり、超人であってもどれか一系統が限界。


・《空間魔法》

 空間に作用する魔法系統。空間を歪曲させることによる瞬間移動、果ては自分の定めたルールが適応される空間への改変や新たな世界の創造に至るまで空間に関することであれば理論上全てのことが可能。が、当然それに見合うだけの魔力が必要であり、超人であっても瞬間移動が限界。


・《時間魔法》

 時に干渉する魔法系統。時間そのものへの干渉や分岐した世界の観測など、時間に関することは全て可能となる。が、当然それに見合うだけの魔力が必要であり、超人であっても時間への限定的な干渉が限界。劣化版である《再生魔法》程度なら使いこなせる者もいたらしい。


・《非物質魔法》

 エネルギーや意識、思考、記憶、思念などの非物質に干渉することができる魔法系統。理論上は魂にすらも干渉することが可能である。が、当然それに見合うだけの魔力が必要であり、超人であっても魂への干渉は不可能。


・《改変魔法》

 無機的、有機的問わず凡ゆる物質を改変することが可能な魔法系統。無機的なものに干渉する《生成魔法》と有機的なものに干渉する《変成魔法》の二種類が存在し、基本的にどちらか一方への適性しか持てない。稀に二種類とも使用できるものも存在する。

 特殊な性質を持った鉱物の創造や魔獣などの新生物の作成などが可能。


・《情報魔法》

 理論上、ありとあらゆる情報に干渉できる魔法系統。情報文明マルドゥークを破壊できる切り札になり得た。

 が、非常に使い勝手が悪く、莫大な魔力を投じてステータスのレベルを一から二に上げる程度のことしかできない。


・《因果魔法》

 理論上、ありとあらゆる因果に干渉することができる魔法系統。因果干渉系スキルでできる大抵のことは可能だが、【因果耐性】によって簡単にレジストされる。


・《概念魔法》

 《惑星魔法》、《空間魔法》、《時間魔法》、《非物質魔法》、《改変魔法》、《情報魔法》、《因果魔法》を持つ者のみが至れるまさに神の御業とも言うべき魔法。……が【魔法無効】によって簡単にレジストされる。

 あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法系統。魔法そのものは概念干渉に分類されるが、魔法によって生み出されるものは基本的に概念に干渉するものではない。

 《概念魔法》によって作成された魔法については、使用した術者のみ二度目以降、過程をすっ飛ばして発動することが可能になる。

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 ……ほとんどまんまやな。《因果魔法》が追加されて、二つを混ぜた《改変魔法》が誕生しただけって感じだな。

 後、《概念魔法》の制限が若干緩んだか。


「ちなみに、マルドゥーク文明はどうやってこの魔法の元々の所有者だった異世界の者達から奪ったんだ?」


【〈全知回路アカシック・レコード〉を秒殺でハッキングしてから亜空を捻じ曲げる常闇アンシャルの原型となった亜空還噴進極大砲を用いて異世界諸共存在しない亜空間に吹き飛ばしたようです】


 ……うわ、マルドゥーク文明、容赦ねえ!! というか、その頃から既に亜空を捻じ曲げる常闇アンシャルのシステムはあったんだな。

 しかし、星一つを丸々消し去るほどの亜空還噴進……上手く使えばカオス滅ぶんじゃね?


【まあ、その世界の寿命自体残り僅かだったと記録されていますし、エンリはマルドゥーク文明の糧になれて彼らも本望だったと思います】


「……寿命が僅かって、もしかして神代魔法で世界の理に干渉しすぎて世界が壊れかけていたとか?」


【いえ、単純な魔法の使い過ぎによる世界自体の魔力の欠乏です。神代魔法自体、しょうもない魔法ですら莫大な魔力を必要としますから魔力という資源も簡単に枯渇してしまいます。それ故に、マルドゥーク文明も会得した神代魔法の使用には消極的になっていました。……この世界に来るまでは】


「【無限の魔力】ねぇ……」


 情報思念体フリズスキャールヴが求めていた無限のエネルギー。

 神代魔法が存在した異世界のエネルギー問題を解決することが可能な無限の魔力。


 それが、この異世界カオスには存在している。だから、超古代文明マルドゥークはこの世界に根を下ろしたのかもしれないな。


「しかし、よくそんな簡単に〈全知回路アカシック・レコード〉を秒殺でハッキングできるよな。……マルドゥーク文明って無敵なのか?」


【……残念ながら無敵、とは言い難いですね。少なくともこの異世界カオスの管理者には及びません】


 ……ん? 異世界カオスの管理者? 老害……ではないだろうし。


【エンリ達、マルドゥーク文明もその存在を観測できた訳ではありません。しかし、恐らく我々の文明がカオスに根を下ろした時代には存在していた筈です。唯一、我々が死力を尽くしてなお勝てなかった敵……数十年に及ぶハッキング戦の中で我々がようやく手に入れられたのは〈全知回路アカシック・レコード〉に接続できる元から存在していたバッグドアのみ。しかも、それは我々と敵対していた相手からお情けで譲渡されたものです。……それをマルドゥーク文明は超理論コンピュータキスカヌにインストールしました】


 異世界カオスの裏側に存在する管理者ね……軍事目的の通信傍受システムのバッグドアを他人に貸し与えた「さすおに」で話題のラノベのキャラを思い出すな。

 明らかにヴァパリア黎明結社よりやばい……老害はコイツらを消せとは一言も言っていないしとりま放置でいいだろう。


「神代魔法は使用法を検討した後、使っていくことにするよ。じゃあ、次なんだけど……俺達との戦争でエンリが使っていたマルドゥーク文明の兵器の図面、貰えないかな?」


 ……ん? あんまり反応が良くないな。もしかして、ダメなのか?


「やっぱり、原始人にマルドゥーク文明の兵器の情報は与えられないのか?」


【いえ、そうではなく……どのような方法で情報を提供しようかと考えていたところです。マルドゥーク文明の兵器の情報は膨大――その全てを図面として表示するとなるとかなりの時間が掛かります】


 ……確かに元ネタだとデータをダウンロードするたびに記憶を失っていくんだっけ? でも、あれって結局ダウンロードされる膨大な容量が記憶を上書きしているんじゃなくて、コンピュータウイルスのような情報も同時に送り込んでいたことが原因だったんだよな。


 まあ、俺には【叡慧ヲ窮メシ者】があるから情報が多くても問題はないが……。


「ってことは図面を描かずにデータを受け渡す方法があるってことか?」


【はい……。あの、エレシとナンから聞いてませんか?】


 ……初耳だよな? というか、アイツらが活躍したところほとんど見たことがないのだが。


【……はぁ。あのぶりっ子と脳筋は本当に無能ですね。……エンリ達次世代のAIにはいくつかの能力を与えられています。まあ、そのほとんどは機動要塞、飛空戦艦、海洋母艦と接続している場合のみ使用可能ですが……切り離された状態で使える能力は二つ。一つは受け取った魔力を基に魔法を発動する力。そして、もう一つがデータを圧縮した物質……情報物質を生み出すことです」


 一つ目はC●Dでもう一つはデー●マテリアルか……接続が切れた状態でもとんでもないスペックだな! ポンコツだけど!!


「……その情報物質を【暴食ノ王】で捕食し、【叡慧ヲ窮メシ者】で解析するってことか。……あのスライムですら情報物質は食べてなかったっけ? 俺ってどこに向かっているんだろう?」


【お答えしかねます】


 返答を拒否した瞬間のエンリの顔と百獣宮廷で返答を拒否した時のマーナの顔が重なって見えたが、多分気のせいだろう。


「で、その情報物質を生成するのにどれくらい掛かる?」


【コンマ一秒です。既存のデータを複製し、そのまま情報物質に変換するのでほとんど一瞬で完了します】


「じゃあ、早速頼む。天壌割り焼く主砲シャマシュ超重力を生み出す歪曲イシュタル存在を滅却する蒼煌ニンフルサグ霊界を穿ちし兵装ダムガルヌンナ亜空を捻じ曲げる常闇アンシャルの五つのデータを送ってくれ」


【――畏まりました。情報物質――生成します】


 五つの青と紫が混在した塊がスマホから射出される。

 それを【暴食ノ王】の効果で生み出した黒い竜巻を用いて捕食。そのまま【叡慧ヲ窮メシ者】に解析と小型化を命じる。


「ありがとう、エンリ。助かった」


【……はぁ、これでやっと眠れます。おやすみなさい】


 すまんな、叩き起こして……というか、今更だけどAIって睡眠いるのか!!


 さて、解析が終わるまでにキール用の武器を作るか……。


 異世界生活百二十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、ポテムの村


【三人称視点】


 翌朝、ポテムの村の宿屋には巫女服と修道服を融合した珍しい衣装を身に纏った黒髪の人間の少女の姿があった。


 ポテムの村は魔族の村である。人間が入ったとなれば立ち所に殺されてしまうのが普通だ。

 だが、この場に少女に対して危害を加えようとする者の姿はない。


「……ジューリアさんだっけ? 凄い量を食べるんだね」


 ジューリアに食事を出したシュノアは、積み上げられた食器の山を見て溜息を吐いた。


 シュノアとしては作った料理を美味しそうに食べてくれるのは嬉しい。嬉しいのだが、その小さな身体にそれほど沢山の料理を詰め込んで大丈夫なのかと心配してしまう。


「……美味なり。いくらにも食はる」


「そ、それは良かったわ」


 シュノアに一瞥も与えずひたすら美味しそうに料理を食べるジューリアに、シュノアはそう返すことしかできなかった。


「……おいおい、そんなに小さいのによく食べられるな」


 店に来ていた魔族の一人が揶揄い口調で呟いた。


「〝朱天符〟」


 ジューリアが呪を唱えると共に札が燃え、灼熱の火球となって魔族に襲いかかる。

 ジューリアの攻撃を予想していなかった魔族はその炎をもろに受けて灼熱の炎に包まれた。


「……我、ちみっこならず」


 その時のジューリアの瞳は、周囲を凍てつかせると錯覚するほど冷たかった。

 ジューリアの最大の劣等コンプレックス……それは、幼児体形で背が小さいことである。そのことを指摘された場合、冷たい怒りを宿し、我を忘れて指摘した者の命を奪いに行くのである。


「……す、すみませんでした!!」


「〝玄天符〟」


 水を浴びせられ、魔族の青年は間一髪のところで命拾いをした。

 その日、その店に居合わせた魔族達は誓った――ジューリアの劣等コンプレックスを刺激するような発言は絶対に使用しないと。


「そういえば、草子さんはどうしたの?」


「あした驚きせば居ざりき。お金ともろともにこの宿に食事をせまほしといふ覚書があればここに来たり」


「……ということは草子さんも居ないのか。実はお兄ちゃんも今朝から見当たらないんだよ……草子さんならお兄ちゃんを見つけられると思ったんだけど」


 シュオンの兄、キールの姿も店には無かった。

 シュオンは兄を心配して草子に助力を求めようとしたのだが、その草子の姿も見えない。


「……兄のことをたのめらば、このまま待つべし。待つもやむごとなきことなり」


 ジューリアは草子が姿を消しても特に気にすることなく食事を続けている。

 シュオンも、ジューリアを見習った兄の帰りを狼狽えず、待ち続けることにした。


「美味しかりき」


「……ふう、やっと食べ終わったのね」


 ジューリアの身体を心配していたシュノアは、ジューリアが食事を終えたのを確認してホッと溜息を吐いた。


「……次はデザートなり」


 どこからともなく大量のどら焼きを取り出したジューリアにツッコミを入れられるほどの精神力を残した者は、もう宿の中にはいなかった。



 異世界生活百三十日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、シャドウレイの森


「おはようございます、草子さん」


 指定した場所に行ってみると、既にキールの姿があった。

 うん、いい顔をしている。


「確認したいんだけど、キール君って武器を持った経験ないよね?」


 ステータスを確認してみると、キールの職業は村人で、攻撃的なスキルは一つも無かった。


「はい……。偉そうなことを言いましたが、実際はまだ一度も武器を持った経験がありません」


 そう……これが問題だった。


 別に武器を扱ったことが無くてもいい。だが、せめてキールと関係性のある武器が欲しかった。

 幅が広過ぎてどんな武器を選んで使い方を教えるべきか悩むからね。


「それじゃあ、使う武器とかはこっちが指定したものでもいいよね?」


「はい、草子さんにお任せします」


 さて……じゃあ、最初の武器・・・・・を取り出しますか。


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滅却を齎す聖魔剣カレトヴルッフ

→神聖大剣アーティキュルス・エーアストを主な素材にした聖剣だよ! 聖と闇の相反する属性を刃に宿す効果、万物を両断する効果、傷つけた相手のHPを吸収する効果、邪を祓う効果があるよ!

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「……あの、これは?」


「これは、聖剣だ」


「――せ、聖剣!? 聖剣って、あの勇者ブレイヴが使うという?」


「うん、その認識で間違ってないと思うよ」


 困惑するキール。まあ、魔族にとっては仇敵である勇者ブレイヴの武器を渡されたら困惑するよね。


「正確に言えば、聖剣を元に複数の効果を付与したオリジナルの聖剣ということになる。まあ、簡単に言えば俺が作った聖剣ということだな。性能に関してはミンティス教国の勇者ブレイヴが使う聖剣よりも高い。……やっぱり、魔族は聖剣に対して嫌悪感を覚えたりするのか? 嫌なら別のにするけど」


「いえ……その、魔族が聖剣を使ってもいいのでしょうか?」


「寧ろ誰がダメって決めたんだ? もし、キールさんが望むなら、俺はキールさんに勇者ブレイヴの力を与えようと思っているんだが?」


「ぶ、勇者ブレイヴの力を!!」


 ……いや、そんなに驚くこと?


勇者ブレイヴの力は魔王を滅ぼすためのものですよね? そんな力を魔族の僕が振るってもいいのでしょうか? それに、そもそも僕が本当に勇者ブレイヴになれるのでしょうか? 人間ではない僕が?」


「……勇者の特権である勇者固有技、魔王の特権である魔王固有技――これらは、俺の想像だが、初代勇者と初代魔王の超越技の劣化版と言える。代々勇者固有技は勇者に受け継がれるように、魔王固有技は魔王に受け継がれるように、そういう継承力を持った超越技……その成れの果てということになるな。勇者固有技は魔を滅するための力、魔王固有技は聖を滅するための力だが、それを使うのは勇者と魔王と決められているものの、その勇者が魔族ではいけないとは一言も言われていない……まあ、魔王の方は血筋だから無理だろうけど。……力の出処なんて気にすんな。必要なのは、妹を――シュオンさんを《深淵の大罪アビス・シン》カリュブディスのような理不尽に抗う力じゃないのか?」


「……分かりました。どんな力でも構いません! そんな贅沢は言ってられませんから! 草子さん、僕を勇者にしてください」


 覚悟は決まったようだな。んじゃ、始めるか。


「聖剣を持ったまま『――我が手にありし剣よ。魔を滅する聖剣よ。我は魔を祓うことを今ここに誓う。その誓いを聞き届けたのならば、我にその聖なる力を貸し与え給え!』って厨二な台詞を言えば勇者の職業を得られる。まあ、恥ずかしいだろうけど、言うしかないから」


「……わ、我が手にありし剣よ。魔を滅する聖剣よ。我は魔を祓うことを今ここに誓う。その誓いを聞き届けたのならば、我にその聖なる力を貸し与え給え……恥ずかしい」


 滅却を齎す聖魔剣カレトヴルッフが青く輝いた。成功だな。


「……草子さん、もしかして本当は」


「勇者じゃないのかって? いや、違うよ。ミント正教会にも知り合いはいるし、少し前まで大聖女アーク・ピュセルやってたけど、勇者ではない。……この〝勇者ノ義〟の方法も書物を元に独学で調べたものだし。まあ、俺が教えた方法で知り合いの一人が勇者になっているから成功するのは分かっていたけど」


「……草子さんは勇者にならないのですか?」


「あっ、なれないんだよ。俺の職業の自宅警備員ひきにーとってのはJOBを打ち消すってとんでもないゴミ職業でね……冒険者になれないって聞いた時は若干ショックだったよ。これのせいで俺は弟子入りアプレンティシップによるJOBとそれに関連するスキル会得が無理なんだ。……JOBが空欄であればスキルは会得できない。しかし、俺には自宅警備員ひきにーとというJOBがある。自宅警備員ひきにーとなのに自宅警備員ひきにーとしていない……そんな矛盾が積み重なり、自宅警備員ひきにーとというJOBは最終的に弟子入りアプレンティシップする必要すらなくありとあらゆるJOBのスキルが獲得可能になるというとんでもバグを発生させた。だから、俺は勇者固有技を使える。試してないけど、魔王固有技も使えるんじゃないのかな?」


 自宅警備員ひきにーとってJOBはただのチートなJOBになった。

 ……これって、にーとが社会出れば無限の可能性がある的な美談に改変できるよな。……しないけど。


「勇者固有技は我流でもいけるけど、とりあえず既存のものを纏めておいたから、それを読んでね。……んじゃ、試しにどんなのかを見せるか」


 神聖双大剣アーティキュルス・エーアストの二刀のうちの一つを取り出し、適当に構える。


「収束して迸れ、魔を滅する聖剣技――《夜明けを切り開く明星ルシフェル》」


 そのまま一振りして収束された青い光の奔流を解き放つ。

 あっ、やっぱり跡形もなく消し飛んだか……剣が。


「……す、凄い。森が消し飛んだ」


「ついでに聖剣も消し飛んだ。……俺の場合、勇者固有技を放つのに何故か聖剣を使い捨てにしないといけないんだよね。普通に使える奴が羨ましいよ」


 風の噂によると俺と同じように聖剣を使い捨てにしていた勇者もいるみたいだし、あんまり気にすることでもないよな。


 その後、【唐竹】、【逆風】、【袈裟斬り】、【逆袈裟斬り】、【左斬り上げ】、【右斬り上げ】、【刺突】、【薙ぎ払い】のやり方を一回ずつ見せてから実際に何度かやってもらったところで、キール強化プログラム剣の部は終了になった。

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