本物の金ではない特殊加工した金属を使っているのにどうして金貨はマルドゥーク文明支配以前から異世界カオスの諸国で当たり前のように信用されて使われているのだろうか?

 異世界生活百二十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、ポテムの村


「アポイントメント無しに突然押しかけたことについては謹んで謝罪させて頂きます」


 村長はポカンとしていた。……そりゃ、突然敵対勢力の人間が自分の村に来たら驚くよな。


「……人間が何故、魔王領に。まさかお前達、我々魔族を奴隷にしようと……おのれ、人間め!!」


「……なんで行くところ行くところ話の通じない権力者にばかり出会うんだろう? アルルの町の冒険者ギルドで冒険者登録できなかったから、暇潰しがてら上級魔法の練習をしていたらギルドマスターに呼び出されて厄災扱いされるし、エリシェラ学園では大公家のジルフォンド様に恋路を邪魔する悪役扱いされるし、豚貴族には一緒に居ただけの仲間が俺の女だって勘違いされて絡まれるし、アクアレーティア伯爵には過大評価されて話がヒートアップしていくし、武装中立小国ドワゴフル帝国ではこれまでドワーフを奴隷して扱った賠償をしろってネチネチ言われるし……って、これは皇帝じゃなくてその側近か、獣人小国ビーストには獣人を奴隷にするつもりなのかっていきなり敵意を向けられたし……って、それは戦士達か、海洋国家ポセイドンに行ったらお姫様の近衛侍女にお姫様を捕まえた奴隷商人として扱われて襲われるし……あれも権力者じゃなかったし、奴隷商人に捕まっていたお姫様をお返しに行っただけなんだけど。まあ、要するにこういう状況には良くも悪くも慣れているんだよね。俺の交渉って基本勘違いを解くことから始まるから」


 武器を構える村長、対する俺は武器を構えずに座ったまま。

 斬れるもんなら斬って見やがれ! ってな感じで、あっ、ジューリア狙ったら【殺気圏域】を発動するけど。


「ダヴァルス村長! この方達は僕達を《深淵の大罪アビス・シン》から救ってくれた恩人です」


「なんだと……それが本当だとしたら、私ではこの男を倒せないことになる。……ここまで、なのか。我が村の平和はここで終わりか」


「おい、いい加減に話聞けや村長!! ……おっと失礼。まず前提として俺は魔王討伐に来たけど魔族に手を出すつもりはない。俺に依頼したクライアントが求めたのは魔王の討伐だけだ。まあ、そのためには結界を解く必要がある訳で、魔王軍幹部辺りとは戦うことになるだろうけど、それ以外の民間人に関しては手を出すつもりはない。……次に、今回俺達は《深淵の大罪アビス・シン》の討伐の報告に当事者として呼ばれたというだけだ。あんな雑魚でもこっちでは災禍級魔獣扱いなんだろう? 嘘だと思うのなら後で死体見せるんで。以上で報告はおしまい」


「…………はい? 今、《深淵の大罪アビス・シン》を倒したと言ったのか? 救ってくれたというのは、《深淵の大罪アビス・シン》を殺して救ったという意味なのか? ……どうやら、お礼を言わなければならないようだな。《深淵の大罪アビス・シン》に苦しめられた多くの魔族に代わって礼を言いたい、ありがとう」


 いや、別に俺を言われるようなことをした覚えはないけど。


「そういえば、さ。この村に魔族に伝わる物語とかお伽話とか、そういうの集めている図書館的なものってある?」


「民間伝承などでよろしければ、この家に何点かありますが……しかし、本当にそんなものでいいのですか? 《深淵の大罪アビス・シン》を倒したのであれば、それ相応の報酬――例えば魔王の情報を求めると思いましたが」


「だったら、魔王軍四天王の誰かに世界を裏から支配する秘密結社の部門長がいるらしいんだけど、ソイツの超越技の情報をくれない? ……って言っても無理でしょう? 今までのパターンだとボスキャラってあんまり強くないんだよね。レベル一万以下……というか、超越者デスペラードじゃないなら雑魚も同然だし、別に情報とかいらないよ。……これでも、少し前まで人間の国で教師をやっていたんだよ。ジャンルとしては魔法座学だったけど、本職は文学研究でね。各地の伝承にも興味があるんだ。具体的にはインターテクスト性……この伝承とこの伝承には関連があるとか、この伝承はこの伝承を踏まえているとか、まあ色々とね」


「……魔王軍の中にそんな者がいるのですか? もし、それが事実だとすれば魔王軍に報告しなければなりませんね」


「村長さん、軽はずみなことはやめてください。もし、この事実に気づいている者がいると向こうに知られれば、逃げに転じられるかもしれません……もしくは必要のない人死……いえ、魔族死が出るかもしれません。俺は今まで結社に潜入されても気づかない馬鹿どもを沢山見てきました……魔王も彼らと同じ可能性もありますし、気づいている可能性もあります。もし、仮に気づいていたとしても慎重に対応をしている筈です。……俺とジューリアさんの目的の一つは、魔王軍四天王の中に紛れている裏切り者を殺すこと――その裏切り者に関しては俺達に任せてください」


 超越者デスペラードの討伐は超越者デスペラードにしか無理だからね。……ジューリアさんにも早めに超越者デスペラードになってもらわないとな。……って、急かしても覚醒アウェイクするのは無理だろうけど。

 結局は本人の心の問題ってのが大きいからな。才能の限界を超えさせるための非人道的な計画に繋がり得るし、超越者デスペラードの概念はあんまり知られない方がいいのかもしれない。


「あっ、それとこれは別件なんですけど、この一帯を支配している魔王軍幹部の方に『明日から明後日辺りにお邪魔するんで、よろしくお願いします』っ趣旨の手紙を用意するんでお送りしてもらってもいいでしょうか? アポ無しで突撃するのは礼儀知らずな行為ですし」


「……本当にいいのですか? そうなれば、魔王軍幹部との戦闘は避けられませんが」


「礼儀として魔王城へと挑戦は全ての幹部を倒してからにしようと思っています。物事の順序を無視していきなりラスボス戦を始めるのって色々台無しじゃないですか。ジューリアさんは微妙ですが、俺は負ける理由がありませんし。……それに、この村に人間がいるからという理由で魔王軍から襲撃されたら、この村に迷惑が掛かってしまうじゃないですか。脅されたとか、そういう理由で俺達が居るのはしゃあ無しという雰囲気にしつつ、戦いの地を魔王領バチカルにすればこの村への被害は無くなる。まあ、そんなところです」


 ポテムの村の魔族達が、魔族の裏切り者として迫害されたら大変だからね。

 ポテムの村の魔族はあくまで俺に脅されたから従っているだけ――そういう建前を作る必要がある。


 その後、俺はダヴァルスの保有する文献を複写させてもらい、キールとシュオンと共に村長の家を後にした。



 キールとシュオンの実家は宿屋をやっているらしい。

 ということで、二人を家に届けがてら魔族の食文化を体験しようということになった。


 魔族から向けられる視線は相変わらず痛い。まあ、致し方ないから気にしないようにするべきなんだろうけど。


「友好にってのは無理だろうな。まあ、喧嘩を売られないだけマシってところか。……バトると印象は更に悪くなるし……いいことないからな」


 魔族からは敵意の視線を向けられても、実際に攻撃をされることはない。


「人間! 僕達の村から出てけ!!」


 訂正、子供から石を投げられた。


(〝邪なるモノから護れ〟――〝禊祓の障壁〟)


「〝桔梗印護符〟」


 まあ、防げたけど。……というか、石如きに二人で障壁展開する必要あった?


「ジューリアさん、勿体ないし次からは俺が障壁張るよ。【無限の魔力】のおかげで魔法は無制限に使えるから」


「了解なり」


 なお、俺達二人の話を聞いて魔族達の表情が怯えに染まった模様。


「しっかし、こっちだと人間って随分と嫌われているね。まあ、人間の領域テリトリーでの魔族の扱いも似たようなものだったけど。……俺も変な偏見を抱いているかもしれないし、他人のことをとやかく言えないけど。貴族は豚々していて、下卑た笑みを浮かべる奴か家の権力を傘に着て傲慢な態度を取る令嬢かどちらかだと思っていたけど、真面目で、どんな人に対しても優しく接しようとする、そんな素晴らしい貴族令嬢も居たし、エリシェラ学園の貴族もなんだかんだでいい生徒だったし……一度偏見を取り去ってみると色々と新しいことを知ることができるんだけどな」


 偏見に囚われずに、自分の目で物事を見れば新たな発見をすることができる。

 毛嫌いせずにまずは関係を持つこと――これって結構重要だと思うんだけどな。……まあ、難しいっすよね。


「あの、さ。俺達に石を投げるのは百歩譲っていいよ。でもさ、同族のキールとシュオンにまで投げるってのはちょっと意味が分からないな。俺達をこの村に招いた裏切り者だから? そういうことだったら謝罪して出て行くよ。《深淵の大罪アビス・シン》から守ったってその程度のことに恩を着せるつもりは更々無いからな」


 子供を嚆矢に開始された石投げは俺達だけではなく、キールとシュオンにまで及んでいた。……意味分かんなくない?


「まあ、当初の目的は果たせたしね。後は文献を研究するだけだけど……ということで、家まで送れないっぽい? 村人さん達がお望みじゃないっぽいんで。〝距離に隔てられし世界を繋ぎたまえ〟――〝移動門ゲート〟」


 【空間魔法】発動。ちなみに、〝移動門ゲート〟は屋敷に繋げた。


「草子さん、お待ちください。……ご気分を害されたことについては謹んで謝罪致します」


「……なんでキールさんが謝るんだ? 意味分かんないよ。悪いのは誰か? そりゃ、種族の違いとかいうしょうもない理由で争っている人間と魔族だろ? 前々から思っていたけど人間だ、魔族だ、亜人種だってつまんねえ分け方するよな、お前ら。……そんなもん、ただの外観の違いだけだろう? まあ、争いたければ勝手に争っていろ。そんなものに巻き込まれて全て滅ぼすとか面倒いし、エネルギーの無駄だと思うんだよね」


 なんか全員唖然とした表情のまま固まっているな。……なんか、変なことを言った?


「お兄ちゃん。やっぱり私達、勇者より恐ろしい人に助けられたんだね」


「そうだね……草子さんに掛かれば魔族も人間も一瞬で木っ端微塵に消し飛ばしてしまうと思う。でも、草子さんはそんなことをせずに、武力ではなく言葉で歩み寄ろうとしてくれる。……それがどれほど大変なことか、僕には想像もつかない」


 いや、別にそんなご大層なことはしていないんだけどな。


「……草子さん、人間と魔族が手を取り合うことは可能でしょうか?」


「無理じゃね? 溝が深過ぎるし。そりゃ、まあ、俺の伝手を使えば人間側の権力者に声くらいは掛けられるけど、お上の命令ではその地で生きる者達の考えは変わらない。結局は、互いに歩み寄れるかが重要だ。……人間と亜人種の場合、今のところ互いに歩み寄っているように見えるが、完璧とは言い難い。差別がない世界――まあ、そんなものは幻想なんだろう。他人を貶めることで自分を正当化するってのは知的生命体である以上、どんな存在でも行うことだからな。……俺も自分の考えを押し付けるつもりはない。国家同盟の設立も勝手に巻き込まれただけだし……まあ、今のところは絶対に無理だ。仮に魔王が国家同盟に参加すると言いだしても、多分無理だろうぜ」


 まあ、そもそもその前提自体成り立たないけど……。


「草子さんとジューリアさんに助けてもらったお礼をしたいです。草子さんには断られてしまいましたが、それでは僕達の気持ちが収まりません。せめて、我が家で食事を摂ってください。サービスしますので」


「……そこまで言われたらなぁ。まあ、【障壁魔法】を張るくらいなら片手間でもできるし。それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。あっ、ちゃんとお金は払うんで……同じお金だといいけど」


 なお、それから石投げは完全に無くなった模様……どんな心境の変化があったんだろうか?



「いらっしゃい……って、キールとシュオンかい。……ん? って、人間!? お前達、どういうことなんだい!! なんで人間と一緒に居るんだい!? 変なことされなかったかい!!」


 ……一体何度目だよ! って扱いをされております。


「お母さん、違うよ! 草子さんとジューリアさんが私達を《深淵の大罪アビス・シン》から助けてくれたんだよ!!」


 その後、キールとシュオンの必死の説得で宿屋の女将さんに状況を理解してもらえた模様。

 すると、今度は女将さんから謝罪とお礼をしたいと言われ、お礼を必死で断る羽目になった。


「ということで美味しいと評判のシュノアさんの料理を頂きたいな、と。……ところで、金貨って使えます?」


 万国共通の通貨とは書いてあるけど、人間と魔族って文化圏が違うから通用しないかもしれないと思ったんだけどね。


「勿論、使えますよ? ……寧ろ、それ以外に通貨ってありませんよね?」


 と、シュノアさんに世間知らずっぽく見られたのだが……。


「前々から不思議だったんですけど、人間と魔族って長い間敵対して交流を絶っているんですよね。ですが、同じ通貨を使っている。……この金貨は金貨という名称で呼ばれていますが、金とは別の物質で作られているようですし、複数の魔法が掛けられているようですね。……となると、紙幣で言うところの兌換紙幣と不換紙幣では不換紙幣に分類されるということになる……いや、そもそも金属製だからこの枠には入らないのか」


「草子さん、ダカンシヘイとフカンシヘイってなんですか?」


 そもそもこの世界には存在しない概念なのかもな。

 女将さんに金貨を支払ってから、空いている机を貸してもらう。


「〝銀の輝きと鋼を凌ぐ強さを持つ魔法金属よ、我が魔力を喰らいて生まれ出でよ〟――〝メタルメイク・ミスリルダイト〟」


 机の上にミスリルを生成し、【錬成】を使って金塊の形に加工する。

 ……ん? 宿屋にいた魔族達が集まってきた?


 続いて皮の袋から紙とボールペンを取り出し、【製作技理】を用いて絵と文字を書いていく。

 あっという間に太宰治、石川淳、織田作之助、坂口安吾の無頼派四人組の肖像画が書かれた紙幣が完成した。


「キールさん、ミスリルって魔族の方でも希少金属なんだよね?」


「はい。名前くらいは聞いたことがあるというくらいで僕達には手が届かないものです」


「なんかそんなものをポンポン出しちゃって本当に申し訳ない。……気を取り直して、そこの方、この紙切れ一枚をいつでもミスリルと交換するよと言われたらどう思う?」


 とりあえず、聴衆オーディエンスの一人を巻き込んでみた。


「それは勿論嬉しいですよ。ミスリルを手に入れられるんですから」


「この紙に価値はあると思う?」


「あると思います」


「まあ、そうなるよね。……何故、ミスリルの現物ではなく、ミスリルと交換できる紙なのか? ミスリルって重いだろう? こんなの持ち歩いて支払いに使うのって面倒じゃん。だから、この紙にはミスリル一つ分の価値があるよってする訳だよ。すると、この紙はミスリル一つ分の価値を持つことになる。これが兌換紙幣というシステムだ。……あっ、これ要らなくなったからキールさんにあげるよ」


 いや、別にそこまで喜ぶことじゃないよ? いくらでも量産できるし。……ほら、そこの聴衆オーディエンスも羨ましそうに見ない。


「で、もう一つの不換紙幣だけど……こっちはミスリルとは交換できない。国が発行する文字通りの紙っぺらだ。特徴は三つ、政府の信用を基礎としており、これがない限り本質的には役には立たない。兌換紙幣とは異なり一定量の貴金属と兌換できるわけではなく何ら裏付けを持たない。紙幣を生産するのに費用がかからない。……例えば、だ。某国Aと某国Bが二国間で貿易を行うとする。某国Aの政府の首相があんまり評判が良くなかったりすると、信用は低くなり、お金の価値が低下する。政府が潰れたらお金の価値が無くなるんだから、信用が低ければ価値が低くなるのも致し方なしだ。俺の世界では複数の紙幣が存在したから、その信用に応じて変動相場制――価値が変動する方式で取引がなされていた。また、単一の国の中での場合でも政府が潰れた時に価値が無くなるとは同じ。不換紙幣を使う場合は、基本的に政府がインフレーションなどが発生しないように通貨供給量マネーサプライの調整や経済政策によって通貨価値に対する信用を維持しているから金による価値の裏づけがなくとも不換紙幣は安定して流通している。……兌換紙幣と違って不換紙幣には信用が重要になるってことだ。そして、それはこの世界の統一金貨とも共通するけど……これって要するに不換紙幣と同じだよな。にも拘らず、どうして価値が維持されているのか? まあ、そういうものだと思って使えばいいんだろうけど」


【ちなみに、マルドゥーク文明でもこの世界では同種の金貨を使用していました。……この世界に来るまでは不換紙幣を使っていましたが】


 マジか……エンリが言っていることを総合すれば、不換紙幣よりもこっちの世界の金貨の方がいいと考えたということになる。……こんなに重いのに?


 まさか、超越技でこの金貨に価値があると全てのものに思い込ませる細工をしたとか?

 何のために?


 どっかのラノベだと、魔術的な処理を施したオリハルコン金貨を流通させ、魔力を搾取するってことをしていたけど、この金貨からはそういうものを検知できないからな。

 となると、覗きか? 金貨の付近にある情報を収集し、届ける。……いや、違うな。そんなことをする意味が分からない。



 シュノアが用意してくれたのは、魔族側にしか存在しない食材を使った料理だった。

 見た目は黒が中心だけど、黒い葉の野菜サラダは使用しているドレッシングと最高のハーモニーを奏でていた。


 ……いや、昨日食べた料理には及ばないけど。

 そもそも、あれは沢山金を積まれて提供される料理。一流の職人が、一流の食材で作るもの……これは、魔族とか人間がどうのこうのというよりも、提供される場の違いによるものだ。


 料理は庶民的。単価的にもジャンル的にもアルルの町の宿屋とそう変わらないけど、こっちの方が美味しい気がする。

 あんまり豪華なものばかり食べていても飽きるし、たまにはこういうのもいいかもしれないな……ってゲロマズな魔獣肉が俺の帰りを待っているんだけど。


「美味なり」


 ジューリアもお気に召したようだ。……もしかして、ジューリアも意外と下町の料理が好きだったりする?


「草子さん、少しいいですか?」


 食事を終えた頃、俺はキールに連れられて宿を出た。ジューリアとシュオンとシュノアさんはポカンとしている。


「……草子さん、お願いしたいことがあります。僕に戦い方を教えてください。……危ないところを助けてもらったお礼も満足にすることができず、その上、こんなことをお願いするのは申し訳ないと思っていますが。……僕は草子さんと出会えなければ、あの時死んでいました。僕が死ぬだけならまだいいです……ですが、シュオンを守れずに死ぬのは絶対に嫌です。大切な妹を守るための力を、僕にください」


 あの時のキールの顔。あれは、白崎さん達のものに似ていた。

 ……あの覚悟を見せられたら、教えないなんて言えないよな。


「俺は向上心がある奴が好きなんだ。そういう奴を見ると、少しでも力になってやりたいと思う。かつての俺の仲間に戦い方をアドバイスしたのも、そんな向上心を持っている奴だったからだ。……残念だけど、俺にキールを《深淵の大罪アビス・シン》に勝てるまで強くすることはできない。その領域に至りたいのなら、戦い方の基礎を学んでから自分で試行錯誤して強くなっていくしかない。もし、それができるのなら、キールさんなら魔王軍幹部にだって四天王になってなれる。……そうだな、明日の朝にシャドウレイの森の俺達が最初にあった場所に来てくれ。……後、俺が教えた奴って大体俺よりも強くなっちまうんだけど、お前まで俺を置いていくなよ」


 白崎さん達は勇者として俺よりも有名になっているし、イオン達も冒険者ランクは俺より上だ……俺はそもそも冒険者登録の時点でアウトだったからな。

 その後、俺達はシュノア達にお礼を言い、〝移動門ゲート〟を開いて屋敷に戻った。

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