なんか《深淵の大罪》とかいう七つの大罪を模したラスボス級の化け物に襲われて聖乙女の力すら使わずエルダーワンドで一刀両断してしまったのだが……災厄級の威厳はとうの昔に失われてしまったのだろうか?

 異世界生活百二十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、シャドウレイの森


「〝水装顕符〟、〝木装顕符〝、〝火装顕符〟、〝金装顕符〟、〝土装顕符〟」


 五つの力を纏ったジューリアは五色の輝きに包まれていた。これが、レーゲンが言っていたジューリアの本気モード――五行共榮装か。


「――光飛扇嵐」


 ジューリアは扇を振り下ろし、五色の光の攻撃をゴブリンディザスターに向けて放った……あんまり効いてないな。


 今のでゴブリンディザスターの注意がジューリアに向いたか……うっわ、下卑た目。もしかしてもジューリアを襲う気だろ、お前。


 ん? オログディザスターが姿を変えた? ……【変貌者】を発動してネメシスの姿に変身したか。

 ジューリアの心を読み取り、彼女の同じミント正教会教徒を大切にしている気持ちを付け込んだ。……なんで俺じゃなくてジューリアを対象にするんだろう? もしかして、俺如きなら能力を使うまでないと思っている?


(〝嗚呼、大いなる主よ! 今こそ汝の慈悲でこの世を彷徨える者達をお救いくださいませ〟――〝光聖霊退散セイクリッド・ターンアンデッド〟)


 とりあえず、キモい不死者の翼竜ゾンビ・ドラゴンさんにはご退場願おう。――聖なる祈りに焼かれて死ね……ゾンビだからもう死んでるけど!!


「【魔法剣・闇纏ヤミマトイ】」


Envelopperオンブルベ avecアベック les ténèbresテネーブル/Croissantクロワサン deドゥ luneリュンヌ envoyéアンヴォワイェ


 残りも【飛斬撃】で撃破した。……スキル的に食べた方が良さそうだからとりあえず回収しておくか。

 ……これ、絶対に不味いよな。


 さて、とりあえずマップを確認してみるか。


 魔王がいるのは魔王都市ジュドヴァってところだよな。

 テンプレだと結界が張ってあって魔王軍幹部を倒さないと入ることすらできないけど、大火力魔法を何発かぶちかませば結界の破壊自体は可能そうだ。


 ……けど、それってやっぱりズルだしな。挑戦者の礼儀として、魔王軍幹部を倒してから魔王都市ジュドヴァに行って魔王を滅ぼした方がいいか。


 となると、俺達が目指さなければならないのは……ここから一番近い魔王領バチカルか。

 魔王領の名前は邪悪の木クリフォトと対応しているらしい……魔王領バチカル、魔王領エーイーリー、魔王領シェリダー、魔王領アディシェス、魔王領アクゼリュス、魔王領カイツール、魔王領ツァーカブ、魔王領ケムダー、魔王領アィーアツブス、魔王領キムラヌートが外郭都市として存在し、その中に四天王領、中心に魔王都市ジュドヴァが存在するらしい……螺旋状に回っていくのが一番無難かな?


 魔王領バチカルには幹部の住む城があるらしいが……こっからはちと遠いな。

 情報も欲しいし、まずはこの辺りの村で聞き込みをしてみよう……人間がいきなり魔族の村に行ったら戦闘開始になりそうだな。異世界の魔族の村では流石にヨ●スケも突撃して晩御飯を食べさせてもらうのは無理だろう。……巨大なしゃもじで敵と戦うよ! みたいなことになるのだろうか?


 ん? ……なんか追われているっぽい人影があるな。人っていうか、多分魔族だろうけど。

 なんか巨大な魔獣の反応があるし、こっち来るっぽいから潰すか。助けたら恩賞とか貰えないかな? できれば魔王軍の情報と魔族の書物でオネシャス!! ……欲張り過ぎ?


「ジューリアさん。なんかこっちに魔族っぽいのが逃げてくるらしいんだけど、匿いつつ追ってくる魔獣ぶっ殺すから魔族に攻撃しないように頼む」


「何故なり? 魔族は我々人間の敵なり」


「いや、多分だけど魔族は人間……というかミント正教会が攻撃を仕掛けてきているから反撃しているだけだと思うけど。とにかく、今は情報が欲しい。その魔族から情報を提供してもらい、この国の情勢や構造とかを知りたい。……一応テンプレ通りだとは思うけど、趣向ってのは裏切られてナンボだからな。……ミント正教会もジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国の情報はほとんど持っていないだろう?」


「持ちたらず。……了解なり。我は魔族に攻撃せぬ」


「まあ、時と場合だ。相手が攻撃してくるのに無抵抗でいるのは意味が分からないだろう? 攻撃してくるなら遠慮はいらない」


「――了解なり」


 さて、そろそろ……おっ、見えた。典型的な褐色肌の魔族が二人。兄と妹ってところか?


「くっ、まさか、人間の勇者!! ……そんな、俺達はここで終わりか?」


「……お兄ちゃん」


「感動的な場面になっているところに水を差すようですんません。とりあえず、今のところ俺達は敵じゃないんで安心してください。後ろから来ている奴を殺してから、こっちの自己紹介はするんで、後で状況説明よろしくお願いします。……ジューリアさん、結界ヨロシク。こっち来る魔獣は俺がなんとかするんで、ジューリアさんも結界に入っていて」


「了解なり。〝彼岸と此岸に境あり。魔の者は魔の世界に留まりて決して越えることなかれ。一線を引き、結界を張り、あらゆる魔を通すことなかれ〟――〝護法の結界グレート・バウンダリズ〟」


 ジューリアの【結界魔法】が俺達のいる地点まで走ってきた魔族の兄妹と自分を纏めて包み込む。


 ――ッ! 来たか!!


 空間を引き裂き、現れたのは混沌とした粘液質コールタールの魔力を宿した鈍色の鱗に覆われた背鰭。

 空間の穴からその鱗がパラパラと崩れ落ち、無数の鮫型の魔獣が産み落とされる。……って、もしかして《深●の大罪ア●ス・シン》!? おいおい、ここには元悪役令嬢の聖乙女ラ・ピュセル、居ねえよ!! ……えっ? ミント正教会の大聖女アーク・ピュセルがいるじゃないかって? ……俺はカタリナと同一人物であって同一人物じゃないんだけどな。


-----------------------------------------------

NAME:《深淵の大罪アビス・シン》カリュブディス

LEVEL:10000

HP:3000000/3000000

MP:4000000/4000000

STR:4000000

DEX:1000000

INT:-10000

CON:1000000

APP:-10000

POW:1000000

LUCK:-100000


TITLE:【深淵の大罪アビス・シン


SKILL

【鰭理】LEVEL:2000

→鰭使いの真髄を極めるよ! 【鰭術】の上位互換だよ!

【突撃】LEVEL:2000

→突撃が上手くなるよ! 【突進】の上位互換だよ!

【捨て身】LEVEL:2000

→捨て身攻撃が上手くなるよ!

【奇襲】LEVEL:300

→奇襲が上手くなるよ! 【不意打ち】の上位互換だよ!

【浮遊】LEVEL:2000

→浮遊が上手くなるよ!

【掣肘】LEVEL:2000

→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!

【覇潰】LEVEL:2000

→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!

【絶望の波動】LEVEL:2000

→絶望の波動を放つよ! 【恐慌】の上位互換だよ!

【物理耐性】LEVEL:2000

→物理に対する耐性を得るよ!

【魔法耐性】LEVEL:2000

→魔法に対する耐性を得るよ!

【状態異常耐性】LEVEL:2000

→状態異常に対する耐性を得るよ!

【即死耐性】LEVEL:2000

→即死に対する耐性を得るよ!

【気配察知】LEVEL:2000

→気配察知が上手くなるよ!

【魔力察知】LEVEL:2000

→魔力察知が上手くなるよ!

【熱源察知】LEVEL:2000

→熱源察知が上手くなるよ!

【振動察知】LEVEL:2000

→振動察知が上手くなるよ!

【危機感知】LEVEL:2000

→危機感知が上手くなるよ!

【魔力操作】LEVEL:2000

→魔力操作が上手くなるよ!

【魔力付与】LEVEL:2000

→魔力付与が上手くなるよ!

【魔力治癒】LEVEL:2000

→魔力を使って治癒ができるようになるよ!

【魔力制御】LEVEL:2000

→魔力制御が上手くなるよ!

【魔力吸収】LEVEL:2000

→魔力を吸収できるようになるよ! 【魔力回復】の上位互換だよ!

【魔力妨害】LEVEL:2000

→魔力妨害が上手くなるよ! 魔力を使用する凡ゆる攻撃を妨害することができるよ!

【無限再生】LEVEL:2000

→失った部位を再生できるようになるよ! 【超速再生】の上位互換だよ!

【多重結界】LEVEL:2000

→幾重にも結界を重ねて攻撃から身を守るよ! 【結界生成】の上位互換だよ!

【空間歪曲】LEVEL:2000

→空間を歪曲させるのが上手くなるよ! 空間を歪曲させて亜空間を作り出すよ!

【腐食の魔力】LEVEL:2000

→腐食効果のある粘液質の魔力を纏うよ!


ITEM

-----------------------------------------------


-----------------------------------------------

NAME:《深淵の使徒アビス・アポストル》カリハリアス

LEVEL:300

HP:30000/30000

MP:30000/30000

STR:30000

DEX:60000

INT:-10000

CON:30000

APP:-10000

POW:30000

LUCK:10000


TITLE:【深淵の使徒アビス・アポストル


SKILL

【噛み砕き】LEVEL:300

→噛み砕きが上手くなるよ! 【咬みつき】の上位互換だよ!

【突撃】LEVEL:300

→突撃が上手くなるよ! 【突進】の上位互換だよ!

【捨て身】LEVEL:300

→捨て身攻撃が上手くなるよ!

【躱避】LEVEL:300

→攻撃を躱すのが上手くなるよ! 【回避】の上位互換だよ!

【奇襲】LEVEL:300

→奇襲が上手くなるよ! 【不意打ち】の上位互換だよ!

【浮遊】LEVEL:300

→浮遊が上手くなるよ!

【金剛】LEVEL:300

→金剛の如き硬さまで硬化するよ! 【部分硬化】の上位互換だよ!

【駿身】LEVEL:300

→駿速の領域まで速度を上げるよ! 【瞬速】の上位互換だよ!

【連携】LEVEL:300

→連携が上手くなるよ!

【物理耐性】LEVEL:300

→物理に対する耐性を得るよ!

【魔法耐性】LEVEL:300

→魔法に対する耐性を得るよ!

【気配察知】LEVEL:300

→気配察知が上手くなるよ!

【魔力察知】LEVEL:300

→魔力察知が上手くなるよ!

【熱源察知】LEVEL:300

→熱源察知が上手くなるよ!

【振動察知】LEVEL:300

→振動察知が上手くなるよ!

【危機感知】LEVEL:300

→危機感知が上手くなるよ!

【魔力吸収】LEVEL:300

→魔力を吸収できるようになるよ! 【魔力回復】の上位互換だよ!

【再生】LEVEL:300

→失った部位を再生できるようになるよ! 【体力回復】の上位互換だよ!

【掣肘】LEVEL:300

→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!

【脅嚇】LEVEL:300

→脅嚇が上手くなるよ! 【威嚇】の上位互換だよ!


ITEM

-----------------------------------------------


 ……えっ? そっち? 災厄級の魔獣の暴●大妖禍カリュ●ティス様でしたか。

 いや、名前的には《深●の大罪ア●ス・シン》だし、もしかして二つのいいとこ取りをしたのか……そんないいとこ取り、いらねえよ!! 誰得だよ!!


 見たことのない姿だな。一番近いのは鯨のような気がする。

 《大罪の鱗》……あっ、鈍色の鱗ね。あれが変化したのが鮫型の魔獣……メ●ロドンっぽい? おい、《深●の闇サ●ギン》要素はどこ行った!?


 正直面倒な相手だ。……【多重結界】あるから、悪役令嬢な聖乙女ラ・ピュセルさんでも浄化できないんじゃね!?

 【多次元結界】じゃないだけまだマシか? いずれにしてもモブキャラが戦う相手じゃねえよ。

 ……とりあえず。


 エルダーワンドを刀剣に変形させ、【神聖剣 極】と【太極刃】、【分解のオーラ】を纏わせ、そのまま地を蹴る……【空歩縫走立体移動】と、ついでに【不可視ノ王】を発動しておくか。


 【多重結界】? んなもん、余裕で切れる。

 【腐食の魔力】? そもそも超越者デスペラードにただの災禍級魔獣如きの攻撃が届く訳がない。


 【究極挙動】により最適化された俺の斬撃が、目の前に居る俺の姿を見失った《深淵の大罪アビス・シン》カリュブディスの身体を両断する……はい、終了。


 《深淵の使徒アビス・アポストル》カリハリアスの方は【殺気圏域】で十分だろう。

 後で他の魔獣と一緒に食べるか……はぁ、憂鬱。


 ……さて、通りすがりの災禍級魔獣も倒しましたし、魔族の兄妹から事情を聞くとしましょうか。



 《深淵の大罪アビス・シン》カリュブディスと《深淵の使徒アビス・アポストル》カリハリアスの死体を回収してから、ジューリアに結界を解いてもらう。


「……嘘、だよな。あの《深淵の大罪アビス・シン》を一撃で」


「いや、そんなに強くないと思うけど……まあ、この魔獣については後で話を聞くとして。初めまして、俺は能因草子。勇者じゃないけど魔王討伐に来たただのモブキャラだよ。あっ、俺のターゲットは魔王だけでそれ以外は別にどうでもいいんで、とりあえず怯えるのはやめてくだされ。俺も別にとって食ったりはしないから。こっちは、ジューリアさん。元ミント正教会隠法騎士修道会騎士団長様。今は訳あって、共通の敵を倒すために旅をしているって感じだな。あっ、ジューリアさんの目的は魔王討伐じゃないから、ジューリアさんにも怯える必要はないよ」


「……キール=デスサルズです。この度は危ないところをお助けくださり、ありがとうございます」


 兄はキール、妹とシュオンと名乗った。どうやら近隣の村に住んでいるらしい。


「ところで、アイツ何? 後六体いたりするの?」


「何故、六体なり?」


「いや、あれどう見ても七つの大罪モチーフだろ? ってことは後六体居るかなって? とりあえず、俺としてはあんまりジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国に詳しくないから、魔族達の常識ってのを教えて欲しいんだよね」


 キールの話によると、ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国の現魔王はエルヴァダロット・ダル=ノーヴェというらしい……老害メモとも一致するな。

 そのエルヴァダロットは魔王都市ジュドヴァの中央にある魔王城に居るらしいが、そこに入るためには魔王城にある結界を消す必要がある。


 この結界は解くためには十人居る魔王軍幹部を倒さなければならない。流石にこの十人の情報は貰えなかった。

 ついでに幹部の上にいる魔王軍四天王に関する情報も得られなかった……まあ、そりゃ敵対するって公言している相手に情報を与えるバカはいねえよな。これが、二人の最大限できる譲歩だったのだろう。


 もう一つ、《深淵の大罪アビス・シン》に関しては事細かく教えてくれた。

 まず、《深淵の大罪アビス・シン》は《大罪の七獣セブンス・シン》と呼ばれる七体の災禍級魔獣の一体に分類されるらしい。この魔獣は魔力の濃いジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国の地から自然発生したようだ。


 まず、一体目は《深淵の大罪アビス・シン》カリュブディス……まあ、既に殺したから割愛で。


 二体目は《烈火の大罪フレイム・シン》ムスペル。

 歩くだけで全てを燃やし尽くす炎の体を持つ巨人。

 周囲から熱を吸収して、成長、再生、自己進化を行い、巨人が現れた瞬間にその付近に存在する全てが凍りつく。……【熱力進化】持ちかな、コイツは。


 三体目は《金剛の大罪メタル・シン》ヒューマノイド。

 不定形の金属生命体。凡ゆる姿を取ることが可能。

 元ネタ的に考えると反物質以外では絶対に破壊できないとされる圧倒的な強度を持っていそうだが、物質である以上、分子を裁断する魔法やスキルの前では無力だったりしそうだな。【耐熱耐性】と【耐寒耐性】を持ち、熱変化では絶対に劣化しない……とかのおまけ付きっぽそうだし、やっぱり斬るのが一番早いか。


 四体目は《魂魄の大罪スピリット・シン》フレースヴェルグ。

 魂を喰らう怪鳥。魂を実体化させて喰らうことができる。

 元ネタ的に考えると巨大な自身の精神を衣として纏うことにより、あらゆる物理攻撃や魔法攻撃を無効化することができる半霊体生物ってところか? ちなみに、エンリによると霊煌粒子エーテル・マターと呼ばれる物質らしい。

 ……今の俺では討伐は無理そうだな。霊界を穿ちし兵装ダムガルヌンナを複製できないか検討してみるか。


 五体目は《空間の大罪スペース・シン》デウス・エクス・マーキナー。

 無数の歯車により構成される巨大な機械仕掛けの存在。

 話を総合すると、空間を支配する能力を持ち、支配した空間内では自身を含む敵味方や物質を転移させることができるってところか?

 攻撃手段は物理攻撃のみっぽいけど、本体が硬すぎるため、並みの人間が相手では即死級のダメージを与えることが可能。……同じ【瞬間移動】使い同士仲良くしようや。


 六体目は《夢幻の大罪ドリーム・シン》イブリース。

 妖魔ジンを彷彿とさせる青肌の大男。三つ目の目を持ち、その目が開眼した瞬間に強力な催眠効果を発動するらしい。

 元ネタ的を考えると、夢に干渉することで他者を洗脳し、その人格を変えることすら可能。自分が正しいと思ったまま仲間を殺してしまう、過去のトラウマの傷を開かせる、内なる欲望を爆発させるなどの精神攻撃を得意としてそうだな。


 七体目は《支配の大罪ドミネート・シン》スラバー。

 鎖に繋がれた目隠しをした巨大な存在。恐怖を抱いた存在を奴隷スレイヴにする能力を持つ。

 元ネタ的には奴隷スレイヴは自分の一部として扱われ、経験値の半分が自分に入るって効果がありそうだな。

 付随効果とかで奴隷スレイヴになった者はスラバーの言葉が理解できるようになり、スラバーに対する絶対的な忠誠を誓うようになる。……とかありそう。無いと能力として成立しないし。


「……う〜ん、とりあえず《魂魄の大罪スピリット・シン》以外は楽勝っぽい。美味しいのは《金剛の大罪メタル・シン》と《夢幻の大罪ドリーム・シン》かな? まあ、《夢幻の大罪ドリーム・シン》の能力は俺の趣味じゃないから得たところで使わないだろうけど。《金剛の大罪メタル・シン》は武器に加工すれば使えそうだし……」


「……お兄ちゃん、怖くないの?」


「シュオンさんだっけ? どこに怖がる要素あった? こんなモブキャラっぽい見た目で実際モブキャラだけど、この程度なら普通に粉砕できる……よな? ジューリアさん」


「我の力には不可能なり」


 いや、これくらい倒さなきゃヴァパリア黎明結社崩壊は夢のまた夢っすよ。


「というか、最近魔王軍がミンティス教国に攻めてこないのって、もしかしなくても《大罪の七獣セブンス・シン》の対応に追われていたからだよね。……タイミング良かったのかな? 少し前にミント正教会の中枢をぶっ壊したし、今って状況的にミンティス教国を攻められると不味い状況にあるんだよ。あっ、これオフレコで頼むよ」


「……ちなみに、ミント正教会の筆頭枢機卿カーディナルを殺ししはそこなる草子なり」


 あの、ジューリアさん。怯えさせること言わないでくださいよ。ほら、二人とも涙目になっちゃったじゃないですか。


「お兄ちゃん……もしかして、私達。勇者より怖い人達に助けられたんじゃ」


 いや、俺は善良な一般人モブキャラだよ! ……なんで毎回怯えられるんだろう?



 異世界生活百二十九日目 場所ジュドヴァ=ノーヴェ魔族王国、ポテムの村


 キールとシュオンに頼んで二人の住んでいる村にお邪魔させてもらった。

 村の魔族から向けられる突き刺さるような視線が痛い……まあ、俺は慣れているからいいんだけどね。よくハーレムと間違えられて「リア充爆発しろや! ボケ!」って視線を向けられまくってたから。


 ジューリアの方は大丈夫かなって思って見てみたら、無表情だった。

 ジューリアってあんまり表情に感情が出ないからな。まあ、その分感情が出た時はそれだけ気持ちが強いってことなんだけど。


「なんかすまんね。二人にも迷惑掛けて。……案内してもらって村につけたから、もう十分だと思うんだけど」


「草子さん。《深淵の大罪アビス・シン》カリュブディスっていうのは、本来会ったら死が確定するような相手なんですよ。草子さんに助けてもらえなければ今頃僕達は死んでました。……それに、この《深淵の大罪アビス・シン》カリュブディス討伐の話は村長に伝えなければなりません。その際にお二人にも立ち会っていただきたいのです。この村に滞在する間の食費と宿代は父と母に頼んで出して頂きますので……」


 まあ、《深淵の大罪アビス・シン》カリュブディス討伐の話をするのは吝かじゃないんだけど……あんまり話せることってないよ。

 問題はこの二人の家族に食費と宿代を出させるって話だ。サクッとぶっ殺した相手をネタに二人の家族を強請るってのはあんまりカッコいい話じゃないからな。


「えっと後半の却下で。魔族の食文化に関しては多少興味があるけど、それは自分で支払って食べるし……やっぱり一泊くらいはしよっかな? そっちも自分で払うから問題ない。あんな雑魚を倒して、それをネタに強請るとかカッコよくないだろう? 俺はモブキャラで、自分の目的のためには命すら奪う外道だけど、それでも超えてはならない一線ってものがあると思うんだ」


 モブキャラの分際で高望みし過ぎだっていう言葉はもっともだと思う。

 俺は傲慢だ。自分の目的のために他人の夢を踏み躙り、歩き続けようとしながら、その一方で助けられる人間全てに手を貸したいと思っている。


 正義面をしたい訳じゃない。俺はただ、できるのにしないってのが嫌なだけだ。

 ……いつからだろう? 俺がこういう風に考えるようになったのは。もしかしても、アイツらに感化されたんだろうな。


「まあ、すぐに魔王領バチカルに向かうつもりはないし、何かあるならその間に言ってくれ。……なんとなくお前のその表情に見覚えがあるんだ。多少だけど、俺ならお前のその望みに応えられると思うぜ。……おっ、ここじゃない? 村長の家」


 驚くキールと不思議そうな顔を浮かべるシュオン、無表情のジューリアと共に俺は村長の家に入った。

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