「せやかて〇〇」といいそうな浅黒い剣士さんに執着されて困っています〜転移モブキャラはシャーロキアンではありませんので〜

 異世界生活八十二日目 場所獣人小国ビースト


「では、第五戦目。準決勝になります! 左コーナー、今回の優勝候補筆頭、能因草子!! 右コーナー、獣人小国ビーストが誇る最強の近侍、マーナ=ガルム!!」


 準決勝の相手は狼牙族のクールビューティ、マーナ女史だ。

 その華奢な姿からは想像がつかないが、斬馬刀の使い手で、その強さは獣人小国ビーストで第二位と言われている。


「よろしくお願い致します」


「こちらこそ、よろしくお願い致します。……で、武器はどうすれば?」


「草子様の好きなものをお使い下さい。制限は必要ありません。……私は本気の草子様と戦いたいですから」


 本気ねぇ……いや、こんなモブキャラに本気も手加減もないけど。

 ……まあ、いつもの通りノリと勘で選んで戦えばいいか。


 とりあえず、エルダーワンドを刀剣の形にした。

 うわ、斬馬刀と比べると滅茶苦茶貧相に見える。


「それでは、参ります!!」


 開始早々、マーナの持つ斬馬刀に雷が宿った。……【魔法剣】か。


「野太刀・川崩れ」


 【振りかざし】からの地割れ攻撃か。……うわ、地面に亀裂……というか、大きな溝ができている。とんでもない膂力だな。


「野太刀・水平斬」


 今度は【薙ぎ払い】からの【飛斬撃】か……かなりスキルレベルを上げているな。動きが滑らかだ。

 だけど、俺に雷は効かないんだよな。


 【プラズマ操作】を使い、マーナの斬撃から雷を剥がす。

 そのままエルダーワンドに纏わせて、斬撃を一閃。


「そんな! 雷を剥がすなんて!!」


 流石にマーナも驚いたか。まあ、初見でこれをやられたら驚くよね。


「なるほど……草子様に【魔法剣】は通用しない。ならば、斬馬刀で直接草子様を倒すまでです」


 おっ、【縮地】……いや、【迅雷縮地】で一気に間合いを詰めてきたか。

 そのまま野太刀を振りかざす。しかし、違うのは地面ではなく直接俺を狙ってきていることか。


 エルダーワンドで受け止めるが……ちっ、予想以上に重い。それに、これは……剣を通じて衝撃を叩き込んで俺の右手を麻痺させたか。


「野太刀・痺れ斬……どうですか?」


「これ、受けちゃあかん奴だった。……【状態異常無効】も無効化しているからな。この右手はしばらく使えないな……まあ、別に問題ないけど。〝星の重力を増幅せよ〟――〝超重力スーペル・グラヴィタ〟」


「――ッ!!」


 別に剣だけで戦う訳じゃないからね。【重力魔法】を使っちゃいけないってルールは無いし。


「〝凍てつく氷よ。槍の形持つ無数の氷塊へと姿を変え、汝の敵の身体を貫け〟――〝無数氷塊大槍アイシクルフルランス〟」


 無数の氷の槍がマーナに襲い掛かる。……これで、決着だな。


「勝者、能因草子!!」


「ありがとうございます。……私もまだまだということが分かりました」


「なんか、毎回騙し討ちをしているみたいで申し訳ありません。まあ、これが俺の戦い方ですので」


 まあ、モブキャラに真っ当な戦い方ができる筈がないよね。

 できたら、モブキャラじゃないから。


「魔法の使い手を相手にして、魔法を警戒しなかったのは私の落ち度です。……レオーネ様を守る近侍に相応しくなれるよう、後ほどご教授下さりませんか?」


 なんかよく分からないけど、戦い方指導をする約束を結んでしまった。

 ……マーナって今でも充分強いから、俺に教えられることってないと思うけどな。



「では、第六戦目。決勝になります! 左コーナー、今回の優勝候補筆頭、能因草子!! 右コーナー、獣人小国ビーストの女王レオーネ=バステト!」


 最終戦の相手はレオーネ……いや、トーナメント表を見るまではまさか女王が参加するとは思わなかったけど、よくよく考えたら獣人で一番強い人が王になるんだから、トーナメントに出てくるのは当然か。


「草子様、やはりここまで辿り着きましたか。ですが、獣人の長として負ける訳には参りません。――ご覚悟を」


 ……なんで勝ち残っているんだ的な場違い感が半端ない。

 まあ、ここまで来たからには頑張って勝ちますよ。


 ちなみに、今回も戦い方は自由ということらし。……そりゃ、近侍が制限無しにした以上、女王が制限を掛けるのは威厳的に無理だよな。


「それでは、参ります!!」


 すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――

 すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――


 普通の呼吸ではない、不自然なロングブレス。……うん、物凄い聞き覚えがある。


「草子様は見たことがないと思いますが、これは――」


「【調息】だろう? いや、ステータスを見た時にビックリしたよ。ユェン以外にも仙人がいたなんて。いや、正しくは乾道チィェンダオか?」


「まさかご存知だとは。……その通り、私は獣の仙人――獣仙人です」


「……これって姉弟子っ言うんですかね? 道に入ったのは俺が後ですし、レオーネ姐様と呼ばせて頂きましょうか?」


「やめて下さい。むず痒いです。……ということは、もしや草子様も?」


 ――息を吸う。


 普通の呼吸ではない。途方もなく長いと錯覚させるような摩訶不思議な深呼吸。


 ――息を吐く。


 吸った時と同じくらいの長さで、肺にある全ての空気を押し出すのをイメージして。


 不自然なロングブレスの中で、自らの魔力を洗練し、練り上げ、全く別種の力へと変貌させる。

 だが、違うのは【調息】を使ってプラーナと魔力を共存させるイメージをしているか、していないか。


「……まさか、草子様も【調息】を使えるとは。ですが、まだ斑があるご様子……完全に魔力をプラーナに変化させることはできないようですね」


 やっぱりか。魔力を残すのは未熟な証拠――そう捉えるのが一般的らしい。


「さあ、それはどうでしょう? 【魔力纏・龍拳士】、【纏気】、同時発動!!」


 あえて声に出し、レオーネを牽制する。


「ま、まさか! 【纏気】を使いながら魔力も操るのですか!! そんなことが!!」


「何を驚いていらっしゃるのですか、レオーネ姐様」


「やっ、やめてください!!」


 普段は澄ましたような顔をしているクールビューティが狼狽すると、ギャップがあって可愛いな……と、本人には絶対に言えないな。


 おっ、いきなり【神足通】を使って加速し間合いを詰めてきたか。

 武器を持たないレオーネは、【金剛通】を纏わせた爪と【剛力通】で強化した手足で攻撃を仕掛けてくる。


 対する俺の一撃目は尻尾。次に爪による攻撃と流れるように攻撃していく。


「……うっ……ゲホゲホ、な、なかなかやりますね」


 最後のジャブが腹に入り、かなりのダメージを与えたみたいだ。

 しかし、この攻撃を受けて倒れないとは……【活性通】ってかなり厄介なスキルなんだな。


「……【活性通】が無ければ間違いなくやられていました」


「まあ、レオーネ様ならば今のジャブを耐えることも容易ですよね? さて、アップも終わりましたし、少しレベルを上げますか?」


「――なっ!!」


 えっ、そんなに驚くこと? こんなのまだ挨拶代わりだよ?


 【瞬間移動】を発動し、レオーネの背後に回り込む。そこから回し蹴り、右ストレート、左アッパー、右コークスクリューと連撃を放ったらレオーネのHPゲージが吹っ飛んだ……早過ぎね!?


「み、見えなかった……まさか、ここまで速いとは」


 ただ速いだけで技はほとんど自己流だけどね。見様見真似……まあ、異世界転移者とか異世界転生者って、基本的に武術の心得がない一般人だから、見様見真似じゃない方が珍しいと思うけど。

 橘流十●芸のような総合武術を使える奴はまずほとんどいない。剣だけでもほとんどいないんじゃないか? いずれもご都合主義が通用する異世界ものだからあり得ることだ。


「んじゃ、これで優勝か? ……いや、後一人か」


 突如、戦場に雷が落ち、浅黒い肌の剣士が不敵な笑みを浮かべた。



 令嬢方が卒倒しそうなナイスミドル(但し、口を開かなければ)。

 なんでこの人が居るのか分からん。まあ、前現れた時も突然だったし、青天の霹靂って故事成語もあるから、雷の性質を反映しているって考えるのもできるけど。……雷神だし。


 ≪よっ、おもろいことやっとるな。もっとはよ気付ったら良かった≫


「……相変わらず突然ですね、ウコン殿。本日はどのような用事でしょうか?」


 ≪そないなもん決まっとるやんけ。武者修行のために色々な異世界を駆け巡り、更なる強さを得ようと思っとった矢先、こないにも面白そうな大会があるってのに気づいたから参加しようと思ったら、もう終わりそうな雰囲気になっていて、急いで地上に降り立って訳や≫


 ……武者修行ね。超越者デスペラードに至るための研鑽のためか。

 いや、別にいいけど……神様ってそうポンポン地上に降りていいのか?


「……あの、この方は?」


「そういえば、レオーネ様はご存知無かったですね。彼はウコン……まあ、簡単に言えば神様です。……分類は雷神? 武神??」


「「「「「「神様!?」」」」」」


 ……えっ、そんなに驚くこと?


「神様って言っても無敵な訳じゃない。ちょっとした優位性を持っているだけでそれ以外は地上の人とさほど変わらない……って女神オレガノが言っていた気がする」


 ≪その通りや。まあ、代替わりっちゅうシステムがあるけどな。神は消滅以外では死なんが、それまでの人格は失ってしまう。そんなんは死んだのと同義や≫


 へぇ、代替わりってシステムがあるんだ。……もしかして、神の知名度とかも関係するの?


「それで、目的は?」


 ≪勿論、勝負や。このまま戻る訳にはいかへんからな。真の決勝戦ってことで、勝負してくれへんか?≫


「……駄目って言ってもどうせ闘うんだろう? この戦闘狂バトルジャーキー。……いいよ。また打ちのめしてやる」


 ≪前みたいに無様な姿は見せん。可愛い可愛い信徒達もわいの勝利を願ってくれとるだろうしぃ≫


「……えっ、信者いるの? こんな脳筋っぽい奴なのに?」


 ≪毒舌やな。神に対してそこまでズケズケと言えるのオノレくらいやで、能因。これでも一応国教にもなっとる宗教の神なんやけどな。……後、脳筋は余計や≫


 怒るのは事実を言われたからだろう? まあ、これ以上この話を長引かせるつもりは無いけど。


「司会さん。ってな訳で最終決戦。まあ、チャンピオン防衛戦みたいな感じか? 相手は武神ウコン――まあ、こんな奴だし敬う必要はねえよ」


「わっ、分かりました!! それでは、最終戦――左コーナー、今回の優勝者、能因草子!! 右コーナー、挑戦者武神ウコン。それでは、参ります!!」


 ≪《雷神の分身》≫


 おっ、いきなり仕掛けてきたか。雷で自分の分身を作り出す技か。

 今回は正面からではなく搦め手も使うつもりみたいだな。


 ≪≪≪≪≪――《霹靂》!!≫≫≫≫≫


 電磁抜刀を行い、強力の居合による斬撃を繰り出す技か。しかも、五人同時……普通なら本体は一つだが、恐らくウコンの正体は雷――五体全部が本物でもおかしくない。


 つまり、五人同時の最速抜刀か……酷くね!! モブキャラ相手にすることじゃねえぜ!!


「〝時を止めよ〟――〝時空停止クロックロック〟」


 瞬間、ウコンと分身達の動きが完全に停止する。

 アイ●ズ様と戦う場合に最低限対策しなければならない魔法その二……対策もせず神様あっさり停止したけど……まさか、アイ●ズ様一人で神界壊滅させれたりする!?


concasserコンカッセ


 エルダーワンドを刀剣に変形させ、ウコン達を切り刻む。

 時間が停止しているから、ウコンは斬られたことに気づかないだろう。


 ――そして時は動き出す。


 ≪そんなアホな!!≫


 ウコンの身体がサイコロ状に切れ、地面に落ちると同時に消滅する。

 今の攻撃で完全にウコンのHPゲージが吹っ飛んだようだ。


「勝者、能因草子!!」


 ……う〜ん、本当にそれでいいのか? 俺、モブキャラだぞ!? バグっているけど。


 試合後、俺達は百獣宮廷の祝賀会に出席した。なんでも、チャンピオンリーグの優勝者を百獣宮廷総出で祝うのがこの国のルールらしい。

 マナーのマの字も知らない俺だが、獣人王国に細かいことはあんまり気にしない風習があったのが功を奏し、白い目で見られることが無かったのは本当に良かった。


 ……ロゼッタが「草子君って貴族の英才教育を受けていないのに、貴族令嬢顔負けの素晴らしい行儀作法ですね」と褒めていたが、多分社交辞令だろう。


 その後、約束通りマーナに稽古をつけた俺は、白崎達と共に屋敷に戻った。

 獣人連合ザゾールの旅は明日から再開だ。……もう遅いしね。


 ちなみにウコンは、未知なる強敵との戦いを求めて一旦神界に戻った……あの神出鬼没、青天の霹靂そのもののような人だし、どっかでまたひょっこりと出てきそうだな。


 なんか気に入られたみたいだし……最後は東の能因、西のウコンとかそんな風にセットで扱われるようになるのだろうか?

 言っとくけど俺、推理はできないし、灰色の脳細胞も持っていないし、シャーロキアンでもないよ! ……まあ、演算能力に関しては【叡慧ヲ窮メシ者】のおかげで上がっているけど。

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