【三人称視点】天啓の救済の大聖女と正教会③
ミンティス歴2030年 8月16日 場所ミンティス教国、ウァレレムの町、教会(教派:ミント正教会、宗派:セペァジャ派)
「ここまでにしておきましょうか?」
目の前に積まれた紙束に、特に感慨深さを向けることのないカタリナと、絶句したまま固まるユーゼフの姿は対象的だった。
カタリナは慣れた手つきで紙束を麻紐を使って製本していく。
製本も瞬く間に完了し、十人中十人が本に間違いないだろうというであろうものを抱え、カタリナは席を立った。
「あの、それは僕が持ちます!!」
「そうですか? では、お言葉に甘えて」
カタリナから本の山を手渡されるのと同時に、ドスンと腕を衝撃が襲った。
(……重いっ! 予想以上だ。……なんで、この人はこんなに細い腕でこれほど重い本の山を軽々と持ち運べるんだ!?)
この世界は、必ずしも筋骨隆々なものが力あるものではない。
ステータスという概念があるこの世界では、一見優男に見えて実際は大剣を振り回す怪力戦士だということもあるのだ。
まあ、普段から大剣を振り回しているのであれば必然的に筋肉もついてくるので、大方見た目がその人物の戦い方を示しているものだが。
よくよく考えてみればカタリナは
その見た目から非力だと考えるのが間違いだということは既に分かりきったことなのだが、心のどこかで「カタリナは普通の女の子なんだ」という強迫観念があるのだと、ユーゼフは自覚していた。
「重そうですね。……う〜ん、やっぱり
そう言ってカタリナが法衣のポケットから取り出したのは、一つの豪奢な彫刻が彫り込まれた指輪。
それを右手中指に嵌めると、ユーゼフの抱える本の山に触れる。
すると、ユーゼフの持っていた大量の本が一瞬にして消え失せた。
「……あの? その指輪は?」
「これは、
カタリナはそういうと、微笑を浮かべた。そして、見惚れてしまうユーゼフ。
カタリナが突然何もない場所から
(……確かに、この指輪には
間違いなく【時空魔法】が刻印されている。そして、この世界で【時空魔法】が使える人間は過去を遡っても片手で数えても足りるほど。
【始まりの勇者】エルヴェリアに仕えた【黒魔導師】クロノス、現
そして、突如彗星の如く現れた存在そのものが災厄だと語られる男――【黑の暴君】能因草子。
その実力は、魔法師としても剣士としても魔法剣士としても格闘家としても超が付くほどの一流。
更に、彼の人物に教授を受ければ例外なくとんでもない成長を遂げるという噂すらある。
実際、彼の男の仲間には
更に、チームトライアードと呼ばれる亜人三人で構成されるチームを筆頭に冒険者界で活躍する彼の教え子の存在や、エリシェラ学園に所属する生徒、教師問わず全体的な能力が向上したという噂は、能因草子という人物の教育者としての実力を裏付けている。
勿論、女神ミントは全能神――【時空魔法】すらも自在に使うだろう。
地上にこれだけの使い手の記録しかないことからも、女神ミントの素晴らしさが分かるというものである。
カタリナとユーゼフは図書館を出ると、外で待っていた修道女に案内され、それぞれの部屋に向かうことになった。
一人部屋が四つ隣同士に用意されている。その部屋は地方の教会とは思えないほど豪華な作りで、来客のためのものであることが窺えた。
今後の予定について修道女は説明した後、会釈をして戻っていった。
食事まではまだ時間があるということで、ユーゼフはカタリナの居る隣の部屋に向かう。
その目的は――。
「カタリナさんの装備は一体どのようなものなのですか?」
カタリナの持っている装備の詳細をユーゼフは知らない。
彼女の持つ四つの武器に関しても名前を知っているだけで、その全貌を把握してはいないのだ。
「そういえば、お話ししていませんでしたね。いい機会ですので、ユリシーナさんとゼルガドさんもお呼びしましょうか?」
隣にあるユリシーナとゼルガドの居る部屋に向かい、ユーゼフは2人をカタリナの部屋に連れて行く。
「カタリナ様、本当にいいのか? 手札を開示するようなもんだろう?」
ゼルガドも本音でいえばカタリナの持つ神器がどのようなものか知りたいと思っていた。
しかし、普通に考えれば自分の得物の詳細を教えるということは手札を開示するということ。
明らかに自殺行為だ。
「私は皆様は心の底から信頼しております。ですから、私は自身の神器について教えてもいいと思ったのです。それに、連携のためには互いの力を知っておくのが重要だと思います」
真の実力が分からなければ全員の実力を十全に理解した上での作戦は立てられない。
その実力を見誤れば、分不相応な戦いに挑み命を散らすこともあるだろう。
しかし、一方で自分の力というのは重要な個人情報である。
特に冒険者稼業においては、自身の編み出した技などは蹴落とされる材料となるため、同じチーム同士でもその本領を見せることなく牽制し合っているというのもそれほど珍しい話ではないようで、完全に手の内を見せ合っているチームという方が珍しいようだ。
つまり、自らの手の内を明かすどころか他者に教授してしまう、或いは他者を育てるのに手間を惜しまない能因草子という存在の方が、この実力主義の世界では異端なのである。
……もっとも、彼の戦い方のほとんどは災害に認定されるほどの強大な力であり、真似をしようと思っても真似ができないのだが。
「それならば、私達も能力を開示しなければ不公平だな」
というユリシーナの言葉もあり、カタリナの神器の性能説明は、四人全員のステータスの紹介に変わった。
といっても、ここにいるメンバーは鑑定士に依頼してステータスを開いていた者達。「ステータスを調べるためにまずは鑑定士を呼ばなければ」と席を立とうとするユーゼフをカタリナは止めた。
「ユーゼフ君、鑑定士を呼ぶ必要はありませんよ。頭に浮かべながら鍵の言葉を口にすればステータスを開くことができます」
「……カタリナ様、鍵の言葉ってのはなんだ?」
「なんでもいいですよ。『ステータス』とか『オープン』とか、ステータスの表示に関係しそうな単語であれば問題ありません」
「なるほどな。――ステータス! おっ、開いた! まさか、こんな簡単に開けるとは。今まで俺はなんで高い金を払って鑑定士に調べてもらっていたんだろう? バカバカしくなってきた」
「オープン……おっ、本当に開けたな。いや、別にカタリナ様の言葉を疑った訳ではないぞ。……しかし、こんなにもあっさり開けてしまうとは。ゼルガドの言う通りこれまで鑑定士に依頼していたのがバカバカしくなるな」
「個人情報という面でも鑑定士に教えるのは危険だと思います。今のところはありませんが、後々鑑定士が自身の鑑定したステータス情報を売却して利益を上げる――そういう商売も発生する可能性が十分に考えられますから」
「カタリナさんは本当に色々なことを念頭に置いて動いていますね。一切の無駄がないといいますか……」
「ユーゼフ君、私は合理主義的なところはあっても完全に合理主義ではありませんよ? 無駄だと分かっていても、後々意味を成すのであれば、或いは仲間が望むのであれば、無駄だと思えるものを切り捨てたりはしません」
「前者は結局巡り巡って無駄になっていないだろッ!」と心の中でツッコミを入れたいユーゼフ達だった。しかし、一方で。
(それって、カタリナさんは僕達が困った時には手を差し伸べてくれるってことだよね?)
と、護衛なのに守られること前提という本末転倒な思いを巡らせながら、ユーゼフは改めてカタリナが優しく仲間想いな人物だと感じていた。
「それでは、この紙に皆さんのステータスを書いてみてください」
カタリナは人数分の紙と硯と筆を手渡した。
三人は一旦部屋に戻り、それぞれの部屋にある机でステータスを写していく。
数分後、書き終えたユーゼフ達が戻ってくるとカタリナの方も終えていたようで、その手に何枚か紙を持っていた。
「それでは、まずは私から」
カタリナは紙を机の上に広げた。
どうやら、ステータスだけではなく武器の詳細した別の紙も同時に提示するようだ。
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NAME:カタリナ=ラファエル AGE:17歳
LEVEL:100
HP:3000
MP:4000
STR:3500
DEX:3500
INT:6000
CON:3000
APP:10000
POW:3000
LUCK:1000
JOB:
SKILL
【片手剣理】LEVEL:10
→片手剣の真髄を極めるよ! 【片手剣】の上位互換だよ!
【二刀流理】LEVEL:10
→二刀流の真髄を極めるよ! 【二刀流】の上位互換だよ!
【槍理】LEVEL:10
→槍使いの真髄を極めるよ! 【槍術】の上位互換だよ!
【唐竹】LEVEL:50
→唐竹が上手くなるよ! 上から下に斬るよ!
【逆風】LEVEL:50
→逆風が上手くなるよ! 下から上に斬るよ!
【袈裟斬り】LEVEL:50
→袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の左肩から右脇腹を斬るよ!
【逆袈裟斬り】LEVEL:50
→逆袈裟斬りが上手くなるよ! 相手の右肩から左脇腹を斬るよ!
【左斬り上げ】LEVEL:50
→左斬り上げが上手くなるよ! 袈裟斬りの逆に斬り上げるよ!
【右斬り上げ】LEVEL:50
→右斬り上げが上手くなるよ! 逆袈裟斬りの逆に斬り上げるよ!
【居合い】LEVEL:50
→居合が上手くなるよ!
【飛斬撃】LEVEL:50
→斬撃を飛ばすのが上手くなるよ!
【無拍子】LEVEL:50
→無拍子が上手くなるよ!
【刺突】LEVEL:50
→刺突が上手くなるよ!
【連続突き】LEVEL:50
→連続で突きを放てるようになるよ!
【螺旋槍撃】LEVEL:50
→螺旋突きを放てるようになるよ!
【閃光槍撃】LEVEL:50
→閃光突きを放てるようになるよ!
【貫通】LEVEL:50
→攻撃を貫通させられるようになるよ!
【薙ぎ払い】LEVEL:50
→薙ぎ払いが上手くなるよ!
【振りかざし】LEVEL:50
→振りかざしの威力が上がるよ!
【神聖魔法】LEVEL:300
→神聖魔法を使えるようになるよ!
【回復魔法】LEVEL:300
→回復魔法を使えるようになるよ!
【複数魔法同時発動】LEVEL:300
→複数の魔法を同時に発動できるよ!
【複合魔法】LEVEL:300
→複数の属性の魔法を融合できるよ!
【連続魔】LEVEL:300
→連続で魔法を使えるようになるよ!
【物理無効】LEVEL:100
→物理を無効にするよ! 【物理耐性】の上位互換だよ!
【魔法無効】LEVEL:100
→魔法を無効にするよ! 【魔法耐性】の上位互換だよ!
【状態異常無効】LEVEL:100
→全ての状態異常を無効にするよ! 【状態異常耐性】の上位互換だよ!
【祈祷】LEVEL:100
→祈祷が上手くなるよ!
【死霊視】LEVEL:100
→死霊視ができるようになるよ!
【魔力操作】LEVEL:100
→魔力操作が上手くなるよ!
【魔力付与】LEVEL:100
→魔力付与が上手くなるよ!
【魔力治癒】LEVEL:100
→魔力を使って治癒ができるようになるよ!
【自己治癒】LEVEL:100
→自己治癒できるようになるよ!
【魔力制御】LEVEL:100
→魔力制御が上手くなるよ!
【ミンティス語】LEVEL:100
→ミンティス語を習得するよ!
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・
→光から作り出すことができる効果が付与された杖型の神器。全部で七十七個の魔法を保存して空気中の魔力を利用して自動発動できるという効果と光を自在に操作することが付与されている。
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・
→西洋剣風の神器。斬撃を受けたくなる効果が付与されている。基本性能として天使程度なら黒い染みに、それ以上の硬さを持つ敵も両断する効果と傷つけた相手のHPを吸収する効果、邪を祓う効果、傷つけた相手の魂を直接抉り取る効果がある。水を生み出し自在に操る効果が付与されている。
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・
→槍風の神器。自由自在に刀身を増やすことができる効果が付与されている。基本性能として天使程度なら黒い染みに、それ以上の硬さを持つ敵も両断する効果と傷つけた相手のHPを吸収する効果、邪を祓う効果、傷つけた相手の魂を直接抉り取る効果がある。雷を生み出し自在に操る効果が付与されている。
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・
→刀剣風の神器。自由自在に炎へと変化させ、自由に取り出すことができる効果が付与されている。基本性能として天使程度なら黒い染みに、それ以上の硬さを持つ敵も両断する効果と傷つけた相手のHPを吸収する効果、邪を祓う効果、傷つけた相手の魂を直接抉り取る効果がある。炎を生み出し自在に操る効果が付与されている。
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・
→黒の生地に金糸や銀糸で刺繍を施したウィンプル。【状態異常無効】、【魔力回復】、【体力回復】が付与されている。
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・
→黒の生地に金糸や銀糸で刺繍を施したトゥニカ。【状態異常無効】、【魔力回復】、【体力回復】が付与されている。
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・
→白の生地に金糸や銀糸で刺繍を施したコート。【状態異常無効】、【魔力回復】、【体力回復】、【属性魔法乱反射】が付与されている。
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・
→【時空魔法】が施された指輪。半径十メートルまでなら物を出し入れできる。時間を凍結した空間に保存される。
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「「「……えっ?」」」
絶句する三人。キョトンと首を傾げるカタリナ。
「……これ、護衛要らなくないか?」
発言こそしないが、ユーゼフとユリシーナの心も同じだった。
「……一つずつ質問してもいいか?」
「はい、勿論です。ユリシーナ様」
この一見聡明に見える少女は、実は感情の機微に疎いのだろうか?
ユリシーナが渋面を浮かべているのにも拘らず、優しい笑みを湛えながら質問に一つ一つ真面目に答えようとしている。
……まさか、気づいていてそのまま放置しているということはないだろう。カタリナに限ってそんなことは。
カタリナ腹黒説真っ向否定派のユーゼフは、頭の中に浮かんだ可能性を振り払った。
ユーゼフにとって、カタリナは優しく裏表のない少女なのだ。
「『基本性能として天使程度なら黒い染みに、それ以上の硬さを持つ敵も両断する効果と傷つけた相手のHPを吸収する効果、邪を祓う効果、傷つけた相手の魂を直接抉り取る効果がある』とあるが……これって基本性能なのか?」
「はい、三つ全てについているので基本性能だとミント様に仕える
女神ミントの使徒が言うのであれば、そう納得しなければならないのがミント教徒というもの。
……しかし。
「……僕は女神ミント様に仕える天使が存在しているというのは『聖典』を通じて理解していますが、その名前がラファエルだというのは初耳です。……それに、ラファエルって」
「はい、私の家名です。……いえ、正確には元孤児の私がラファエル様より受け取った名前ということになります」
カタリナが元孤児だという話は三人とも初耳だった。
しかし、だからと言って何かが変わる訳ではない。三人ともスルーすることにし、その気持ちを理解しているらしいカタリナもそれ以上その話題に関しては何かを言おうとはしなかった。
「ミント正教会の『聖典』に全てのことが載っていないのは至極当然のことです。人が神の全てを理解することができる筈がありませんから」
それは、ミント教の「理解できない故に神である」という思想とも一致する。
「……魂を抉り取られたらどうなるんだ?」
「基本的に即死します。また、転生も不可能です。強い魂を持っている場合は
〝
この時代の
勿論、これら魔法も十分に大魔法である。間違ってはならない。
なお、〝DIES IRÆ〟の方が更にスペックが高くあらゆる耐性を貫通できてしまう。
〝
「……その
カタリナとの戦いで場合によっては命を失っていた可能性があったことを理解し、改めてカタリナが慈悲深い人で良かったと安堵するゼルガドとユリシーナだった。
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