文学少年(変態さん)は世界最恐!? 〜明らかにハズレの【書誌学】、【異食】、にーとと意味不明な【魔術文化学概論】を押し付けられて異世界召喚された筈なのに気づいたら厄災扱いされていました〜
異世界カオスクオリティはクトゥルフの旧支配者すらもザコキャラにしてしまうようだ。
異世界カオスクオリティはクトゥルフの旧支配者すらもザコキャラにしてしまうようだ。
異世界生活七十八日目 場所ポセイドン宮殿
かつての俺なら、他国であっても国の中枢に乗り込んで不敵な微笑を浮かべながら太々しい態度で言葉を交わし、利益を上げるなど、できなかった。
そんな力、俺にはないから。罷り間違ってバグったステータスを得ることがなければ、俺はこんなにも慇懃無礼にドワーフの皇帝に、獣人の女王に要求を突きつけることはできなかっただろう。
失うものがないからこそ、俺は戦える。何もないから、夢のためなら命を捨てる覚悟すらしているから、無茶ができる。
扉を蹴破ったのは、単に開けるのが面倒だったから。他意はない。
「お父様、お母様!!」
ミュナは玉座に座る王と女王を見るなり、両目に涙を浮かべて駆け出した。
王と女王、そしてミュナの三人が仲良く抱き合う。うん、ハッピーエンドだ。
「…………ありがとう。娘を救ってくれて」
「いえいえ、ただ自分の目的のついでだっただけですので。寧ろ、遅れてしまい、申し訳ございません。本来ならば、一国の姫であるミュナ様を真っ先に本国に帰国させるべきでしたが」
ずっと心細かっただろう。それでも、他の子を気遣い、特別扱いを拒んだミュナは強いと思う。
「――ザヴァルナード様、セファエス様、お気をつけください!! そいつはミュナ様を誘拐した奴隷商人です!!」
……追いついてきたよ、マリーナ。
「……そうなのか?」
「違うよ!! お兄ちゃんはミュナを助けてくれたの!!」
「ミュナもそう言っている……マリーナ、その一度思い込んだら視野が狭くなるところ、あまり褒められたものではないぞ」
「……も、申し訳ございません」
兵士達から向けられる視線は相変わらず鋭いままだ。が、
白崎達と合流したところで、俺はこれまでの事情を説明した。
「……つまり、ミュナ達を捉えていた
「ええ。本当は海洋国家ポセイドンの高貴な身分であらせられるミュナ=トリアイナ様を、真っ先に海洋国家ポセイドンにお返しすべきだとは思いましたが、本人のたっての希望で他の元奴隷から順に受け入れを依頼しておりました。……ミュナ様は、外の世界を見て回りたかったそうなので、いい経験になったとは思いますよ」
「そうなの! お兄ちゃん、凄いの!! 遠いところにビュンって飛べるの! お姉ちゃん達も強いの!!」
「……まさか、【空間魔法】の使い手ということですか?」
「女王様、なかなか鋭いですね。まあ、たまたま持っているだけですよ。……それから旅の間、ミュナ様を様々な国にお連れしました。エルフの里、武装中立小国ドワゴフル帝国、獣人小国ビースト、エリシェラ学園……まあ、仰りたいことも分かりますが、彼女達は、この世界でも最高クラスの勇者様と、その一行――こんなモブキャラなど足元にも及びませんでしたので、道中は世界一安全であったことを保証させていただきます」
「草子殿の心遣いには、感謝しても仕切れんよ。私の娘に広い世界を見せてあげようと色々な場所に連れて行ってくれたのだろう?」
……いえ、置いていこうとするとしがみついて離れないので仕方なくです……とは言えず。
とりあえず、
「では、問題の元奴隷の受け入れですが」
「ああ、勿論受け入れるよ。確か、九十人だったな」
「ありがとうございます。……こちらからは、援助費として虹金貨一枚を進呈させていただきます」
「……何故、同族を助けてくれた恩人から金を取らなければならないのだ?」
「奴隷解放というのは、ただでさえ反感を買いやすい行動です。また、衣食住を用意するにも負担が掛かります。元奴隷が、自立して生きられるように援助をし終えた状態で、初めて奴隷解放がなされたと言えるのではないでしょうか? 流石に、元奴隷の社会進出による損失の補填までは無理なので悪しからず」
「……ただ、正義感で動いている訳ではないようだな。その影響も考えた上で、完璧過ぎるリカバリーまで行っている。……私よりも、よほど政治家向きだ」
「いや、こういうのは自由な身だからできることであって、一国の君主になって制約が出てきたらできなくなりますよ。それに、こんなモブキャラに政治家なんて務まる訳がありませんよ」
うん、どいつもこいつも過大評価し過ぎだよ。
その後、虹金貨一枚を進呈し、ポセイドン宮殿の一室で奴隷達を解放した。
全員奴隷を解放できたので、水の街アクアレーティアのヴィッツィーニファミリーのアジトからレーゲン達を呼び戻した。
「それで、これからどうするんだ?」
「とりあえず、海底に気になったところがあったんで、そこに寄ってから依頼主に報告しに行こうかと」
「……もしかして、あの奇妙な都市に向かうつもりなのか? 悪いことは言わん、やめておけ」
止めますよね。そりゃ。まあ、どんなに止められても行くんですけど。
「大丈夫ですよ。俺達はなんとなくあの場所がどのようなものかを理解していますから。……それでは、俺達はこれで失礼します。また、来るかもしれませんので、その時はまたよろしくお願いします」
「――待って、お兄ちゃん!!」
海洋国家ポセイドンを出発しようとしたら、ミュナに止められた。
服を引っ張って必死に俺を止めようとする……随分と懐かれたな。
「ミュナさん。大きくなったら、色々な世界を見て回るといいよ。そして、その中で新しいものを発見できたら、それほどいいことはない。俺達が歩いてきた場所だけじゃない。世界はもっと広いから。……俺達の旅は常に危険と隣り合わせだ。いつもミュナさんを守れるとは限らない。例えどんなに強くても、万能だったとしても、完璧に守りきるなんてことは絶対にできないんだ。だから、俺はミュナさんを連れていけない。……また、旅の思い出話でもしに来るよ。それまで、暫しのお別れだ」
「……約束、だよ」
「うん、約束だ」
ミュナがこの先何を思い、どんな風になっていくか、俺には分からない。
ただ、これだけは言える。俺達との旅の思い出は、きっとミュナの心の中に刻まれると。彼女の外の世界への憧れは、より強いものになると。
いつか、その憧れが目標になることを。そしてミュナが大人になった時、安心して海棲族が普通に外の世界を歩ける、そんな時代が来ることを俺は願っている。
◆
久々のフルメンバーで海洋国家ポセイドンを出発し、謎の遺跡を目指す。
レーゲンもマレンティとレヴィアタンを食べてスキルを得たようだ。
「……えっと、ここがルルイエ?」
異常極まりない非ユークリッド幾何学的な外形を持つ多くの建造物で構成されている都市……まさしく、ルルイエだ。
クトゥルフの眷属は、「クトゥルーの右腕」とされるムナガラー、“父なる”ダゴン、“母なる”ハイドラ、水棲種族の深きものどもだったっけ? つまり、こいつらのどれかがいる可能性があると見て、まず間違いないだろう。
俺の【叡慧ヲ窮メシ者】と【観測者】は巨大な反応を一つと、小さな反応を複数、確認している。
そのいくつかがこちらに近づいてきた。
魚のような頭、肌は薄灰色の鮫肌。眼窩から大きく隆起した眼球が特徴的で、頭を上下させ、カエルのようにピョコピョコと跳ねるように歩く。
腹部は、白くぬめぬめと光沢があって輝いていて、対する背中には魚鱗があり背鰭がある。臀部・尾骨辺りから魚の尾鰭や山椒魚のような尻尾が生えていて、首には肉の垂れ下がった皺のような状態ができ、肩と顎の間が完全に埋まっている。
手足の指の間には、水掻きのようなものがある。
とりあえず、ステータスを確認してみるか。
-----------------------------------------------
NAME:ディープ・ワンズ
LEVEL:70
HP:700/700
MP:200/200
STR:500
DEX:300
INT:80
CON:250
APP:-200
POW:250
LUCK:18
SKILL
【槍術】LEVEL:30
→槍を上手く使えるよ!
【魚網術】LEVEL:30
→魚網を上手く使えるよ!
【刺突】LEVEL:30
→刺突が上手くなるよ!
【連続突き】LEVEL:30
→連続で突きを放てるようになるよ!
【螺旋槍撃】LEVEL:30
→螺旋突きを放てるようになるよ!
【無拍子】LEVEL:50
→無拍子が上手くなるよ!
【連携】LEVEL:30
→連携が上手くなるよ!
【指揮】LEVEL:30
→指揮が上手くなるよ!
【編成】LEVEL:30
→パーティの編成が上手くなるよ!
【爪理】LEVEL:50
→爪使いの真髄を極めるよ! 【爪術】の上位互換だよ!
【剛力】LEVEL:50
→剛力を得るよ! 【怪力】の上位互換だよ!
【閃駆】LEVEL:50
→閃光の如き速度で走れるようになるよ! 【疾駆】の上位互換だよ!
【駿身】LEVEL:50
→駿速の領域まで速度を上げるよ! 【瞬速】の上位互換だよ!
【咆哮】LEVEL:50
→咆哮で仲間に居場所を知らせたり、威圧できるよ! 【遠吠】の上位互換だよ!
【迅雷縮地】LEVEL:50
→迅雷の如き速度で相手と距離を詰めるよ! 【爆縮地】の上位互換だよ!
【重縮地】LEVEL:50
→【縮地】を連続で行えるよ!
【不意打ち】LEVEL:50
→不意打ちが上手くなるよ!
【掣肘】LEVEL:50
→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!
【覇潰】LEVEL:50
→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!
【ディープ・ワンズ独自言語】LEVEL:100
→ディープ・ワンズ独自言語を習得するよ!
【気配察知】LEVEL:50
→気配察知が上手くなるよ!
【魔力察知】LEVEL:50
→魔力察知が上手くなるよ!
【熱源察知】LEVEL:50
→熱源察知が上手くなるよ!
【振動察知】LEVEL:50
→振動察知が上手くなるよ!
ITEM
・異界の銛
→異世界カオスではない世界の素材と技術で作られた銛だよ!
-----------------------------------------------
「やっぱり、深きものどもだな」
「確かに、クトゥルフ神話通りですね。……どうします? 草子さん」
さて、どうしたものか。レーゲンなら【ディープ・ワンズ独自言語】を理解できるだろうけど。
どちらかというと自分で言葉を交えたいタイプなんで――。
「〝言霊よ、我と汝を隔てる言葉の壁を壊し給え〟――〝シェア・ラングウィッジ〟」
この場にいる全員の言語を共有し、俺達は【ディープ・ワンズ独自言語】を習得した。
「――何者だ!! ここは、新ルルイエ。クトゥルフ様の眠りを妨げる者には、死んでもらうぞ!!」
敵意丸出しだな。……えっ、このまま戦闘に入るの?
というか、新ルルイエ? ルルイエじゃなくて? その辺りも詳しく知りたいな。
「いや、別に俺達敵対するつもりは更々ないんだけど。……お前ら、ディープ・ワンズだよね? で、奥にいるのが多分、クトゥルフ? 色々と話を聞きたいんだよね。今の事情とか、どうしてこの世界に居るのかとか」
この世界で、クトゥルフの神々の話は一度も聞いたことがないんだよね。神話にもなっていないし。
何故、世界の支配者になり得る神話生物や神格達が歴史の表舞台に現れないのか、今後のためにも仕入れられる情報を仕入れておきたい。
「……お前、クトゥルフ様を癒すことはできるか?」
「お前じゃなくて、能因草子。――ここにいるお方をどなたと心得る!! 畏れ多くも
「……草子君、何度も言っているけど私にそんな力はないよ。……でも、本当に癒しちゃっていいの?」
「そうですわよ!! クトゥルフと言ったら宇宙的恐怖を象徴する宇宙生物ですわよ!! 完全復活させてしまったら倒しようがありませんわ!!」
「僕も反対です。……仮に倒せるとしても、戦いは少ない方がいいです。わざわざ危ない橋を渡らなくてもいいんじゃないでしょうか?」
……反対三か。ロゼッタはクトゥルフの強さを恐れて、レーゲンは戦いは少ない方がいいという理論か。
「これだけカオスな世界だ。もしかしたら、後々神話生物や神格――それこそ、アザトースやヨグ=ソトースと戦うことになるかもしれない。情報はできるだけ集めておきたいだろう? それに、敵対の意思を見せないのであれば、戦う必要はない。向こうも静かに暮らしたいだろうしさ。じゃなかったら、こんな海底で細々と暮らしてねえよ、コイツら」
レベル的にもこの海底世界を支配することは簡単だ。
そして、海底世界を支配してしまえば、次は地上世界とどんどん勢力図を拡大させていける。
「それに、万が一クトゥルフが復活して暴れ出したとしても、こっちには伝説の勇者様がいるんだ」
「そうだね。こっちには草子君がいる」
「草子君がいれば負ける可能性など皆無ですわ!!」
「そうだね。……というか、寧ろ負ける要素が見当たらない!?」
聖達も頷いている……いや、実力を信じる相手は俺じゃなくて白崎達。
「という訳だ。クトゥルフを癒すという言葉に嘘はないが、対価としてそちらには俺達を含むこの世界の生命に対し敵対行動と取られる行動をしないことと、情報の開示を要求する。どちらかの条件を反故にした場合、この地……えっと、新ルルイエだっけ? を蒸発させるんで、よろしく」
「…………どうやら、選択肢は無さそうだ。我々の神の名を知りながらも恐怖を抱かない、その態度はハッタリか、或いは……その勇気が鍍金がどうかは、偉大なる神クトゥルフ様の御前に立てばハッキリするだろう……ついてこい」
ということで、偉そうなディープ・ワンズのリーダーに続き、新ルルイエの最奥部を目指す。
曲がりくねった道を抜けた、不可思議で巨大な祭壇の上に、それはいた――。
タコに似た頭部、頭足類のような触腕を無数に生やした顔、巨大な鉤爪のある手足、水かきを備えた二足歩行の姿、ぬらぬらした鱗かゴム状の瘤に覆われた数百メートルもある山のように大きな身体、背にはドラゴンのようなコウモリに似た細い翼を持った姿をしている化け物……いかにも、SAN値が削られそうな見た目だな。まあ、
アイツはSAN:-10000/sだからな。うん、意味が分からないよ。
-----------------------------------------------
NAME:クトゥルフ
LEVEL:160
HP:8/1200
MP:800/800
STR:1200
DEX:1100
INT:850
CON:1000
APP:-2000
POW:800
LUCK:300
TITLE:【旧支配者の大祭司】
SKILL
【無拍子】LEVEL:100
→無拍子が上手くなるよ!
【触手】LEVEL:100
→触手を上手く使えるよ!
【爪理】LEVEL:100
→爪使いの真髄を極めるよ! 【爪術】の上位互換だよ!
【翼理】LEVEL:100
→翼使いの真髄を極めるよ! 【翼術】の上位互換だよ!
【飛行】LEVEL:100
→飛行が上手くなるよ!
【剛力】LEVEL:100
→剛力を得るよ! 【怪力】の上位互換だよ!
【駿身】LEVEL:100
→駿速の領域まで速度を上げるよ! 【瞬速】の上位互換だよ!
【迅雷縮地】LEVEL:100
→迅雷の如き速度で相手と距離を詰めるよ! 【爆縮地】の上位互換だよ!
【重縮地】LEVEL:100
→【縮地】を連続で行えるよ!
【不意打ち】LEVEL:100
→不意打ちが上手くなるよ!
【全属性魔法】LEVEL:100
→全属性の魔法を使えるようになるよ!
【恐怖耐性】LEVEL:100
→恐怖に対する耐性を得るよ!
【テレパシー】LEVEL:100
→テレパシーが使えるようになるよ!
【恐怖伝播】LEVEL:100
→恐怖を伝播できるようになるよ!
【掣肘】LEVEL:100
→掣肘が上手くなるよ! 【威圧】の上位互換だよ!
【覇潰】LEVEL:100
→覇潰が上手くなるよ! 【覇気】の上位互換だよ!
【気配察知】LEVEL:100
→気配察知が上手くなるよ!
【魔力察知】LEVEL:100
→魔力察知が上手くなるよ!
【熱源察知】LEVEL:100
→熱源察知が上手くなるよ!
【振動察知】LEVEL:100
→振動察知が上手くなるよ!
ITEM
-----------------------------------------------
あれ? 思ったよりも強くない?
「……あれ? 思ったよりも強くないですね」
「レーゲン君もそう思ったか。……なんか思ったほど強くないんだよね。まあ、クトゥルフ神話でも旧支配者は外なる神よりも弱い設定だから、それを鵜呑みにすれば納得がいくんだけど」
まあ、それでも人間に比べたら遥かに強大な存在であることには違いない。
この世界のステータス基準がおかしいだけだ。
「〝嗚呼、惨き戦場よ! 戦に身を投じ、生命を散らした殉教者達よ! 戦火に焼かれ焦土とかした大地よ! せめて、せめてこの私が祈りましょう! いつまでも、いつまでも、祈り続けましょう〟――〝
白崎の〝
流石は聖女様。とんでもない回復量だ。
『…………なんだ、お前達は』
「「「「クトゥルフ様!! クトゥルフ様がお目覚めになられたぞ!!」」」」
ディープ・ワンズ、嬉しそうだな。
しかし……今の、テレパシーか。人々を発狂させる力も使いようによっては意思疎通の道具になるということか。
「俺は能因草子。勇者パーティのモブキャラをしている……ただのモブキャラ? 要するにモブキャラ。
「……草子君、私はただ草子君に〝
いやいや、稀代の聖女様に匹敵する【回復魔法】を使えるモブキャラが居るないでしょう?
『お前達、忌まわしきマルドゥークの子ら、ではないようだな。……ッ!! 皆の者、臨戦態勢を取れ!! 忌まわしきマルドゥークの天使人形がいる!! また、我らが同胞を、我らが信徒を殺しに来たのか!! 偽りの天使!!!!』
クトゥルフが睨みつけたのは、聖。クトゥルフは触手を動かし、ディープ・ワンズは銛を構えた。
俺は皮の袋からスマートフォンを取り出して、起動する。
「えっと、これは使徒天使じゃないよ。使徒エレレートの身体に高野聖という女子中学生が憑依しているって言えば伝わるか? とにかく、お前らの敵じゃない」
「そうよ!! 間違えて自分の身体を爆破して魂だけになっていたあたしに、草子君がどこからか拾ってきたマルドゥークの使徒天使の身体をくれただけなの!!」
クトゥルフ達を【掣肘覇潰】で牽制しつつ、聖が必死で事情を訴えたことでようやく理解してもらえたようだ。
「んで、被告人。何か弁解することがあれば話しなさい」
【ワタシが何かしたとでも言うの!! そんな訳ないよ! エレシちゃんは無実だよ! innocent!! ワタシ、この人達、知らないもん】
てっきり、エレシ絡みだと思ったけど、違ったようだ。
【ワタシは、超古代文明マルドゥークの内乱時代に作られた同族抹殺用機動要塞――エレシュキガルの中枢を司るAI的ヒロイン、エレシちゃん。その戦争でほとんどの武器を破壊されてからしばらく放置されていて、マルドゥークの最後の一人を名乗る研究者からこの一帯を彷徨うようにプログラムを書き込まれた。……つまり、ワタシはこの人達とは無関係なのです!!】
つまり、エレシは同士討ち戦争の段階で撃破され、超古代文明マルドゥークの最後の生き残りによって再起動するまでの間の記憶……っていうのもおかしいけど、データがないのか。
そして、エレシがクトゥルフの神々を知らないということは、クトゥルフが超古代文明マルドゥークを目の敵にするきっかけになったのは、エレシが放置されていた間ということになる。
「つまり、お前らの話を聞けば空白時代を埋めることができるってことか。ただ、同士討ちで滅んだのかと思ったけど、間に何かあったみたいだな。それについて、俺らは完全に部外者なんで、そこんとこ、よろしく」
『……はあ。つまり、能因草子とその仲間は完全に無関係ということか。……忌まわしきマルドゥークに作られた人工知能よ。よく聞くがいい、今から話すのはお前らマルドゥーク人の恐ろしさと、非人道な行いだ』
【要するに、あの愚かな人達のことをもう一度思い出せってこと? なんなの、その拷問!!】
「とりあえず、聞いておけ、ぶりっ子AI。お前らの製作者の黒歴史を……んじゃ、話してくれ」
クトゥルフは、俺達に【テレパシー】で思念を送る。
……それは、支配者たる彼らがその座から転落した、彼ら異世界の神々にとって最も屈辱的な記憶だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます